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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦
第227話 あるいは運命の牢獄
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「ここがお城かぁ……」
「凄い、ステンドグラスとか変わらず残ってる」
「手入れはされているみたいだよ……ほら、あそこに」
城に入ってすぐ、正面に階段がある大広間に入る。リーシャとカタリナは、早速近くにいた考古学者に声をかけた。
「お兄さーん! ステンドグラスの掃除ですかー!?」
「んー!? そうだよー! 歴史ある物は、形を維持するために保存作業をしないといけないんだー! これも考古学者の仕事なんだよー!」
「そうなんですかー! ありがとうございまーす!」
手を振って一礼した後、改めて周囲を見回す。
「えーっと……扉がいくつかあるけど、全部侵入禁止になってるね」
「階段の上も、左右に行くことはできないみたい」
「じゃあ真っ直ぐ行くしかできないのかー」
「二階に謁見の間だっけ? きっと、このお城で一番凄い所だよね」
「んだねー。三階もあるみたいだけど、まあ侵入禁止だろうなあ」
「そうだよね……」
「うん……」
この辺でとうとう手前に視線を遣る二人。
「……」
そこではエリスが大階段の手前に立っており、
心ここに在らずといった表情で、やはり城内を見回している。
「……エリス」
「……」
「エリス」
「……」
「エリス! ねえ!」
「あっ……?」
耳元ではきはきと呼びかけ、肩を叩いたことでようやくエリスは我に返った。
「ううん……ちょっと、集中しすぎてたかな」
「集中……?」
「だってこのお城、すごいじゃん……」
「……」
そういうことならよかったと一息ついて、リーシャは大階段の一段目に足をかける。
「……エリス、無理はしないでね。今のエリス、この間のリーシャみたいだったよ」
「……そっか」
頭を振ってから、カタリナと共にエリスも階段を昇る。
(……運命の牢獄)
(わたしは知っている)
(毎月、美しい満月の日に)
君が私の所を訪れた理由は分かっている
×××××の話だろう?
(……)
わざわざ来てくれたんだ
その心意気に免じて、全てを話そう
(……いやだ)
でもそれを話すには、
私の部屋よりももっと相応しい場所がある
(……やめて)
さあおいで
(思い出したくない……!)
私のいる場所まで――
「わぁ……二階も広いなあ」
「長椅子に長机がいっぱい……あれは噴水かな」
「……待合所? みたい?」
「謁見の間って言うぐらいだから、ここには謁見待ちの人がいたのかなあ」
「ていうか、聖杯なのに謁見? どゆこと?」
「多分……凄すぎるから、王様と同じように扱われた、とか?」
(いたみがなくなるおまじない)
「座っちゃってみたりしてー。うっわごつごつする」
「そりゃあ千年も前の椅子だし……」
「昔の人は、ここに座って聖杯に何叶えてもらうか考えてたのかなあ」
(にんぎょう どうぐ しもべ どれい)
「……謁見の間行く?」
「行こうか。もうそれ以外に行く場所ないと思う」
「だよねえ。何か色んな所行けなくて、思ってたのと違う感じ」
(もう何回唱えたか 思い出せない)
「……」
「……ねえエリス、本当に大丈夫? さっきからずーっと黙ってるじゃん」
「あ……ううん、何でもない……」
頭を振り払って軽く笑った所で、友の姿を視界に収めた所で。
この感情はなくならない。精神の根底部分、魂に根付いている。
「それよりも、謁見の間、だよね……」
「……うん」
「そういう話をしてたけど……無理なら別に……」
「行こう、行こうか。きっとすごい物があるはずだよ」
エリスは足早に扉に向かい、そして開いた。
「ん……今、人影が見えたような」
「え……」
「気のせいじゃない? 私は見えなかったよ」
「うーん、そうかな……」
あの部屋に繋がる扉。あの時と同じ方法で。
「大丈夫? 扉重くない? 一緒にやる?」
「ううん……これ、一人でも頑張れば開けられるから……」
「そうなの……?」
――待っていたよ
あともう少しだ
そのまま真っ直ぐ進んでおいで
「うっ……」
遥か天井にある、創世の物語を綴った絵。
壁と床一面の装飾、敷かれた絨毯の跡。
最奥にある空間、そこに置いてあったであろう何か、今では風に晒されて、何であったかわからない物体。
全て、全てが滅び去って、遥か遠い歴史の――記憶の中。
「大きい部屋だなあ……」
「これは私のクラスのガリ勉君が話してたんだけどねー。このお城の壁や床から願いを叶える力を持つ魔力が発見されたから、聖杯の存在が証明されたんだって」
「付着していたってこと?」
「その通り。色んな所から発見されたらしいよ。で、一番多く発見されたのがこの謁見の間。それに次いで、三階にあるでっかい部屋と、一階にある部屋の一つが多かったんだってさ」
「ん……? ここが二階で、三階と一階。何だか一貫性がないね」
「そうなのー。ぶっちゃけ聖杯置いておくだけなら、三階って要らないんだよね。二階の謁見の間だけで十分なわけだし」
「一階の部屋って何があるんだろう……」
「後でルドミリア先生に訊いてみる?」
ここは運命の牢獄。
たった一人の囚人を閉じ込め、罪を償わせるだけの、虚構で形作られた空間。
警備はとても厳重で、故に逃げ場はない。
看守は囚人を好きに扱う権限を持つ。今宵は満月が狂おしい。
「う……」
「ああ……」
いたい、いたい、いたい
水に沈んで血を抜かれて 満月の美しい夜に
今この身体を駆け巡るのは
恐ろしい、けれども拒めない、束縛の夜の記憶
決して訪れない解放の朝――
いたいいたいいたいいたいいたい痛い痛い痛いいたい痛い痛いいたい痛い痛いいたい至い居たいいたいたいいたい痛い遺体いたい痛いいたいいたい板いいたいいたいいたい
「……エリス?」
「……! エリス! しっかりして!」
「わわっ、ひどい熱……! スノウ、冷やしてあげて!」
「りようかいなのでーす!」
「セバスン、ルドミリア先生呼んできて! あたし達は傍についているから……!」
「了解しましたぞ!」
いいことを教えてあげよう
『痛みがなくなるおまじない』だ
私の後に続けて言ってごらん
――くくくっ
ははははは……!
君はいい子だ
本当にいい子だ……
――君が私と×××××ことを、他の者に言ったのならば
君の大切な『××××××』の命は失われるだろう
わかるね?
君はこれからどうするべきか――
――ははっ、いい子だ
いい子にはたっぷりとご褒美をあげよう
「凄い、ステンドグラスとか変わらず残ってる」
「手入れはされているみたいだよ……ほら、あそこに」
城に入ってすぐ、正面に階段がある大広間に入る。リーシャとカタリナは、早速近くにいた考古学者に声をかけた。
「お兄さーん! ステンドグラスの掃除ですかー!?」
「んー!? そうだよー! 歴史ある物は、形を維持するために保存作業をしないといけないんだー! これも考古学者の仕事なんだよー!」
「そうなんですかー! ありがとうございまーす!」
手を振って一礼した後、改めて周囲を見回す。
「えーっと……扉がいくつかあるけど、全部侵入禁止になってるね」
「階段の上も、左右に行くことはできないみたい」
「じゃあ真っ直ぐ行くしかできないのかー」
「二階に謁見の間だっけ? きっと、このお城で一番凄い所だよね」
「んだねー。三階もあるみたいだけど、まあ侵入禁止だろうなあ」
「そうだよね……」
「うん……」
この辺でとうとう手前に視線を遣る二人。
「……」
そこではエリスが大階段の手前に立っており、
心ここに在らずといった表情で、やはり城内を見回している。
「……エリス」
「……」
「エリス」
「……」
「エリス! ねえ!」
「あっ……?」
耳元ではきはきと呼びかけ、肩を叩いたことでようやくエリスは我に返った。
「ううん……ちょっと、集中しすぎてたかな」
「集中……?」
「だってこのお城、すごいじゃん……」
「……」
そういうことならよかったと一息ついて、リーシャは大階段の一段目に足をかける。
「……エリス、無理はしないでね。今のエリス、この間のリーシャみたいだったよ」
「……そっか」
頭を振ってから、カタリナと共にエリスも階段を昇る。
(……運命の牢獄)
(わたしは知っている)
(毎月、美しい満月の日に)
君が私の所を訪れた理由は分かっている
×××××の話だろう?
(……)
わざわざ来てくれたんだ
その心意気に免じて、全てを話そう
(……いやだ)
でもそれを話すには、
私の部屋よりももっと相応しい場所がある
(……やめて)
さあおいで
(思い出したくない……!)
