高嶺の花が堕ちるまで

美海

文字の大きさ
上 下
6 / 8

6《ロルフ視点》

しおりを挟む

 護国卿を訪問した日、ルゼを部屋から追い払った後に、護国卿はロルフに近づいてうりうりと胸を小突いてきた。

「ほぼ他人な知り合いにまで嫉妬しちゃうくらい彼女にベタ惚れなんだねぇ! 僕ってばいい縁組したじゃん!」
「鬱陶しく俺の部下に絡むのはやめろ、フレッド」
「過保護な上官は黙ってて。それでぇ? 最近の夫婦生活についての悩みはある? ハウトシュミット商会なら精のつく珍味に東方の安産祈願の御守りまで何でも揃ってるよ! 何でも相談してくれたまえ!」
「――離婚したいんです。彼女の名誉を傷つけずに良い男に縁付かせる方法はありませんか」

 悪賢いハウトシュミットも、ロルフから思いつめた答えが返ってくることは予想していなかったのだろう。途端に慌てふためいて、隣の腹心に助けを求める視線を送っていた。

「え……何かダメだった?」
「彼女は悪くない。俺が、無理なんです。俺と彼女はあまりにも違いすぎる」

 前評判に反して、ルゼは良い同居人だ。出会いが出会いだからか気を遣われているのは分かる。それでもふとした時に違和感が募るのだ。
 たとえば、彼女に高価な物を贈るとき。娼婦扱いしているわけではないが、ルゼに渡す品物が性交の対価であることは明らかだ。苦痛と引き換えに得る以上、もっと金になるものを望めばいい。化粧品を集めて身を飾ったところで見せる相手はいないのに。装飾品をねだるにしても換金しやすい宝石類にすればいいのに。
 貴族にとっては今日食べるものの心配や老後の備えよりも、目先の美しさこそが重要なのだろうか。彼女の考えは何ひとつ理解できない。
 ロルフの話を聞いた護国卿は、神妙な顔で言った。

「君に見せたくて着飾ってるとか?」
「ありえない。あるとしたら、未だに処刑を怖がっているんでしょう。美しくなければ殺されると思っている」
「それはあるかもね。……それじゃダメなの?」
「は? ダメに決まって――!」
「どうして? 美しくて従順な妻って一種の理想じゃない?」
「ふざけんな! ルゼは、」

 彼女への侮辱に堪えられずに護国卿の胸倉を掴み上げても、ハウトシュミットは瞬きすらせずロルフを見ていた。

「彼女は、なに? 君が見た彼女はどんな顔をしていた? まだ『いけすかない貴族令嬢その一』かい?……そんなわけないよね、君も彼女も大概平凡でつまらない普通の人間だよ」

 君しか知らない、君の好きなひとの話を聞かせてよ。僕は恋の話が好きなんだ。――護国卿は慈父のように笑っていた。

(護国卿の言うことは正しかった。ルゼは、思ったよりもずっと平凡で、ずっと愛おしい一人の人間だった)

 彼女のことはずっと、自分とは住む世界も違う、理解のできない生き物だと思っていた。
 だからこそ、情の通った交わりを経て、初めて怖くなった。自分と彼女は同じく一人の人間で、伝えようとした気持ちは正しく伝わると分かったから。
 ロルフがねちっこく嬲ったことで、ルゼへの執着は本物だと伝わっただろう。反対に『護国卿から命じられた子作りだから』という名目で彼女の苦痛に構わず子種を注いだ行為に愛が無かったことにも気づかれてしまっただろう。
 自分を痛めつける男に好感を抱くはずがない。ロルフは彼女と思いを通わせる可能性に気づいた後で、自分で既にその可能性を叩き潰してしまっていることにも気がついた。

 怖かった。戦場での敵軍なら百でも千でも罠に嵌めて殺してやろうと思うのに、次に会ったときに妻に詰られて離婚を切り出されることひとつが怖い。烈火の如く怒るならまだいい、雨に濡れた花のように悄然と、あるいは子どものように稚けなく泣かれたらどうする?

