43 / 54
会いたくて
しおりを挟む
俺は新幹線のチケットを予約する。
運良く明日のが取れた。
明日、東京に行く。
結果は出てないけど、俺は東京に行かなきゃいけない。
陽南が俺を呼んでるから。
会いたいと泣いてるから。
何をおいても今会わなきゃいけない。
お揃いで買った東京タワーのキーホルダー、これを見るたびに陽南に会いたいと思う。
ギュッと握りしめる。
陽南に会いたい…
翌日、昼過ぎに東京に着く。
そのまま陽南の家に行く。
陽南には何も言っていない。
インターホンを押す。
応答がない、出掛けてるかな。
待とう。
8月下旬、まだまだ暑い。
「え…」
声がする。
日陰に座り込んでた俺は顔を上げる。
買い物袋を持った陽南がいた。
「なんで…」
「陽南が会いたいって言ったから」
「だって…」
「俺が陽南に会いたいから」
陽南が俺に抱きつく。
泣き出してしまった。
泣きながら、
「わがまま言ってごめんなさい…」
と謝る。
「そのわがままは嬉しいから大歓迎だよ」
「来てくれてありがとう…」
暑いので陽南の部屋に通される。
エアコンの冷たい風が生き返る。
「いつまでいられるの?」
「明日の朝の新幹線で帰る」
「そっか…」
「あんまりいられなくてごめんな」
「ううん、来てくれて嬉しい。
ねえ、泊まる?」
「えっ!?」
「ん?」
「陽南の家に!?」
「うん」
「え…それはどうなんだろう…
お父さんとお母さんいるだろ?」
「うん」
「いきなり過ぎて迷惑だろうし、そもそも娘の彼氏が泊まるってどうなんだ?…」
「ダメかな?」
「百歩譲ってお母さんはいいって言ってくれるかもしれないけど、お父さんは嫌なんじゃないかなあ…」
俺、いろんな汗が滝のように流れて止まらない。
「お母さんに聞いてみるね」
陽南が連絡を取る。
「泊まっていいって!夕食も一緒に食べようって!」
嬉しいんだけどね、問題はそこじゃないんだよ、陽南…
「お父さん?帰ってきてから言えばいいよ。
お母さんがいいって言ってるんだから大丈夫」
全然大丈夫じゃないと思う…
お母さんは夕方に帰ってくると言う。
数時間ある、陽南と二人きり。
見つめ合っちゃったら、抱き合っちゃったら、キスしちゃったら、
いろいろ溢れて止まらなくて…
本当に止まれなくて…
事後にしれっとお母さんに挨拶するのが、ものすごく照れくさかった。
お母さんは大歓迎してくれた。
「この子のわがままを聞いてくれてありがとう」
と感謝までされた。
お父さんは俺を見て一瞬フリーズしたが、必死に冷静を装ってくれている。
多分俺も同じ反応をお父さんにしていたと思う。
娘の彼氏、彼女のお父さん、この関係には薄くて見えにくいが確実にモヤモヤとしたベールがある。
これはいつになったら取り払われるのだろうか…
夕食時、お母さんは暑いのにすき焼きの準備をしていた。
すると、玄関から、
「急に肉買ってこいってなんだよ、俺、店戻らないといけないんだけど。しかもこの量なに?」
ズカズカと入ってきたのは深影さんだった。
「壮祐くんじゃん!なんでいるの?
帰ってきてるなら言ってよ、教えてよ!
肉って壮祐くんのためか」
「ご無沙汰してます」
「本当にご無沙汰だね、元気?」
「はい」
「俺さ、店戻らないといけないんだわ、たまたま客で来てた拓海に店番頼んで来ちゃってるからさ」
「あ、どうぞどうぞ、行ってください」
「相変わらずだなw あとで来るから」
「あ、大丈夫です」
「来るから!」
「はいw」
夕食をご馳走になりながら、院試を受けたこと、合格したら院に進むことになるのをご両親に話した。
「まだ結果は出ていませんが、陽南さんをまた待たせてしまうのは心苦しいです」
と言うと、お父さんは見たことないような笑顔を見せ、
「そうかあ、院かあ!そうだよな、研究楽しいもんな、うんうん、じっくり研究するのがいいと思う。うん、心置きなく研究できるといいね!」
ん?
「陽南も内定出て社会人になるし、忙しくなるし、会う時間も少なくなるのは仕方ないよねえ、うん、仕方ないね!」
んん?