私のいる場所まで――
「わぁ……二階も広いなあ」
「長椅子に長机がいっぱい……あれは噴水かな」
「……待合所? みたい?」
「謁見の間って言うぐらいだから、ここには謁見待ちの人がいたのかなあ」
「ていうか、聖杯なのに謁見? どゆこと?」
「多分……凄すぎるから、王様と同じように扱われた、とか?」
(いたみがなくなるおまじない)
「座っちゃってみたりしてー。うっわごつごつする」
「そりゃあ千年も前の椅子だし……」
「昔の人は、ここに座って聖杯に何叶えてもらうか考えてたのかなあ」
(にんぎょう どうぐ しもべ どれい)
「……謁見の間行く?」
「行こうか。もうそれ以外に行く場所ないと思う」
「だよねえ。何か色んな所行けなくて、思ってたのと違う感じ」
(もう何回唱えたか 思い出せない)
「……」
「……ねえエリス、本当に大丈夫? さっきからずーっと黙ってるじゃん」
「あ……ううん、何でもない……」
頭を振り払って軽く笑った所で、友の姿を視界に収めた所で。
この感情はなくならない。精神の根底部分、魂に根付いている。
「それよりも、謁見の間、だよね……」
「……うん」
「そういう話をしてたけど……無理なら別に……」
「行こう、行こうか。きっとすごい物があるはずだよ」
エリスは足早に扉に向かい、そして開いた。
「ん……今、人影が見えたような」
「え……」
「気のせいじゃない? 私は見えなかったよ」
「うーん、そうかな……」
あの部屋に繋がる扉。あの時と同じ方法で。
「大丈夫? 扉重くない? 一緒にやる?」
「ううん……これ、一人でも頑張れば開けられるから……」
「そうなの……?」
――待っていたよ
あともう少しだ
そのまま真っ直ぐ進んでおいで
「うっ……」
遥か天井にある、創世の物語を綴った絵。
壁と床一面の装飾、敷かれた絨毯の跡。
最奥にある空間、そこに置いてあったであろう何か、今では風に晒されて、何であったかわからない物体。
全て、全てが滅び去って、遥か遠い歴史の――記憶の中。
「大きい部屋だなあ……」
「これは私のクラスのガリ勉君が話してたんだけどねー。このお城の壁や床から願いを叶える力を持つ魔力が発見されたから、聖杯の存在が証明されたんだって」
「付着していたってこと?」
「その通り。色んな所から発見されたらしいよ。で、一番多く発見されたのがこの謁見の間。それに次いで、三階にあるでっかい部屋と、一階にある部屋の一つが多かったんだってさ」
「ん……? ここが二階で、三階と一階。何だか一貫性がないね」
「そうなのー。ぶっちゃけ聖杯置いておくだけなら、三階って要らないんだよね。二階の謁見の間だけで十分なわけだし」
「一階の部屋って何があるんだろう……」
「後でルドミリア先生に訊いてみる?」
ここは運命の牢獄。
たった一人の囚人を閉じ込め、罪を償わせるだけの、虚構で形作られた空間。
警備はとても厳重で、故に逃げ場はない。
看守は囚人を好きに扱う権限を持つ。今宵は満月が狂おしい。
「う……」
「ああ……」
いたい、いたい、いたい
水に沈んで血を抜かれて 満月の美しい夜に
今この身体を駆け巡るのは
恐ろしい、けれども拒めない、束縛の夜の記憶
決して訪れない解放の朝――
いたいいたいいたいいたいいたい痛い痛い痛いいたい痛い痛いいたい痛い痛いいたい至い居たいいたいたいいたい痛い遺体いたい痛いいたいいたい板いいたいいたいいたい
「……エリス?」
「……! エリス! しっかりして!」
「わわっ、ひどい熱……! スノウ、冷やしてあげて!」
「りようかいなのでーす!」
「セバスン、ルドミリア先生呼んできて! あたし達は傍についているから……!」
「了解しましたぞ!」
いいことを教えてあげよう
『痛みがなくなるおまじない』だ
私の後に続けて言ってごらん
――くくくっ
ははははは……!
君はいい子だ
本当にいい子だ……
――君が私と×××××ことを、他の者に言ったのならば
君の大切な『××××××』の命は失われるだろう
わかるね?
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