レンガの家

秋臣

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無防備

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チェックインして部屋に入る。
眺めのいい部屋だ。
「綺麗な部屋だね」
陽南が楽しそうに部屋を見て回ってる。
「壮祐くん、夕ご飯は何時くらいに食べる?」
「それなんだけどね、18時にこの近くの店予約してるんだ」
「そうなの?」
「陽南、鉄板焼き好き?」
「好き!」
「よかった、そこに行こう」
「もしかして、お兄ちゃんに聞いた?」
鋭い。
「よくわかったね」
「ダメだよ、お兄ちゃんに聞いたら。
来ちゃうよ?」
笑える、本当に信用がないw
「そこは対策済み」
「どういうこと?」
「和・洋・中の店と、肉なら焼肉、鉄板焼き、しゃぶしゃぶ、すき焼きの店、
魚も料亭と寿司屋、それぞれおすすめの店を教えてもらった。
でもどこの店にしたかは言ってない。
だから深影さんは俺たちがどこに行くのか知らないし、それだけ候補があると絞れない」
「考えたね!」
「深影さんは侮れないからね。
でも美味しい店たくさん知ってるから旨味成分だけ抽出させてもらいました」
「壮祐くん、凄く悪い顔してるよw」
「東京タワーの模型で許してもらう」
「あははは!」
「まだ予約の時間には早いんだよね、
ここから歩いて10分くらいの距離だし」

俺がするすると陽南に近づくと陽南がするりと逃げる。
「ちょっと陽南、なんで逃げるの?」
「壮祐くん、相談です」
「え?なに?」
相談?
「あのですね…私すごく眠い」
眠い?
「朝早かったし、結構歩いたし、怖かったし」
ふっ
「眠いの?」
「うん」
「昼寝する?」
「お昼寝したい」
ふはっ!
「子どもかよw」
「眠い…」
コテンとベッドに横たわると、だんだん瞼を閉じ始める。
「え?本当寝るの?」
「ん?うん…」
寝た。

マジかw
本当に寝ちゃったw

ふっ
この無防備さ、俺に襲われるとか全然思いもしないんだろうな。
他の奴だったら危ないんだぞ。
心配になりつつも、スースーと静かに寝息を立てて寝ている安心しきった顔を俺はずっと見てた。
いくらでも見ていられる、かわいい。
ずっと眺めていたらいつの間にか俺も寝てしまっていた。


ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ

アラームの音で目を覚ます。
あれ?
アラームセットしてたっけ?
してたのか。
よかった、寝ちゃってた。

スマホを見ると17時30分。
ん?
んん?
え?
ええっ!?
二時間くらい寝ちゃってた!
アラームはセットしたけど、さっき鳴ってたのはスヌーズだったんだ!

「陽南!起きて!陽南っ!」
「うーん…」
ボーッとしている。
「もう17時30分だよ!寝過ぎちゃった!起きて!」
「え…」
「鉄板焼きの店の予約!18時だよ!」
「うーん…ん?え?あーっ!」
陽南、覚醒。
「わあーっ!寝ちゃったーっ!」
「大丈夫、落ち着いてまだ間に合うから」
「うん、うん!」
「でも今起きないとダメ!絶対ダメ!」
「うん、わかった!起きた!」


このまま部屋にいるとまた寝ちゃいそうなので歩きながら目を覚ますことにした。

「ごめんね、お昼寝しちゃった」
ふっ
「本当に寝るとは思わなかったw」
「ベッド見てたら眠くなってきちゃって」
「いつもあんなに簡単に寝ちゃうの?」
「うん」
「子ども?w」
「子どもじゃない!」
「でも他の人といる時は気をつけないとダメだよ、襲われちゃうよ、危ないよ」
「寝ないもん」
「いーや、絶対寝る」
「寝ない!壮祐くんと一緒だから寝ちゃっただけ!」
「それに寝言は言うし、イビキはかくし、寝相悪いし、ヨダレすごいし…」
「嘘…本当に?」
陽南、真っ青。
「嘘」
「帰る」
「ごめん!帰らないで!お願い!」
やりすぎた。


深影さんに教えてもらった鉄板焼きの店はカウンター席しかない、こじんまりとした店だった。
鉄板焼きは高いかもしれないと深影さんに教えてもらった時に、値段もそれとなく聞いたけど、
「高校生に教える店で数万も飛ぶような店は教えないから安心しろ」
と言われた。
二人で一枚で済むようなところを教えるからと気を遣ってくれた。
他の店も全てリーズナブルでも美味しいと深影さんが太鼓判を押す店だそうだ。
男気を見せたいが懐が寂しい身としては非常に有難い情報だ。
こういう情報を惜しげもなくさらりと出せるのはかっこいいよなあ。

そして肝心の料理は陽南の顔と食べっぷりを見ればわかる。
「美味しい!」
を連発して、それはそれは美味しそうに食べている。
本当に美味い。
鉄板焼きってあんまり馴染みがないけど、目の前で焼かれるとどうしてこんなにも美味しさが何倍も増すのだろうかというくらい美味しい。
こういう店を見つけられる深影さんってすごいんだなあと改めて感謝。

お腹いっぱいになったが深影さんの言う通り、一枚でお釣りが来た。
会計が済むまで実はちょっと不安だったんだ。
「壮祐くん、割り勘にしよう」
そう陽南が言ってくれたが、奢ると約束したし、深影さんのおかげで予算内で済んだので、男も立ててもらえた。
陽南は素直に奢られると満面の笑みで、
「ありがとう、ご馳走様でした」
と言った。
その笑顔だけで俺は腹一杯になれる。
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