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フィロソファーズ・ストーン
異なる探し人
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俺はスマホをバイクのステイにセットする。アパートの周辺は街灯も消え、虫の音すらほとんど聞こえない。
不気味なくらい静かだ。
キックレバーを勢いよく蹴り込むと、バイクの排気音と振動が体に伝わってきた。
国道一号に出てしまえば、山内の失踪地点までは一直線だ。
「バイクで20~30分くらいか」
ヘルメットのシールドを下ろし、国道へと急ぐ。路地から国道に出て、横浜方面へバイクを走らせた。
深夜ということもあって、車の通りはまばらで、予定通りの時刻に近辺へ到着した。
山内の失踪地点は国道一号沿いだが、中央分離帯を挟んだ反対車線側にあるため、一旦、目的地を通り過ぎてからUターンする必要があった。
目的地付近に着いて気がついたが、事前に映像で確認していた場所と風景が微妙に異なっている。
一度、桔梗さんに確認を取った方がよさそうだ。バイクを止め、スマホをステイから外して発信する。
「はい、桔梗です。何かありましたか?」
「夜分にすまない。目的地付近に着いたんだが、映像で見た風景と違う。もう一度、正確な場所情報を送ってもらえないか?」
「……一度、寛さんの位置情報を確認してもいいですか?」
「ああ、構わない。緯度経度を送ればいいか?」
「あ、いえ、もう確認しました」
どうやったのかはともかく、こちらの位置を瞬時に捕捉されたことに苦笑いしてしまった。
「状況がわかりました。その近くに側道があるみたいです。寛さんのすぐ隣にマンションがありますよね? 」
「ああ、あるな」
「そこの敷地が側道につながっているので、通り抜けられるはずです」
「分かった、ありがとう。夜分にすまないが、また連絡するかもしれない」
「ええ、大丈夫です。私も山内さんの失踪の調査を進めていますから」
「助かる。また後で」
そう言って電話を切った。バイクでマンションの敷地に入る。目の端に「通り抜け禁止」の看板が見えた。
確かに、反対側に道がある。マンションの敷地を抜けると、側道が現れ、映像と同じ風景が広がっていた。
側道沿いは生活道路らしく、道が狭く、分譲住宅が所狭しと並んでいる。
ここでは監視カメラが設置されているような雰囲気もない。
バイクをゆっくり走らせながら、周囲を警戒するが、特に何も見つからない。街灯も少なく、暗くて視界が悪いせいもある。
仕方なく、バイクを道端に停め、歩いて調べることにした。念のため、スマホで映像も撮影しておく。
最悪の場合、データを持ち帰って、桔梗さんに解析してもらうこともできるだろう。
深夜の住宅街を2時間近く歩き回ったが、結局、山内の痕跡すら見つからなかった。
バイクの元へ戻ろうとした時、背後でかすかな足音が聞こえた。
反射的に振り向くと、闇の中に小さな人影が見えた。しかも、その人影は明らかに震えている。
「誰だ?」
問いかけても、相手は反応しない。
慎重に近づくと、その人物は痩せ細り、入院患者のような服を着た若い女性だった。
足元は裸足にサンダルで、彼女の肩は寒さに震えているようだった。
「……あの、大丈夫ですか?」
彼女はゆっくりと顔を上げた。その表情には深い疲労と恐怖が刻まれている。
だか、そんなことよりも彼女の顔を見て驚いた。いるはずの無い人物が目の前にいるのだ。
「君は……雫ちゃんか?」
「助けて……」
彼女は驚いたように一瞬目を見開き、次の瞬間、涙を流しながら小さく頷いた。そして、力尽きるようにふっと意識を失い、倒れ込んだ。
俺はとっさに彼女を抱きとめた。
不気味なくらい静かだ。
キックレバーを勢いよく蹴り込むと、バイクの排気音と振動が体に伝わってきた。
国道一号に出てしまえば、山内の失踪地点までは一直線だ。
「バイクで20~30分くらいか」
ヘルメットのシールドを下ろし、国道へと急ぐ。路地から国道に出て、横浜方面へバイクを走らせた。
深夜ということもあって、車の通りはまばらで、予定通りの時刻に近辺へ到着した。
山内の失踪地点は国道一号沿いだが、中央分離帯を挟んだ反対車線側にあるため、一旦、目的地を通り過ぎてからUターンする必要があった。
目的地付近に着いて気がついたが、事前に映像で確認していた場所と風景が微妙に異なっている。
一度、桔梗さんに確認を取った方がよさそうだ。バイクを止め、スマホをステイから外して発信する。
「はい、桔梗です。何かありましたか?」
「夜分にすまない。目的地付近に着いたんだが、映像で見た風景と違う。もう一度、正確な場所情報を送ってもらえないか?」
「……一度、寛さんの位置情報を確認してもいいですか?」
「ああ、構わない。緯度経度を送ればいいか?」
「あ、いえ、もう確認しました」
どうやったのかはともかく、こちらの位置を瞬時に捕捉されたことに苦笑いしてしまった。
「状況がわかりました。その近くに側道があるみたいです。寛さんのすぐ隣にマンションがありますよね? 」
「ああ、あるな」
「そこの敷地が側道につながっているので、通り抜けられるはずです」
「分かった、ありがとう。夜分にすまないが、また連絡するかもしれない」
「ええ、大丈夫です。私も山内さんの失踪の調査を進めていますから」
「助かる。また後で」
そう言って電話を切った。バイクでマンションの敷地に入る。目の端に「通り抜け禁止」の看板が見えた。
確かに、反対側に道がある。マンションの敷地を抜けると、側道が現れ、映像と同じ風景が広がっていた。
側道沿いは生活道路らしく、道が狭く、分譲住宅が所狭しと並んでいる。
ここでは監視カメラが設置されているような雰囲気もない。
バイクをゆっくり走らせながら、周囲を警戒するが、特に何も見つからない。街灯も少なく、暗くて視界が悪いせいもある。
仕方なく、バイクを道端に停め、歩いて調べることにした。念のため、スマホで映像も撮影しておく。
最悪の場合、データを持ち帰って、桔梗さんに解析してもらうこともできるだろう。
深夜の住宅街を2時間近く歩き回ったが、結局、山内の痕跡すら見つからなかった。
バイクの元へ戻ろうとした時、背後でかすかな足音が聞こえた。
反射的に振り向くと、闇の中に小さな人影が見えた。しかも、その人影は明らかに震えている。
「誰だ?」
問いかけても、相手は反応しない。
慎重に近づくと、その人物は痩せ細り、入院患者のような服を着た若い女性だった。
足元は裸足にサンダルで、彼女の肩は寒さに震えているようだった。
「……あの、大丈夫ですか?」
彼女はゆっくりと顔を上げた。その表情には深い疲労と恐怖が刻まれている。
だか、そんなことよりも彼女の顔を見て驚いた。いるはずの無い人物が目の前にいるのだ。
「君は……雫ちゃんか?」
「助けて……」
彼女は驚いたように一瞬目を見開き、次の瞬間、涙を流しながら小さく頷いた。そして、力尽きるようにふっと意識を失い、倒れ込んだ。
俺はとっさに彼女を抱きとめた。
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