25 / 99
フェイク ビレッジ
インターフォン
しおりを挟む
インターフォンを鳴らすとカメラ横のLEDが赤く点灯したが、数秒すると消えてしまった。
外側から窓を見る限り、灯りはともっているので家主はいるのだろう。
深呼吸して、もう一度インターフォンを鳴らした。
「すみません、このアパートの2階に住んでいる山内と言うものです。西条大学に通ってます」
大きめの声で話したので、ドア越しでも多少は聞こえただろう。駄目か、出てこないか……。
その時、カメラ横のLEDが緑色に点灯した。5秒ほど間を置いて、返事をしてくれた。
「なに? 」
「お友達の木崎さんが、この前借りたノートを返したいから届けてくれって」
「やよが? 」
「はい。実は木崎さんとアパートの話をしていたら、『ミーナと同じアパートじゃん』ってなって、頼まれてしまいまして……」
「……なら、ドアの横に置いといて 」
「あ、はい。ドアの横に立てかけておきますね」
よし、ここまでは木崎弥生の作戦通りだ。話は遡ること1日前。
***
「──ミーナがあんたらの写真を撮った犯人だって? 馬鹿も休み休み言ってよ」
『冗談じゃないし。ほら証拠だってあるんだから』
木崎弥生は額に手を当て顔を曇らせる。
「はぁ、マジかぁ……」
「木崎さんと中原さんは友達なの?」
「私は……友達のつもりだけどね。リアクションが薄いからたまに不安になるけど」
『どんな娘なの?』
「一言で言うと根暗かな。でも、意思が強い。自分で決定したことは必ず実行する。そういうタイプだね」
「……根暗って、酷いな」
『用心深い人?』
「そうだな……スマホには覗き見防止フィルターがかかっているし、パソコンもパスワードが二重にかかっているから用心深いのかもな」
「二重に?」
「ああ、UEFIとOSが起動するときにパスワードがかかってるね」
……UEFIが何なのか分からないが、OSを起動するまでに2回パスワードを入れないといけないことは分かった。
『なんか、神経質そう』
「どうかな、デスクトップはファイルでゴチャゴチャになっているし、神経質な感じはしないけどな」
話を聞く限り、変なこだわりを持っているタイプかもしれない。僕とは人種が違うみたいだ。
「……木崎さん、友達なら彼女を紹介してくれないか。話を聞きたいんだ」
「最近、電話に出ないんだ。それに、ミーナに尋問する気なんだろ」
『当然、するでしょ』
木崎弥生はため息を漏らした。
「だよな……。でも、ミーナが悪いことをしてるなら止めたい」
「一緒にアパートに行くのはどうかな。木崎さんなら呼び出せるでしょ」
木崎さんは両手で頬杖をつく。
「それは何度もやったよ。インターフォンには出てくれるけど、帰っての一点張りでね」
「困ったな……なんで引きこもってるんだろう?」
「さあね、ただ、夏休み明けから様子が変なんだ。顔色も悪いし」
『なんで、木崎さんは彼女と友達なの?』
雫の突飛な質問に目を大きく開いた。木崎弥生は腕を組んで頭を傾ける。
「なんでって……ほどよく放っておいてくれるから」
『なら、彼女も放っておいてほしいのかもね』
木崎弥生がポンと手を叩く。
「……放っておく。それだ」
思わず、雫と目を……もといカメラと目を合わせた。
「どういうこと?」
「少し、危ない橋を渡る気はあるか?」
『如何様にでも』
「渡る。このままじゃ、僕らの冤罪も佐藤先輩の無念も晴らせない」
「よし。作戦はこうだ──」
***
中原美奈の部屋のドア横に袋に入れたノートを立てかけた。
アパートの一階は死角が多い。
エントランスはクランク状になっているので、右に曲がって死角から中原美奈の部屋を監視する。
アパートの他の住人が出てこないかドキドキしながら、中原美奈がドアを開けるのを待つ。
時計をチラチラと確認をする。
途中何度かアパートの住人と遭遇したが、チラリとこちらを見るだけでさっさと部屋へ入ってしまう。自分が思っているよりも見知らぬ隣人に興味はないようだ。
その時、雫から着信があった。
『亮、首尾はどう?』
状況を伝えるために、カメラを中原美奈の部屋の前に向ける。
『まだ、拾われてないんだ。なかなか、用心深いね……うん?』
