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初夜と懊悩*
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『三日以内にヴィルに抱かれろ』
エフィの頭の中では、護国卿に命じられた言葉がぐるぐると回っていた。
あれは、ただの冗談かもしれない。でも、もしも、そうではなかったら?
(本気で、ヴィルを処刑するつもりなの? 彼とわたくしはそんな仲じゃない……ヴィルはわたくしのことを、女として見ていないのに)
もしもその気があるのなら、煮るなり焼くなり自分の好きにできる女に、手を出さない理由が無い。今まで抱かれなかった以上は、ヴィルにエフィを抱く気は無いのだ。
そんな男をたった三日のうちに、その気にさせねばならないなんて――。
「……どうした? 話ならもう済んだと言った――……っ!」
フレッドは『ヴィルを早く帰す』という約束を守ったらしい。普段よりも早くに帰宅したヴィルは、エフィに声をかけることもなく、すぐに自室へ引っ込んだ。
――その部屋の中で、エフィが待ち受けているとも知らずに。
自分の寝台に腰かけているエフィを見て、ヴィルがうんざりしたように発した声は、途中で途切れた。絶句したまま、驚きに大きく目を見開いている。
エフィは負けじと彼を睨み返し、とげとげしい言葉を投げつけた。
「あれが『話』ですって? あなたが勝手に自分の要望を述べただけで、わたくしは『分かった』と言っていないわ」
「だからあらためて話をしにきたと? 一国の王女が、そんな恰好で?」
呆れた声が、耳に痛い。
羞恥に駆られて、エフィは両腕で自分の体を庇った。
『お似合いですよ! 旦那様も喜ぶと思います』
ハンナは絶賛してくれたが、この夜着は生地が柔らかく頼りなさすぎるし、開いた胸元も膝までしかない丈も、露出が激しすぎる気がする。
ハンナに『今夜はヴィルの部屋を訪ねたい』と言うと、複数用意されていた夜着の中でも普段は使っていない、一番好みでないものを選ばれたのだ。
そもそも他人の部屋を訪ねるなら失礼のない服装をすべきだと思ったが、『これが一番盛り上がる夫婦の夜の正装ですから!』とまで言われれば、他に選択の余地は無かった。
「……別にいいでしょう。わたくしのことを『もう王女ではない』と言ったのは、あなたよ」
「そうだな。だが、夫婦でもない男の部屋を夜着で訪ねるなんて、娼婦でもしない」
覚悟を決めて着てきたはずなのに、いざ彼から冷ややかな視線を浴びせられると、恥ずかしさで身が縮む思いがした。
黙り込んだエフィを見て、ヴィルは深々とため息を吐き、エフィの腕を掴んで立たせた。
「分かったら、頭を冷やして部屋に戻れ」
「……娼婦だと思えばいいわ」
「何?」
「わたくしには身分も名前も何も無い。あなたに与えられるものなんて、この体くらいしか」
「……そういうことか。安心しろ、媚びて俺の機嫌をとろうとしなくても、お前を放り出したりはしない」
「待って!」
扉まで引きずるように歩かされて、エフィは泣きたいような気持ちになった。
このままでは、部屋から追い出されてしまう。そして、警戒したヴィルは、今後エフィを部屋に入れてすらくれなくなるだろう。
「待って。わたくし、あなたのことが好きなの。あなたを愛しているから、だから……」
「……へえ?」
告げたのは掛け値無しの本心だ。こんなことでもなければ、一生口にするつもりはなかった恋心を吐露した。
その甲斐はあったのか、足取りを止めたヴィルは、皮肉っぽく唇を歪めた。
「『愛している』だと? 自分から全てを奪って、こんなところに閉じ込めている男のことをか?」
「だって、それは……!」
互いの立場が変わる前から、今からずっと昔のヴィルが傍にいた頃から、彼のことを好きで、今日までその想いは変わらなかったから。
彼にとっては、迷惑なだけの想いだと分かっていても。
