いきたがり

秋臣

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夜を纏う銀色の光

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俺は古川さんにいろいろ相談するようになった。
俺より古川さんの方が公認会計士取得のためのノウハウは詳しいはずだ。
伊央くんが直接古川さんに聞けば早いのだが
質問攻めにする伊央くんに古川さんがタジタジになり、
「私は八雲さんのサポートに徹します」と宣言されてしまった。
大学でも勉強しているし、資料も揃ってるだろう。俺にできることはほとんどないのが現状だ。なにがサポートしてあげたいだ、何も出来ないじゃないか。

そんな俺に伊央くんは本を選ぶのを手伝って欲しい、俺のモチベーションが下がらないように鼓舞して欲しいなど、それは俺じゃなくてもいいんじゃないかな?と思うようなことを頼んでくる。
 俺はこれでいいのか?と思いながらも頼まれたことは出来るだけ応えるようにしていた。
伊央くんは出勤日ではない日に、古川さんにどのような本を買えばいいかを聞き、一緒に本屋へ行って選んでくれないかと頼んでいたが、古川さんの都合が悪く断られていた。
そんな古川さんから俺にこの出版社のこれと、この問題集は使いやすいと思うので伊央くんに同行して見てやってもらえますかと連絡があったので、伊央くんと書店へ向かう。
「古川さんに聞いたので俺一人でも大丈夫ですよ」と言っていたが、そう言っていつも何も買えていない。
沢山の問題集や参考書を見ると全部必要なのではないかと思ってしまうらしい。
子どもか。
俺もFPの本を見たかったので、一緒に行っていいかと聞くと、パアッと表情が明るくなり満面の笑みで
「はい!」と言う。ああ、眩しい!恐ろしいホストだよ、君は。

夕方、大学の帰りに待ち合わせをして書店へ向かっていると、
「パパ?」と呼ぶ声が聞こえた。
その声は明依か!?
「明依!どうしたんだ、こんなところで。学校の帰りか?元気だったか?奈々はどうしてる?」
聞きたいことはいっぱいあるが胸がいっぱいでありきたりな言葉しか出てこない。
しかし明依は
「パパ何してるの?」と冷めた声で聞く。
「本屋に行くんだよ」
「なんで…なんで伊央くんと?」
伊央くん?
伊央くんが察して
「こんにちは」と挨拶すると顔を赤らめながら明依も挨拶を返す。しかし俺を見るその顔には敵意が滲む。
明依は
「この人とどういう関係?」と聞くので、どう答えたらいいかな…と一瞬迷うと伊央くんが
「八雲さんにはいつもお世話になっております。僕の働いている店のFPで僕は八雲さんから資格取得のための相談やアドバイスをもらっています。今日もそのために本を選んで貰いに行くところです」
いつものほわっとした伊央くんが消え、スッとビジネストークに切り替わる。しかしあくまでも高校生を相手と承知した上のカジュアルなビジネストークに徹してる。しかも決して名乗らない、余計な情報を与えない、身を守る術を知っている上手いやり方だ。
「本なんてネットで買えるし一緒に行く必要なくない?体のいいパパ活でしょ?パパはこんな若くて綺麗な男の人にお金貢いでるんだ」
明依…
「ねえ銀行はどうしたの?辞めたの?それなのにパパ活?いい身分だね」
明依が汚いものを見るかのように吐き捨てる。
物言いが、えりに似てきたな…心が酷く寂しくて凍りつきそうだ。
あははと伊央くんが笑い出す。
「なにがおかしいのよ」
「本を買いに行くだけでパパ活なんて言われるのは心外だし、八雲さんにも僕にも失礼だと思うよ」と穏やかに優しく明依に言う。
「パパ、汚い」
これはきつかった、なにもやましいことはないのに思わず下を向いてしまった。情けない。

伊央くんが明依にスッと近づく。
突然辺りが暗くなり闇に包まれる。
いや違う、伊央くんの空気が変わったのだ。
夜を纏い銀色に光る月明かりに照らされたような妖艶な伊央くんが夕暮れの街に突然現れた。呆気に取られている俺を一瞬目の端で捉える。その眼差しに射抜かれ動けなくなる。
同じように射抜かれた明依の耳元で伊央くんが
「羨ましいの?」 
と甘く気だるげに囁く。
明依から離れた伊央くんがまた一瞬で闇を消し、暖かな春のような空気に着替える。
「それでは失礼します」
伊央くんは明依に会釈をし歩き出す。
我に返った俺はなにがなんだか分からないまま明依に
「お金の心配はしなくて大丈夫だから元気でいてくれ。奈々にもそう伝えてくれ」
それだけ言うのが精一杯だった。

「伊央くん!」
「八雲さん、大丈夫ですか?」
いつもの伊央くんだ。さっきのはなんだ?
「娘さんですか?」
「ああ」
「誤解されちゃいましたか、申し訳ないです」
「いや、助かった。ありがとう」
「なら良かったです、行きましょうか」 
なんだったんだ、あれは。
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