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Both
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『Both』は、はんちゃんこと半井輝哉と共同経営しているカフェバーだ。
はんちゃんは大学時代の友人で、当時飲みながら何気なく話した、
「カフェやりたいんだよね」
「バーやってみたい」
この会話に俺らは、金ないし、自信ないし、無理無理!みたいな感じで言い合ってたら、
「二人でやれば何とかなるんじゃね?」
と話が転がり始め、卒業してから数年は資金を貯めようとそれぞれ就職して、その間、取れる資格を取ったり、物件見て回ったり、少しずつお互いの夢に向かって着実に積み重ねて行き、2年前に形にすることができた。
一人じゃ本当に自信なかったし、相手もはんちゃんじゃないと無理だった。
感覚で動く俺に対し、はんちゃんは根っこがしっかりしてる感じで、その安心感に何度救われたかわからない。
店名の『Both』の由来は、その言葉の意味どおり、両方とか双方。
カフェとバー、昼と夜、はんちゃんと俺…そんな感じがちょうどいいと二人で決めた。
そのはんちゃんは開店する一年前に結婚した。
学生時代から付き合っていた、公ちゃんこと公佳ちゃんと。
収入もどうなるかわからないし、不安定だし苦労かけるから待ってて欲しいけど、そんな無責任なこと言って公ちゃんの時間を無駄にさせたくないと相当悩んでいた。そんなはんちゃんに、公ちゃんのお父さんが、
「君だけが背負う必要はないだろう?
何を背負うかは公佳が決めればいい」
と背中を押してくれたそうだ。
それから間も無く二人は結婚した。
勢いというのは時には重要で、進むべきだと思うタイミングを逃したらいけない。
開店してからは順調だった。
俺とはんちゃんはカフェもバーもどちらも受け持つ。
そこはきっちり分けてはいない。
最初は分けるつもりだったが、互いの仕事を見ているうちに、そっちも面白そうだなとどちらともなく言い出して、どちらも受け持つというスタイルを取った。
まあ、バーと言ってもバーテンがいるわけでもなく、俺とはんちゃんが作れる酒を提供するという緩いものだから、夕方から酒を提供するカフェといった感じだ。
開店した年には、はんちゃんと公ちゃんの間には凛ちゃんという女の子も生まれた。
開店と出産が重なることがわかった時、はんちゃんに開店を延期しようか?と提案したら、
「自分の店を出すタイミングに生まれてきてくれるなんて祝い事が重なっていいじゃないか。確かに大変になると思うし、深影に迷惑かけることも増えると思うけど、子どもの生まれた年に開店したいんだ」
とはんちゃんの意思は堅かった。
そして今日は凛ちゃんの2歳の誕生日。
壮祐くんと会ったあと、店に行くとはんちゃんと公ちゃんがいた。
「お疲れ」
「深影くん、早いのね」
と公ちゃんがランプの準備をしながら声をかける。
バーになる時は店の照明を少し落として各テーブルにランプを置く。
「あれ?深影来るの早いな」
キッチンでははんちゃんが
洗い物をしている。
「もう上がっていいよ、後はやるから」
「え?まだ早いだろ?」
「今日、凛ちゃん誕生日だろ?」
「よく覚えてんなあ」
「公ちゃんも上がって」
「いいの?」
「うん、これ凛ちゃんに」
「え?本当に毎年なの?」
「そうだよ、そう言ったじゃん」
「深影くん、ありがとう、嬉しい…
輝くん、深影くんを見習って」
「お前がそれやると俺の立場がねえよ」
「あははは!」
「どっちが父親かわかんないね」
「ちょっと公佳、それは酷くない?」
「はんちゃん頑張れ」
「うるせえ!ハードル上げんなよ!」
俺は凛ちゃんが生まれてから毎年一粒の小さなダイヤを凛ちゃんに贈っている。
二十歳になった時にそれで好きなアクセサリーにして欲しいと思って。
パールはよく聞くけど、ジュエリーショップに行って聞いてみたら、現実的には結構難しいらしくて、毎年同じクオリティのパールを二十年間確保出来る保証がないそうだ。
だったら二十歳の時にネックレスとして買うか、もしくはダイヤの方がその点では同じグレードでできるよと言われて、そうすることにした。
コツコツやりたいんだよね。
これを思いついた時、陽南にもやれば良かったと思ったけど陽南が生まれた時、俺は12歳だったからそんなことは無理。
だから陽南が二十歳になった時には奮発してパールのネックレスかダイヤのネックレスを贈りたい。
それを今から楽しみにしてる。
どちらも俺の自己満なんだけどな。
まだ幼い凛ちゃんにダイヤなんて渡しても口に入れて危ないし、興味もないし嬉しくないだろうから、ぬいぐるみも一緒に贈る。
一歳の時はうさぎにしたから今年はくまにした。
「深影、お前これどんな顔して選んでんのよw」
公ちゃんもクスクス笑ってる。
「一つ一つみんな表情違うんだよ、かわいいのあげたいじゃん」
「その姿を見てみたいよw」
「うるせえ、ちゃんと深影兄ちゃんからって言えよ」
「深影おじさんだろ?w」
「いいからさっさと迎えに行け」
はんちゃんが俺をハグする。
「ありがとな、深影」
「深影くん、ありがとう」
「凛ちゃんにおめでとうって伝えて」
「おう。あ、そうだ、明日ちょっと話せるか?」
「ん?なによ、改まって」
「明日話すよ、じゃあな、ありがとな!」
二人は凛ちゃんを迎えに保育園へ向かった。
はんちゃんは大学時代の友人で、当時飲みながら何気なく話した、
「カフェやりたいんだよね」
「バーやってみたい」
この会話に俺らは、金ないし、自信ないし、無理無理!みたいな感じで言い合ってたら、
「二人でやれば何とかなるんじゃね?」
と話が転がり始め、卒業してから数年は資金を貯めようとそれぞれ就職して、その間、取れる資格を取ったり、物件見て回ったり、少しずつお互いの夢に向かって着実に積み重ねて行き、2年前に形にすることができた。
一人じゃ本当に自信なかったし、相手もはんちゃんじゃないと無理だった。
感覚で動く俺に対し、はんちゃんは根っこがしっかりしてる感じで、その安心感に何度救われたかわからない。
店名の『Both』の由来は、その言葉の意味どおり、両方とか双方。
カフェとバー、昼と夜、はんちゃんと俺…そんな感じがちょうどいいと二人で決めた。
そのはんちゃんは開店する一年前に結婚した。
学生時代から付き合っていた、公ちゃんこと公佳ちゃんと。
収入もどうなるかわからないし、不安定だし苦労かけるから待ってて欲しいけど、そんな無責任なこと言って公ちゃんの時間を無駄にさせたくないと相当悩んでいた。そんなはんちゃんに、公ちゃんのお父さんが、
「君だけが背負う必要はないだろう?
何を背負うかは公佳が決めればいい」
と背中を押してくれたそうだ。
それから間も無く二人は結婚した。
勢いというのは時には重要で、進むべきだと思うタイミングを逃したらいけない。
開店してからは順調だった。
俺とはんちゃんはカフェもバーもどちらも受け持つ。
そこはきっちり分けてはいない。
最初は分けるつもりだったが、互いの仕事を見ているうちに、そっちも面白そうだなとどちらともなく言い出して、どちらも受け持つというスタイルを取った。
まあ、バーと言ってもバーテンがいるわけでもなく、俺とはんちゃんが作れる酒を提供するという緩いものだから、夕方から酒を提供するカフェといった感じだ。
開店した年には、はんちゃんと公ちゃんの間には凛ちゃんという女の子も生まれた。
開店と出産が重なることがわかった時、はんちゃんに開店を延期しようか?と提案したら、
「自分の店を出すタイミングに生まれてきてくれるなんて祝い事が重なっていいじゃないか。確かに大変になると思うし、深影に迷惑かけることも増えると思うけど、子どもの生まれた年に開店したいんだ」
とはんちゃんの意思は堅かった。
そして今日は凛ちゃんの2歳の誕生日。
壮祐くんと会ったあと、店に行くとはんちゃんと公ちゃんがいた。
「お疲れ」
「深影くん、早いのね」
と公ちゃんがランプの準備をしながら声をかける。
バーになる時は店の照明を少し落として各テーブルにランプを置く。
「あれ?深影来るの早いな」
キッチンでははんちゃんが
洗い物をしている。
「もう上がっていいよ、後はやるから」
「え?まだ早いだろ?」
「今日、凛ちゃん誕生日だろ?」
「よく覚えてんなあ」
「公ちゃんも上がって」
「いいの?」
「うん、これ凛ちゃんに」
「え?本当に毎年なの?」
「そうだよ、そう言ったじゃん」
「深影くん、ありがとう、嬉しい…
輝くん、深影くんを見習って」
「お前がそれやると俺の立場がねえよ」
「あははは!」
「どっちが父親かわかんないね」
「ちょっと公佳、それは酷くない?」
「はんちゃん頑張れ」
「うるせえ!ハードル上げんなよ!」
俺は凛ちゃんが生まれてから毎年一粒の小さなダイヤを凛ちゃんに贈っている。
二十歳になった時にそれで好きなアクセサリーにして欲しいと思って。
パールはよく聞くけど、ジュエリーショップに行って聞いてみたら、現実的には結構難しいらしくて、毎年同じクオリティのパールを二十年間確保出来る保証がないそうだ。
だったら二十歳の時にネックレスとして買うか、もしくはダイヤの方がその点では同じグレードでできるよと言われて、そうすることにした。
コツコツやりたいんだよね。
これを思いついた時、陽南にもやれば良かったと思ったけど陽南が生まれた時、俺は12歳だったからそんなことは無理。
だから陽南が二十歳になった時には奮発してパールのネックレスかダイヤのネックレスを贈りたい。
それを今から楽しみにしてる。
どちらも俺の自己満なんだけどな。
まだ幼い凛ちゃんにダイヤなんて渡しても口に入れて危ないし、興味もないし嬉しくないだろうから、ぬいぐるみも一緒に贈る。
一歳の時はうさぎにしたから今年はくまにした。
「深影、お前これどんな顔して選んでんのよw」
公ちゃんもクスクス笑ってる。
「一つ一つみんな表情違うんだよ、かわいいのあげたいじゃん」
「その姿を見てみたいよw」
「うるせえ、ちゃんと深影兄ちゃんからって言えよ」
「深影おじさんだろ?w」
「いいからさっさと迎えに行け」
はんちゃんが俺をハグする。
「ありがとな、深影」
「深影くん、ありがとう」
「凛ちゃんにおめでとうって伝えて」
「おう。あ、そうだ、明日ちょっと話せるか?」
「ん?なによ、改まって」
「明日話すよ、じゃあな、ありがとな!」
二人は凛ちゃんを迎えに保育園へ向かった。
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