「……ほらな。慣れない嘘を吐かなくていい。部屋まで送る」
答えを迷った間の沈黙に何を思ったのか、ヴィルが手を引く力はさらに強くなる。
エフィは体全体で彼を留めるように、彼の体に両腕を回して、必死に縋りついた。
「……エフィ、いい加減にしろ。無邪気に男の部屋を訪ねて、抱きついて。お前はもう、それが許されるような『小さな王女様』じゃない」
「分かっているわ」
「分かってない。男がお前のことをどんな目で見ているか、」
「あなたは?」
「……」
「あなたは、どんな目で見ているの。……わたくしでは、どうしてもその気になれない?」
何もできずに、ヴィルに迷惑ばかりかける自分が許せない。
せめてこの体で彼を愉しませることはできるかと思ったのに、それすら果たせそうにない。
結局、自分は彼に泣きついて同情を乞うことしかできないのだと思うと、たまらなく惨めだった。
「分からない? あなたを誘惑してるのよ。……おねがい。これ以上、わたくしを惨めな気持ちにさせないで」
情けない泣き言の続きは、噛みつくような口づけに奪われて消えた。
部屋の中には、二人分の荒い息づかいと水音だけが響いている。
長い口づけの後、力が抜けたエフィの体は、寝台の上へと運ばれてそっと落とされた。束の間の浮遊感に体をこわばらせているうちにヴィルにのしかかられて、後はもうどうしようもなかった。
ひらひらと薄い夜着は身を守るには不十分で、襟口と裾から腕を差し入れられて早々に乱され、今は腹のあたりにかろうじて引っかかっている。
「森で会った日、まず目を奪われた。こんなに美しい生き物が他にもいたのかと」
「ほか、にも……? ん……っ、」
何のことかと不思議に思って、エフィはぎゅっと瞑っていた瞼を上げた。
ヴィルは愛おしむようにエフィのことを見ていた。彼の前に裸身を晒していることが恥ずかしくて身じろぎすると、『隠すな』という声とともに、不埒な右手が淫芽を弄ぶ。
快感が奔る体は堪えようとしてもいうことをきかず、絶頂の度に手足を突っ張らせてしまう。無防備に投げ出された体を、ヴィルは優しく、けれど容赦なく愛撫しつづけた。
「ああ。俺にとっては、『一番綺麗』は王女殿下に決まっていたから、同じくらい綺麗な生き物に驚いて。声を聞いて、お前だと分かって……変わらなさに懐かしくなった」
「その懐かしい昔馴染みと、っ、こんなことしてる、のにっ?」
「……変わらない、は嘘だな。昔よりずっと、いやらしくなった」
「んっ、あっ!……ぁあ……っ」
女らしく膨らんだ乳房を揉まれ、濃く色づいた尖りを指先で突かれる。
歯を立てないように唇で含んで食まれたことを『赤ちゃんみたい』だと呟いたら、舌で舐めしゃぶられて吸われ、芯が立つまで育てられた。
むずむずとした緩い快感はじれったく、目に見える自分の体の変化が恐ろしくて、エフィは逃れるようにぶんぶんと頭を振った。その拍子に、長い髪はさらさらと流れて身にまとわりつき、涙と汗が散る。
「なんで、胸ばっかり……ぃっ!」
「赤子は聞き分けがないものだろう」
「ごめんなさ……っ、謝るからぁ!」
「悪くないから謝るな。まだ、胸では感じないか」
今後が楽しみだな、という不穏な言葉が聞こえたのは、気のせいだと信じたい。これから、自分はどう変えられてしまうと言うのだろう。
ヴィルの体を手で押しのけて胸から遠ざけようとすると、今度は下の蕾をいじられる。指先でつまみ、転がし、執拗に嬲られて、そこが弱点だということは覚え込まされてしまった。
「あっ、ぁあ……っ、」
「濡れてるな。ここの方が好きか」
「ち、がっ……!」
こんなの、全然『好き』じゃない。何かぞくぞくするような感覚が弾けるたびに、頭が真っ白になって怖いのに。
滲んだ愛液が下へと垂れていく濡れた感触も、そこを男の手でまさぐられるたびに立つ粘着的な水音も、ただひたすらに恥ずかしいだけだ。
これが『気持ちいい』なんて知らない、知りたくない!
「もうっ、そこも、いじるのやめてぇ……っ!」
「辛いか?」
「べつにっ、」
「辛くないなら続ける」
「ひっ、必要がないでしょう! はやく、挿れればいいっ! そのために来たのに、ぁんっ!」
「体を明け渡したのはお前だろう。俺の好きにさせろ」
そうか、だからヴィルはあんなに渋っていたのかと――今さら気づいても遅い。
彼に頼み込んで抱いてもらっているのだから、このまま彼の好きなように翻弄されるしかないのだと、悟って青ざめたエフィに、ヴィルは低く唸った。
「それに、そんなにすぐには挿入らない」
「えっ?……い゛っ!?」
両脚を折り曲げて持ち上げられ、秘めた場所を露わにされる。制止する前に、体の中心に痛みが奔って、エフィは息を詰めた。
今まで何かを受け入れるどころか、自分でもろくに触ったことが無いような場所に、男の太い指が突き立てられている。
「狭いな」
「う……っ、」
「痛いか?」
「へいき……」
引き攣るような痛みに耐えながら、エフィはヴィルの顔を見上げた。生理的な涙が出て、瞳が潤む。
滲んだ視界の中で、彼もまた苦しそうな顔をしているように見えた。
「ここに、俺のを挿れるんだぞ。指一本でもきついのに」
「わかってる、はやく……っ、ひっ!?」
脅すように蜜口に押し当てられたものは、熱く太く、まるで杭のようだった。
このまま突き入れられたら串刺しになって死んでしまうかもしれない、という荒唐無稽な想像が、現実味を帯びて感じられた。
顔の周りから血の気が引いていくのが分かる。そのエフィを見て、ヴィルは諦めたように笑んだ。
「……ほら、無理だろう。もうやめよう」
やっぱり無理なんだ。ヴィルもそう言っているじゃないか。
安堵に体の力を抜いて、それから、気づく。
「……あなたは、優しすぎるわ」
好きなように、この身体を道具みたいに使えばいいと言ったのに、彼は結局最後までわたくしに甘いのだ。
彼がそういう人だから、彼のことを好きになった。
彼がそういう人だから、伝えたって困らせてしまうだけだと、この恋を諦めた。
わたくしが好きになった彼は、昔と何も変わらず、ここにいる。
「ぅ、ぐっ……」
「エフィ、やめろ!」
エフィはそろりと手を股の間に伸ばし、すでにヴィルの指をぎちぎちと食いしめている割れ目に、自分の指を添えた。いくら細い指でも、小さな隙間に無理にねじ込むと鋭い痛みがある。
それでも、嫌ではなかった。
真っ当な手段によっては、もうエフィは彼を手に入れることはできない。自分たちの立場は、昔とあまりにも変わってしまった。今のエフィは存在すら不確かな幽霊だ。
「今だけでいいから……っ」
ほんの少しの間だけでも、彼を自分だけのものにできる方法があるというのなら、もう躊躇いなどない。
「おねがい、いれて……裂けてもいいから」
彼だって、我慢してばかりでは苦しいだろう。好きなひとを自分が気持ちよくしてあげたい。
そうしたら、少しくらいは、彼はわたくしのことを考えて、覚えていてくれるだろうか。
挿れた指を開いて蜜洞を示しながら、早くここに来て、と見上げると、ヴィルは深く息を吐いた。
「……怪我なんてさせるわけあるか。大事にする」
「うれしい……」
言葉だけ切り取れば、まるで愛し合っている恋人みたいだ。本当にそうなれたらよかったのに。
もういい、今は何も考えまい。エフィはうっとりと目を閉じて、からみつく腕におとなしく身をゆだねた。
エフィの頭の中では、護国卿に命じられた言葉がぐるぐると回っていた。
あれは、ただの冗談かもしれない。でも、もしも、そうではなかったら?
