レンガの家

秋臣

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小さな炎

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自分で興奮しているのがわかる。
久々に見つけた感じがした。
陽南の新しい彼氏は本当に興味本位で見たいだけだったんだ。
単純にどんな奴なのかなって。
なかなかの男前だった。
ベランダから覗いた俺を見る目が真っ直ぐだった。
柔らかくて何の曇りもない眼差し。
フィルターなんて何もない眼差し。
あ、こいつ、絶対悪い奴じゃないって直感した。

うっかり無意識に、
「今度はどんな奴かなあ」
と口走った瞬間、俺を見る彼の目が変わった。眼差しから柔らかさが消えた。
敵意剥き出し。
顔に出るというより目だった。
案の定、俺の余計な一言により、彼は一瞬で俺を敵と見做した。
言いたいことがあると言った彼は,本当に言いたいことをそのまま言った。
口調はまだ冷静だったが、明らかに怒っていた。
陽南の昔の男の話を聞きたくないと言っていたが、何より陽南を傷つける俺を許せないと抜き身の刀を突きつけてきた。

彼女の兄とは友好的でいたいだろうに、それを捨ててでも陽南を守ると俺を切り捨てた。

今までの陽南の男はどこか芯がなかった。
俺はゲイだから男に興味がある。
誰でもいいわけではないが、男を誘うのも誘われるのもそれなりに慣れている。
最初は全く興味を示さないがわかるんだよ、ここを押すと弱いというツボみたいなものを俺は知っている。
そこを気持ちよく押してやるとこちらに靡いてくるのが手に取るようにわかる。
それを見て、お前ら陽南はどうしたよ?と思わずにいられない。
俺がちょっかい出しただけでコロッと靡くような奴に陽南を渡せない。
そう、俺は陽南を傷つける奴が許せない、だからそれを炙り出す。
そのためなら嫌われたっていい。
俺が嫌われても陽南が幸せでいるならそれでいい。
一回りも離れている大切な妹だからもはや保護者のつもりでいる。

だから敵意剥き出しの彼に興味が湧いた。
彼は違う、陽南だけしか見ていない。
陽南もそれが本能的にわかったのだろう、彼だけはやめてくれと懇願した。
彼だけは俺の興味本位でたぶらかして欲しくない、そう俺に訴えた。そんな陽南を初めて見た。
本気で彼が好きなのだろう。
そして彼も同じように陽南が好きなのだ。

よかったよかった!万々歳じゃないか!

でも俺の心の奥に小さな炎が灯った。
まだ小さくてそこに炎があるということしかわからなかったが、それが何の炎なのか、どうして灯ったのか気になった。
答えは明白、点火したのは彼、今永壮祐くんだ。
彼が俺の空っぽな心に燃料を投げ込んできた。
僅かに温かさを感じるその炎は小さいままだが消えることはなかった。
そして今日、また彼に会い、更に彼を激怒させてしまった。
そんなつもりではなかった。
でも彼を見て、話して、感情をぶつけられて、その炎は消えるどころか熱いとまで感じられるくらい大きくなっていた。

もうそれは興味ではない、好意だ。
人から好意を持たれた時のほんのりした温かさではない。
人を好きになった時の内側から発する熱だった。
彼が欲しい、強烈に思った。
また陽南を傷つける、そうも思った。
それでも消えてくれない炎に正直戸惑ったが喜びも感じていた。
こんなにも素直に好きだと思ったことがあったか?
人を好きになった自分に酔ったのかもしれない。
嫌われてるのもわかってる。
それでもワクワクする恋心が俺を支配し始めている。
こんなの止められないよ。

陽南に謝らなきゃいけない。
今回は今までと違うと伝えないといけない。
どう考えても勝ち目はないが、恋をしたと伝えないとフェアではないから。
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