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熱意
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車に20分ほど乗せられて着いた先は、とある駅からほど近い所だった。
そこにあったのは重厚なレンガ造りの建物で俺は一瞬で目を奪われた。
こんな所にこんな建物あったんだ…
「ここ、俺の店」
「え?」
「正確には俺とはんちゃんっていう友達で共同経営してるカフェバー」
「陽南から話は聞いてます」
「物件探してる時にここ見つけてさ、俺はどうしてもここがよくて、はんちゃん説得したり、不動産屋に大家さんに会わせてもらえないかって頼んだりしたんだよ」
「そうなんですか」
「壮祐くん、好きでしょ?この建物」
「はい」
「やっぱりね、中も雰囲気いいから見ていってよ。俺が奢るから」
「でも…」
「って、ここまで連れてきておいてなんだけど、俺、免許の更新行かなきゃいけなくてさ、夜までいる?俺夜からだから」
さっさと帰ろう。
「いえ、長居はしません」
「まあ逃げるわなw
強引に連れてきちゃったからお茶くらい奢らせてよ、あとはお好きにどうぞ。
駅は右方向に歩いて5分くらいのところにO駅があるから」
「はい」
「中途半端で悪いね、じゃあね!」
お兄さんは車で去っていった。
正直、この建物を見た時、ワクワクした。
俺の好きなタイプのレンガの建物だったから。
古くて重厚で…でもきちんと手入れされて使われていることはわかる。
大事にされてきたんだろうな。
店のドアが開く。
「いらっしゃい」
優しそうな男の人が顔を覗かせる。
「あ、あの…」
「大丈夫w深影から連絡あったよ。陽南ちゃんの彼氏だろ?どうぞ」
「…お邪魔します…」
中も圧巻だった。
天井が高く、内装はリフォームして手を加えているのがわかるが、外観とミスマッチにならないよう考えられたバランスの良さだった。
初めて来たのに初めてじゃないみたいだ、とても落ち着く。
カウンターに案内される。
「深影の奢りだから、なんでもどうぞ」
その人は優しく微笑む。
なんだろう、この人、初対面だけどすごく安心する。
「それじゃ…アイスコーヒーをお願いできますか?」
「はい、かしこまりました」
その人は丁寧にコーヒーを淹れると俺の前にグラスを置く。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
一口飲む。
まず香りがふわっと立つ。
その後に苦味がくるが、それがしつこく残らずすっと消える。美味しい…
「このアイスコーヒー、とっても美味しいです」
「そう?ありがとう」
また優しく微笑む。
「自己紹介もせずごめんね。
俺は深影…陽南ちゃんの兄貴とここを共同経営してる半井輝哉と言います」
「今永壮祐です」
「陽南ちゃんの彼氏だよね?」
「はい」
「それと深影に言い寄られて迷惑もしてる今永くんだよね?w」
「……」
ふはっ!
「ごめんごめん、つい揶揄うようなこと言っちゃった」
「いえ…」
「なんで深影に連れてこられたの?」
「あ…多分これだと思います」
そう言ってさっき買った『煉瓦の建物』という本を見せる。
「俺がレンガの建物が好きだって言ったらここに連れてこられました」
「なるほど、そういうことか」
「お兄さん、ここが気に入って半井さんを説得したって言ってました」
「深影、俺のことはんちゃんって言ってたろ?半井は半分の半に井戸の井だから、みんなはんちゃんって呼ぶんだよ」
なるほど、それではんちゃんなのか。
「ここね、深影がえらい気に入ってさ。
俺はもう少しスタイリッシュな感じがいいかなって思ってたんだけど、どうしてもここがいいって譲らなくてね。不動産屋さんに直接大家さんに会わせてもらえないかって直談判までして」
「大家さんですか?」
「うん。その人ね、神戸に住んでて、ここはその人の祖父が住んでいたらしい。
ここを気に入っててくれた孫のお前に譲ると遺書に書いてあって譲り受けたそうだよ。
その人もここがすごく好きなんだけど、今は仕事で神戸にいるし、こっちに帰る予定もない。それどころか海外赴任の可能性もあるから余計にここをなんとかしないといけないんだけど、声をかけてくるのは解体してマンションにしたいという話ばかり。金にはなるけど好きだったこの建物を壊すのは忍びなかったらしい。ここをこのまま使ってくれる人はいないか探してくれと不動産屋に頼んでたみたい。
そんな時にここをカフェにしたいと深影が直談判したってわけ。
外観や建物はいじらない、内装だけ店として使えるようにしたい、雰囲気は絶対に壊さないし、あなたの意向に添いたいから内装が気に入らないなら何度でもやり直すって勝手に言い切っちゃってさ。
俺の意見は?無視?って感じw
でもね、何度かここに通って深影の気持ちがわかってきたんだよね。
落ち着くんだよ。
どこが、なにが、どうして?って聞かれるとなんとなくとしか言いようがないんだけど、ここにキッチン構えて、カウンターはどこまでにしよう、テーブルの間隔は広めがいいな、照明は絶対こだわらないとダメだとかイメージが沸くんだよ。
気づいたら深影と一緒になって大家さんを説得してた」
そう言って半井さんは笑った。
「深影の熱意が伝わったのか大家さんと意気投合してね、『君たちに任せる、いい店にしてね、俺もこっちにきた時に寄らせてくれ』ってOK貰えたんだ。ついでに家賃もかなり安くしてくれた。この辺りの相場より随分抑えてくれてさ」
「お兄さん、すごいですね」
「ここ見つけた時に大騒ぎしてたからなw
絶対ここしかないって」
「どうしてそこまでしてこの建物にこだわったんですか?」
ふふっ
半井さんが笑う。
「それ聞いちゃう?」
もうそんなの興味しかない。
「はい、聞きたいです」
そこにあったのは重厚なレンガ造りの建物で俺は一瞬で目を奪われた。
こんな所にこんな建物あったんだ…
「ここ、俺の店」
「え?」
「正確には俺とはんちゃんっていう友達で共同経営してるカフェバー」
「陽南から話は聞いてます」
「物件探してる時にここ見つけてさ、俺はどうしてもここがよくて、はんちゃん説得したり、不動産屋に大家さんに会わせてもらえないかって頼んだりしたんだよ」
「そうなんですか」
「壮祐くん、好きでしょ?この建物」
「はい」
「やっぱりね、中も雰囲気いいから見ていってよ。俺が奢るから」
「でも…」
「って、ここまで連れてきておいてなんだけど、俺、免許の更新行かなきゃいけなくてさ、夜までいる?俺夜からだから」
さっさと帰ろう。
「いえ、長居はしません」
「まあ逃げるわなw
強引に連れてきちゃったからお茶くらい奢らせてよ、あとはお好きにどうぞ。
駅は右方向に歩いて5分くらいのところにO駅があるから」
「はい」
「中途半端で悪いね、じゃあね!」
お兄さんは車で去っていった。
正直、この建物を見た時、ワクワクした。
俺の好きなタイプのレンガの建物だったから。
古くて重厚で…でもきちんと手入れされて使われていることはわかる。
大事にされてきたんだろうな。
店のドアが開く。
「いらっしゃい」
優しそうな男の人が顔を覗かせる。
「あ、あの…」
「大丈夫w深影から連絡あったよ。陽南ちゃんの彼氏だろ?どうぞ」
「…お邪魔します…」
中も圧巻だった。
天井が高く、内装はリフォームして手を加えているのがわかるが、外観とミスマッチにならないよう考えられたバランスの良さだった。
初めて来たのに初めてじゃないみたいだ、とても落ち着く。
カウンターに案内される。
「深影の奢りだから、なんでもどうぞ」
その人は優しく微笑む。
なんだろう、この人、初対面だけどすごく安心する。
「それじゃ…アイスコーヒーをお願いできますか?」
「はい、かしこまりました」
その人は丁寧にコーヒーを淹れると俺の前にグラスを置く。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
一口飲む。
まず香りがふわっと立つ。
その後に苦味がくるが、それがしつこく残らずすっと消える。美味しい…
「このアイスコーヒー、とっても美味しいです」
「そう?ありがとう」
また優しく微笑む。
「自己紹介もせずごめんね。
俺は深影…陽南ちゃんの兄貴とここを共同経営してる半井輝哉と言います」
「今永壮祐です」
「陽南ちゃんの彼氏だよね?」
「はい」
「それと深影に言い寄られて迷惑もしてる今永くんだよね?w」
「……」
ふはっ!
「ごめんごめん、つい揶揄うようなこと言っちゃった」
「いえ…」
「なんで深影に連れてこられたの?」
「あ…多分これだと思います」
そう言ってさっき買った『煉瓦の建物』という本を見せる。
「俺がレンガの建物が好きだって言ったらここに連れてこられました」
「なるほど、そういうことか」
「お兄さん、ここが気に入って半井さんを説得したって言ってました」
「深影、俺のことはんちゃんって言ってたろ?半井は半分の半に井戸の井だから、みんなはんちゃんって呼ぶんだよ」
なるほど、それではんちゃんなのか。
「ここね、深影がえらい気に入ってさ。
俺はもう少しスタイリッシュな感じがいいかなって思ってたんだけど、どうしてもここがいいって譲らなくてね。不動産屋さんに直接大家さんに会わせてもらえないかって直談判までして」
「大家さんですか?」
「うん。その人ね、神戸に住んでて、ここはその人の祖父が住んでいたらしい。
ここを気に入っててくれた孫のお前に譲ると遺書に書いてあって譲り受けたそうだよ。
その人もここがすごく好きなんだけど、今は仕事で神戸にいるし、こっちに帰る予定もない。それどころか海外赴任の可能性もあるから余計にここをなんとかしないといけないんだけど、声をかけてくるのは解体してマンションにしたいという話ばかり。金にはなるけど好きだったこの建物を壊すのは忍びなかったらしい。ここをこのまま使ってくれる人はいないか探してくれと不動産屋に頼んでたみたい。
そんな時にここをカフェにしたいと深影が直談判したってわけ。
外観や建物はいじらない、内装だけ店として使えるようにしたい、雰囲気は絶対に壊さないし、あなたの意向に添いたいから内装が気に入らないなら何度でもやり直すって勝手に言い切っちゃってさ。
俺の意見は?無視?って感じw
でもね、何度かここに通って深影の気持ちがわかってきたんだよね。
落ち着くんだよ。
どこが、なにが、どうして?って聞かれるとなんとなくとしか言いようがないんだけど、ここにキッチン構えて、カウンターはどこまでにしよう、テーブルの間隔は広めがいいな、照明は絶対こだわらないとダメだとかイメージが沸くんだよ。
気づいたら深影と一緒になって大家さんを説得してた」
そう言って半井さんは笑った。
「深影の熱意が伝わったのか大家さんと意気投合してね、『君たちに任せる、いい店にしてね、俺もこっちにきた時に寄らせてくれ』ってOK貰えたんだ。ついでに家賃もかなり安くしてくれた。この辺りの相場より随分抑えてくれてさ」
「お兄さん、すごいですね」
「ここ見つけた時に大騒ぎしてたからなw
絶対ここしかないって」
「どうしてそこまでしてこの建物にこだわったんですか?」
ふふっ
半井さんが笑う。
「それ聞いちゃう?」
もうそんなの興味しかない。
「はい、聞きたいです」
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