(本気で、ヴィルを処刑するつもりなの? 彼とわたくしはそんな仲じゃない……ヴィルはわたくしのことを、女として見ていないのに)
もしもその気があるのなら、煮るなり焼くなり自分の好きにできる女に、手を出さない理由が無い。今まで抱かれなかった以上は、ヴィルにエフィを抱く気は無いのだ。
そんな男をたった三日のうちに、その気にさせねばならないなんて――。
「……どうした? 話ならもう済んだと言った――……っ!」
フレッドは『ヴィルを早く帰す』という約束を守ったらしい。普段よりも早くに帰宅したヴィルは、エフィに声をかけることもなく、すぐに自室へ引っ込んだ。
――その部屋の中で、エフィが待ち受けているとも知らずに。
自分の寝台に腰かけているエフィを見て、ヴィルがうんざりしたように発した声は、途中で途切れた。絶句したまま、驚きに大きく目を見開いている。
エフィは負けじと彼を睨み返し、とげとげしい言葉を投げつけた。
「あれが『話』ですって? あなたが勝手に自分の要望を述べただけで、わたくしは『分かった』と言っていないわ」
「だからあらためて話をしにきたと? 一国の王女が、そんな恰好で?」
呆れた声が、耳に痛い。
羞恥に駆られて、エフィは両腕で自分の体を庇った。
『お似合いですよ! 旦那様も喜ぶと思います』
ハンナは絶賛してくれたが、この夜着は生地が柔らかく頼りなさすぎるし、開いた胸元も膝までしかない丈も、露出が激しすぎる気がする。
ハンナに『今夜はヴィルの部屋を訪ねたい』と言うと、複数用意されていた夜着の中でも普段は使っていない、一番好みでないものを選ばれたのだ。
そもそも他人の部屋を訪ねるなら失礼のない服装をすべきだと思ったが、『これが一番盛り上がる夫婦の夜の正装ですから!』とまで言われれば、他に選択の余地は無かった。
「……別にいいでしょう。わたくしのことを『もう王女ではない』と言ったのは、あなたよ」
「そうだな。だが、夫婦でもない男の部屋を夜着で訪ねるなんて、娼婦でもしない」
覚悟を決めて着てきたはずなのに、いざ彼から冷ややかな視線を浴びせられると、恥ずかしさで身が縮む思いがした。
黙り込んだエフィを見て、ヴィルは深々とため息を吐き、エフィの腕を掴んで立たせた。
「分かったら、頭を冷やして部屋に戻れ」
「……娼婦だと思えばいいわ」
「何?」
「わたくしには身分も名前も何も無い。あなたに与えられるものなんて、この体くらいしか」
「……そういうことか。安心しろ、媚びて俺の機嫌をとろうとしなくても、お前を放り出したりはしない」
「待って!」
扉まで引きずるように歩かされて、エフィは泣きたいような気持ちになった。
このままでは、部屋から追い出されてしまう。そして、警戒したヴィルは、今後エフィを部屋に入れてすらくれなくなるだろう。
「待って。わたくし、あなたのことが好きなの。あなたを愛しているから、だから……」
「……へえ?」
告げたのは掛け値無しの本心だ。こんなことでもなければ、一生口にするつもりはなかった恋心を吐露した。
その甲斐はあったのか、足取りを止めたヴィルは、皮肉っぽく唇を歪めた。
「『愛している』だと? 自分から全てを奪って、こんなところに閉じ込めている男のことをか?」
「だって、それは……!」
互いの立場が変わる前から、今からずっと昔のヴィルが傍にいた頃から、彼のことを好きで、今日までその想いは変わらなかったから。
彼にとっては、迷惑なだけの想いだと分かっていても。
「……ほらな。慣れない嘘を吐かなくていい。部屋まで送る」
答えを迷った間の沈黙に何を思ったのか、ヴィルが手を引く力はさらに強くなる。
エフィは体全体で彼を留めるように、彼の体に両腕を回して、必死に縋りついた。
「……エフィ、いい加減にしろ。無邪気に男の部屋を訪ねて、抱きついて。お前はもう、それが許されるような『小さな王女様』じゃない」
「分かっているわ」
「分かってない。男がお前のことをどんな目で見ているか、」
「あなたは?」
「……」
「あなたは、どんな目で見ているの。……わたくしでは、どうしてもその気になれない?」
何もできずに、ヴィルに迷惑ばかりかける自分が許せない。
せめてこの体で彼を愉しませることはできるかと思ったのに、それすら果たせそうにない。
結局、自分は彼に泣きついて同情を乞うことしかできないのだと思うと、たまらなく惨めだった。
「分からない? あなたを誘惑してるのよ。……おねがい。これ以上、わたくしを惨めな気持ちにさせないで」
情けない泣き言の続きは、噛みつくような口づけに奪われて消えた。
部屋の中には、二人分の荒い息づかいと水音だけが響いている。
長い口づけの後、力が抜けたエフィの体は、寝台の上へと運ばれてそっと落とされた。束の間の浮遊感に体をこわばらせているうちにヴィルにのしかかられて、後はもうどうしようもなかった。
ひらひらと薄い夜着は身を守るには不十分で、襟口と裾から腕を差し入れられて早々に乱され、今は腹のあたりにかろうじて引っかかっている。
「森で会った日、まず目を奪われた。こんなに美しい生き物が他にもいたのかと」
「ほか、にも……? ん……っ、」
何のことかと不思議に思って、エフィはぎゅっと瞑っていた瞼を上げた。
ヴィルは愛おしむようにエフィのことを見ていた。彼の前に裸身を晒していることが恥ずかしくて身じろぎすると、『隠すな』という声とともに、不埒な右手が淫芽を弄ぶ。
快感が奔る体は堪えようとしてもいうことをきかず、絶頂の度に手足を突っ張らせてしまう。無防備に投げ出された体を、ヴィルは優しく、けれど容赦なく愛撫しつづけた。
「ああ。俺にとっては、『一番綺麗』は王女殿下に決まっていたから、同じくらい綺麗な生き物に驚いて。声を聞いて、お前だと分かって……変わらなさに懐かしくなった」
「その懐かしい昔馴染みと、っ、こんなことしてる、のにっ?」
「……変わらない、は嘘だな。昔よりずっと、いやらしくなった」
「んっ、あっ!……ぁあ……っ」
女らしく膨らんだ乳房を揉まれ、濃く色づいた尖りを指先で突かれる。
歯を立てないように唇で含んで食まれたことを『赤ちゃんみたい』だと呟いたら、舌で舐めしゃぶられて吸われ、芯が立つまで育てられた。
むずむずとした緩い快感はじれったく、目に見える自分の体の変化が恐ろしくて、エフィは逃れるようにぶんぶんと頭を振った。その拍子に、長い髪はさらさらと流れて身にまとわりつき、涙と汗が散る。
「なんで、胸ばっかり……ぃっ!」
「赤子は聞き分けがないものだろう」
「ごめんなさ……っ、謝るからぁ!」
「悪くないから謝るな。まだ、胸では感じないか」
今後が楽しみだな、という不穏な言葉が聞こえたのは、気のせいだと信じたい。これから、自分はどう変えられてしまうと言うのだろう。
ヴィルの体を手で押しのけて胸から遠ざけようとすると、今度は下の蕾をいじられる。指先でつまみ、転がし、執拗に嬲られて、そこが弱点だということは覚え込まされてしまった。
「あっ、ぁあ……っ、」
「濡れてるな。ここの方が好きか」
「ち、がっ……!」
こんなの、全然『好き』じゃない。何かぞくぞくするような感覚が弾けるたびに、頭が真っ白になって怖いのに。
滲んだ愛液が下へと垂れていく濡れた感触も、そこを男の手でまさぐられるたびに立つ粘着的な水音も、ただひたすらに恥ずかしいだけだ。
これが『気持ちいい』なんて知らない、知りたくない!
「もうっ、そこも、いじるのやめてぇ……っ!」
「辛いか?」
「べつにっ、」
「辛くないなら続ける」
「ひっ、必要がないでしょう! はやく、挿れればいいっ! そのために来たのに、ぁんっ!」
「体を明け渡したのはお前だろう。俺の好きにさせろ」
そうか、だからヴィルはあんなに渋っていたのかと――今さら気づいても遅い。
彼に頼み込んで抱いてもらっているのだから、このまま彼の好きなように翻弄されるしかないのだと、悟って青ざめたエフィに、ヴィルは低く唸った。
「それに、そんなにすぐには挿入らない」
「えっ?……い゛っ!?」
両脚を折り曲げて持ち上げられ、秘めた場所を露わにされる。制止する前に、体の中心に痛みが奔って、エフィは息を詰めた。
今まで何かを受け入れるどころか、自分でもろくに触ったことが無いような場所に、男の太い指が突き立てられている。
「狭いな」
「う……っ、」
「痛いか?」
「へいき……」
引き攣るような痛みに耐えながら、エフィはヴィルの顔を見上げた。生理的な涙が出て、瞳が潤む。
滲んだ視界の中で、彼もまた苦しそうな顔をしているように見えた。
「ここに、俺のを挿れるんだぞ。指一本でもきついのに」
「わかってる、はやく……っ、ひっ!?」
脅すように蜜口に押し当てられたものは、熱く太く、まるで杭のようだった。
このまま突き入れられたら串刺しになって死んでしまうかもしれない、という荒唐無稽な想像が、現実味を帯びて感じられた。
顔の周りから血の気が引いていくのが分かる。そのエフィを見て、ヴィルは諦めたように笑んだ。
「……ほら、無理だろう。もうやめよう」
やっぱり無理なんだ。ヴィルもそう言っているじゃないか。
安堵に体の力を抜いて、それから、気づく。
「……あなたは、優しすぎるわ」
好きなように、この身体を道具みたいに使えばいいと言ったのに、彼は結局最後までわたくしに甘いのだ。
彼がそういう人だから、彼のことを好きになった。
彼がそういう人だから、伝えたって困らせてしまうだけだと、この恋を諦めた。
わたくしが好きになった彼は、昔と何も変わらず、ここにいる。
「ぅ、ぐっ……」
「エフィ、やめろ!」
エフィはそろりと手を股の間に伸ばし、すでにヴィルの指をぎちぎちと食いしめている割れ目に、自分の指を添えた。いくら細い指でも、小さな隙間に無理にねじ込むと鋭い痛みがある。
それでも、嫌ではなかった。
真っ当な手段によっては、もうエフィは彼を手に入れることはできない。自分たちの立場は、昔とあまりにも変わってしまった。今のエフィは存在すら不確かな幽霊だ。
「今だけでいいから……っ」
ほんの少しの間だけでも、彼を自分だけのものにできる方法があるというのなら、もう躊躇いなどない。
「おねがい、いれて……裂けてもいいから」
彼だって、我慢してばかりでは苦しいだろう。好きなひとを自分が気持ちよくしてあげたい。
そうしたら、少しくらいは、彼はわたくしのことを考えて、覚えていてくれるだろうか。
挿れた指を開いて蜜洞を示しながら、早くここに来て、と見上げると、ヴィルは深く息を吐いた。
「……怪我なんてさせるわけあるか。大事にする」
「うれしい……」
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