「ちょっと、お父さん、喜んでない?」
「今永くん、合格できるよう祈ってるよ」
「はあ」
うん、これはあれだな、娘の婚期が伸びてめっちゃ喜んでる父親の図だな。
お父さんはすごく結婚を意識してる。
多分誰が来ても同じ反応なんだろうけど、院試受けてる身としてはまだそこまで意識したくてもできなくて、そんな立場じゃなくて、安直に結婚の約束なんてできるわけがなくて…
もちろん陽南と結婚したくないとかそんなこと絶対ない、寧ろしたい、是非ともしたい。
陽南は先に社会人になるし、出会いも増えるだろうし、かわいいし、モテるだろうし、心配は心配なんだけど、俺、何もできないよな。
俺、ここへ来てもよかったのかな…
陽南に何の約束もしてあげられないのに…
陽南がまだ結婚しないとわかった上機嫌のお父さんが豹変したのは、陽南が、
「壮祐くんのお布団、私の部屋に運ぶね」
と言った時だった。
「壮祐くんは深影の部屋で寝ようか。
ね?そうしよう、それがいい」
お父さんが真顔で陽南から布団を奪い取る。
「でも後でお兄ちゃん来るよ?」
「あ、それはまずいな、危険だな」
なにが危険なんだ。
「壮祐くん、和室でいいかな?」
「泊めてもらえるだけで充分です、ご迷惑おかけして申し訳ないです」
「いやいや、気にしなくていいんだよ」
いそいそとお父さんが和室に布団運ぶ。
「せっかく壮祐くん来てくれてるのに、どうして和室に運ぶの?私の部屋でいいでしょ!」
陽南が譲らない。
いや、陽南、そうさせてくれ。
同じ部屋にいたら俺は自制が効かない自信がある。
ご両親がいるのにムラムラする自信しかない。
俺のために和室で寝かせてくれ。
寝るまで一緒にいる、寝るのは別室、
そう決めて陽南も渋々納得した。
「一緒に寝たかったのになあ」
俺もだよ。
でもね、昼間の陽南がフラッシュバックするから非常に危ないんだ。
陽南は俺にたくさん話をしてくれた。
留学した時のこと、就活はもう二度したくないこと、GSになれるのはすごく楽しみだけど自分の英語が通用するか不安なこと、前に作った間取り図が宝物なこと、いっぱいいっぱい話してくれた。
話すだけ話すと案の定眠くなってきたようだ。
起きてる!と頑張ってたけど、眠くなった陽南はどうにもならない。
あっという間に寝そうな気配なので部屋まで連れて行き寝かせた。
和室に一人になる。
不思議な気分。
自分の家じゃない家で一人でいる。
陽南もご両親もいるけど、なんだかこうしてるのが不思議。
勢いで来てしまったけど陽南に会えてよかった。
運良く明日のが取れた。
明日、東京に行く。
結果は出てないけど、俺は東京に行かなきゃいけない。
陽南が俺を呼んでるから。
会いたいと泣いてるから。
何をおいても今会わなきゃいけない。
お揃いで買った東京タワーのキーホルダー、これを見るたびに陽南に会いたいと思う。
ギュッと握りしめる。
陽南に会いたい…
翌日、昼過ぎに東京に着く。
そのまま陽南の家に行く。
陽南には何も言っていない。
インターホンを押す。
応答がない、出掛けてるかな。
待とう。
8月下旬、まだまだ暑い。
「え…」
声がする。
日陰に座り込んでた俺は顔を上げる。
買い物袋を持った陽南がいた。
「なんで…」
「陽南が会いたいって言ったから」
「だって…」
「俺が陽南に会いたいから」
陽南が俺に抱きつく。
泣き出してしまった。
泣きながら、
「わがまま言ってごめんなさい…」
と謝る。
「そのわがままは嬉しいから大歓迎だよ」
「来てくれてありがとう…」
暑いので陽南の部屋に通される。
エアコンの冷たい風が生き返る。
「いつまでいられるの?」
「明日の朝の新幹線で帰る」
「そっか…」
「あんまりいられなくてごめんな」
「ううん、来てくれて嬉しい。
ねえ、泊まる?」
「えっ!?」
「ん?」
「陽南の家に!?」
「うん」
「え…それはどうなんだろう…
お父さんとお母さんいるだろ?」
「うん」
「いきなり過ぎて迷惑だろうし、そもそも娘の彼氏が泊まるってどうなんだ?…」
「ダメかな?」
「百歩譲ってお母さんはいいって言ってくれるかもしれないけど、お父さんは嫌なんじゃないかなあ…」
俺、いろんな汗が滝のように流れて止まらない。
「お母さんに聞いてみるね」
陽南が連絡を取る。
「泊まっていいって!夕食も一緒に食べようって!」
嬉しいんだけどね、問題はそこじゃないんだよ、陽南…
「お父さん?帰ってきてから言えばいいよ。
お母さんがいいって言ってるんだから大丈夫」
全然大丈夫じゃないと思う…
お母さんは夕方に帰ってくると言う。
数時間ある、陽南と二人きり。
見つめ合っちゃったら、抱き合っちゃったら、キスしちゃったら、
いろいろ溢れて止まらなくて…
本当に止まれなくて…
事後にしれっとお母さんに挨拶するのが、ものすごく照れくさかった。
お母さんは大歓迎してくれた。
「この子のわがままを聞いてくれてありがとう」
と感謝までされた。
お父さんは俺を見て一瞬フリーズしたが、必死に冷静を装ってくれている。
多分俺も同じ反応をお父さんにしていたと思う。
娘の彼氏、彼女のお父さん、この関係には薄くて見えにくいが確実にモヤモヤとしたベールがある。
これはいつになったら取り払われるのだろうか…
夕食時、お母さんは暑いのにすき焼きの準備をしていた。
すると、玄関から、
「急に肉買ってこいってなんだよ、俺、店戻らないといけないんだけど。しかもこの量なに?」
ズカズカと入ってきたのは深影さんだった。
「壮祐くんじゃん!なんでいるの?