(堪えられない。愛人を囲って、笑顔で家に留まってくれる方がまだマシだ)

 それが最善の計画だと、ロルフは思い返して自画自賛した。

 ただ、彼はひとつ考え違いをしていた。――彼の妻は彼が思うほどお淑やかな令嬢ではなかったのだ。

「あなた! 急ぎの仕事なんて無いらしいじゃない!」

 むさ苦しい男所帯に一輪の花が咲いたのかと思った。新政府軍騎兵連隊兵舎にいるはずがない妻の姿を見て、ロルフは硬直した。
 予想外の出来事に驚きすぎて、頭が働かない。

「ルゼ……? なんでここに」
「迎えにきたの。あなたがいなくてもまわる仕事なら、わたくしの方を優先しなさいよ!」

 妻恋しさに見る幻影だろうか、と思う隙すら与えずに、幻影はいかにもルゼが言いそうなことをほざいた。……間違いなく本人だ。
 無言になった軍議室に、くくっと喉を鳴らす声だけが聞こえた。

「……忍び笑うくらいなら、いっそ笑い飛ばしてくれませんかね、リーフェフット卿」
「すまない。威勢のいい奥方だな」
「彼女を家まで送ってくるので少し抜けても?」
「もちろん。帰って、休暇も取れ。ここ数日、必要もなく泊まり込んだ分だ」
「閣下! 余計なことを……!」

 火に油を注ぐことを言うなと上官を睨みつければ、『職場に夫婦喧嘩を持ち込む方が悪い』と肩をすくめられた。確かにそれは正論だけれど。

「わたくしには『仕事で忙しくて帰る暇もない』と言ったのに! どういうことなの!」
「あーもう帰ります! こっちに来い、ルゼ!」

 これ以上騒ぎを大きくしたくなくて、ルゼの手を引いて兵舎の裏手の馬車止めに向かう。初めて知る妻の手首の細さに、どきりとした。

「……頼むから、職場にまで押しかけて騒ぐな」

 ルゼが乗ってきた馬車に一緒に乗り込んで、開口一番説教をかましても、彼女は頭を下げない。むしろ胸を張ってツンと澄ました顔を見せている。

「あなたがつまらない嘘をつかなければ、わたくしだってこんなことしなかったわ」
「どうやって俺が暇だと知った」
「あなたのお金で女家庭教師を雇ったの。父も兄も弟も軍に入っているひとを。そうしたら、今のところは情勢の変化も無いのに急に忙しくなるなんておかしいって」

 なんて堅実な情報収集手段を取るのか。
 思わず舌打ちしたくなった。なかなかどうして、ロルフの妻は悪知恵に頭がまわるのである。

「浮気しているかもしれないと思って、わたくし……」

 そう言って俯く妻を見て、ロルフは必死に『下賤な夫に愛人を作られたら正妻としてのプライドが傷つくからだ』と自分に言い聞かせた。
 ロルフを愛しているから傷ついた、わけではない。……そのはずだ。

「金を家庭教師代に使うとは意外だったな」
「あなたに馬鹿にされるのも言い返せないのも、悔しいもの。あなたがいないうちに勉強して、驚かせようと思ったのよ」
「ルゼ、」
「それで『馬鹿にしてごめんなさい。これからは心からルゼ様を敬います』って一筆書いてもらおうかと」
「あんたは本当に転んでもただじゃ起きないな!」
「そうよ、わたくしは強かな女なの。繊細なあなたと違ってね」
「……っ、」

 言葉の剃刀に胸を切り裂かれて、とっさに反発の句を継げなかったロルフはルゼを睨みつけた。

「悪いかよ」
「悪いわよ。被害者ぶりっ子は嫌い」
「ぶりっ子って」
「わたくし、あなたの気持ちなんて全く分からないわ。あなたが何を気にしているのかも。あなたが言うとおり、わたくしたちはあまりにもかけ離れているもの」
「……そうだろうな」
「でも、逆によかったと思うの。中途半端に近いと、分かった気になったまま確かめることもできないから。……家督が自分に回ってきた途端に、姪に娼婦の真似ごとをさせる叔父の思惑だとかね」

 なにげない風を装って付け加えられた言葉と、きゅっと力を込めて握られた小さな拳に、ロルフは気づかないふりをした。
『男を侍らせる性悪女』と噂されていたルゼが処女だったと知ったあの日、ロルフは『誰が何のためにそんな噂を流したのか』を探ることに決めた。
 前アルテナ侯爵夫妻が亡くなったとき、ルゼは婿取りを済ませていなかった。『娘を好きな男と結婚させてやりたい』という両親の優しさは裏目に出た。せめて婚約者がいれば話は違ったのかもしれないが、侯爵位は侯爵の弟に継がれることになり、家付き娘だったルゼは叔父の養女として『侯爵家の娘の一人』になった。
 前侯爵が見繕っていた好条件の婚約者候補は、新侯爵の娘であるルゼの従姉妹たちと娶せられることになった。だが、家で飼い殺すにも条件の劣る平凡な男の嫁に出すにも、ルゼは美しすぎたのだ。

『可哀想なお嬢様。そりゃあ、わがままなお方でしたけれど、親の喪も明けないうちから家畜の値をつけるみたいに夜会を連れまわされて、ご令嬢としての名誉もまともな結婚の道も捨てさせられて……そんなことをされていいほど、ひどい方ではなかったのに』

 ルゼの美貌の価値を惜しんだ侯爵は、彼女をゴテゴテと装飾品で飾りたてて夜会に送り込み、金を引き出せそうな男にすり寄らせた。自分は『好色でわがままな姪に困らされる被害者』の顔を保ったままで。
 彼が姪の不品行を本当に恥じるなら、ドレスも宝石も与えず家に閉じ込めるなり、早々に他家に嫁がせるなりできたはずだ。
 立ち止まって考えれば、ルゼのふるまいは侯爵の黙認があってこそのものだと簡単に分かるのに、誰もその意味を考えようとはしなかった。外観だけを見れば両親に『好きな人探し』を許されていた頃のルゼのふるまいと大きな違いは無かったから。

「女王様みたいに誉めそやされて、大事にされることは好きよ。顔を美しく彩る化粧も元々好きだった。嫌ではなかったのよ、『そればっかり』なのが少し退屈だっただけ」
「ルゼ、それは侯爵の命で無理やりさせられて」
「言わないで。わたくしは美しくて勝手気ままな性悪女なの。たとえ嘲りの文句だとしても『縛られてどこにも行けない可哀想な女』よりは、勝手気ままに、自分の好きで、自由に堕落した女と呼ばれる方がずっと良かった。……わたくしは、そうありたかった」

 ロルフが訪ねたアルテナの領主館には立派な厩舎が備えられていた。でも、そこには『ルゼお嬢様』が十二歳の誕生日に駄々をこねて求めた白馬はもういない。冒険小説を読んでねだったという望遠鏡も、前侯爵夫妻に背中を押されて遊んだ手製のブランコも全部叔父に奪われてしまったと、館の管理を任された元使用人の老婆は涙ながらに言っていた。

『乗馬もブランコも、落ちて顔に傷がついたらどうする、お前は顔だけが取り柄なのに、と。賢しく物事を考えるな、遠くに逃げられるとも思うな。侯爵家に金を引き込むだけの徒花であれと。あまりにも、ひどうございます』

 泣き崩れる老婆を見ても、ロルフは声をかけられなかった。
 ルゼが救われるとしたら、良い男に嫁入りして侯爵家を離れるときだけだった。革命はその絶好の機会だったのに、そこでも彼女は望まぬ男と娶せられてしまった。
 よりにもよって、悪い噂を信じ込み彼女を軽んじて、身体を痛めつけるような男と。ルゼを不幸にしたのはロルフも同じだ。

 それなのに、どうして――!

「あなたに会ったとき、顔も金も及第点は堅いと思ったもの。あとは二人の違いに一つ一つ折り合いをつけていくだけ。ふふん、わたくしが歩み寄ると言っているんだから、あなたは感謝して環境を整えるべきだわ」

 目の前の女はどうして、得意げに笑っていられるのだろう。
 望まぬ夫からの好意を望み、あまりにも生まれ育ちのかけ離れた自分に『歩み寄る』などと言えるのだろう。
 彼女が何を考えているのか、ロルフには分からない。

