レンガの家

秋臣

文字の大きさ
上 下
25 / 54

全てを捨てて

しおりを挟む
祝賀会と称されたその会には、輝哉さんの奥さんの公佳さんと娘の凛ちゃんも来てくれた。
凛ちゃんは2歳だそうだ、公佳さんに似てる、かわいい。
陽南によく懐いていて、二人で仲良く遊んでいる。

Bothでバイトしている拓海さんも来てくれたが、
「こんなファミリーの祝賀会に俺がいるのおかしいでしょ!?」
とずっと言っている。
「しかも俺手ぶらだし!気が利かなくてごめんね!」
と若干キレてるw
「食べたいもの作るから言ってね、それしかできないから!」
とずっとヤケになっててウケる。

陽南に英会話を教えてくれている逢生さんは、海外出張に通訳として同行するため来られなかったが、出発前にBothに立ち寄り、俺と陽南にそれぞれ花束と、有名店のお菓子を届けてくれたそうだ。


祝賀会は大人組に程よく酒が入って盛り上がってる。
「陽南ちゃんは私の後輩になるのね」
「そうなの!公佳先輩」
陽南は公佳さんの母校でもあるJ大に合格した。
「そういえば壮祐くん、どこの大学行くの?肝心なこと聞いてなかったよ」
と輝哉さんが聞く。
ああ、そうか、言ってなかったな。

「T大です、仙台です」

「えっ!?仙台?」
「はい」
やだ…
「なんでそんな遠くに行くの?」
「材料工学を学びたいんです」
やだ…
「マテリアル?」
「そうです、マテリアル工学です」
やだ…
「聞いたことあるよ,確か有名なんだよな」
「そうなんです、憧れてて」
やだ…

…………

やだ…
やだ…

「うるせえな!深影!」

「やだ…」
「なにがだよ」

「仙台なんて遠い…
壮祐くん、いなくなるの嫌だ…」
「仕方ないだろ?学びたいことがあるんだから。やりたいことやりに行くんだから気持ちよく送りだせよ」
「嫌だ!」

深影さんはそう言うとどこかへ電話をかける。
「あ、もしもし、お世話になってます、葦原です。
田岡さん、宮城に知り合いいます?
いる?仙台市内に部屋借りたいんだけど、その人にお願いできないかな?」

深影さん、何言ってんだ…

「おいっ!深影,何してんだ!」
輝哉さんが深影さんを止める。
深影さんのスマホを奪い取り、
「すみません、田岡さん、俺、半井です。
ご無沙汰してます。
今、葦原ちょっと酔ってて…はい、すみません、ご迷惑おかけしました。
失礼します」

電話を切ると、
「お前、何してんだよ!」
と深影さんに詰め寄る。
「はんちゃん、俺、店辞めていい?」
「は?」
「お兄ちゃん?」
陽南が心配そうにしている。
「俺、仙台に行く」
「お前、何バカなこと言ってんだ!正気か?」
「壮祐くんと仙台に行く」
「お兄ちゃん!」
「心配すんな、一緒に住むわけじゃないよ」
「壮祐くんに迷惑かけないで!」
「そばにいるだけだよ」
「それが迷惑なんだよ」
「俺は好きな人のそばにいたいだけだ」
「深影…」
「お兄ちゃん…」


最初からそうだった。
この人は真っ直ぐでブレない。
軽口で軽妙だけど、ずっと真っ直ぐだったんだ。
陽南以外考えられなくても、深影さんは関係ない。
俺が陽南のことをどんなに好きでも、それ込みで好きになってくれてるのだから。


「深影さん、少し二人で話せますか?」
「うん」
「すみません、深影さんお借りします」
二人で店の外へ出る。
「壮祐くん…」
「陽南、心配しないで、待ってて」
「うん…」
「輝哉さん、公佳さん、拓海さん、
陽南をお願いします」
「陽南ちゃんのことは任せて」
公佳さんが陽南に寄り添ってくれる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

処理中です...