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監禁一ヶ月前 明純の苦悩

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─監禁一ヶ月前─

「社長、お話したいことがあります」
「なんだ」
「沖田祥人に不穏な動きが見えます」
「どういうことだ?」
「こちらを…」
そう言って雪平はファイルを明純に渡す。
「ご存知の通り、沖田祥人は伊純さんが現在アルバイトをしている花屋の店長で、OKIフラワー社長の次男です」
「それは知っている」
「そちらのファイルは伊純さんが沖田の店でアルバイトを始めてからの沖田の行動を調査したものです」
「伊純を調べているな」
「はい、それに関しては興信所に偽の報告書を書かせましたので問題ないかと」
「それでいい」
「問題はこちらです」
購入履歴を見せる。
「これはなんだ」
「沖田のパソコンをハッキングし得た情報です。拘束具を数点通販で購入しています」
「監禁か?」
「その兆候が見られます」
「他にも何かあるのだな、言ってくれ」

「無数の薔薇を発注しています」
「薔薇?」
「伊純さんが好きな薔薇です。
これを個人ではあり得ないほどの単位で発注をかけています」
「どういうことか説明してくれ」
「沖田が伊純さんを監禁しようとしていることは明白です。それだけでも犯罪ですし、あくまで私の推測ですが、沖田は伊純さんに危害を加える気は無いのではないかと思われます」
「と言うと?」
「沖田祥人は人柄が良く信頼も厚い、周囲からの評判も高いと聞いております。
店での様子などを見ても伊純さんに大層心酔している姿が見て取れます。
単純に伊純さん愛でたい、かわいがりたい、その気持ちが高じて暴走しているのではないのかと。
実際、沖田は伊純さんに『かわいくて閉じ込めたい』と冗談混じりに話していたことがあります」
「そんなもの監禁には違いないだろう!」
明純が声を荒げる。
「仰る通りなのですが…」
「伊純か?」
「はい」
明純が天を仰いだ。

「…これで何度目だ?」
「介入しているものに関しては三件目となります。本件はまだ未遂ですが」
「伊純が望んでいる、そういうことだな」
「仰る通りです」
頭を抱える明純。

「雪平、対処できるか?」
「社長、私を相談係から外すかクビにしてください。私では無理です」
「お前でなければもっと酷いことになっているよ…雪平、お前が頼りだ。
それにお前だから伊純も気を許して全てを話しているのだろう?」
「そうなのでしょうか…」
「伊純を頼む」

「…承知いたしました。
既に店と沖田の部屋には監視カメラと盗聴器を仕込んであります」
「伊純に危険はないと断言できるのか?」
「常に監視します。その上で伊純さんとセーフワードを決めます。それを口にしたらどんな状況でも踏み込みます。それを言わずにいてもこちらの判断で踏み込むことも伊純さんには伝えてあります。
それが最大限の譲歩と条件とさせていただきました。
社長に伝える前に勝手な判断をし、大変申し訳ございませんでした」

「いや、世話をかけてすまない」
「…いえ」
「私はこんなことをさせたいがためにアルバイトや一人暮らし、卒業までの自由を与えたわけではないんだ…」
明純が力無く項垂れる。
「少々火遊び過ぎます」
雪平が明純に同情する。
「これ以上は看過できない、これを最後にしてくれ」
「伊純さんに危害を加えるようなことは絶対にさせません」
「頼む、それと由利香には…」
「承知しております」
「頼む…」


「社長」
雪平が下がると第一秘書の真田が口を開いた。
「…なんだ」
「雪平の目的は別にあるかと」
「目的?」
「役員会で買収先の候補としてOKIフラワーが上がっていたはずです」
「ああ、そうだな」
「雪平はこれを利用しようとしているのではないでしょうか」
「まさか、伊純はそれをわかってて脅しの材料を作ろうとしているのか!?」
「いえ、それはないと思います。
使えると思ったのは雪平でしょう」
「そのために俺の息子を利用する、そういうことか?」
「そう捉えられても致し方ないですが、厄介なのは伊純さんが望んでいるということです。
その厄介ごとを逆手に取るということです」

「俺は胃が痛い…身が保たんよ…」
「OKIフラワー社長にアポイントの打診をしています」
「血も涙もないな、お前は」
「未遂で済めばただの買収です。
それを切に願っておりますが、万が一そうなってしまった場合、先方にはそれなりの代償を払っていただく、それだけです」




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