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珀次
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「……なんで来るんだよ」
「いいじゃん、入れてよ」
「帰れ」
「酒、持って来た」
「そういうことじゃない」
「いいじゃん」
チェーンもかけずに迂闊にドアを開けてしまった自分の愚かさを呪う。
少し開けたドアの隙間に足を差し入れぐいぐい入ってくる。
力では到底、珀次に勝てない。
もう居ないものとして扱おう、空気だと思えばいい。一時我慢すればいい。
俺は諦めてドアから離れる。
「碧斗、飲むだろ?」
珀次は自分の部屋のように振る舞う。
俺はそれを無視してデスクに向かう、読んでおきたい資料に目を通す。
この部屋には俺以外いない、誰の声も聞こえない、聞かない。そうしよう。
「おい、碧斗聞いてんのか?」
缶ビールを開ける音がする。
「なあ、なにかツマミ作ろうか?」
「……」
「俺、腹減った」
「……」
「なあってば、碧斗」
そう言うと珀次は俺をバックハグする。
「…離せ」
「やだ」
「……」
「碧斗」
俺のうなじにキスする。
「やめろって!」
ハグする腕を振り解く。
一瞬キョトンとした顔をするがすぐに穏やかな笑みを見せる。
「なんで?好きでしょ?」
今は嫌いだ。
お前も、バックハグも、うなじへのキスも、全部嫌いだ。
そうされるとゾクゾクするほど興奮していたはずなのに、今は…
「別れたんだぞ、もう来ないでくれ」
珀次は大学に入学して最初にできた友達だった。
サークルの勧誘にうんざりして、サークル加入はもはや義務なのではないかとさえ思い始めていた時、
「義務かよ…」
とボソッと呟く声がした。
心の声が漏れたのかと思った。
隣で同じようにしつこく勧誘を受けている男が発した声だった。
思わず笑ってしまったら、
「あ?」
と凄まれ、
「いや、俺も同じこと思ってたからつい…」
と言ったら、その男は少しだけキョトンとした顔をしてから
「だよな!」
と言ったかと思うと、
「面倒だから逃げようぜ」
と俺の腕を掴んで走り出した。
めちゃくちゃな奴。
でも俺も正直言ってそうしたかったから、腕を掴まれたまま走った。
途中から二人で笑い出し、かなり走ったところでようやく止まった。
「一年だよな」
「そう」
「俺、古賀珀次」
「あくじ?」
「はくじ!」
「へえ、珍しい名前だな」
「そうか?お前は?」
「高階碧斗」
「よろしくな」
「うん、よろしく古賀くん」
「珀次でいいよ」
「俺も碧斗でいい」
「碧斗、よろしくな」
その後、何人かと友達になったがいつも一緒にいたのは珀次だった。
なんというか距離感が丁度良い。
近くもなく遠くもなく、自然と丁度いい距離にいてくれる。
それが心地良かった。
一年の夏休みに一緒に海の家でバイトをした。
珀次は見た目で少し冷たい印象を持たれがちだけど、話すと気さくでそのギャップがいいとよく言われていた。
俺は真逆で優しそう、穏やかそう、害がないやつと言われがち。
どっちがモテるかというのは好みの問題。
海の家では夏と海の開放感も手伝って珀次も俺もそれなりにモテた。
最終日、最後だからと夕暮れに二人で泳いだ。
「クラゲいるぞ!」と言われてるのに、夏を惜しむかのようにムキになって遊んだ。
バイトしてる間、東京のアパートに毎日帰るのは大変なのでこっちでマンスリーを借りた。二人で折半。
自炊も下手くそだがそれなりに楽しかったし、あちこち食べ歩くのも楽しかった。
「体ベタベタする」
「海は仕方ねえよ」
「先シャワー使っていい?」
「どうぞ」
海水や潮風で髪や肌がベタつくのが最後まで慣れなかったけど、夏を満喫した気分。
シャワーを浴びていると、バスルームのドアが開く。
「ん?珀次?なに?」
返事がない。
シャンプーしててよくわからない。
なんだ?
返事はないが、抱きしめられる。
「なにしてんだ、お前!」
「一緒に入る」
「狭いんだから終わるまで待ってろよ」
「一緒がいい」
急いでシャンプーを洗い流してシャワーを止めると、熱い目で俺を見る珀次がいた。
「どうした?」
「碧斗、女に連絡先もらってただろ?」
「珀次だってもらってたじゃん」
「連絡すんの?」
「かわいい子だったしな」
「やだ」
「え?」
「やだ」
「やだってなんだよw」
「俺がいるじゃん」
珀次はそう言って俺にキスした。
抵抗しようと思えばできたはず。
でも拒否できなかった、いや、しなかった。
あまりにも珀次との距離が心地良すぎて、もっと欲張りたくなっていた。
「俺と付き合ってよ、碧斗」
「考えとく」
そう言うと
「くそっ!」
と言ってさらに深いキスを重ねる。
「お前が好きだ」
ああ、俺はどこまで強がれるだろうか。
「俺以外見ないで」
「俺だけの碧斗でいてよ」
もう珀次に堕ちてしまいたい、この想いに抗いたくない。
夏の最後に珀次と繋がった。
「いいじゃん、入れてよ」
「帰れ」
「酒、持って来た」
「そういうことじゃない」
「いいじゃん」
チェーンもかけずに迂闊にドアを開けてしまった自分の愚かさを呪う。
少し開けたドアの隙間に足を差し入れぐいぐい入ってくる。
力では到底、珀次に勝てない。
もう居ないものとして扱おう、空気だと思えばいい。一時我慢すればいい。
俺は諦めてドアから離れる。
「碧斗、飲むだろ?」
珀次は自分の部屋のように振る舞う。
俺はそれを無視してデスクに向かう、読んでおきたい資料に目を通す。
この部屋には俺以外いない、誰の声も聞こえない、聞かない。そうしよう。
「おい、碧斗聞いてんのか?」
缶ビールを開ける音がする。
「なあ、なにかツマミ作ろうか?」
「……」
「俺、腹減った」
「……」
「なあってば、碧斗」
そう言うと珀次は俺をバックハグする。
「…離せ」
「やだ」
「……」
「碧斗」
俺のうなじにキスする。
「やめろって!」
ハグする腕を振り解く。
一瞬キョトンとした顔をするがすぐに穏やかな笑みを見せる。
「なんで?好きでしょ?」
今は嫌いだ。
お前も、バックハグも、うなじへのキスも、全部嫌いだ。
そうされるとゾクゾクするほど興奮していたはずなのに、今は…
「別れたんだぞ、もう来ないでくれ」
珀次は大学に入学して最初にできた友達だった。
サークルの勧誘にうんざりして、サークル加入はもはや義務なのではないかとさえ思い始めていた時、
「義務かよ…」
とボソッと呟く声がした。
心の声が漏れたのかと思った。
隣で同じようにしつこく勧誘を受けている男が発した声だった。
思わず笑ってしまったら、
「あ?」
と凄まれ、
「いや、俺も同じこと思ってたからつい…」
と言ったら、その男は少しだけキョトンとした顔をしてから
「だよな!」
と言ったかと思うと、
「面倒だから逃げようぜ」
と俺の腕を掴んで走り出した。
めちゃくちゃな奴。
でも俺も正直言ってそうしたかったから、腕を掴まれたまま走った。
途中から二人で笑い出し、かなり走ったところでようやく止まった。
「一年だよな」
「そう」
「俺、古賀珀次」
「あくじ?」
「はくじ!」
「へえ、珍しい名前だな」
「そうか?お前は?」
「高階碧斗」
「よろしくな」
「うん、よろしく古賀くん」
「珀次でいいよ」
「俺も碧斗でいい」
「碧斗、よろしくな」
その後、何人かと友達になったがいつも一緒にいたのは珀次だった。
なんというか距離感が丁度良い。
近くもなく遠くもなく、自然と丁度いい距離にいてくれる。
それが心地良かった。
一年の夏休みに一緒に海の家でバイトをした。
珀次は見た目で少し冷たい印象を持たれがちだけど、話すと気さくでそのギャップがいいとよく言われていた。
俺は真逆で優しそう、穏やかそう、害がないやつと言われがち。
どっちがモテるかというのは好みの問題。
海の家では夏と海の開放感も手伝って珀次も俺もそれなりにモテた。
最終日、最後だからと夕暮れに二人で泳いだ。
「クラゲいるぞ!」と言われてるのに、夏を惜しむかのようにムキになって遊んだ。
バイトしてる間、東京のアパートに毎日帰るのは大変なのでこっちでマンスリーを借りた。二人で折半。
自炊も下手くそだがそれなりに楽しかったし、あちこち食べ歩くのも楽しかった。
「体ベタベタする」
「海は仕方ねえよ」
「先シャワー使っていい?」
「どうぞ」
海水や潮風で髪や肌がベタつくのが最後まで慣れなかったけど、夏を満喫した気分。
シャワーを浴びていると、バスルームのドアが開く。
「ん?珀次?なに?」
返事がない。
シャンプーしててよくわからない。
なんだ?
返事はないが、抱きしめられる。
「なにしてんだ、お前!」
「一緒に入る」
「狭いんだから終わるまで待ってろよ」
「一緒がいい」
急いでシャンプーを洗い流してシャワーを止めると、熱い目で俺を見る珀次がいた。
「どうした?」
「碧斗、女に連絡先もらってただろ?」
「珀次だってもらってたじゃん」
「連絡すんの?」
「かわいい子だったしな」
「やだ」
「え?」
「やだ」
「やだってなんだよw」
「俺がいるじゃん」
珀次はそう言って俺にキスした。
抵抗しようと思えばできたはず。
でも拒否できなかった、いや、しなかった。
あまりにも珀次との距離が心地良すぎて、もっと欲張りたくなっていた。
「俺と付き合ってよ、碧斗」
「考えとく」
そう言うと
「くそっ!」
と言ってさらに深いキスを重ねる。
「お前が好きだ」
ああ、俺はどこまで強がれるだろうか。
「俺以外見ないで」
「俺だけの碧斗でいてよ」
もう珀次に堕ちてしまいたい、この想いに抗いたくない。
夏の最後に珀次と繋がった。
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