「ねえ! 聞きなさいよ、ロルフ!」
「聞いてるよ」
「いいかげんに聞かないで!」

 いや、やっぱり何も考えていないだけかもしれない。
 子どものように喚くルゼを見て、ロルフはため息をついた。

「それにしても、軍事に関わる日程は部外秘のはずなのに。兵舎の警備も部外者を通すなんてたるんでる」
「そうなの? わたくしは大尉の妻だから部外者扱いではないのかもしれないわ」
「そんなわけあるか」
「でも『家に帰ってこない夫の身が心配なの』って憂い顔を作ったら家庭教師はすぐに教えてくれたし、門番も通してくれたわよ」
「……美人は得だな。一の行いが十の効果を持つ」
「本当にその通りね。わたくしもあなたの顔には弱いもの」
「え……?」

 思わずロルフはルゼの顔を見た。彼女が自分の前で『弱く』なっているところなど覚えがない。

「本当よ。資産規模でいうと、あなたはわたくしの歴代求婚者の中では下位寄りの中位なのだけれど『顔が良いから許してやるか』と思うもの。わたくしの美貌に比べれば『そこそこ良い』レベルの顔だけれど、得難いものよ。誇りなさいな」
「他人を褒めようと思ったときによくもそんなイヤミな言い方が思いつくな!? 全部台無しだよ!」
「そう?」
「というか『歴代求婚者の中では』って、俺は自分の意思であんたに求婚したわけじゃない。選べるもんなら清楚で可愛い普通の女を選んでた」
「まあっ! わたくしの何が気に食わないというの!」
「態度と性格がちょっと」
「ふーんだ。『清楚な女が好き』とかほざくあなたみたいな男はどうせ見る目も無くて、清楚ぶってるだけの打算まみれでドロドロした性格の悪い女に騙されるのよ。そうなればいい!」
「仮にも夫の不幸を願うな!」

 互いに言いたいことを言い終えて、つかの間の沈黙が漂った。
 そして、思考に割ける時間を得たルゼは、無駄にまわる頭で真実に気づいてしまった。

「……あなた、わたくしの顔と体は好きなのね」
「言葉の綾だ!」
「あなた好みの『清楚な女』も中身の性悪さはわたくしと大差ないわ。だったら少なくとも見た目のクオリティは保証されているわたくしの方が……!」

 座席から立ち上がってずいと迫ったルゼは、伏し目がちに視線を落としながら言った。

「……いいえ、素直に言うわ。わたくしが、あなたに会えなくて寂しかったの。だから、会いに行ったのよ」

 あなたに会いたかったの。
 その殊勝な言葉を聞いた瞬間、理性の螺子ねじは弾け飛んで、ロルフは妻を馬車の座面に押しつけていた。

「あんっ、やぁっ!」
「男を手玉に取る方法なんて、どこで覚えてきやがった。それも『叔父様』の入れ知恵か?」
「わたくし、そんなの知らないっ! 信じてぇっ!」
「今のは素だってか? なおさら悪い」

 逃げ場のない馬車の中で追いつめられたルゼは、哀れっぽい声で許しを乞うている。引き裂かれたドレスの布の隙間から手を差し入れられて、敏感な胸を弄られ続けるのは辛かろう。
 その様子を哀れとも思うのに苛立ちも募る。――この女は他の男に迫られても同じような反応をするのだろう。

「なんで怒るのっ!?」
「あんたにその気は無くても、馬鹿な男は勘違いするんだよ。百戦錬磨の女だって勘違いして、ろくに慣らしもせずにぶち込んで中に射精して孕ませようとする」

 彼女の涙ながらの懇願は、男の劣情を宥めるどころかいっそう煽る。この高飛車な女を屈服させたいという征服欲を刺激するのだ。
 妖艶な見た目に反して子どもみたいに泣きじゃくる女なのに。恋も知らぬうちから望まぬ男に犯されて、無理にこじ開けられた穴から白濁が漏れる様を想像して、ロルフはこめかみに痛みを感じた。

「やなのっ! したくないっ!」

「……そうだよな。ごめん、どうかしてた。あんたがいくら色っぽくても、こんなことしちゃダメだ。もうしないから――」
「ちがうっ、外ではいや……帰ったら、挿れていい……」
「は?」
「もうっ、濡れててすぐ挿れられるからっ、家に着くまで、もうすこしだけ待って……?」
「ひどくされたくてわざと言ってんのか!?」

 やっぱりルゼにもいくらか責任はある気がする。
 このたちの悪い毒花にロルフはもう何年も惑わされている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...