4 / 15
些細なこと
しおりを挟む
そんな俺たちは大学を卒業しても付き合いを続けていた。
このところ仕事が忙しくて休みの日も資料作成に追われている。
「今週も忙しいのか?」と毎回聞く珀次に
「ごめん、今の仕事終わるまでは無理かも」
そう答えることしかできなかった。
「そうか、無理すんなよ」
「ごめんな」
気遣ってくれる珀次に悪いと思いつつ、
珀次が一緒に観たいと言っていた映画の約束だけはできるだけ早く叶えようと必死だった。
珀次は俺と観たいからと待っていてくれた。
ようやく仕事の目処がついて、今週末は行けそうだと連絡した。
「仕事終わったのか?」
と嬉しそうに俺の部屋に来た珀次。
「遅くなってごめんな、映画、もうレイトショーしかないかな?」
と言うと、珀次は
「俺、この前観てきたからレイトショーでもいいし、碧斗の都合に合わせるよ」
と言った。
え?
観てきた?
だって一緒に観たいって、待ってるって…
「この前、飲んでる時にその映画の話で盛り上がってさ、じゃあこのままレイトショー観に行こうよってなってノリでみんなで行ってきた」
俺の中でなにかが消えた。
そんな些細なことで?
一緒に観ようと言っていた映画を先に観ただけで?
自分でも驚いてる。
今までどんなに我慢ならないことをされてもなんとか堪えたのに、こんな些細なことで全てを捨てたくなった。
「珀次」
「ん?いつにする?」
「別れよう」
「え?」
「もう無理」
「え…なんで?」
「帰って」
「やだよ…」
「もう来るな」
「なんで!」
珀次が俺に縋る。
「やだ…」
俺を抱きしめる。
「なにか言ってよ、碧斗…」
こんなにも冷めるものなのかというくらい体温を感じない。
「ねえ…碧斗…」
唇を重ねてくる。
もう体で誤魔化さないでくれ…
そっと離れる。
「碧斗?」
「もうやめてくれ」
俺は珀次を部屋から追い出すと二度とドアを開けなかった。
些細なこと。
俺には些細なことじゃなかったんだ。
待っててくれてる。
そんな珀次の健気さが俺を奮い立たせていた。
早く応えてやりたい、俺が応えたい。
でも珀次は違った。
映画なんて俺じゃなくても、誰でもよかったんだ。
俺を優先してくれなかった、俺は後回しにされた、蔑ろにされた、それがどうしても我慢できなかった。
我儘だと、子どものようだと自分でも思うが、俺は珀次にとって最優先される人でいたかった。
思い上がり、自分勝手、そうかもしれない。
でもその思いが、それだけが俺の自尊心を満たしてくれていたから、優先順位を下げられるようことはどうしても耐えられなかった。
俺をなによりも誰よりも一番に思ってくれないのなら、俺の代わりは誰でもいいいのなら俺はもういい。そこから降りたい。
珀次の隣が誰でもいい早い者勝ちの椅子取りゲームなら俺は降りる。
負けるのも辛いのも惨めなのも嫌だ…
俺はセフレでもホテルでもない。
友達は二人で超えたはず。
珀次の恋人でいたかった。
それだけだったのに……
「まだ言ってるの、それ」
目の前にいる拍次に現実に引き戻される。
「お前がわかるまで何度でも言う、もうお前とは別れた」
「碧斗がなに言っても俺別れないよ」
珀次はビールをあおる。
なにか言い返そうとしたけどやめた。
もう話し合う気も起きない。
鞄にパソコンと資料、筆記用具、充電器を詰め込む。
「どこ行くんだよ」
「お前がここにいるなら俺はホテルに泊まる。
鍵はかけなくていいから勝手に出ていけ」
「なにそれ」
俺の腕を掴む。
「いい加減、拗ねるのやめようよ、ね?
俺が悪いなら謝る、ごめんね」
「拗ねてない」
腕を振り払う。
「ふーん」
挑発的な眼差しで俺を見る。
嫌いだ、こいつが心から嫌いだ。
そう思いたい。
「そんなに怒るなよ」
唇を奪われる。
いつも、いつも、いつも、いつも!
こうやって誤魔化そうとするのが嫌なんだ。
「やめろ」
唇から逃げた俺をベッドへ押し倒す。
「碧斗には俺しかいないじゃん、
俺にも碧斗しかいない」
「お前なんかっ!」
「俺は碧斗がいればいい」
だったらどうして…
無理矢理、服を脱がせる。
どんなに抵抗しても力の強い珀次には敵わない。
「暴れんなって、怪我すんぞ」
唇や首に舌を這わせる。
「嫌だっ!やめろっ!」
「好きだよ、碧斗…」
涙が出る。
抵抗するのをやめる。
それをいち早く察知し、珀次はつけ入る。
俺の下着を脱がせ、指を挿れる。
気持ちいいはずのそこは苦痛しかなかった。
俺の涙を見て
「泣くほど気持ちいいの?」
と興奮する珀次。
指を抜いて珀次が入ってくる。
涙が溢れる。
早く終わってくれ…
「碧斗…碧斗…」
珀次がキスしながら腰を激しく揺する。
俺の名を繰り返し呼ぶ。
何度もイき、それでも果てない珀次。
レイプされている気分だった。
このところ仕事が忙しくて休みの日も資料作成に追われている。
「今週も忙しいのか?」と毎回聞く珀次に
「ごめん、今の仕事終わるまでは無理かも」
そう答えることしかできなかった。
「そうか、無理すんなよ」
「ごめんな」
気遣ってくれる珀次に悪いと思いつつ、
珀次が一緒に観たいと言っていた映画の約束だけはできるだけ早く叶えようと必死だった。
珀次は俺と観たいからと待っていてくれた。
ようやく仕事の目処がついて、今週末は行けそうだと連絡した。
「仕事終わったのか?」
と嬉しそうに俺の部屋に来た珀次。
「遅くなってごめんな、映画、もうレイトショーしかないかな?」
と言うと、珀次は
「俺、この前観てきたからレイトショーでもいいし、碧斗の都合に合わせるよ」
と言った。
え?
観てきた?
だって一緒に観たいって、待ってるって…
「この前、飲んでる時にその映画の話で盛り上がってさ、じゃあこのままレイトショー観に行こうよってなってノリでみんなで行ってきた」
俺の中でなにかが消えた。
そんな些細なことで?
一緒に観ようと言っていた映画を先に観ただけで?
自分でも驚いてる。
今までどんなに我慢ならないことをされてもなんとか堪えたのに、こんな些細なことで全てを捨てたくなった。
「珀次」
「ん?いつにする?」
「別れよう」
「え?」
「もう無理」
「え…なんで?」
「帰って」
「やだよ…」
「もう来るな」
「なんで!」
珀次が俺に縋る。
「やだ…」
俺を抱きしめる。
「なにか言ってよ、碧斗…」
こんなにも冷めるものなのかというくらい体温を感じない。
「ねえ…碧斗…」
唇を重ねてくる。
もう体で誤魔化さないでくれ…
そっと離れる。
「碧斗?」
「もうやめてくれ」
俺は珀次を部屋から追い出すと二度とドアを開けなかった。
些細なこと。
俺には些細なことじゃなかったんだ。
待っててくれてる。
そんな珀次の健気さが俺を奮い立たせていた。
早く応えてやりたい、俺が応えたい。
でも珀次は違った。
映画なんて俺じゃなくても、誰でもよかったんだ。
俺を優先してくれなかった、俺は後回しにされた、蔑ろにされた、それがどうしても我慢できなかった。
我儘だと、子どものようだと自分でも思うが、俺は珀次にとって最優先される人でいたかった。
思い上がり、自分勝手、そうかもしれない。
でもその思いが、それだけが俺の自尊心を満たしてくれていたから、優先順位を下げられるようことはどうしても耐えられなかった。
俺をなによりも誰よりも一番に思ってくれないのなら、俺の代わりは誰でもいいいのなら俺はもういい。そこから降りたい。
珀次の隣が誰でもいい早い者勝ちの椅子取りゲームなら俺は降りる。
負けるのも辛いのも惨めなのも嫌だ…
俺はセフレでもホテルでもない。
友達は二人で超えたはず。
珀次の恋人でいたかった。
それだけだったのに……
「まだ言ってるの、それ」
目の前にいる拍次に現実に引き戻される。
「お前がわかるまで何度でも言う、もうお前とは別れた」
「碧斗がなに言っても俺別れないよ」
珀次はビールをあおる。
なにか言い返そうとしたけどやめた。
もう話し合う気も起きない。
鞄にパソコンと資料、筆記用具、充電器を詰め込む。
「どこ行くんだよ」
「お前がここにいるなら俺はホテルに泊まる。
鍵はかけなくていいから勝手に出ていけ」
「なにそれ」
俺の腕を掴む。
「いい加減、拗ねるのやめようよ、ね?
俺が悪いなら謝る、ごめんね」
「拗ねてない」
腕を振り払う。
「ふーん」
挑発的な眼差しで俺を見る。
嫌いだ、こいつが心から嫌いだ。
そう思いたい。
「そんなに怒るなよ」
唇を奪われる。
いつも、いつも、いつも、いつも!
こうやって誤魔化そうとするのが嫌なんだ。
「やめろ」
唇から逃げた俺をベッドへ押し倒す。
「碧斗には俺しかいないじゃん、
俺にも碧斗しかいない」
「お前なんかっ!」
「俺は碧斗がいればいい」
だったらどうして…
無理矢理、服を脱がせる。
どんなに抵抗しても力の強い珀次には敵わない。
「暴れんなって、怪我すんぞ」
唇や首に舌を這わせる。
「嫌だっ!やめろっ!」
「好きだよ、碧斗…」
涙が出る。
抵抗するのをやめる。
それをいち早く察知し、珀次はつけ入る。
俺の下着を脱がせ、指を挿れる。
気持ちいいはずのそこは苦痛しかなかった。
俺の涙を見て
「泣くほど気持ちいいの?」
と興奮する珀次。
指を抜いて珀次が入ってくる。
涙が溢れる。
早く終わってくれ…
「碧斗…碧斗…」
珀次がキスしながら腰を激しく揺する。
俺の名を繰り返し呼ぶ。
何度もイき、それでも果てない珀次。
レイプされている気分だった。
3
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
バイバイ、セフレ。
月岡夜宵
BL
『さよなら、君との関係性。今日でお別れセックスフレンド』
尚紀は、好きな人である紫に散々な嘘までついて抱かれ、お金を払ってでもセフレ関係を繋ぎ止めていた。だが彼に本命がいると知ってしまい、円満に別れようとする。ところが、決意を新たにした矢先、とんでもない事態に発展してしまい――なんと自分から突き放すことに!? 素直になれない尚紀を置きざりに事態はどんどん劇化し、最高潮に達する時、やがて一つの結実となる。
前知らせ)
・舞台は現代日本っぽい架空の国。
・人気者攻め(非童貞)×日陰者受け(処女)。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
年上が敷かれるタイプの短編集
あかさたな!
BL
年下が責める系のお話が多めです。
予告なくr18な内容に入ってしまうので、取扱注意です!
全話独立したお話です!
【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】
------------------
新しい短編集を出しました。
詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
九年セフレ
三雲久遠
BL
在宅でウェブデザインの仕事をしているゲイの緒方は、大学のサークル仲間だった新堂と、もう九年セフレの関係を続けていた。
元々ノンケの新堂。男同士で、いつかは必ず終わりがくる。
分かっているから、別れの言葉は言わないでほしい。
また来ると、その一言を最後にしてくれたらいい。
そしてついに、新堂が結婚すると言い出す。
(ムーンライトノベルズにて完結済み。
こちらで再掲載に当たり改稿しております。
13話から途中の展開を変えています。)
明日、君は僕を愛さない
山田太郎
BL
昨日自分を振ったはずの男が帰ってきた。ちょうど一年分の記憶を失って。
山野純平と高遠英介は大学時代からのパートナーだが、大学卒業とともに二人の関係はぎこちなくすれ違っていくばかりだった。そんなある日、高遠に新しい恋人がいることを聞かされてーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる