レンガの家

秋臣

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シミュレーション

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その男性は俺たちの様子をにこやかに見ながら、
「今、お時間ございますか?」
と聞いてきた。
「え?」
「中でシミュレーションを体験できます」
「シミュレーション?」
「はい、既存の間取りを自分好みにアレンジできるというものです。一から作ることもできますが、既存のものがあると皆さん、イメージし易いようでなかなか好評なんです」
「面白そう!」
陽南が興味を示す。
「でも、俺たち高校生だし、全然家を建てるなんて予定もあるわけないし…」
「ここへ来る方全員が家をすぐ建てるというわけではないですよ、未来へのイメージを膨らませたいと見るだけの方が大半です。
お時間が許すのであれば是非遊んで行ってください」
俺も陽南も興味しかなく、そのシミュレーションをやってみることにした。

大きな家の中は豪華な家具や調度品が品よく配置され、こんな家が自分の家なら…と憧れてしまうような素敵なモデルハウスだった。
パソコンが数台テーブルに置かれている。
そこに案内される。

「まず、我が社で実際建てた家の間取りの中からお好みのものを選びます」
ものすごい数の間取りが出てくる。
「えー、迷う!」
陽南が困惑してる。
俺もだ。
「皆さん、そうおっしゃいます。
ですので大まかに玄関を家のどこに配置したいかを手掛かりにしてみてください。
例えば…」
と手本を見せてくれる。
「これですと玄関が家の真ん中にありますね。この配置だと部屋が左右に分かれます。リビングと和室や仕事部屋などを離したい方はこちら向きかなと思います。
更にこちらですと…玄関は家の左右どちらかに配置できます。
これですとリビングと和室を一体化させることが可能になります」
「なるほど」
「イメージし易いね」
「大体この2パターンが基本ですね。
どちかがお好みですか?」
「うーん」
「どっちも捨てがたい…」
せーので決める。
「俺こっち」
「私こっち」
俺と陽南が選んだのは玄関が左右に来るタイプだった。

「お二人意見が合いましたね。
そこから家の形を決めます。
コの字型がいいとかL字型がいいとか、いろいろ選べます。平屋か二階建て、三階建てなども選べますので。そのあとにキッチンやバスルーム、階段などをどこに配置するかを決めます。
キッチンなどのアイコンをクリックして動かすと自由に配置出来ます」
「楽しい!」
陽南が夢中になっている。
俺も楽しくなってきた。
「構造的に有り得ないとか考えずに、ご自分の家を作ってみてください」

しばらく二人それぞれにパソコンに向き合いシミュレーションしてみた。
思いの外楽しくて夢中になってやってしまっていた。
気づくと30分くらい取り組んでいた。
「すみません、つい夢中になってしまって…」
「いえいえ、皆さん同じですよ」
その人は笑いながらお茶まで出してくれた。
「陽南、できた?」
「うん、壮祐くんは?」
「できた」
「それではこれをプリントアウトしますね」

印刷された間取り図が出てくる。
陽南と見せっこする。
全然違う。
「へえ、陽南はこういう家がいいんだね」
「うん、リビングが大きくてキッチンも全て一体化してるような感じがいいな。天井も吹き抜けみたいになってたらいいかもと思ったけど、吹き抜けだと寒いかもしれないからそれはやめた」
寒がりの陽南には重要な部分のようだ。
「壮祐くんのはどうして階段がここなの?」
陽南の間取りの階段はリビングの中にある。
俺のは家の端に配置した。

「リビングの中の階段も憧れるんだけど、ある程度の年齢になってくると、リビングを通らないでさっと部屋に行きたい時ってない?」
「ないよw」
「え?ない?」
「なんかやましいことでもあるの?w」

「え?マジでない?ありますよね?」
男性に助けを求める。
その人は笑いながら、
「思春期の子はあるかもしれないですね」
と助けてくれた。

「ほらね、俺は子どもが生まれた時のために階段はここにしてあげる」
「ウケるw」
陽南の間取りも俺の間取りも、子ども部屋は二つ、夫婦は同じ寝室にしていた。
こういうのちょっと嬉しい。


「あの、もう一つ作ってもいいですか?」
「はい、是非」
「違うパターンで作るの?」
陽南が聞く。
「こういうのはどう?」
陽南に耳打ちする。
陽南の目が潤む。
「うん、作りたい。私も一緒に考える」
「一緒に作ろう」

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