上 下
241 / 247
第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦

第234話 名も無き生徒の立食会・その2

しおりを挟む
 一方こちらはルシュドとハンス。入り口に入るや否や、ルシュドはハンスを伴って天幕が並ぶ中を移動していた。



「お、おお……」
「はい兄ちゃん、牛肉の岩塩焼きだ。二つだったよな?」
「は、はい。えっと、銀貨、二枚」
「はいどーも」

「ハンス、これ」
「ああ……」




 熱が込められた石の皿を持って、フォークで刺して肉を頬張る。肉汁が顔に飛び散るのも気にしないルシュドと、それがかなり気になるハンスであった。




「おおルシュド、ここにいたのか」
「あ、シャゼム先輩。こんにちは。違う、こんばんは」
「あはは、こんばんは」
「……!!」


 急にハンスの身が震え上がり、その場を去ろうとする。


「……ハンス? どうした?」
「……う」
「お腹、痛い? 食べたい、もの、ある?」
「ぐぬぅ……!」
「あっはっはー、今日は逃げられなかったね!」



 高らかに笑うのはガゼル。彼の姿を見て、ハンスは悔しそうに顔を歪ませる。



「気付いていたよ? ここ一年ずーーーっと僕のこと避けていたの。僕はもっと話したいことが山のようにあるのにさ!」
「てめえ、てめえ、あっち行け……!!」

「……? ハンス、先輩、嫌い?」
「相性ってもんがあるんだよ。ところでお前らもこれ食えや」
「ありがとう、です。はふはふ」


 クオークから受け取ったのは、二人分のじゃがバター。熱々のバターがほんの少し手につく。


「あちち。ふーふー。もぐもぐ……おいひい」
「お前可愛いな」
「!?」
「いや、その反応がな? 美味しそうに食うんだもん、この芋とバターも感無量だろうよ」

「ハンスも食べたら? ちなみに僕とクオークとクソババアと秀麗たるトパーズ御婆様とで仕込みを行いました」
「食べない!! 絶対に!!」
「……だったら私がも貰おうかな?」



 その生徒の声が聞こえてくるや否や、ガゼル、クオーク、シャゼムの三人はぴんと背筋を張る。



「……あ? 誰だよてめえ」
「初めまして……かな? 私はモニカ、ガゼル君達の同級生なんだ」
「ふーん。興味無いわ」

「おれ、ルシュド、です。この人、ハンス、です」
「ルシュド君か。シャゼム君から話は聞いているよ。熱心で真面目な後輩がいるって」
「……えへへ」
「露骨に照れんなや~~~!?」


 ルシュドの背中をがしがし叩くシャゼム。


「もう、そんな強さで叩いたら食べた物吐いちゃうよ」
「ん! それもそうか!! すまんかった!!!」
「……はい」



「話を戻そっか。それ、もらっていい?」
「ああ……これぐらいなら、やるよ」


 ハンスはモニカに、ふてぶてしくじゃがバターを渡す。


「ありがと……はふっ、はふぅ。美味しいな」
「そぉーれはよかった!! 本当によかったなー!!」



 鼻の下が伸び切ったガゼルを、横目で見ながらハンスは引き笑い。心の底から侮蔑するのであった。



「ねえ皆、次は何を食べるつもり?」
「「特に決まってない!!」」
「同じく。おすすめとかあったら教えてほしいわ」


「んっとね、向こうにスムージー出してる天幕があって、そこに行こうかなって」
「スムージー?」
「野菜や果物を混ぜ合わせた飲み物だよ」
「おお、美味しそう。おれ、気になる。ハンス、行こう」
「え、あ、ああ、そうだな……」


「僕もモニカのおすすめとあらば行かざるを得ないなー!! ハンス君と行き先同じだなぁー!!」
「てめえぶっ殺す!!」







 こちらはパルズミールの紋章が刻まれた天幕。クラリアは特設の椅子に座って、包み焼きを片っ端から食している。


 そんな彼女の隣に座って、サラはミルクティーを飲みながら食事の様を眺めていた。



「レイチェルさん!! お代わり!!」
「はいよー!!」
「……これで十人前を食べ切ったことになるんだけど」
「まだまだ食い足りないぜー!! うおおおおおお!!」



 包み焼きの天幕の前には、クラリアを始めとした獣人の生徒が数多く並んでいる。やはりそれだけ、彼らに好まれている料理なのだろう。



「クラリアせんぱぁ~い、お疲れ様ですっ♪」
「んん!! メルセデス!! 久しぶりだな!! 元気してたか!!」
「はぁい! この平原で天幕張って暮らすのも、悪くないと思えてきました♪」
「そうか!! ところでこれ食え!!」

「えっ何ですかこれは」
「グラスホッパーの唐揚げ!!」
「ゲテモノ料理じゃねーかああああああ!!」





 ~メルセデスが奮闘しているが非情にも中略~





「ぜぇーっ、ぜぇーっ……」
「……お疲れ様」
「あざっすサラ先輩……クソっ。ここではおしとやかにしていたいんだよ……レイチェル様が来てらっしゃるんだから……」


 サラから差し入れられた水を飲み干し、ゲーッと鈍い溜息をつく。虫特有のえぐみが消えてくれない。


「兎耳だからやっぱり関係あるのかしら?」
「……実家がアグネビット家に仕える商人なんですよ」
「ああ、そういう」
「いつ消え去ってもおかしくない弱小商家だから、ここで媚びておこうと思ったのに……!! 話が違えよ!! イメージと違くて本当に困るわ!!」

「……それ、教えてもらっても?」
「え、イメージの件ですか? いいですけど先輩にチクらないでくださいね!?」
「それは当然」




 どこから来たのか、いつの間にかクラヴィルも隣に座り、クラリアと共に包み焼きを平らげている。クラリスとアネッサも同様だ。主君の食べっぷりに対して、半ばやけくそになっているようだが。


 その光景を視界に入れつつ、サラはメルセデスから話を聞く。




「……先輩、幼少期はかなりおしとやかだったらしいですよ? ドレスも大好きでピアノも得意。絵に描いたようなお嬢様だったって」
「想像つかないわね」
「アタシもです。んでもお母様が亡くなってしまって、それで性格が変わってしまったって」


「……亡くなった? 母親が?」
「そうです。お母様が亡くられたというのは聞いていました。でもその影響で性格が変わったってことは、アタシもつい最近知ったんですよ」
「珍しく真面目モード」
「うるせえよマレウス。でもまあ、何か不思議ですよね。クライヴ様は次期ロズウェリ家当主、クラヴィル様も凄腕の戦士として名を馳せているのに、一番下の先輩だけ社交関係が音沙汰ないって」


「本当にそうなのか両親に訊いてみたら、あんな性格になられていて驚きだって。何でもパルズミールの四貴族と呼ばれる方々としか交流がなかったとか……」
「……」



 あまりにも礼儀がなっていないので、表に出ることを禁じられた。これが最も有力。

 しかしそれでも、こっそり町に出たりとかして怒られそうなものだ。彼女の性格なら。



 それに母親が死んだという話は、本人の口から聞いたことがない。最もそれは、積極的に話すような話題ではないが。

 いずれにしても、今は――



「……アイツの過去を知れただけでもありがたいわ。お礼はアルブリアに戻ってからしてあげる」
「あざーっす!! でも何で先輩、急にこのこと知りたいって思ったんです?」
「それ訊くなら報酬無しよ」
「ひっで!!」



「おーい!!」



 クラリアが手を振って、こちらに呼びかけている。噂話に興じる時間は終わりだ。



「サラ、あとメーチェ!! いっぱい食った!! だから片付けを手伝え!!」
「はーっ、どうしてこうなるのかしら!」
「二十五枚! 先輩、凄い食べっぷりですねっ♪」
「真面目モードから媚びモードへ移行」
「うっせーぞこのトンチキ手鏡がァー!!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

異世界転生したプログラマー、魔法は使えないけれど魔法陣プログラミングで無双する?(ベータ版)

田中寿郎
ファンタジー
過労死したプログラマーは、気がついたら異世界に転生していた。魔力がゼロで魔法が使えなかったが、前世の記憶が残っていたので魔法のソースコードを解析して魔法陣をプログラミングして生きのびる・・・ ―――――――――――――――― 習作、ベータ版。 「残酷描写有り」「R15」 更新は不定期・ランダム コメントの返信は気まぐれです。全レスは致しませんのでご了承願います(コメント対応してるくらいなら続きを書くべきと思いますので) カクヨムにも連載しています。 ―――――――――――――――― ☆作者のスタイルとして、“戯曲風” の書き方をしています。(具体的にはセリフの前に名前が入ります。)あくまで “風” なので完全な台本形式ではありませんが。これに関しては私のスタイルとしてご了承願います。 個人的に戯曲が好きなんですよね。私は戯曲には抵抗はなく、むしろ面白いと感じるのです。 初めて読んだ戯曲はこれでしたね https://pandaignis.com/wp/66267.html 予想外に批判的な意見も多いので驚いたのですが、一作目を書き始める直前に、登場人物が8人も居るのにセリフの羅列で、誰が発言してるのかまったく分からないという作品を読みまして、このスタイルを選択しました(笑) やってみると、通常の書き方も、戯曲風も、どちらも一長一短あるなと思います。 抵抗がある方も多いようですが、まぁ慣れだと思うので、しばらく我慢して読んで頂ければ。 もし、どうしても合わないという方は、捨て台詞など残さずそっと閉じ(フォローを外し)して頂ければ幸いです。

【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました

鹿乃目めの
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。 ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。 失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。 主人公が本当の愛を手に入れる話。 独自設定のファンタジーです。実際の歴史や常識とは異なります。 さくっと読める短編です。 ※完結しました。ありがとうございました。 閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。 (次作執筆に集中するため、現在感想の受付は停止しております。感想を下さった方々、ありがとうございました)

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界に彩りを

なつのさんち
ファンタジー
前世から引き継いだ記憶を元に、男女比の狂った世界で娯楽文化を発展させつつお金儲けもしてハーレムも楽しむお話。 二十九歳、童貞。明日には魔法使いになってしまう。 勇気を出して風俗街へ、行く前に迷いを振り切る為にお酒を引っ掛ける。 思いのほか飲んでしまい、ふら付く身体でゴールデン街に渡る為の交差点で信号待ちをしていると、後ろから何者かに押されて道路に飛び出てしまい、二十九歳童貞はトラックに跳ねられてしまう。 そして気付けば赤ん坊に。 異世界へ、具体的に表現すると元いた世界にそっくりな並行世界へと転生していたのだった。 ヴァーチャル配信者としてスカウトを受け、その後世界初の男性顔出し配信者・起業投資家として世界を動かして行く事となる元二十九歳童貞男のお話。 ★★★ ★★★ ★★★ 本作はカクヨムに連載中の作品「Vから始める男女比一対三万世界の配信者生活:オタク文化で並行世界を制覇する!」のアルファポリス版となっております。 現在加筆修正を進めており、今後展開が変わる可能性もあるので、カクヨム版とアルファポリス版は別の世界線の別々の話であると思って頂ければと思います。

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です

処理中です...