レンガの家

秋臣

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寂しいのは

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俺は陽南に言ったとおり、5月いっぱいでバイトを辞めた。
週に何回か予備校に通うことになる。
当然陽南と会う時間も減った。
仕方ないことだが、自分で決めたことだが、すごく寂しい。
だから、たまに会える時は嬉しくてたまらない。

しかし、このところ陽南の様子がおかしい。
手を繋ごうとするとするっと避ける。
肩を抱こうとしてもするっとかわす。
気のせいかな?
そう思っていたが抱きしめようとしたら、くるっと背を向けて誤魔化された。
GW以降、会っても早く帰ろうとする。
んんん?
これ、気のせいじゃないよな?

ある日の帰り道、久しぶりに学校帰りに会うことができて薄暗くなり始めた頃、陽南を家の近くまで送って行った。
いつもなら近くの公園で、こっそりキスしてバイバイするのだが、陽南は手を振ってそのまま帰ろうとする。
なんでだよ。
「陽南!」
「ん?」
「なにか忘れてない?」
「忘れてないよ?じゃあね!」
笑顔で帰ろうとする。
「待てって」
陽南の腕を掴む。
「え?」
「来て」
「え?」
公園の隅の方へ連れて行く。
陽南を抱き寄せ、キスしようとすると、
「いや!壮祐くん、離して!」 
そう言って体を離す。
「壮祐くん、変だよ?」
「変なのは陽南だろ!?」
「え?」
「俺のこと避けてる?」
「……」
「嫌いになったの?」
「……」
「もう俺といるの嫌?」 
「……」
「答えてよ…もう俺は嫌なのか?」

陽南が俯く。
この反応…すごく胸がザワザワする。
陽南らしくない。
あの夜がっついたせい?
何度も何度も止まれなかったせい?
嫌われた?
本当に俺のこと嫌になったのかもしれない。
答えを聞きたいけど聞きたくない。
悪い答えだったら、俺は、耐えられない。

陽南がスマホを取り出す。
トトト…となにか打ち込んでる。
俺のスマホが鳴る。
ん?
LINEだ。


「壮祐くんから離れたい」

目の前が真っ暗になる。

「どうして?」
目の前に陽南がいるのにスマホでやり取りをする。

「ダメなの」
「なにが?俺の何がダメ?
言ってよ、嫌なところ直すから」

「違う」
「なにが違うの?」
目の前にいるのにもどかしいが、陽南がこの会話を望んでいる。

「この前、壮祐くんの家に泊まらせてもらったけど、私間違えた」
どういうことだ?
間違えたってなんだ。
悲しみもあるが、若干の怒りもある。
あんなに愛し合ったのに、それを間違いだというのか?

「なにが間違いなの?」

陽南の手が止まる。
少し考えて文字を打つ。


「壮祐くんを覚えちゃったから、あれからずっと寂しい。
壮祐くんにいつも触れていたい、
触って欲しい。
体が寂しいなんて恥ずかしくて言えない…」


「もう、やだあ…」
そう言って陽南が座り込んでしまう。


女の子にこんなことを言わせてしまった自分を恥じる。
全てはわからなくても、もっと話を聞いて汲み取ってやるべきだった。

「ごめん、陽南、ごめん」
「壮祐くん、嫌い…」
「うん、デリカシー無さすぎた。
わかってあげられなくてごめん」
座り込んでしまっている陽南をそのまま包み込む。

「覚えていれば寂しくなくなるって思ってたの」
「うん」
「それなのに…覚えちゃったら余計恋しくなっちゃった」
「うん」
「これ以上触れられたら、私、離れられなくなっちゃうから…」
陽南が泣き出す。

「心も体も寂しくなっちゃったら、どうしたらいいのかわからない…恥ずかしい…」

「ねえ、陽南、寂しいのも恋しいのも陽南だけじゃなくて俺もだよ。だから触れたいんだよ?」
「でも…」
「きっとまだ陽南に俺が足りてないんだよ、全然足りないんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ、だから寂しいなんて思えないくらい満たしてやりたい」
「……」
「陽南?」
「…なんか言いくるめられそうになったけど、壮祐くんがスケベなだけじゃん…」

ふっ
「あはははは!」
「スケベ」
「陽南だってそうでしょ?」
陽南は真っ赤な顔して何か言おうとしたけど、
「嫌い…」
と言って俯く。

ふふっ
「俺のこと嫌いじゃないんだよね?」
「…うん」
「避けてたのはそのせいなんだよね?」
「…うん、ごめんなさい…」
どうしようもなく陽南がかわいい。

「勉強はしないといけないから、会える時間は限られちゃうけど、陽南との時間は必ず作るから。それでも寂しくなったらいつでも言って、そういう時は絶対俺も寂しい時だから。その時は我慢しないで会おうね」
「いいの?」
「俺がそうしたい」
「私、わがまま?」
「うん、わがままw」
「ごめんね…」
「そこが好き、かわいい」
「揶揄わないで」
「陽南のことが好きなだけだよ」

そっとキスする。
「安心する…」
そう言って陽南は微笑む。
「ね?」
「うん…スケベ」
「こら」
「スケベ」

仙台に行く決意が揺らぐほど、この子が好きだ。
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