声を低くする。
「どうした?」
『亮、なるべく自然に一階アパートのエントランスから出て』
「なんで?」
『後で説明するから』
よく分からないがアパートの敷地外に出た。
『もう、戻っていいよ』
「なんなんだよ」
『さっきと同じ場所で待機して、早く!』
理由がわからないまま、また元の配置で監視を続けると、ガチャリと音がした。
中原美奈が部屋の扉を開けて、ノートを拾おうとしている。気がつくと、デジタルカメラを彼女に向けていた。
カシャリ。
薄暗い廊下にフラッシュで一瞬真っ白になった。中原美奈は眩しそうにこちらを見上げた。
顔を上げたのを確認して、更にシャッターを切った。
「……なっ、なに?」
デジカメで撮影した写真を中原美奈に見えるようにディスプレイを向けた。
「君に聞きたいことがある。断れば、今撮影した写真を加工して、SNSにアップロードする。今ならこんがり燃え上がると思うけど」
犯罪スレスレ……いや完全にアウトの発言だが、このままだと冤罪で社会的に抹殺されかねない。
背に腹は代えられない。
「……やよもグルなの?」
この状況にもかかわらず、この娘は異様なほど落ち着いていた。
実は追い詰められているのは自分ではないかと錯覚する。手は焦りで湿っていた。
「そうだとしたら?」
「別にどうもしない。いいよ、何が聞きたいの? 僕が答えられることなら何でも」
「僕?」
「ああ、僕じゃなかった、私だ。口癖が伝染っちゃってね。外は虫がいるから中で」
真っ黒なショートボブに、顔は青白く、目の下にはくまがあった。化粧っ気はなく、黒のTシャツに、黒のパンツ。
開かれた扉は魔窟への入口のように感じた。
外側から窓を見る限り、灯りはともっているので家主はいるのだろう。
深呼吸して、もう一度インターフォンを鳴らした。
「すみません、このアパートの2階に住んでいる山内と言うものです。西条大学に通ってます」
大きめの声で話したので、ドア越しでも多少は聞こえただろう。駄目か、出てこないか……。
その時、カメラ横のLEDが緑色に点灯した。5秒ほど間を置いて、返事をしてくれた。
「なに? 」
「お友達の木崎さんが、この前借りたノートを返したいから届けてくれって」
「やよが? 」
「はい。実は木崎さんとアパートの話をしていたら、『ミーナと同じアパートじゃん』ってなって、頼まれてしまいまして……」
「……なら、ドアの横に置いといて 」
「あ、はい。ドアの横に立てかけておきますね」
よし、ここまでは木崎弥生の作戦通りだ。話は遡ること1日前。
***
「──ミーナがあんたらの写真を撮った犯人だって? 馬鹿も休み休み言ってよ」
『冗談じゃないし。ほら証拠だってあるんだから』
木崎弥生は額に手を当て顔を曇らせる。
「はぁ、マジかぁ……」
「木崎さんと中原さんは友達なの?」
「私は……友達のつもりだけどね。リアクションが薄いからたまに不安になるけど」
『どんな娘なの?』
「一言で言うと根暗かな。でも、意思が強い。自分で決定したことは必ず実行する。そういうタイプだね」
「……根暗って、酷いな」
『用心深い人?』
「そうだな……スマホには覗き見防止フィルターがかかっているし、パソコンもパスワードが二重にかかっているから用心深いのかもな」
「二重に?」
「ああ、UEFIとOSが起動するときにパスワードがかかってるね」
……UEFIが何なのか分からないが、OSを起動するまでに2回パスワードを入れないといけないことは分かった。
『なんか、神経質そう』
「どうかな、デスクトップはファイルでゴチャゴチャになっているし、神経質な感じはしないけどな」
話を聞く限り、変なこだわりを持っているタイプかもしれない。僕とは人種が違うみたいだ。
「……木崎さん、友達なら彼女を紹介してくれないか。話を聞きたいんだ」
「最近、電話に出ないんだ。それに、ミーナに尋問する気なんだろ」
『当然、するでしょ』
木崎弥生はため息を漏らした。
「だよな……。でも、ミーナが悪いことをしてるなら止めたい」
「一緒にアパートに行くのはどうかな。木崎さんなら呼び出せるでしょ」
木崎さんは両手で頬杖をつく。
「それは何度もやったよ。インターフォンには出てくれるけど、帰っての一点張りでね」
「困ったな……なんで引きこもってるんだろう?」
「さあね、ただ、夏休み明けから様子が変なんだ。顔色も悪いし」
『なんで、木崎さんは彼女と友達なの?』
雫の突飛な質問に目を大きく開いた。木崎弥生は腕を組んで頭を傾ける。
「なんでって……ほどよく放っておいてくれるから」
『なら、彼女も放っておいてほしいのかもね』
木崎弥生がポンと手を叩く。
「……放っておく。それだ」
思わず、雫と目を……もといカメラと目を合わせた。
「どういうこと?」
「少し、危ない橋を渡る気はあるか?」
『如何様にでも』
「渡る。このままじゃ、僕らの冤罪も佐藤先輩の無念も晴らせない」
「よし。作戦はこうだ──」
***
中原美奈の部屋のドア横に袋に入れたノートを立てかけた。
アパートの一階は死角が多い。
エントランスはクランク状になっているので、右に曲がって死角から中原美奈の部屋を監視する。
アパートの他の住人が出てこないかドキドキしながら、中原美奈がドアを開けるのを待つ。
時計をチラチラと確認をする。
途中何度かアパートの住人と遭遇したが、チラリとこちらを見るだけでさっさと部屋へ入ってしまう。自分が思っているよりも見知らぬ隣人に興味はないようだ。
その時、雫から着信があった。
『亮、首尾はどう?』
状況を伝えるために、カメラを中原美奈の部屋の前に向ける。
『まだ、拾われてないんだ。なかなか、用心深いね……うん?』
声を低くする。
「どうした?」
『亮、なるべく自然に一階アパートのエントランスから出て』
「なんで?」
『後で説明するから』
よく分からないがアパートの敷地外に出た。
『もう、戻っていいよ』
「なんなんだよ」
『さっきと同じ場所で待機して、早く!』
理由がわからないまま、また元の配置で監視を続けると、ガチャリと音がした。
中原美奈が部屋の扉を開けて、ノートを拾おうとしている。気がつくと、デジタルカメラを彼女に向けていた。
カシャリ。
薄暗い廊下にフラッシュで一瞬真っ白になった。中原美奈は眩しそうにこちらを見上げた。
顔を上げたのを確認して、更にシャッターを切った。
「……なっ、なに?」
デジカメで撮影した写真を中原美奈に見えるようにディスプレイを向けた。
「君に聞きたいことがある。断れば、今撮影した写真を加工して、SNSにアップロードする。今ならこんがり燃え上がると思うけど」
犯罪スレスレ……いや完全にアウトの発言だが、このままだと冤罪で社会的に抹殺されかねない。
背に腹は代えられない。
「……やよもグルなの?」
この状況にもかかわらず、この娘は異様なほど落ち着いていた。
実は追い詰められているのは自分ではないかと錯覚する。手は焦りで湿っていた。
「そうだとしたら?」
「別にどうもしない。いいよ、何が聞きたいの? 僕が答えられることなら何でも」
「僕?」
「ああ、僕じゃなかった、私だ。口癖が伝染っちゃってね。外は虫がいるから中で」
真っ黒なショートボブに、顔は青白く、目の下にはくまがあった。化粧っ気はなく、黒のTシャツに、黒のパンツ。
開かれた扉は魔窟への入口のように感じた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
virtual lover
空川億里
ミステリー
人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。
が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。
主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。

それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生。
遠山未歩…和人とゆきの母親。
遠山昇 …和人とゆきの父親。
山部智人…【未来教】の元経理担当。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる