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秋臣

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些細なこと

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そんな俺たちは大学を卒業しても付き合いを続けていた。

このところ仕事が忙しくて休みの日も資料作成に追われている。
「今週も忙しいのか?」と毎回聞く珀次に
「ごめん、今の仕事終わるまでは無理かも」
そう答えることしかできなかった。
「そうか、無理すんなよ」
「ごめんな」
気遣ってくれる珀次に悪いと思いつつ、
珀次が一緒に観たいと言っていた映画の約束だけはできるだけ早く叶えようと必死だった。
珀次は俺と観たいからと待っていてくれた。

ようやく仕事の目処がついて、今週末は行けそうだと連絡した。
「仕事終わったのか?」
と嬉しそうに俺の部屋に来た珀次。
「遅くなってごめんな、映画、もうレイトショーしかないかな?」
と言うと、珀次は
「俺、この前観てきたからレイトショーでもいいし、碧斗の都合に合わせるよ」
と言った。
え?
観てきた?
だって一緒に観たいって、待ってるって…

「この前、飲んでる時にその映画の話で盛り上がってさ、じゃあこのままレイトショー観に行こうよってなってノリでみんなで行ってきた」

俺の中でなにかが消えた。

そんな些細なことで?
一緒に観ようと言っていた映画を先に観ただけで?
自分でも驚いてる。
今までどんなに我慢ならないことをされてもなんとか堪えたのに、こんな些細なことで全てを捨てたくなった。


「珀次」
「ん?いつにする?」
「別れよう」
「え?」
「もう無理」
「え…なんで?」
「帰って」
「やだよ…」
「もう来るな」
「なんで!」
珀次が俺に縋る。

「やだ…」
俺を抱きしめる。
「なにか言ってよ、碧斗…」
こんなにも冷めるものなのかというくらい体温を感じない。
「ねえ…碧斗…」
唇を重ねてくる。

もう体で誤魔化さないでくれ…
そっと離れる。
「碧斗?」
「もうやめてくれ」

俺は珀次を部屋から追い出すと二度とドアを開けなかった。

些細なこと。
俺には些細なことじゃなかったんだ。
待っててくれてる。
そんな珀次の健気さが俺を奮い立たせていた。
早く応えてやりたい、俺が応えたい。

でも珀次は違った。
映画なんて俺じゃなくても、誰でもよかったんだ。

俺を優先してくれなかった、俺は後回しにされた、蔑ろにされた、それがどうしても我慢できなかった。
我儘だと、子どものようだと自分でも思うが、俺は珀次にとって最優先される人でいたかった。
思い上がり、自分勝手、そうかもしれない。
でもその思いが、それだけが俺の自尊心を満たしてくれていたから、優先順位を下げられるようことはどうしても耐えられなかった。
俺をなによりも誰よりも一番に思ってくれないのなら、俺の代わりは誰でもいいいのなら俺はもういい。そこから降りたい。
珀次の隣が誰でもいい早い者勝ちの椅子取りゲームなら俺は降りる。
負けるのも辛いのも惨めなのも嫌だ…

俺はセフレでもホテルでもない。
友達は二人で超えたはず。
珀次の恋人でいたかった。
それだけだったのに……




「まだ言ってるの、それ」
目の前にいる拍次に現実に引き戻される。
「お前がわかるまで何度でも言う、もうお前とは別れた」
「碧斗がなに言っても俺別れないよ」
珀次はビールをあおる。

なにか言い返そうとしたけどやめた。
もう話し合う気も起きない。

鞄にパソコンと資料、筆記用具、充電器を詰め込む。
「どこ行くんだよ」
「お前がここにいるなら俺はホテルに泊まる。
鍵はかけなくていいから勝手に出ていけ」
「なにそれ」
俺の腕を掴む。

「いい加減、拗ねるのやめようよ、ね?
俺が悪いなら謝る、ごめんね」
「拗ねてない」
腕を振り払う。

「ふーん」
挑発的な眼差しで俺を見る。
嫌いだ、こいつが心から嫌いだ。
そう思いたい。
「そんなに怒るなよ」
唇を奪われる。

いつも、いつも、いつも、いつも!
こうやって誤魔化そうとするのが嫌なんだ。

「やめろ」
唇から逃げた俺をベッドへ押し倒す。
「碧斗には俺しかいないじゃん、
俺にも碧斗しかいない」
「お前なんかっ!」
「俺は碧斗がいればいい」
だったらどうして…
無理矢理、服を脱がせる。

どんなに抵抗しても力の強い珀次には敵わない。
「暴れんなって、怪我すんぞ」
唇や首に舌を這わせる。
「嫌だっ!やめろっ!」
「好きだよ、碧斗…」
涙が出る。
抵抗するのをやめる。
それをいち早く察知し、珀次はつけ入る。
俺の下着を脱がせ、指を挿れる。
気持ちいいはずのそこは苦痛しかなかった。

俺の涙を見て
「泣くほど気持ちいいの?」
と興奮する珀次。
指を抜いて珀次が入ってくる。
涙が溢れる。
早く終わってくれ…
「碧斗…碧斗…」
珀次がキスしながら腰を激しく揺する。
俺の名を繰り返し呼ぶ。
何度もイき、それでも果てない珀次。
レイプされている気分だった。 



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