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カレーのせい
しおりを挟む「え?待っててくれてたの?」
店の外にいる俺を見つけて陽南が駆け寄る。
「俺が勝手に待ってただけだから気にしなくていいよ」
「上がってからずっとここにいたの?」
「図書館と本屋行ってた」
「調べもの?」
「うん、大学のことで」
「そうだよね、もう決めないとね」
「うん」
ぐうぅぅぅ
陽南の腹が豪快に鳴った。
「あはははは!」
「…恥ずかしすぎる…」
真っ赤な顔を手で覆ってしまう。
ふっ
「何食べたい?」
「カレー!」
「即答w」
「バイト中からずっと食べたくて」
ふふっ
「駅前にあるインド料理のお店知ってる?そこ美味しいんだって。行ってみたいの」
「俺もカレー食いたくなってきた」
「一緒に行ってくれる?」
「お供しますよ」
「やった!ありがとう」
「陽南の腹が大変なことになるから早く行こう」
「蒸し返さないでいいから!」
ぐうぅぅぅぅ
「あははははは!ウケるw」
「もういい!壮祐くんにかっこつけるのやめる!お腹空いたからすぐ行こう」
「はいはいw」
陽南の言ってたインド料理の店は俺も名前だけは知ってた。
こういう店は一人ではなかなか入りづらい。
二人してメニューがよくわからなくて、お店の人に聞くもインドの人で、懸命に説明してくれてるのに結局わからず、お店の人が、
「これ、食べろ」
と指差したカレーにした。
「インド料理だから手で食べるのかな?」
陽南がどの指を使えばいいんだろう?利き手?手のひらも使う?と悩んでいたら普通にスプーンが出てきてめっちゃ笑った。
「笑いすぎ!」
陽南がむくれる。
「だって指でシミュレーションまでしてたのに普通にスプーン出てくるんだもん、笑うでしょw」
「ずっとそこが気になってたのがこの店に入れなかった理由なんだよね。スプーン出てきて良かった」
「ふはは!」
「でもすっごく美味しい!辛いのそんなに得意じゃないけど美味しいね」
「本当それ、めっちゃ美味いな」
「二人ともライス選んじゃったけど、今度はナンにしてみようかな」
「今度こそ手だよw」
「そうだねw」
「ここが美味しいって誰に教えてもらったの?」
「ん?お兄ちゃん」
この前と今日もいろいろあったことを思い出す。
「あんな人だけど、カフェやってるだけあって美味しい店をよく知ってるの。自分が気にいると必ず私に教えてくれて連れて行ってくれる」
「へえ」
妹のことはかわいいんだな。
陽南もなんだかんだ言ってもお兄さんのことを慕ってるのがわかる。
それなのに…
「あのさ、陽南」
「なに?」
「…俺、バイト上がった後、お兄さんに会ったんだ」
「え?どこで?」
「ナックのすぐ近く」
ナックは俺と陽南のバイト先の店名だ。
「何でそんなところにお兄ちゃんがいるの?」
「陽南にどうすれば俺に会えるのか聞こうとしてたらしい」
陽南の顔が曇る。
「…うん、それで?」
「俺、陽南に隠し事したくないから全部正直に話す。いい?」
陽南が真っ直ぐ俺を見る。
「うん」
「お兄さんに興味があるって言われた」
「うん」
陽南は目を逸らさない。
「俺は興味ないって言っても聞かないから、つい感情的になって、あなたに興味ない、むしろ嫌いだ、顔見せるなって言っちゃった。そうしたら火に油を注いだみたいで、好きだって言われた」
陽南が俯く。
こんな話嫌だよな、泣かせちゃったかな…
「ごめんね、俺が陽南を傷つけちゃった。
そんなつもりなかったのに」
ふっ
ふふっ
「陽南?」
笑ってる?
「壮祐くん、食べ終わってから話してくれてありがとう」
「え?」
「お腹空いてる時に聞いたら、力無くて受け止められなかったかもしれないけど、今ならお腹いっぱいだから受け止められる」
「陽南、何言ってんの?w」
思わず笑ってしまう。
「やっぱりお兄ちゃん、壮祐くんのこと気に入ったんだね。そんな感じしたもん。でも私譲る気ないから」
陽南が逞しい。
「私は壮祐くんをお兄ちゃんに譲る気は全然ないから、私たちがダメになるとしたら壮祐くんがお兄ちゃんのことを好きになった時だよ」
「陽南…」
「あとは壮祐くん次第です」
「陽南、強いね」
「カレー食べたから」
「ふっ…笑わせないでw」
「大盛りにすればよかった」
「笑わせんなw」
「負けないから」
陽南はそう言って笑いながら泣いた。
店を出る。
俺は陽南を泣かせたことを悔やんだ。
「泣かせてごめん」
「カレーが辛かっただけですぅ」
そう強がる陽南が愛おしい。
「俺は陽南が好きなんだ、それを忘れないで」
「私はどうかなあ」
陽南がしらばっくれる。
「おい」
「なに?」
「俺のこと好きだろ?」
「どうかなあ」
「好きって言えよ」
「ふふ」
「笑って誤魔化すな!」
雑居ビルの中の死角になる所へ陽南を連れ込む。
「好きって言え、言ってよ…」
陽南を抱きしめる。
「…大好き」
「陽南が好きだよ」
陽南とキスする。
ふっ
陽南が笑う。
「カレーの味がするw」
「陽南、カレーから離れてw」
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