22 / 22
大安吉日
しおりを挟む
開運、厄除け、金運、恋愛、縁結び、無病息災、家内安全、交通安全、商売繁盛、合格祈願…
何でもござれの我が神社。
いつもはそれなりにだが、さすがに正月は初詣客で賑わいを見せる。
宮司である父は初詣客で賑わう様を見るたびに、これを通年見たいと一念発起。
当社は恋愛、縁結びに長けていると噂を流した。
うちは商売繁盛の神様を祀ってるからそっちに特化すべきだろと言ったのだけれど、全然話を聞かない。
「商売も恋愛も縁結びには変わりないだろ」
と訳のわからない屁理屈を捏ねて、ピンクやハートのキラキラしたお守りを作り、庭に放置されていたハート型に見えなくもない石を、意中の人と一緒に撫でると想いが伝わると恭しく祀り出した。
いい加減、適当。
それでも噂というのは恐ろしいもので、いつの頃からか父の思惑通り、恋愛にご利益があると聞きつけた若い女性がたくさん訪れるようになってきた。
商売上手。
さすが商売繁盛の神様を祀っているだけのことはある。
その神社で事務職として働く俺はピンクのキラキラしたお守りも今日もせっせと作っている。
ちなみに兄貴は次期宮司、つまり後継ぎだ。
俺はやることないし、事務ならいいかと事務職を担ってはいるが、この適当な裏事情を知っているだけに、ご利益なんてないぞーと冷めた目で参拝客にピンクのお守りを売る毎日だ。
「逸慈さん」
兄貴の名前を呼ぶ、低くて通る声。
その主は朔。
近所にある昔馴染みの酒屋の息子だ。
俺の一つ年下だが、よく一緒に遊んでいた。
「おう、朔」
兄貴と朔が話している。
それを俺は授与所から眺めてる。
仲のよろしいことで。
二人で笑いながら話してる様をチラチラ女の子たちが見ている。
境内ではなかなか目立つ。
それというのも兄貴も朔もそれなりに男前。所謂イケメンというやつだ。
「じゃあね」
と兄貴に手を振り授与所に朔が来る。
「登士郎くん」
「いらっしゃい」
「ここ、完全に恋愛成就になっちゃったね」
「適当だよなあ」
「おじさんがやり手なんだよ」
「物は言いようだな」
「あはは」
「酒届けに来たのか?」
「そう、御神酒のいい酒が入ったから逸慈さんにお勧めしておいた」
「お前もちゃっかりしてんな」
「逸慈さんが、俺に任せるって言ってくれるから期待に応えないとと思って」
「愛しの兄貴だもんな」
「え?」
昔から朔は兄貴に懐いてる。
兄貴も朔をかわいがっている。
「兄貴も朔もフリーなんだろ?
さっさと付き合っちゃえば?
お守りやろうか?」
出来立てのピンクのキラキラお守りを差し出す。
「ご利益ないから要らない」
「えー、結構お礼言われるぞ、叶いましたって」
「俺、持ってるけど全然だよ」
「持ってんのかよ」
「毎年、登士郎くんがくれるじゃん」
「あ、そっか」
「そういう適当なところ、おじさんにそっくり」
「一緒にすんな」
そうか、ご利益ないのか。
ピンクだからか?
男同士だと青とか緑とかグレーみたいな色の方がいいのかもしれないな。
生地、探してみるか。
俺もなかなか商魂逞しくなってきたな。
「今度、ピンクとかじゃない、男でも持ちやすい色の作るよ」
「そういうことじゃないんだよな…」
「ん?」
「お守りじゃダメなのかもしれない」
「じゃあ、石撫でてこいよ」
「効くの?」
「信じることが大事だろ」
「だって、あの石、昔からみんなでボール当てて遊んでた石だよね?」
「声がデカいよ」
「あ、ごめん」
「あのな」
「うん」
「ああいうのは心の持ち様なんだよ。
好きな人と一緒に想いが届きますようにって撫でると、なんとなく共鳴するものがあるんだよ、多分。
それにキュンときて、想いが通じるんだよ、多分」
「多分ばっかり」
「うるせえな」
朔が黙る。
その気になったか?
