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約束
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理一と俺はいつも一緒にいた。
「お前ら付き合ってんの?」
と揶揄われるくらいには一緒にいた。
「だって理一雑なんだもん」
「は?」
理一がムッとする。
「雑で大雑把、おまけにせっかち、人の話聞かない」
「悪口かよ」
「悪口だよ、俺がいつもどれだけフォローしてやってると思ってんだよ」
「別に瑞生に頼んでねえだろ」
「いや、無理だね」
「理一は瑞生の有り難みをわかってない」
「志津川くん、それはないんじゃない?助けてもらってるのに」
「武藤くんがかわいそう」
クラスの奴らが口々に言い出し、分が悪くなった理一が
「うるせえ、瑞生に助けてもらわなくてもできる!」
と豪語してしまったもんだから
「できるものなら瑞生の助けなしで一週間過ごしてみろ」と言われて実行する羽目になった理一。
さあ、お手並み拝見。
傍から見ていても既に一日目でかなりきているのはわかった。
クラスの奴らは面白がっている。
「いつギブアップするかな、あいつ」
みんな悪趣味すぎる、笑える。
教室移動で行方不明、3限目が終わると昼休みと早とちりし弁当を食い始める、段取りが待ちきれず話も聞いてないから実験で危うく火災寸前、校庭に迷い込んだどこかの飼い犬を構っていたら授業が始まってるのに気づかず、ずっと一人で夢中になって犬と遊んでいるのを全校生徒、教職員に目撃され写真に撮られ、職員室で説教を食らう……と、出るわ出るわのやらかしにクラス中が爆笑。
項垂れる理一。
しかし誰よりも根を上げたのは先生たちだった。
「武藤、頼むから志津川の面倒、しっかり見ててくれ!諸々支障をきたす」
と担任の野中先生がHRで頭を下げた時に理一の敗北が決まった。
「いや、俺面倒見てるつもりないんですけど」
と言うと、
「お前が志津川といないとこういうことになるんだ。面倒見なくていいからそばにいてやれ」
「はあ…」
なんで俺が…
「もう付き合っちゃえよ」
「クラス公認だもんね」
「なんなら夫夫でも」
うるせえ、面白がるな。
「理一、なにか弁解は?」
クラス委員の城田まで悪ノリ。
クラス中がニヤニヤ。
「…すみませんでした」
ぎゃはははははは!!
みんなでハイタッチ。
「俺、そんなにできてない?」
「できてねえな」
放課後、二人で歩いていると理一がボソッと呟く。
「俺、大学行ったら一人で生活できるのかな」
理一は合格したら東京へ行く。
「さあ、頑張るしかないんじゃない?」
「瑞生も東京来てよ」
「嫌だよ、俺、こっちの大学でやりたいことあるし」
俺の進みたい道は東京よりこっちの大学の方が特化してるんだ。
「だって瑞生いないと俺ダメじゃん…」
「東京で彼女作って面倒見てもらえば?」
理一が俺をじっと見る。
なんだよ。
「それ本心?」
「は?」
「なあ、本心かよ!」
「なに怒ってんだよ」
「本心かって聞いてんだ、答えろよ」
だって、そんなこと言ったって…
「どうしろって言うんだよ」
「俺は瑞生と一緒にいたいのに…」
なんでそんなこと言うんだよ、できないこと言うなよ。
そんなの俺だって…
「面倒見るだけなら俺じゃなくてもできるだろ?友達でも彼女でも彼氏でも作れよ」
「瑞生がいい」
やめてくれよ、頼むからやめてくれ。
この橋から見える夕陽は格別綺麗。
それなのに理一はそれを見させてくれない。
理一が俺を抱きしめたから。
「理一、なにしてんだよ」
「ずっとこうしたかった」
「やめろ…」
「嫌だ」
俺の顎を上げると唇を重ねる。
「やめろっ!」
俺の中に踏み込んでくるな、気持ちを置いていくな、俺はそれに縋るしかなくなる。
想いを留めておけなくなる…
「瑞生、俺と付き合って」
「……」
「瑞生だって同じだろ?」
「…離れるのわかってるのに付き合いたくない」
「俺は離れても別れる気なんてない」
「無理言うなよ」
「なんでお互い好きなのに想いを繋いだらいけないんだよ」
「…卒業まで」
「俺は別れないぞ」
好きだけどちょっとズレたまま付き合い出した俺と理一。
みんなには隠して付き合い続け、体も重ねた。そんなことしたら離れ難くなるのに、わかってるのに…
一時でもいい、それでも幸せだった。
卒業式の日、あの橋に二人でいた。
「頑張れよ」
理一の両親が理一のポンコツを見かねて寮にしてくれたようだ。
これならなんとかなるだろう。
「会いに来いよ、瑞生」
「嫌だよ、卒業までって約束だろ」
「俺は別れない」
「じゃあな、体気をつけろよ」
「瑞生!」
俺は橋を渡る。
ここで想いを断たないと苦しくなるだけだ。
会いたくて堪らなくなってしまう。
「俺は別れないぞ!」
ずっと叫んでる。
ふっ
まだ言ってる。
そういうところが好きなんだ。
ヴヴヴ
理一のスマホが鳴る。
『一年後の今日、16時に夏目橋』
「瑞生!絶対、俺来るから!絶対!
だから必ず来いよ!」
「理一がちゃんと来られたら、付き合うよ」
「絶対だぞ!約束守れよ!」
俺は橋の反対側から理一に手を振った。
一年後、理一は来なかった。
俺はあの日ずっと待ってた。
一緒に夕日を見たかった。
理一のことだから16時を朝や夜の6時と間違えてるんじゃないかとか、いろいろ考えて…
そうでもしないと自分が惨めだった。
浮かれてたのは自分だけだった…
でもこれで吹っ切れた。
理一にその気がなかった、それだけのことだ。
嘘つき。
成人は18歳だが成人式は二十歳で行うのがこの地域のやり方だ。
高校卒業で散り散りになったみんなに会いたいと、成人式に合わせて同窓会が開かれることになった。
迷った、もしかしたら理一が来るかもしれない。
会いたくない。
でもみんなには会いたい。
迷った結果、理一が来たとしても話さなければいい、避ければいい、そうすることにした。
当日。
懐かしい顔に嬉しくなる。
酒も入って誰彼構わず皆ワイワイやってて楽しい。
来てよかった、みんなに会えてよかった。
楽しい酒を飲んでいたら、隣にドカッと座り込んできた奴がいた。
理一だった。
一気に酔いが醒める。
「おっ!夫夫が揃ったな!」
と皆が囃し立てる。
「夫夫、水入らずでどうぞ!」と二人にされた。
帰りたい。
理一は憮然としてる。
帰る。
立ち上がる俺の腕を掴んで座らせる。
「なんだよ、離せよ」
「やだね」
「離せっ!」
理一の手を振り解く。
「…なんで来なかったんだよ」
「なに?」
「約束したのになんで来なかったんだよ!」
こいつなに言ってんだ。
「来なかったのは理一だろっ!」
「俺は行った!瑞生が来なかったんだ!」
「俺だって行ったよ!」
え?
ん?
「待って、どういうこと?」
「瑞生来たの?あの橋にいないから俺絶望して…」
「いや、理一いなかったぞ」
え?
は?
「6時に百目橋にだろ?」
「は?16時に夏目橋だよ!」
え?
え?
「待って…LINE確認する…」
理一があわあわしてる。
嫌な予感がする。
しばらくするとゴン!という音と共にテーブルに突っ伏す理一がいた。
「俺、やっちゃった…」
ふっ
「なにやらかしたんだよ」
「百目橋に夜6時に行っちゃった…日付が変わるまで待ってた…」
「相変わらずポンコツかよ」
「俺、やっぱり瑞生いないとダメみたい。
俺の面倒見てくれよ」
消え入りそうな声で言う。
「やだよ、ママになんてなるか」
「ママじゃねえよ、恋人だ」
理一が俺を抱きしめた。
「理一!瑞生!おめでとう!!」
「うわあっ!」
みんなが雪崩れ込んできた。
覗いてたのかよ!
「ご祝儀の唐揚げだ、食え!」
どいつもこいつも面白がりやがって。
理一、お前はポンコツなんとかしろ。
ダメでも俺がフォローしてやるから。
「お前ら付き合ってんの?」
と揶揄われるくらいには一緒にいた。
「だって理一雑なんだもん」
「は?」
理一がムッとする。
「雑で大雑把、おまけにせっかち、人の話聞かない」
「悪口かよ」
「悪口だよ、俺がいつもどれだけフォローしてやってると思ってんだよ」
「別に瑞生に頼んでねえだろ」
「いや、無理だね」
「理一は瑞生の有り難みをわかってない」
「志津川くん、それはないんじゃない?助けてもらってるのに」
「武藤くんがかわいそう」
クラスの奴らが口々に言い出し、分が悪くなった理一が
「うるせえ、瑞生に助けてもらわなくてもできる!」
と豪語してしまったもんだから
「できるものなら瑞生の助けなしで一週間過ごしてみろ」と言われて実行する羽目になった理一。
さあ、お手並み拝見。
傍から見ていても既に一日目でかなりきているのはわかった。
クラスの奴らは面白がっている。
「いつギブアップするかな、あいつ」
みんな悪趣味すぎる、笑える。
教室移動で行方不明、3限目が終わると昼休みと早とちりし弁当を食い始める、段取りが待ちきれず話も聞いてないから実験で危うく火災寸前、校庭に迷い込んだどこかの飼い犬を構っていたら授業が始まってるのに気づかず、ずっと一人で夢中になって犬と遊んでいるのを全校生徒、教職員に目撃され写真に撮られ、職員室で説教を食らう……と、出るわ出るわのやらかしにクラス中が爆笑。
項垂れる理一。
しかし誰よりも根を上げたのは先生たちだった。
「武藤、頼むから志津川の面倒、しっかり見ててくれ!諸々支障をきたす」
と担任の野中先生がHRで頭を下げた時に理一の敗北が決まった。
「いや、俺面倒見てるつもりないんですけど」
と言うと、
「お前が志津川といないとこういうことになるんだ。面倒見なくていいからそばにいてやれ」
「はあ…」
なんで俺が…
「もう付き合っちゃえよ」
「クラス公認だもんね」
「なんなら夫夫でも」
うるせえ、面白がるな。
「理一、なにか弁解は?」
クラス委員の城田まで悪ノリ。
クラス中がニヤニヤ。
「…すみませんでした」
ぎゃはははははは!!
みんなでハイタッチ。
「俺、そんなにできてない?」
「できてねえな」
放課後、二人で歩いていると理一がボソッと呟く。
「俺、大学行ったら一人で生活できるのかな」
理一は合格したら東京へ行く。
「さあ、頑張るしかないんじゃない?」
「瑞生も東京来てよ」
「嫌だよ、俺、こっちの大学でやりたいことあるし」
俺の進みたい道は東京よりこっちの大学の方が特化してるんだ。
「だって瑞生いないと俺ダメじゃん…」
「東京で彼女作って面倒見てもらえば?」
理一が俺をじっと見る。
なんだよ。
「それ本心?」
「は?」
「なあ、本心かよ!」
「なに怒ってんだよ」
「本心かって聞いてんだ、答えろよ」
だって、そんなこと言ったって…
「どうしろって言うんだよ」
「俺は瑞生と一緒にいたいのに…」
なんでそんなこと言うんだよ、できないこと言うなよ。
そんなの俺だって…
「面倒見るだけなら俺じゃなくてもできるだろ?友達でも彼女でも彼氏でも作れよ」
「瑞生がいい」
やめてくれよ、頼むからやめてくれ。
この橋から見える夕陽は格別綺麗。
それなのに理一はそれを見させてくれない。
理一が俺を抱きしめたから。
「理一、なにしてんだよ」
「ずっとこうしたかった」
「やめろ…」
「嫌だ」
俺の顎を上げると唇を重ねる。
「やめろっ!」
俺の中に踏み込んでくるな、気持ちを置いていくな、俺はそれに縋るしかなくなる。
想いを留めておけなくなる…
「瑞生、俺と付き合って」
「……」
「瑞生だって同じだろ?」
「…離れるのわかってるのに付き合いたくない」
「俺は離れても別れる気なんてない」
「無理言うなよ」
「なんでお互い好きなのに想いを繋いだらいけないんだよ」
「…卒業まで」
「俺は別れないぞ」
好きだけどちょっとズレたまま付き合い出した俺と理一。
みんなには隠して付き合い続け、体も重ねた。そんなことしたら離れ難くなるのに、わかってるのに…
一時でもいい、それでも幸せだった。
卒業式の日、あの橋に二人でいた。
「頑張れよ」
理一の両親が理一のポンコツを見かねて寮にしてくれたようだ。
これならなんとかなるだろう。
「会いに来いよ、瑞生」
「嫌だよ、卒業までって約束だろ」
「俺は別れない」
「じゃあな、体気をつけろよ」
「瑞生!」
俺は橋を渡る。
ここで想いを断たないと苦しくなるだけだ。
会いたくて堪らなくなってしまう。
「俺は別れないぞ!」
ずっと叫んでる。
ふっ
まだ言ってる。
そういうところが好きなんだ。
ヴヴヴ
理一のスマホが鳴る。
『一年後の今日、16時に夏目橋』
「瑞生!絶対、俺来るから!絶対!
だから必ず来いよ!」
「理一がちゃんと来られたら、付き合うよ」
「絶対だぞ!約束守れよ!」
俺は橋の反対側から理一に手を振った。
一年後、理一は来なかった。
俺はあの日ずっと待ってた。
一緒に夕日を見たかった。
理一のことだから16時を朝や夜の6時と間違えてるんじゃないかとか、いろいろ考えて…
そうでもしないと自分が惨めだった。
浮かれてたのは自分だけだった…
でもこれで吹っ切れた。
理一にその気がなかった、それだけのことだ。
嘘つき。
成人は18歳だが成人式は二十歳で行うのがこの地域のやり方だ。
高校卒業で散り散りになったみんなに会いたいと、成人式に合わせて同窓会が開かれることになった。
迷った、もしかしたら理一が来るかもしれない。
会いたくない。
でもみんなには会いたい。
迷った結果、理一が来たとしても話さなければいい、避ければいい、そうすることにした。
当日。
懐かしい顔に嬉しくなる。
酒も入って誰彼構わず皆ワイワイやってて楽しい。
来てよかった、みんなに会えてよかった。
楽しい酒を飲んでいたら、隣にドカッと座り込んできた奴がいた。
理一だった。
一気に酔いが醒める。
「おっ!夫夫が揃ったな!」
と皆が囃し立てる。
「夫夫、水入らずでどうぞ!」と二人にされた。
帰りたい。
理一は憮然としてる。
帰る。
立ち上がる俺の腕を掴んで座らせる。
「なんだよ、離せよ」
「やだね」
「離せっ!」
理一の手を振り解く。
「…なんで来なかったんだよ」
「なに?」
「約束したのになんで来なかったんだよ!」
こいつなに言ってんだ。
「来なかったのは理一だろっ!」
「俺は行った!瑞生が来なかったんだ!」
「俺だって行ったよ!」
え?
ん?
「待って、どういうこと?」
「瑞生来たの?あの橋にいないから俺絶望して…」
「いや、理一いなかったぞ」
え?
は?
「6時に百目橋にだろ?」
「は?16時に夏目橋だよ!」
え?
え?
「待って…LINE確認する…」
理一があわあわしてる。
嫌な予感がする。
しばらくするとゴン!という音と共にテーブルに突っ伏す理一がいた。
「俺、やっちゃった…」
ふっ
「なにやらかしたんだよ」
「百目橋に夜6時に行っちゃった…日付が変わるまで待ってた…」
「相変わらずポンコツかよ」
「俺、やっぱり瑞生いないとダメみたい。
俺の面倒見てくれよ」
消え入りそうな声で言う。
「やだよ、ママになんてなるか」
「ママじゃねえよ、恋人だ」
理一が俺を抱きしめた。
「理一!瑞生!おめでとう!!」
「うわあっ!」
みんなが雪崩れ込んできた。
覗いてたのかよ!
「ご祝儀の唐揚げだ、食え!」
どいつもこいつも面白がりやがって。
理一、お前はポンコツなんとかしろ。
ダメでも俺がフォローしてやるから。
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