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勉強会は学友と

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 美形はつくづくずるいと思う。特に自分の美貌に自覚があって効果的に使ってくるような――するような男は、特に。

(結局話をはぐらかされちゃった。本当はもっといっぱい聞きたいことがあったのに。そうだ、『危険思想』のことだって――)

『他からも報告は受けてる。君に危険思想を吹き込む輩が教師陣に紛れ込んでいたらまずいからね』

 あの言葉の意味も確かめたかったのに、つい顔面の威力に圧されて聞き損ねてしまった。でも、彼が言いたくないことなら、あらためて正面から切り込んだところで答えてくれないだろうし――。

「ちゃんと聞いてますか、クラウディア嬢!」
「わっ、ごめんなさい!」

 考え込んでいたところを、近くに落ちた雷のような大声で現実へと引き戻されて、クレアはぴゃっと飛び上がった。
 目の前には腕組みをした三十がらみの小柄な男が、しかめっ面で立っている。

「集中が切れましたか。休憩しましょう」
「ごめんなさい!」
「いいえ? 私の講義計画に無理があったのやもしれませんし?」
「本当にごめんなさい……!」

 よりにもよって今は、数ある講義の中でもダントツで厄介な教師が受け持つ『政治』のコマの最中だというのに。

(それもこれも、フレッドが何も教えてくれないせいよ!)

 教師からねちねちといやみったらしくいびられると、自分の頭の中を占拠しているフレッドの面影に八つ当たりしたい気分になった。

「で? 何を考えていたんです?」

 じろりと睨みつけてくる教師を前にして、クレアは渋々と口を開いた。正直に言っても『そんなことを考えていたんですか』と鼻で笑った上に呆れられるのは目に見えているが、彼に隠しごとをしようとすると余計にお説教はなしが長くなるからだ。

「この間、フッ、フレッドと話してて気になったことがあって」
「おや? 私の講義の内容よりも、結婚して何ヶ月も経つ夫の名前を照れてまともに呼べないことよりも、気になることとは、さぞかし重大事なんでしょうねえ?」
「っ、なんでそんな意地悪な言い方するんですか!?」
「申し訳ない。口の悪さは生まれつきでして」
「さらっと嘘つかないで! そんなわけないでしょ!」
「どうでしょうねえ? なにせ『つむじ曲がりのコニング』ですから」

 クレアの『政治』の教師役ニコラス・ヘルト・コニングは、若手議員の中の有望株らしい。
 理路整然と論理を組み立て、ぐうの音も出ないほど正しい言葉を弁舌爽やかに相手の喉元に突きつける――と聞けばいかにも有能で清廉な政治家に聞こえるが、惜しむらくは、彼の性格は『つむじ曲がり』の異名を取るほどに捻じ曲がっている。
 フレッドは『彼ほど正直なやつはいないよ。本当に性格が捻じ曲がったやつなら自分を良いふうに見せようとするだろう?』と面白がっていたけれど、なかなかその境地には至れない。
 そうかといってクレアもコニングを嫌いなわけではないので、憎めなさは分かる気がする。いやみっぽい男だが、それゆえに絶妙に『彼には気を使わなくていいか』という気持ちにさせてくるのだ。

「それで、フレッドに『危険思想』を吹き込む人が紛れ込まないようにしてるって言われたんだけど。コニング議員は野放しなのに変だなって思ったの」
「『野放し』って。鳥獣か犯罪者みたいに言わんでください」
「でも、あなたは今日も鳴き声みたいに『護国卿の独裁は間違っている!』と言ってたのに」
「それは事実ですから……って、何が『鳴き声』ですか!」

 キャンキャンと吠えてくるコニングを見て、『そういうところじゃないかな』と思ったことは口には出さない。
 政治は代々宰相を輩出する名家出身の宰相に任せっきりのバルトール王国で育ったクレアに言わせれば、スヘンデルが貴族や富豪出身の議員を構成員とする国民議会を設けていることと、世襲ではなく個人単位での役職の任免の仕組みは、かなり斬新だと思える。
 しかし、コニングは『それも結局は護国卿ハウトシュミットの一存で決まる独裁体制だろう!』と批判してやまないのだ。
 彼は『全ての成年の国民に等しく選挙権と被選挙権を与えて議員を選ぶ選挙制度を敷くべきである』と夢物語としか思えない過激な思想を説いている。

「それなのに、あなたは捕まるどころか私の教師役に選ばれているでしょう? いろいろ過激なあなたとも元王女のレディ・エフェリーネとも『仲良くしなさい』って言うくらいなのに、フレッドが心配する『危険思想』って何なのかなって」

 このコニングでさえ『思想に問題がない』という判定ならば、世の中から『危険思想』は無くなりそうなものだ。少なくともクレアにはフレッドの心配内容がうまく想像できなかった。

「だいたい、フレッドに賛成する人が多いってことは、みんなフレッドと同じ考えを持っているってことでしょう? 少しくらい違う考えのひとがいたって気にするようなことじゃ――」
「それは違う。護国卿には敵が多い、彼の統治に不満を持つ者は大勢います」
「そうなの!?」
「ええ。それより遥かに多くの者が彼を支持しているだけでね」
「……一緒じゃないの?」

 その二つの何が違うと言うのだろう。
 クレアには『同じ考えだから賛成する』と『賛成したということは同じ考えだ』に違いがあるとは思えなかった。
 単なる言葉遊びじゃないのか、納得できない、と唇を尖らせたクレアのことを、コニングは真面目な顔で見つめ返した。

「そうですねえ。話は変わりますが、クラウディア嬢は、誰が一番現状に不満を燻らせていると思います?」
「本当にがらりと変わったわね」

 答えられない問題を出されたらどうしようかと思っていたが、簡単な問題でよかった。
 ほっと胸を撫で下ろしたクレアは自信を持って答えた。

「革命前の王国で偉い地位に就いてた人でしょう?」
「どうしてそう思うんです?」
「どうして、って……財産を没収されたり、家を取り潰されたりしたのよね? そんなことをされたら普通は恨むんじゃないの?」
「順当な考えですが、今回の答えとしては間違いだ。『悪いことをしていた偉い人』は処刑されましたし、残りの小悪党どもは処刑に怯えて挽回しようと媚びるのに必死なので」

 自分の考えなんて持たずに、ただ護国卿の命令通りに動くだけで必死ということですよ、とコニングは口の端をゆがめて言った。
 さらに『他に考えつくことはありますか?』と問いかけられて、クレアは必死に頭を巡らせた。

「えーっと、王国の中で苦しめられていた人たちが中心になって革命を起こしたのよね? それなら、目標を叶えた彼らは不満があるとしても『一番不満を持っている』わけではないだろうし……?」
「そこですよ。今、一番不満があるのは、やつら――罰せられることも無かったが時流には乗り損ねた下級貴族や裕福な平民層です」
「え?」
「かくいう私も、革命前は田舎の子爵家の冷や飯食いでしてね。私にとって『革命』なんて青天の霹靂で、全ッ然

『嬉しくない』とはどういう意味だろうか。
 革命が起きてから、この国ではどんな悪人でも法律で裁かれ、どんな貧民でも実力次第で登用されて成り上がり、どんな身分でも愛する人と結ばれることができるようになった。
『革命は素晴らしいものだ』と皆が言っているのに。

「だって――それ、下級貴族わたしたちにとって、何かいいことあります?」

 だが、コニングは革命のことを『嬉しくない、下級貴族にとって何もいいことがない』とばっさり切って捨てた。

「こちとら貧相な領地で領民を食わせながら国に税も納めて、だましだましやってきたんですよ。暴君の治世でも豊かな暮らしなんてしてこなかった。じゃあ革命は私たちを豊かにしてくれるのか? とんでもない、『実務は中央から派遣された有能な徴税官や軍政官がやるから能無し貴族は隠居してろ』って言われる始末だ。これで不満を抱くなと?」
「それは身勝手な不満だわ。国全体のことや領民のことを考えたら――」
「うちの兄貴は頭が悪いが、人は悪くない。自分でも自分の頭が良くないと分かっていても、必死に次期子爵として勉強してましたよ。自分は子爵家の長男にそう生まれたんだから向いてなくてもやるしかない、って。でも無能だからクビにしよう、彼の必死の勉強は無意味だったね、残念でした!……それでいいって、本当に面と向かって言えますか?」
「……っ、でもっ、フレッドや徴税官や軍政官の人だって、仕事だから仕方なくしてるだけで、そんな、誰かをクビにしたくてクビにしてたり、自分が甘い汁を吸いたいわけじゃ……!」
「ええ、そうですとも。でも、少なくとも私は、最初は信じられなかった。革命の知らせを最初に聞いた時は『うまくやりやがったな』って思いました。『ハウトシュミットは身軽な土地無し男爵だからできるんだ。この騒動を利用してまたひと稼ぎする気なんだろうな』って」
「そんな言い方ひどいっ!」
「仕方ないでしょう。他人の頭の中は、目に見えないんですから」

 まだ誰も歩いたことのない原野を踏み締めて道を切り拓くことは、困難で恐ろしい。困難で恐ろしいことを、何の見返りもなくするわけがない。ならばそれを成し遂げた彼にとっては見返りがあったはずだ。自分にとって得になるから革命を起こしたのだ。――そう考えるのがむしろ『普通』だと言われて、クレアはぐっと言葉に詰まった。

「田舎には『国王が処刑されたらしい』とか『敵対勢力は皆殺しにするらしい』とか、恐ろしい噂だけが流れてきてね。親父も兄貴も参加を尻込みするものだから、代わりに私が『コニング議員』として国民議会に顔を出すことになった」

 次男スペアは小手調べに使うのにちょうどいい、とコニングはなんてことないように言った。
 家を継ぎ繋ぐのが長男の役目であれば、その長男と家が危機に陥った時に守るのが次男の役目だ。それは個人の向き不向きも好みも能力も関係なく、生まれながらに決まっていることだった、と。

「私が議員として最初に参加したのは、サルサスの侵攻を食い止めた後の論功行賞会議でした。あれをきっかけに考えを変えたんです」

 スヘンデルの隣国サルサスによる侵攻とは、国王や悪徳貴族たちの処刑もひと段落ついて、新政府がやっと実権を掌握した頃に起きた一大事件だ。
 サルサスの王子が革命の混乱に乗じて攫ったエフェリーネ王女を『王政復古』の旗頭に掲げてスヘンデルに攻め入ろうとしたが、国境付近でスヘンデル国軍に捕らえられたことで侵攻は未然に防がれた。
 なお、その際に哀れなエフェリーネ王女はリーフェフット卿に救出され、彼に請われて妻になったという話もよく知られている。

「たしかフレッドが名裁定をしたとも聞いたけれど、そんなに素晴らしい会議だったの?」
「いいえ、逆です。ほとんどの議員が護国卿の太鼓持ちイエスマンだった。その光景を見ていると、なんだか悔しくなって」
「悔しく?」
「あまりにも情けなくて。私を含む『その他大勢』は年下の若者たちのおこぼれに与ろうとして彼らの言葉に首がちぎれるほど必死に頷いているだけなんて、嫌ですよ。私は、きらきらしい若者たちの輝かしい勝利に、土をつけてやりたかった」
「え」
「粗を探してやりたかったんです。いくら頭が良かろうが、いくら面が良かろうが、いくら性格が良かろうがっ! 常に清く正しい人間などいてたまるかっ! そんなのいたら、どの点でも敵わない私は、劣等感で死んじゃうじゃないですか!」
「そこはどうでもいいでしょう!?」

 さすが『つむじ曲がりのコニング』である。彼は『良かったなあ』というその場の感動で丸め込まれて、不自然さへの追及の手を緩めることはなかった。

『そんなの、その手紙は偽造したものかもしれない! 殴られたりしたのは本当だとしても、最初はサルサスの威を借りて帰国するつもりが途中で決裂しただけとも……』

 エフェリーネ王女から『助けを求める手紙』が届いていたから何だ?
 どうしてエフェリーネのことを『哀れなお姫さま』だと決めてかかるのか。他国の王子を誑かして王女に返り咲こうとしたとんでもない毒婦の可能性だってあるじゃないか。
 コニングが論理的な疑いを口にすると、護国卿ハウトシュミットには『証拠が僕の手元にある以上、僕もサルサスの侵攻に加担したと言いたいのか』とぴしゃりと撥ねつけられてしまった。

「あの時は私も場慣れしていなくて。怯んで周りを見たら、みんなが怖い目で睨んでいるんです。自分たちにとっての神様である護国卿を汚すな、堕とすな、逆らうな、って。『きもちわるっ!』って思いましたね」

『いえそういうわけではっ、ありませんが……』

 強情を張っても護国卿に処刑されるかもしれないし、周りの目も気になるからと、コニングはそこで口をつぐんでしまった。
 ところが、話はそれで終わらなかった。

「閉会後に護国卿に呼ばれた時は不興を買って、人生終わったと思いました。それが彼、開口一番に言うんですよ、『あと少しで『護国卿』を引きずり下ろせたのに惜しかったね。これに懲りて君もおべんちゃらしか言わなくなるのかな?』って!」

 見てもいないのに、クレアの脳裏にはその時のフレッドの表情がありありと浮かんでいた。
 きっと彼は頬杖をつきながら、ネズミをいたぶる猫のように瞳を光らせて愉しげに笑ったのではないだろうか。

「もう、悔しくて言ってやりましたよ! 『失礼ながら閣下。首に縄をかけられて自由に話せる者がいるものですか。力の差がある相手には気を遣って当然でしょう』と」
「それでどうなったの?」
「『ここからは無礼講だ、咎めないから理想の政治体制について語ろう!』とディベートをして……あれは本当に楽しかった」
「あなたが勝ったのね? だから自分の考えに自信満々なんでしょう?」
「いいえ、こてんぱんに言い負かされました。あの方、ものすごく弁が立つので」
「……こてんぱんだったのに、楽しかったの?」
「こてんぱんだったから、楽しかったんです」

『変人たちめ』と理解することを諦めて頭を振ったクレアの前で、コニングは誇らしげに胸を張ってみせた。

「互いの考えをぶつけ合えたことが楽しかった。『これだけ話して決めたことなら自分の考えとは違っても認めよう』と思える清々しい敗北だった」

 自分と考えを同じくする者と連んで楽しいのは当然だ。同質で均一な者との間には摩擦が無く、居心地がいいから。でも、そこに『新たに知ること』は無い。
 もしも、いけすかない考えを持つ相手と話し合って、考えを戦わせて、お互いに『確かにその考えももっともだ』と認めさせることができたなら、これほど高揚することが他にあるだろうか。

「話を戻しますとね、ハウトシュミット卿が嫌う『危険思想』とはテロリズムのことですよ」
「テロリズム……?」
「暴力の恐怖で人を脅しつけて従わせて政治目的を達成しようとするやり口のことです」

 恐怖によって相手を無理やり従わせるやり方は、自らと異なる考えを持つ者のことを話合いの余地すらなく拒絶している。
 護国卿は『自分と違う考えを持つ者』のことは排斥するどころか面白がっているふしすらあるが『他の者の考えを無きものとする』テロリズムだけは受け入れがたいのだろう。

「護国卿がテロリズムを嫌うのは分かりますし、私も心底嫌いだ。だが……奇しくも革命によって、ハウトシュミット卿自身が『暴力には現状を問答無用で変える力がある』と証明してしまった」

 革命軍を指揮して王政を倒し、国王さえも処刑した護国卿の行動を見た国民は『話合い』を選ぶだろうか。
 護国卿を初めとする新政府の重鎮を殺せば、誰かを人質にとって彼らを脅せば、自分たちの目的を簡単に果たせる――そういって短絡的に暴力の道を選ばずにいられるだろうか。