「今日って六曜は?」
「ほれ」
大安吉日と書いてある紙を見せる。
朔が、授与所にいる他の巫女さんに、
「登士郎くん、ちょっと借りてもいいですか?」
と声をかける。
巫女のリーダー的存在の幸田さんが、他の巫女さんと頷き合いながら、
「今、暇だからどうぞ!」
と答える。
「登士郎くん、行くよ」
は?どこに?
「行ってらっしゃい」
巫女さんたちに見送られる。
は?
朔は俺の手をぐいぐい引いて、ぐんぐん歩く。
「どこ行くんだよ」
「来て」
俺や兄貴の後をくっついて来ては、
「一緒に連れてって!」
とビービー泣いてた朔がいつの間にか、
俺よりもデカくなってた。
重い酒のケースも軽々と持つ。
あの頃の泣いていた朔はもういない。
俺の目の前にいるのは強くて逞しい、俺を引っ張る朔だった。
ハートの石の前に来た。
「なんだよ、兄貴呼んでこようか?」
ぐいっと腕を掴まれる。
「一緒に撫でて」
「は?」
「登士郎くんと撫でたい」
「は?」
俺の手を石に置く。
かつて苔むしていたハートに見えなくもないボール当てに使っていた石は、多くの参拝客に撫でられてツルツルになっていた。
俺の手に朔が手を重ねる。
石を撫でながら、
「登士郎くんと付き合えますように…」
と朔が呟く。
え?
ええ?
ちょっ
待って
え?
ええっ!?
兄貴じゃないの?
ぶわっ!
何これ、めっちゃくちゃ恥ずかしい。
めっちゃ照れる…
絶対顔赤い…
「想い、伝わった?」
「…兄貴じゃないのかよ」
「ずっと登士郎くんだよ」
「……」
「これは想いが伝わるまで撫でればいいの?」
「…いや、どうだろう…」
「伝わった?」
「一応…」
「俺、登士郎くんのことが好き」
ストレート!
「登士郎くんは?」
「俺は…」
こんなの無理だよ!
言えるわけないだろ!
ちっちゃい頃からずっと朔のこと好きだったなんて、言えるわけねえ!
だって、朔は兄貴のこと好きだと思ってたから…
仲良くしてるの見ていつも凹んで泣いて…
そう思ってたから、思わぬ朔の告白に、
俺、今めちゃくちゃ浮かれてる。
顔がにやけて溶ける。
朔が俺のこと好きだって!
いやあああああ!
顔が原型を留めてくれない。
「登士郎くんは俺のことどう思ってる?
付き合ってもらえる?」
朔が不安そうな顔して俺を見る。
好きです、大好きです、愛してます!
死ぬまで付き合います!
