85 / 99
フィロソファーズ・ストーン
敗走
しおりを挟む
「チッ」
足音が天井から響く。俺は、思わず見上げた。
馬鹿な奴らだ。こんな所までノコノコやって来るとは……。まあ、いずれ関係者は全員始末する予定だったし、手間が省けたというべきか。
ただ、この場所がどうしてバレた? それだけが引っかかる。いや、関係ないか。全員殺してしまえば済む話だ。
バッグから銃を取り出し、スライドを引いた。
「逃げた方が良いんじゃないか?」
「あっ?」
その声に俺は苛立った。山内亮……、毎回毎回、俺の邪魔ばかりしやがって。挑発しているつもりだろうが、甘い。
「舐めやがって……全員殺して、拷問再開に決まってるだろ。すぐにお前の横に死体を並べてやる」
俺は静かに部屋を出て、隠し通路のそばで足を止めた。山内のバカが、何を企んでいるのか……。無駄な悪あがきに違いない。
息を潜め、部屋の中の様子を窺う。
「銃を持ってそっちに向かった! 来るな!」
案の定、馬鹿だ。あまりにも無意味な抵抗に笑いがこみ上げる。奴は絶望を知らないらしい。
俺はゆっくりと戻りながら、じっくりと山内の顔を観察した。まだ諦めていない表情……。頭の悪い奴だ。
「ここはな、地下室だ。しかも隠し扉を通らないと来れない。お前の声なんて届きやしない」
そう吐き捨てて、奴の顔面を蹴り飛ばした。
「無駄な努力ご苦労さま」
隣に死体が並んでも同じ顔をできるか、見物だ。俺は足早に隠し通路に向かう。
スマホで監視カメラの映像を確認する。四人の侵入者。二手に分かれているようだが、顔までは確認できない。
問題ない。奴らを一人ずつ慎重に始末するだけだ。隠し通路はいくつもある。まず一階から片付けて、二階の連中は後回しにする。
地下道を素早く進み、梯子を登って浴室へ。壁に身を寄せ、すりガラス越しに様子を伺う。完璧な計画だ。
今日という日は素晴らしい。一度に五人も片付けられるなんて、特に山内亮。奴には特別な拷問を施してやろう。
湊とその弟。ひしゃげた体を思い出すたび、あの時の感情が蘇る。脳裏に焼きついたその光景は、今も俺を興奮させる。
心臓が早鐘を打ち、手に汗が滲む。映像を見る限り、脱衣所に二人が侵入している。あと3秒、2、1……。
銃を構えた。来い。
……?
だが、何も起こらない。浴室は静まり返っている。
妙だ……。スマホには確かに二人が映っているのに。俺は慎重にドアを開け、脱衣所に踏み込んだ。誰もいない。
何かがおかしい。スマホを確認すると、侵入者が脱衣所を抜けて浴室に侵入していた。
浴室に侵入した一人がカメラを見上げている。
瞬間、俺の脳裏に嫌な予感が走る。
「山内亮……?」
急いで隠し通路を引き返し、山内が拘束されている部屋に戻る。
「……いない」
散乱した拷問器具と血痕が残っているだけだ。俺が浴室に移動している間に逃げたのか?
くそっ……!
苛立ちに任せて、椅子を蹴り飛ばす。
くそ、くそ、くそ……!
その時、どこか、ともなく人の声が聞こえた。
「ようやく気がついたか」
声の方に目をやると、そこにはスマートフォンが置かれていた。
「お前の異常な行動、全部撮影させてもらったよ。正直、殺されるかと思ったが……」
「きさま、いつから……!」
頭が燃えるように熱くなる。怒りで体が震え、近くの物を次々と叩き壊す。
くそ、こんなガキに……嵌められたのか!
俺は何度も深呼吸をして冷静になろうとしたが、焦りが全身を駆け巡る。
ここまでは上手くいっていたはずだ。クライアントの作戦通りだった……なのに、なんで先回りされているんだ。
……まさか、クライアントが裏切った? 俺を始末するために……?
まずい、ここで死ぬわけにはいかない。
仮想空間に戻るしかない……。
仮想空間に戻れれば、何度でもやり直しできる。クソ、クライアントにも必ず制裁を食らわせる。
俺は拷問部屋を飛び出し、隣の部屋に駆け込んだ。急いで、専用端末から伸びたケーブルを首筋の入出力ポートに接続する。
もう、この身体はダメだ。
全ての記憶データを吸い上げ、脳みそをフォーマットする。
覚えていろ、山内亮。必ず、殺す。
***
「──寛さん、聞いていたと思いますが、そっちに行きました」
暫くすると部屋の隅から音声が聞こえてきた。
「……ああ、分かっている。後は任せろ」
茶番はここまでだ。中原美奈、いや、武田健二──
足音が天井から響く。俺は、思わず見上げた。
馬鹿な奴らだ。こんな所までノコノコやって来るとは……。まあ、いずれ関係者は全員始末する予定だったし、手間が省けたというべきか。
ただ、この場所がどうしてバレた? それだけが引っかかる。いや、関係ないか。全員殺してしまえば済む話だ。
バッグから銃を取り出し、スライドを引いた。
「逃げた方が良いんじゃないか?」
「あっ?」
その声に俺は苛立った。山内亮……、毎回毎回、俺の邪魔ばかりしやがって。挑発しているつもりだろうが、甘い。
「舐めやがって……全員殺して、拷問再開に決まってるだろ。すぐにお前の横に死体を並べてやる」
俺は静かに部屋を出て、隠し通路のそばで足を止めた。山内のバカが、何を企んでいるのか……。無駄な悪あがきに違いない。
息を潜め、部屋の中の様子を窺う。
「銃を持ってそっちに向かった! 来るな!」
案の定、馬鹿だ。あまりにも無意味な抵抗に笑いがこみ上げる。奴は絶望を知らないらしい。
俺はゆっくりと戻りながら、じっくりと山内の顔を観察した。まだ諦めていない表情……。頭の悪い奴だ。
「ここはな、地下室だ。しかも隠し扉を通らないと来れない。お前の声なんて届きやしない」
そう吐き捨てて、奴の顔面を蹴り飛ばした。
「無駄な努力ご苦労さま」
隣に死体が並んでも同じ顔をできるか、見物だ。俺は足早に隠し通路に向かう。
スマホで監視カメラの映像を確認する。四人の侵入者。二手に分かれているようだが、顔までは確認できない。
問題ない。奴らを一人ずつ慎重に始末するだけだ。隠し通路はいくつもある。まず一階から片付けて、二階の連中は後回しにする。
地下道を素早く進み、梯子を登って浴室へ。壁に身を寄せ、すりガラス越しに様子を伺う。完璧な計画だ。
今日という日は素晴らしい。一度に五人も片付けられるなんて、特に山内亮。奴には特別な拷問を施してやろう。
湊とその弟。ひしゃげた体を思い出すたび、あの時の感情が蘇る。脳裏に焼きついたその光景は、今も俺を興奮させる。
心臓が早鐘を打ち、手に汗が滲む。映像を見る限り、脱衣所に二人が侵入している。あと3秒、2、1……。
銃を構えた。来い。
……?
だが、何も起こらない。浴室は静まり返っている。
妙だ……。スマホには確かに二人が映っているのに。俺は慎重にドアを開け、脱衣所に踏み込んだ。誰もいない。
何かがおかしい。スマホを確認すると、侵入者が脱衣所を抜けて浴室に侵入していた。
浴室に侵入した一人がカメラを見上げている。
瞬間、俺の脳裏に嫌な予感が走る。
「山内亮……?」
急いで隠し通路を引き返し、山内が拘束されている部屋に戻る。
「……いない」
散乱した拷問器具と血痕が残っているだけだ。俺が浴室に移動している間に逃げたのか?
くそっ……!
苛立ちに任せて、椅子を蹴り飛ばす。
くそ、くそ、くそ……!
その時、どこか、ともなく人の声が聞こえた。
「ようやく気がついたか」
声の方に目をやると、そこにはスマートフォンが置かれていた。
「お前の異常な行動、全部撮影させてもらったよ。正直、殺されるかと思ったが……」
「きさま、いつから……!」
頭が燃えるように熱くなる。怒りで体が震え、近くの物を次々と叩き壊す。
くそ、こんなガキに……嵌められたのか!
俺は何度も深呼吸をして冷静になろうとしたが、焦りが全身を駆け巡る。
ここまでは上手くいっていたはずだ。クライアントの作戦通りだった……なのに、なんで先回りされているんだ。
……まさか、クライアントが裏切った? 俺を始末するために……?
まずい、ここで死ぬわけにはいかない。
仮想空間に戻るしかない……。
仮想空間に戻れれば、何度でもやり直しできる。クソ、クライアントにも必ず制裁を食らわせる。
俺は拷問部屋を飛び出し、隣の部屋に駆け込んだ。急いで、専用端末から伸びたケーブルを首筋の入出力ポートに接続する。
もう、この身体はダメだ。
全ての記憶データを吸い上げ、脳みそをフォーマットする。
覚えていろ、山内亮。必ず、殺す。
***
「──寛さん、聞いていたと思いますが、そっちに行きました」
暫くすると部屋の隅から音声が聞こえてきた。
「……ああ、分かっている。後は任せろ」
茶番はここまでだ。中原美奈、いや、武田健二──
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
virtual lover
空川億里
ミステリー
人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。
が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。
主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。

それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生。
遠山未歩…和人とゆきの母親。
遠山昇 …和人とゆきの父親。
山部智人…【未来教】の元経理担当。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる