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クローズドワールド
Blooming in the Night⑤
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航が左手をかざすと、目に見える範囲が業火に包まれた。炎が航の顔に反射して真っ赤に染まり、悪魔のようだ。
『航! やめなさい。雫の記憶領域に致命的な欠損が出る!』
航は高瀬さんの方を振り返り、冷ややかな目線をしていた。炎はまるで何もなかったかのようにふっと消えた。
『ねえ、高瀬さん。手段を選んでる場合? 記憶領域と雫姉さん、どっちが大事なの?』
『両方よ。天秤にかけられるものじゃない』
『はい、はい。なら、どうしたらいいのさ』
「丁度いい、今から皆に武器を渡そうと思っていたところだ。この武器は雫の記憶領域に傷をつけずに敵を屠れる」
末木という人物が話しかけてくる。姿は見えないので、天の声みたいだ。
僕の手元に武器が出現した。
「グロック19とタクティカルナイフ……」
僕がGoBで愛用している装備で驚いた。偶然……にしては出来すぎている。
「ほぉ……分かってるな。ブラックステアーやん。あんた、GoBのプレイヤーやろ?」
「Blooming Nightには辛酸を舐めさせられたからね」
咲夜はGoBの世界ランキング17位の猛者なので、本人も愛用の武器も有名だったりする。
でも、僕はランキング圏外だ。鈍い光沢を放つタクティカルナイフをまじまじと見つめる。
「……お会いできて光栄だ。密室の殺人鬼『鬼軍曹』殿。武器は気に入ってもらえたかな?」
「なんですか、その物騒な二つ名は。…………まさか、僕のことですか?」
「あ~……そっか、亮は知らんのか。トップランカーの間では有名なんやで」
「なにが?」
咲夜はリズムを取るようにゆらゆらと体を揺らし始めた。
「屋外なら失笑、屋内なら絶叫、密室の殺人鬼が絶妙、無冠だが最強……てな」
「なに、それ……なんでラップ調?」
「まあ、亮はランキング圏外だから世界規模で見ると無名なのは事実やけどな」
つまり、僕は特定の人には有名ということらしい。正直、信じがたい。
気がつくと高瀬さんは鬼のような形相をしていた。
『末木さん!!』
「高瀬くん、何か用?」
『時と場所を選んでください』
「はい、はい、りょーかい。侵入経路と物理的な位置を掴んだら連絡するね~」
そこにいた全員が脱力する。どうにも、末木という人物は緊張感が足りないようだ。
「なんなんですか、あの人」
高瀬さんは額に手をあて、うんざりした顔をしていた。
『プロジェクトARIAの総責任者よ』
「えっ、そんな凄い人だったんですか?」
『人格は破綻してるけど天才だと思う』
黙ってた航が話に割って入ってきた。
『僕は先に行くよ。こんな茶番付き合ってられないからね』
その瞬間、目の前から航がすうっと消えて、遠くに航らしき人物のシルエットが見えた。
『待ちなさい、航! 桔梗、追いかけて』
『はぁ、分かりました』
桔梗さんもすうっとその場から消え、気配を感じなくなった。
「なんや、ワープできるんか。チートすぎるやろ」
『武田さん、二人の座標を補足、追跡して。私にも座標を送って』
「分かりました。リアルタイムで座標を共有します」
『ありがとう』
高瀬さんはこちらを振り向くとバツの悪そうな顔をしていた。
『ごめん。本当はバラバラに行動すべきではないんだけど、あの子達を追いかける。君たちにはイレイサーを同行させるから後から来て』
「分かりました」
一瞥すると、高瀬さんも空気に同化するように消えてしまった。すると、別の天の声が聞こえてきた。
「すまないね、君たち。俺は武田。末木さんや高瀬さんと同じプロジェクトARIAのメンバーだ」
「あっ、はい。僕は山内亮です」
「私は四ノ原咲夜や。よろしくな」
「彼らは短距離転移を繰り返して江ノ島大橋まで駆け抜ける気だ」
「私らはワープできへんの? 」
「残念ながらゲストには実装していない。あまり、ここをうろうろされると困るからね」
こちらには理解できない事情でもあるんだろう、仕方がない。
「三人で行かせて大丈夫なんですかね? 」
「私の組んだオートシールドが保護しているから滅多なことはないと思う。君たちにも装備してあるから安心してくれ」
イレイザーが声をかけてきた。
『追いかけなくていいのか? 』
「……そうですね。とはいえ、あの速度は追いつけないしな」
「そこのバイク使うたらええんとちゃう」
咲夜が指を指した先にはモン・トレゾールの駐輪場にバイクが止まっていた。
「寛さんのバイクか。武田さん、これ使えます? 」
「使えるよ。何故か、そのバイクはエンジンがかかると高瀬さんが言っていた」
「なるほど、雫とツーリングに行ったからか」
バイクを駐輪場から出して、咲夜に後ろに乗るように伝えた。
「イレイサーはどうする? 」
『後ろからついていく、問題ない』
『航! やめなさい。雫の記憶領域に致命的な欠損が出る!』
航は高瀬さんの方を振り返り、冷ややかな目線をしていた。炎はまるで何もなかったかのようにふっと消えた。
『ねえ、高瀬さん。手段を選んでる場合? 記憶領域と雫姉さん、どっちが大事なの?』
『両方よ。天秤にかけられるものじゃない』
『はい、はい。なら、どうしたらいいのさ』
「丁度いい、今から皆に武器を渡そうと思っていたところだ。この武器は雫の記憶領域に傷をつけずに敵を屠れる」
末木という人物が話しかけてくる。姿は見えないので、天の声みたいだ。
僕の手元に武器が出現した。
「グロック19とタクティカルナイフ……」
僕がGoBで愛用している装備で驚いた。偶然……にしては出来すぎている。
「ほぉ……分かってるな。ブラックステアーやん。あんた、GoBのプレイヤーやろ?」
「Blooming Nightには辛酸を舐めさせられたからね」
咲夜はGoBの世界ランキング17位の猛者なので、本人も愛用の武器も有名だったりする。
でも、僕はランキング圏外だ。鈍い光沢を放つタクティカルナイフをまじまじと見つめる。
「……お会いできて光栄だ。密室の殺人鬼『鬼軍曹』殿。武器は気に入ってもらえたかな?」
「なんですか、その物騒な二つ名は。…………まさか、僕のことですか?」
「あ~……そっか、亮は知らんのか。トップランカーの間では有名なんやで」
「なにが?」
咲夜はリズムを取るようにゆらゆらと体を揺らし始めた。
「屋外なら失笑、屋内なら絶叫、密室の殺人鬼が絶妙、無冠だが最強……てな」
「なに、それ……なんでラップ調?」
「まあ、亮はランキング圏外だから世界規模で見ると無名なのは事実やけどな」
つまり、僕は特定の人には有名ということらしい。正直、信じがたい。
気がつくと高瀬さんは鬼のような形相をしていた。
『末木さん!!』
「高瀬くん、何か用?」
『時と場所を選んでください』
「はい、はい、りょーかい。侵入経路と物理的な位置を掴んだら連絡するね~」
そこにいた全員が脱力する。どうにも、末木という人物は緊張感が足りないようだ。
「なんなんですか、あの人」
高瀬さんは額に手をあて、うんざりした顔をしていた。
『プロジェクトARIAの総責任者よ』
「えっ、そんな凄い人だったんですか?」
『人格は破綻してるけど天才だと思う』
黙ってた航が話に割って入ってきた。
『僕は先に行くよ。こんな茶番付き合ってられないからね』
その瞬間、目の前から航がすうっと消えて、遠くに航らしき人物のシルエットが見えた。
『待ちなさい、航! 桔梗、追いかけて』
『はぁ、分かりました』
桔梗さんもすうっとその場から消え、気配を感じなくなった。
「なんや、ワープできるんか。チートすぎるやろ」
『武田さん、二人の座標を補足、追跡して。私にも座標を送って』
「分かりました。リアルタイムで座標を共有します」
『ありがとう』
高瀬さんはこちらを振り向くとバツの悪そうな顔をしていた。
『ごめん。本当はバラバラに行動すべきではないんだけど、あの子達を追いかける。君たちにはイレイサーを同行させるから後から来て』
「分かりました」
一瞥すると、高瀬さんも空気に同化するように消えてしまった。すると、別の天の声が聞こえてきた。
「すまないね、君たち。俺は武田。末木さんや高瀬さんと同じプロジェクトARIAのメンバーだ」
「あっ、はい。僕は山内亮です」
「私は四ノ原咲夜や。よろしくな」
「彼らは短距離転移を繰り返して江ノ島大橋まで駆け抜ける気だ」
「私らはワープできへんの? 」
「残念ながらゲストには実装していない。あまり、ここをうろうろされると困るからね」
こちらには理解できない事情でもあるんだろう、仕方がない。
「三人で行かせて大丈夫なんですかね? 」
「私の組んだオートシールドが保護しているから滅多なことはないと思う。君たちにも装備してあるから安心してくれ」
イレイザーが声をかけてきた。
『追いかけなくていいのか? 』
「……そうですね。とはいえ、あの速度は追いつけないしな」
「そこのバイク使うたらええんとちゃう」
咲夜が指を指した先にはモン・トレゾールの駐輪場にバイクが止まっていた。
「寛さんのバイクか。武田さん、これ使えます? 」
「使えるよ。何故か、そのバイクはエンジンがかかると高瀬さんが言っていた」
「なるほど、雫とツーリングに行ったからか」
バイクを駐輪場から出して、咲夜に後ろに乗るように伝えた。
「イレイサーはどうする? 」
『後ろからついていく、問題ない』
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