「あの方は有能だ。性格にクセはあるが、行動も品行方正そのものと言っていい。若く美しく強大な『革命』のシンボル――無くなれば一気に革命政府が瓦解するほどの。誰もが知っている、『護国卿の死』には一人の人間が死ぬこと以上の意味があると」

 生まれて間もないこの国はまだ『護国卿』を失うわけにはいかないのだとコニングは吐き捨てるように言った。
 ようやくクレアは気づいた。
 彼が苦々しげな表情を浮かべるのは、護国卿の独裁そのものではなく――彼の独裁に頼るしかない自分たちの無力さが気に食わないからだと。

「でも、超人も人間だ。歳をとれば耄碌するし、いつか必ず死ぬ。彼がいなくなった後も続く国を作らねば、彼の為したことの意味が無くなるでしょうが!」

 だから私は『護国卿の独裁は間違っている』と言い続ける。私が望む未来にたどり着くために。
 言い切ったコニングの瞳には強い光が宿っていた。

「さんざん悪口を言っているけど、コニング議員はフレッドのことが大好きなのね」
「嫌いだったら奥方の教師役なんか引き受けませんよ」
「なるほど。ところで今の護国卿による統治体制をどう思う?」
「大ッ嫌いですね! 彼には一刻も早く失脚してもらって、地方選挙区選出の一議員からやり直していただきたい! 私も同じ選挙区から出馬するので!」

 愛情表現まで捻じ曲がって面倒くさすぎる男を前にして、クレアは呆れて笑い、ふっと肩の力を抜いた。

「それにしても……フレッドのこと、考えれば考えるほど、よく分からなくなってきたわ」

 エフェリーネは『フレッドには感謝しているけれどどちらかと言えば嫌いだ』という。
 コニングは『フレッドを心底失脚させたいけれど心底大好きだ』という。
 無私の聖人で強欲な悪人で、世話焼きで意地悪で、いったいどれが彼の本当の顔なのだろう。
 呟いたクレアにコニングは馬鹿にしたような笑みを向けてきた。

「あなたが少し考えたくらいで理解できるような方なら、私は今頃彼の大親友になっています」
「本当に嫌な言い方ね!……って、あなたたち友達じゃないの?」

 遠慮なく相手をこき下ろす熱弁を振るえる上に、恥じらいも無く愛の告白までできるのだから、てっきり自他ともに認める大親友なのだろうと思っていたのに。
 クレアが尋ねると、コニングは渋い顔をした。

「確かにハウトシュミット卿の側もあの日を惜しんでいるのだとは思いますが」
「あの日?」
「私たちの魂の交歓のことを。迸ほとばしる熱いものを交わし合った夜のことを」
「……さっきのディベートの話よね? 迸ったのはお互いの持論よね? いかがわしい比喩ではなくて」
「それなら私は『家まで押しかけて正妻に詰め寄る愛人』ですか。はっはっは」
「ちゃんと否定してください! 妻の前でよくもそんなっ、自慢なの!?」
「自慢というか優位主張マウントですね」
「余計に腹立たしいわ!」

 ひとしきりクレアをおちょくって遊んだ後で、コニングは神妙な口調で言った。

「……おそらくあの方は、今も誰かと話がしたいのでしょう。『命令』でも『訓戒』でもない『対話』が。『王』は孤独だ。政敵である私はそこに寄り添えないし、寄り添いたくもない。どうせ倒すなら『可哀想な悪役』よりも『巨悪』の方がいいですからね」

 自分に追従するばかりの相手と話すのは壁に向かって話すのと変わらない。そうかといって、国家元首たる護国卿と対等に話ができる者がどれだけいるだろう。心臓に剛毛が生えたようなコニングですら、フレッドの人となりを知らないうちは萎縮していたくらいなのに。

「ところで、クラウディア嬢は寄り添って連れ立って一緒に旅路を進む者のことをスヘンデル語で何と言うか、ご存じですか?」
「……『伴侶』?」
「大正解! 長い旅のあいだには話もするでしょう。だからまあつまり、そういうことです」

 お任せしますよ、。――その日初めて彼は、クレアをその名で呼んだ。
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