いきたがり

秋臣

文字の大きさ
上 下
11 / 56

連れ去り

しおりを挟む
俺はまた歩き始めた。
「どこ行くんだよ」
何も聞こえない、誰もいない。
「おいって!」肩に置かれた手を掴み投げ飛ばす。
三木は天地がひっくり返り、目を白黒させてる。
そのまま三木を置いて俺はひたすら歩く。
「そういや調査書に柔道有段者って書いてあったな。久しぶりに綺麗に投げられたあ」
大の字になってのびている。
「八雲さん、あの橋に行こうとしてるでしょ?もう昼間でもいいから死のうとしてるでしょ?無理だよ」
うるさい、お前の声など俺の耳には届かない。
「あの橋ね、意外と高いんだよ。夜だとその距離感が暗さでわからないけど、昼間は絶対無理だよ」

俺は三木を置いて橋に向かった。
もう死にたい、今すぐ死にたい。
俺という存在をこの世から消したい。

キャンピングカーで下った道を怒りに任せて歩く。
ただひたすら死ぬ場所を目指して。
途中、三木のキャンピングカーに追い抜かれる。
まだ邪魔するのか、やれるものならやってみろ、お前のことなどどうでもいい。

橋に着く。
風が強くて少し煽られる。
歩道を歩いて橋の真ん中まで来る。
「あ……」
三木の言っていた通りだった。
夜には全くわからなかった橋の下や川までの距離感がリアルに分かる。
それだけで足がすくんで動けない。
  
遠くで
「ほらねー、無理でしょ?無理なんだよ。
だからみんな夜に来るんだもん」
大の字でのびていた三木がこちらに向かって歩いてくる。俺に追いつき、欄干から橋の下を覗く。
「うわっ!絶対無理だわ」

「…お前、最初から死ぬ気じゃなかったんだな」
「うん、まあそうね。死ぬ気なんて全くないね。八雲さんの様子見てて、ああこの人は本気だと思って止めてたつもり」
「なんで止めるんだよ、お前に関係ないだろ」
「いや、関係大アリでしょ。
これで八雲さんに死なれたら俺一部加担になっちゃう。元奥さんとはなんもないけど、俺の店の客であることは事実だしね。
調査してるうちにこの人…あ、八雲さんのことね、あんまり不憫で可哀想になっちゃって、マジでやばそうなら教えてくれって調査員に頼んでおいたんだよね。そしたらさ、山の方へ行きましたって報告来て、これはやるなと思って追いかけてみました。追いついてよかったあ、というか追い越して先に着いちゃった。調査員が『過去の事例から推測するとやるとしたらここでしょう』って自殺が多い所教えてくれてね。さすがだよね~ドンピシャだったもん」
「……」
「八雲さん?」
「もう何もないのに生きてる理由ないんだよ。なのに死ぬことも出来ないなんて惨めすぎる…」俺は放心状態で座り込む。

「ねえ、八雲さん。俺んち来ない?」

「なんで俺がよりによって間男のところへ行かなきゃならないんだ。人をバカにするのも大概にしろ!もう放っておけ。夜まで待てば周りが見えなくなるからやれる」
「間男!俺、間男なのか!あはははは!」
こいつを突き落としたい。
「いやあ、無理だよ。昼間のくっきり鮮明に見えてた景色を思い出しちゃうんだよねえ。
俺がそうだったもん。
俺昼間来てこの景色見てたから夜になっても絶対出来ねえって思ってたよ」
「もうどうでもいいから俺に構うな、帰れ」
「いやいや、俺と一緒に帰りましょうよ」
「行かねえよ」
「ごちゃごちゃうるさいね」
そう言うと三木は俺を肩に担ぎ上げた。
嘘だろ?俺割とガタイはいい方だぞ?
それを担いだ?は?
「俺さ、ホストやる前、いろいろ経験しておきたくて引っ越し屋とか土木作業員とかもやってたのよ。だから重い物持つコツとか身に付いてんの」
「おい、離せ!」
「暴れないでよ、持ちにくいでしょ。別に取って食おうってわけじゃないんだからさ」

俺はそのまま三木に連れ去られた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

隠れSな攻めの短編集

あかさたな!
BL
こちら全話独立、オトナな短編集です。 1話1話完結しています。 いきなりオトナな内容に入るのでご注意を。 今回はソフトからドがつくくらいのSまで、いろんなタイプの攻めがみられる短編集です!隠れSとか、メガネSとか、年下Sとか…⁉︎ 【お仕置きで奥の処女をもらう参謀】【口の中をいじめる歯医者】 【独占欲で使用人をいじめる王様】 【無自覚Sがトイレを我慢させる】 【召喚された勇者は魔術師の性癖(ケモ耳)に巻き込まれる】 【勝手にイくことを許さない許嫁】 【胸の敏感なところだけでいかせたいいじめっ子】 【自称Sをしばく女装っ子の部下】 【魔王を公開処刑する勇者】 【酔うとエスになるカテキョ】 【虎視眈々と下剋上を狙うヴァンパイアの眷属】 【貴族坊ちゃんの弱みを握った庶民】 【主人を調教する奴隷】 2022/04/15を持って、こちらの短編集は完結とさせていただきます。 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 前作に ・年下攻め ・いじわるな溺愛攻め ・下剋上っぽい関係 短編集も完結してるで、プロフィールからぜひ!

男の子たちの変態的な日常

M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

専業種夫

カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

処理中です...