霧晴れる時、君は

現実

現実を突きつけられた気がした。
愛莉さんに頼まれて渋々やったコスプレモデルは意外にも面白かった。それは本当だ。
でも、霧人と遥の別バージョンを撮影した時、俺は気づいた。
湊くんの本来の姿はこっちなんだと。
俺も湊くんもゲイではない。
たまたま好きになったのが男だったというだけで俺たちは付き合っている。
本当の性対象は女性のはずなんだ。
霧人と遥の姿を見て、漫画の中ではお互い痛々しいくらい想い合っているのに、どうやっても結ばれない関係であるが、別バージョンではそれを覆した展開を撮影した。
湊くん、すごくお似合いだった。
本当に結婚式しているみたいだった。
あっちの方が本当なんだ。
自然でなんの違和感もない、素直に素敵だと思った。

セックスだってこんなに苦労しないだろう。子どもだって授かれる可能性が高い。
少なくとも未来が見られる。
俺は？俺といてもなにもない、なにも生まれない、未来なんて見えないし、そもそもないんだ。
雫の姿でそれを思うとはなんて皮肉だ。
そうか、だから雫なんだ。報われないのにそばにいたがる。雫は俺だ。

湊くんも本来の姿に戻る日が必ず来る。
そのことにいつか気づく時が必ず来る。
もしかしたら今日のことがきっかけになって既に気づいたかもしれない
その時に俺はちゃんと離れることができるだろうか、別れを言い出せるだろうか。いつの間にかこんなに好きになってしまって、それができるのか。
今日より明日、明日より明後日の方が愛しさは募る。
今まで湊くんが俺を大切にしてくれていたように、俺も湊くんが大切なら、湊くんの幸せを思うなら早く断ち切らないと思いを消すことができなくなってしまう。
お互いの傷が小さいうちに離れるべきだ。
俺はそれを湊くんに言い出すタイミングを探していた。