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3.想いは歪む
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「なぁ!なぁ!アンタが王子サマか!?俺、×××!!よろしくな!」
溌剌とした笑顔で述べる少年が差し出した手を見つめる。
【神子】と称される役目を担って異界からやって来たこの少年。甘やかな顔立ちに美しい金髪碧眼で、その美貌に見惚れた周囲の人間達は大方が陶酔仕切ったような笑みで彼を凝視していた。
そして、少年もまた、それを当たり前のことかのように受け入れている。周囲の注目、賛美を当然のものとした上でなお、己の好意も更に受け取ろうとするその傲慢さ。
これが、この世界の【救世主】か。
「……あぁ、よろしく頼む。神子殿」
「神子殿なんてよそよそしい呼び方じゃなくてさ!!×××って呼べよ!」
「み、神子様、神子様と言えど、この御方はーー」
「なんだよ!?お前、俺に文句をつけるのか!?」
神子に詰め寄られたうら若き神官は顔を真っ青にして怯え、「そ、そんなことは」と震えている。足早に仲間の神官の元へと引き下がっていた彼は、もう二度とこのような高尚な場所には呼び出されないのだろう。
神子は憤慨した様子で顔を赤く染め、またしても己に詰め寄って「別にいいよな?俺たち友達だもんな!」と勝手に自己完結を済ませている。
『ーー本当にこのままで、良いと思ってんのか。お前は』
『なんだこれは!!格差が広がっていくばかりじゃないか!!俺はこんな事の為にーー!!』
『もう、無理だ。ついていけない』
「ーー……」
「どうした?」
何も答えない事を不思議に思ったのか(それでも間違った事を言ったと慌てることは微塵もないのだが)神子が首を傾げている。それに微かな微笑みで返してやれば、途端に彼は真っ赤に頬を染めた。
彼は、こんな風に欲に塗れた目をしていなかった。
俺の救世主は、こんな風に己に執着しなかった。
「テオ……」
思わず漏れた一言に、周囲の神官や貴族達が硬直する。神子は、ますます不思議そうに首を傾げた。
その鬱陶しい視線を無視し、神官の1人ーー神官長へと一瞥を向ける。彼は勝手知りたるとばかりに頷き、神子の元へと歩み寄ってきた。
「神子様、先ずは我々と共に神殿へ。今宵はもう遅いですから、ゆっくりと身体を休めては如何でしょう」
「な、なぁ、ておってなんだ?人か?」
「まぁまぁ、さぁ、此方へ」
尚も己に引っ付いて来ようとする神子をあれよあれよと連れ去って行く神官長を見送り、深く息を吐いた。神子がいなくなったことで、残っていた人々もぞろぞろと最敬礼を済ませて退室していく。
あとは己と己が腹心のみが部屋に残った。腹心は溜息を吐きながら近寄ってくる。
「神子は君のお眼鏡には適わなかったかい」
「あぁ、随分と欲深い」
「ーーそうみたいだね。君や僕を見る目、キラキラと輝いていたよ。だけど、容姿が優れていない者には見向きもしなかった」
「……」
「折角の神子なのにとんだ失敗作を掴まされたものだねぇ。この事が他国にバレたらどうなるやら」
「……」
「ーー奴らも動き出すかもね?」
顔を覗き込むようにして微笑む腹心。流石は長い付き合いと言うだけあって、己の心はすっかりバレているらしい。嘲笑を返すと、彼は呆れ顔になった。
別に、神子が失敗作であろうが成功作であろうが、何方でも良いのだ。ーー己にとっては、だが。
成功作ならば、それはこの国の繁栄に直結する。
失敗作ならば、それを排除する為に彼が動き出す。
今度こそ、逃がさない。
「テオ……テオドーレ……あぁ、足りない」
「彼もいい加減諦めて君のものになれば良いのにね。逃げ回っても結局この国を見捨てきれずに戻ってくるのに」
「テオは私を見捨てたりはしない」
「知ってるよ。アレで可愛い子だからねぇ。なんだかんだ結局君に関わっているのが面白い。味方だろうが敵だろうが」
そうだ。
たとえ敵になろうと、彼が己に目を向け、己のために動いているという事実に変わりはない。どれ程離れようともがいても、この国を何とかしようと足掻いても、結局彼は逃れられない運命なのだ。
退室し、長い廊下を歩く。
ーーそして、1枚の絵がある場所に立ち、ゆったりと見上げた。
艶やかな黒髪に、翠玉の瞳。白磁のような色白の青年が、優しげにーーそして何処か小生意気な少年が佇んでいる。
その横には、彼の仲間であった人物達が皆誇らしげな顔で描かれていて。
【近衛騎士団 第一部隊】と、刻まれたその絵を指でなぞる。自然と笑みが浮かび、愛おしさが込み上げてきた。
王国騎士団の中でもずば抜けて優秀な人材だけが集められる【近衛騎士団】。その中でも更に強さと王家に対する忠誠心の高さを厳粛に審査され、選び抜かれた人間だけが入隊する事を赦されるのが、【第一部隊】だ。
ーーだった。と、言った方が正しいか。
じっと翠玉の瞳を見上げれば、彼もまた己を見返してくれるような気がして。そう錯覚してしまうほど精巧に緻密に描かれたその絵は、彼が近衛騎士団第一部隊に就任したその日に描かれたものだ。
彼等はその存在と忠誠を祝し、王城に絵をのこすことを許される。
『さよならだ』
彼が離反した時の王城の混乱たるや。あるわけのないことが起きたと、この世を憂いた国王は、直ぐ様己に彼の処刑を要求した。けれど、それには至っていない。
思いつきの離反ではなかったのだと。考えて考え抜いての離反だったのだと、知って欲しかった。そう何度も追い詰める度に叫んだ彼の言葉が、今でも耳に残っている。
確かに、裏切った彼は1人にはならなかった。
「ーー【世界を謀る大犯罪者】」
「……彼程の人材があちら側に行ってしまうとは、ね。相変わらず過激派共は騒いでいますが、彼自身はすっかりなりを潜めているようで。
まぁ、神子なんてものが現れ出たともなれば、彼も無視はできないでしょう」
国を想えば想う程、彼は己から逃げられなくなるのだ。
堪えきれずに笑い声を漏らせば、腹心もまたクツクツと意地悪に嗤った。平静を装ってはいるが、彼もまたテオを好いて、相応に執着をしていたことを知っている。
折角、彼を取り戻す材料ができたのだ。存分に利用させていただくとしよう。
「丁度よく能無しなようで有難い」
「えぇ、えぇ。壊れるまでは上手く使いましょうか。
ーーねぇ、殿下」
「あぁ」
彼に贈ったものと対となる指輪に口付け、ニンマリと笑む。
ここまで夢中にさせたのだから、その責任は取ってもらわないと。
「……なぁ、テオドーレ」
わが、弟よ。
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