ドーパミン出まくりの頭の中の俺がキャーキャーうるさいが、どうにか平静を保ち、
「ちょっとずつな」
とかっこつけてみる。
ちょっとずつじゃないと俺が保たない…
「うん!」
泣き笑いの朔の姿が小さい頃ビービー泣いてた朔と重なる。
「ちゃんと手繋いでて、置いてかないで」
そう言ってた朔がここにいる。
置いていかない、絶対に。
あの頃とは違う、照れがあるけどこの手は繋いだまま離さない。
「あれ?登士郎は?」
授与所に逸慈が立ち寄る。
「朔くんが石に連れてったよ」
「マジで!?やっとか」
「そう、何年かかってるんだか」
巫女さんたちが笑ってる。
「いやあ、本当にここ縁結び強いな」
「あの二人は私に手を合わせても縁が結ばれたと思うわよ」
幸田さんがガハハと笑う。
「なにそれw」
逸慈が笑う。
「盤石、既成事実ってことよ」
「なるほどねえw」
うちの神社、ご利益あります。
何でもござれの我が神社。
いつもはそれなりにだが、さすがに正月は初詣客で賑わいを見せる。
宮司である父は初詣客で賑わう様を見るたびに、これを通年見たいと一念発起。
当社は恋愛、縁結びに長けていると噂を流した。
うちは商売繁盛の神様を祀ってるからそっちに特化すべきだろと言ったのだけれど、全然話を聞かない。
「商売も恋愛も縁結びには変わりないだろ」
と訳のわからない屁理屈を捏ねて、ピンクやハートのキラキラしたお守りを作り、庭に放置されていたハート型に見えなくもない石を、意中の人と一緒に撫でると想いが伝わると恭しく祀り出した。
いい加減、適当。
それでも噂というのは恐ろしいもので、いつの頃からか父の思惑通り、恋愛にご利益があると聞きつけた若い女性がたくさん訪れるようになってきた。
商売上手。
さすが商売繁盛の神様を祀っているだけのことはある。
その神社で事務職として働く俺はピンクのキラキラしたお守りも今日もせっせと作っている。
ちなみに兄貴は次期宮司、つまり後継ぎだ。
俺はやることないし、事務ならいいかと事務職を担ってはいるが、この適当な裏事情を知っているだけに、ご利益なんてないぞーと冷めた目で参拝客にピンクのお守りを売る毎日だ。
「逸慈さん」
兄貴の名前を呼ぶ、低くて通る声。
その主は朔。
近所にある昔馴染みの酒屋の息子だ。
俺の一つ年下だが、よく一緒に遊んでいた。
「おう、朔」
兄貴と朔が話している。
それを俺は授与所から眺めてる。
仲のよろしいことで。
二人で笑いながら話してる様をチラチラ女の子たちが見ている。
境内ではなかなか目立つ。
それというのも兄貴も朔もそれなりに男前。所謂イケメンというやつだ。
「じゃあね」
と兄貴に手を振り授与所に朔が来る。
「登士郎くん」
「いらっしゃい」
「ここ、完全に恋愛成就になっちゃったね」
「適当だよなあ」
「おじさんがやり手なんだよ」
「物は言いようだな」
「あはは」
「酒届けに来たのか?」
「そう、御神酒のいい酒が入ったから逸慈さんにお勧めしておいた」
「お前もちゃっかりしてんな」
「逸慈さんが、俺に任せるって言ってくれるから期待に応えないとと思って」
「愛しの兄貴だもんな」
「え?」
昔から朔は兄貴に懐いてる。
兄貴も朔をかわいがっている。
「兄貴も朔もフリーなんだろ?
さっさと付き合っちゃえば?
お守りやろうか?」
出来立てのピンクのキラキラお守りを差し出す。
「ご利益ないから要らない」
「えー、結構お礼言われるぞ、叶いましたって」
「俺、持ってるけど全然だよ」
「持ってんのかよ」
「毎年、登士郎くんがくれるじゃん」
「あ、そっか」
「そういう適当なところ、おじさんにそっくり」
「一緒にすんな」
そうか、ご利益ないのか。
ピンクだからか?
男同士だと青とか緑とかグレーみたいな色の方がいいのかもしれないな。
生地、探してみるか。
俺もなかなか商魂逞しくなってきたな。
「今度、ピンクとかじゃない、男でも持ちやすい色の作るよ」
「そういうことじゃないんだよな…」
「ん?」
「お守りじゃダメなのかもしれない」
「じゃあ、石撫でてこいよ」
「効くの?」
「信じることが大事だろ」
「だって、あの石、昔からみんなでボール当てて遊んでた石だよね?」
「声がデカいよ」
「あ、ごめん」
「あのな」
「うん」
「ああいうのは心の持ち様なんだよ。
好きな人と一緒に想いが届きますようにって撫でると、なんとなく共鳴するものがあるんだよ、多分。
それにキュンときて、想いが通じるんだよ、多分」
「多分ばっかり」
「うるせえな」
朔が黙る。
その気になったか?