帰ってきてるなら言ってよ、教えてよ!
肉って壮祐くんのためか」
「ご無沙汰してます」
「本当にご無沙汰だね、元気?」
「はい」
「俺さ、店戻らないといけないんだわ、たまたま客で来てた拓海に店番頼んで来ちゃってるからさ」
「あ、どうぞどうぞ、行ってください」
「相変わらずだなw あとで来るから」
「あ、大丈夫です」
「来るから!」
「はいw」
夕食をご馳走になりながら、院試を受けたこと、合格したら院に進むことになるのをご両親に話した。
「まだ結果は出ていませんが、陽南さんをまた待たせてしまうのは心苦しいです」
と言うと、お父さんは見たことないような笑顔を見せ、
「そうかあ、院かあ!そうだよな、研究楽しいもんな、うんうん、じっくり研究するのがいいと思う。うん、心置きなく研究できるといいね!」
ん?
「陽南も内定出て社会人になるし、忙しくなるし、会う時間も少なくなるのは仕方ないよねえ、うん、仕方ないね!」
んん?
「ちょっと、お父さん、喜んでない?」
「今永くん、合格できるよう祈ってるよ」
「はあ」
うん、これはあれだな、娘の婚期が伸びてめっちゃ喜んでる父親の図だな。
お父さんはすごく結婚を意識してる。
多分誰が来ても同じ反応なんだろうけど、院試受けてる身としてはまだそこまで意識したくてもできなくて、そんな立場じゃなくて、安直に結婚の約束なんてできるわけがなくて…
もちろん陽南と結婚したくないとかそんなこと絶対ない、寧ろしたい、是非ともしたい。
陽南は先に社会人になるし、出会いも増えるだろうし、かわいいし、モテるだろうし、心配は心配なんだけど、俺、何もできないよな。
俺、ここへ来てもよかったのかな…
陽南に何の約束もしてあげられないのに…
陽南がまだ結婚しないとわかった上機嫌のお父さんが豹変したのは、陽南が、
「壮祐くんのお布団、私の部屋に運ぶね」
と言った時だった。
「壮祐くんは深影の部屋で寝ようか。
ね?そうしよう、それがいい」
お父さんが真顔で陽南から布団を奪い取る。
「でも後でお兄ちゃん来るよ?」
「あ、それはまずいな、危険だな」
なにが危険なんだ。
「壮祐くん、和室でいいかな?」
「泊めてもらえるだけで充分です、ご迷惑おかけして申し訳ないです」
「いやいや、気にしなくていいんだよ」
いそいそとお父さんが和室に布団運ぶ。
「せっかく壮祐くん来てくれてるのに、どうして和室に運ぶの?私の部屋でいいでしょ!」
陽南が譲らない。
いや、陽南、そうさせてくれ。
同じ部屋にいたら俺は自制が効かない自信がある。
ご両親がいるのにムラムラする自信しかない。
俺のために和室で寝かせてくれ。
寝るまで一緒にいる、寝るのは別室、
そう決めて陽南も渋々納得した。
「一緒に寝たかったのになあ」
俺もだよ。
でもね、昼間の陽南がフラッシュバックするから非常に危ないんだ。
陽南は俺にたくさん話をしてくれた。
留学した時のこと、就活はもう二度したくないこと、GSになれるのはすごく楽しみだけど自分の英語が通用するか不安なこと、前に作った間取り図が宝物なこと、いっぱいいっぱい話してくれた。
話すだけ話すと案の定眠くなってきたようだ。
起きてる!と頑張ってたけど、眠くなった陽南はどうにもならない。
あっという間に寝そうな気配なので部屋まで連れて行き寝かせた。
和室に一人になる。
不思議な気分。
自分の家じゃない家で一人でいる。
陽南もご両親もいるけど、なんだかこうしてるのが不思議。
勢いで来てしまったけど陽南に会えてよかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる