霧晴れる時、君は

タキシード

俺は地図アプリを使って湊くんをナビする。
「どこ行くんだよ？」
「もうすぐ着くよ」
一軒家が見えてきた。
車が数台停まってる。
「なにここ？」
「来て」
「なんなの？」
ドアを開ける、雰囲気のいいところだ。
「こんにちは、お世話になります」
「あ、悠馬くん来た！」
「悠馬くん、久しぶりだね」

湊くんが呆然としている。
「え…姉ちゃん？浅野さんも…なんで…？」
「早速始めるね、夕香、玲奈お願い」
「任せて！湊くん、お久しぶり。始めようか？」
「え？なに？え？」
「悠馬くんはこっちね」と玲奈さんが手招きする。
「はい、お願いします」

「姉ちゃん、どういうこと？なんなの、これ？」
「メイク出来ないから湊くん黙ってて」と夕香さんに怒られる。
仕方なく黙っていると姉ちゃんが
「メイク終わったらこれに着替えて」
そこにはタキシードが用意されていた。
黙ってろと言われたが思わず
「またコスプレさせる気かよ！もうやめてくれって言っただろ！」
「湊くん！」夕香さんが怒る。
「すみません…」
「夕香怒らせると怖いよ、言うこと聞きな」
なんなんだよ。

訳がわからないままヘアメイクされ、タキシードを着せられた。
前に来た霧人の衣装とはちょっと違う。
上品なシルバー調のグレーのタキシード。
なんなんだ、これ。
浅野さんに
「絵になるな」と何枚か撮られる。
アシさんにライティングの指示を出す。
「なにかの撮影ですか？言ってくださいよ」
「浅野さん、どう？」姉ちゃんが聞く。
「こっちはいつでもいけるよ」浅野さんも答える。
姉ちゃんと浅野さんがなにか話してるがなに言ってるのか全然わからない。
浅野さんの撮影じゃないの？
それも聞いてないけど。

「行けまーす！」と玲奈さんの声がする。
声のする方に目を向けると悠馬が立っていた。
え……
そこにいたのは、俺と同じタキシードを着た悠馬だった。
「湊くん」
と笑ってる。

涙が溢れる。
立っていられない。

夕香さんが
「わあ！泣かないで、メイクが崩れる！」と慌てて駆け寄る。
姉ちゃんも
「ちょっと袖で拭かないで！やめて！」と俺を止める。
悠馬がそれを見て笑ってる。