「今日って六曜は?」
「ほれ」
大安吉日と書いてある紙を見せる。
朔が、授与所にいる他の巫女さんに、
「登士郎くん、ちょっと借りてもいいですか?」
と声をかける。
巫女のリーダー的存在の幸田さんが、他の巫女さんと頷き合いながら、
「今、暇だからどうぞ!」
と答える。
「登士郎くん、行くよ」
は?どこに?
「行ってらっしゃい」
巫女さんたちに見送られる。
は?
朔は俺の手をぐいぐい引いて、ぐんぐん歩く。
「どこ行くんだよ」
「来て」
俺や兄貴の後をくっついて来ては、
「一緒に連れてって!」
とビービー泣いてた朔がいつの間にか、
俺よりもデカくなってた。
重い酒のケースも軽々と持つ。
あの頃の泣いていた朔はもういない。
俺の目の前にいるのは強くて逞しい、俺を引っ張る朔だった。
ハートの石の前に来た。
「なんだよ、兄貴呼んでこようか?」
ぐいっと腕を掴まれる。
「一緒に撫でて」
「は?」
「登士郎くんと撫でたい」
「は?」
俺の手を石に置く。
かつて苔むしていたハートに見えなくもないボール当てに使っていた石は、多くの参拝客に撫でられてツルツルになっていた。
俺の手に朔が手を重ねる。
石を撫でながら、
「登士郎くんと付き合えますように…」
と朔が呟く。
え?
ええ?
ちょっ
待って
え?
ええっ!?
兄貴じゃないの?
ぶわっ!
何これ、めっちゃくちゃ恥ずかしい。
めっちゃ照れる…
絶対顔赤い…
「想い、伝わった?」
「…兄貴じゃないのかよ」
「ずっと登士郎くんだよ」
「……」
「これは想いが伝わるまで撫でればいいの?」
「…いや、どうだろう…」
「伝わった?」
「一応…」
「俺、登士郎くんのことが好き」
ストレート!
「登士郎くんは?」
「俺は…」
こんなの無理だよ!
言えるわけないだろ!
ちっちゃい頃からずっと朔のこと好きだったなんて、言えるわけねえ!
だって、朔は兄貴のこと好きだと思ってたから…
仲良くしてるの見ていつも凹んで泣いて…
そう思ってたから、思わぬ朔の告白に、
俺、今めちゃくちゃ浮かれてる。
顔がにやけて溶ける。
朔が俺のこと好きだって!
いやあああああ!
顔が原型を留めてくれない。
「登士郎くんは俺のことどう思ってる?
付き合ってもらえる?」
朔が不安そうな顔して俺を見る。
好きです、大好きです、愛してます!
死ぬまで付き合います!
ドーパミン出まくりの頭の中の俺がキャーキャーうるさいが、どうにか平静を保ち、
「ちょっとずつな」
とかっこつけてみる。
ちょっとずつじゃないと俺が保たない…
「うん!」
泣き笑いの朔の姿が小さい頃ビービー泣いてた朔と重なる。
「ちゃんと手繋いでて、置いてかないで」
そう言ってた朔がここにいる。
置いていかない、絶対に。
あの頃とは違う、照れがあるけどこの手は繋いだまま離さない。
「あれ?登士郎は?」
授与所に逸慈が立ち寄る。
「朔くんが石に連れてったよ」
「マジで!?やっとか」
「そう、何年かかってるんだか」
巫女さんたちが笑ってる。
「いやあ、本当にここ縁結び強いな」
「あの二人は私に手を合わせても縁が結ばれたと思うわよ」
幸田さんがガハハと笑う。
「なにそれw」
逸慈が笑う。
「盤石、既成事実ってことよ」
「なるほどねえw」
うちの神社、ご利益あります。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる