ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦

第211話 勇士の凱旋

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「やった……!」
「イイイイイイイヨッシャアアアアアアアア!!!!」



 ブルーノが実況で叫んだのに続いて、観客席も沸き立つ。

 隣の生徒と共に喜び合う生徒達。アーサーも例外ではなく、イザークと肩を抱き合うのだが、



「……はっ!? くっ!?」
「何だぁアーサー顔真っ赤にしやがってよぉ~!? 暑かったか!? ん!?」
「い、いや……男同士で抱き合うなんて……!?」
「オメー今んなこと気にしてる場合か~!?!?」


 バシバシ肩を叩くイザーク。そんな二人の様子をエリスは微笑ましく見守っている。


「ふふっ……先輩、みんなかっこよかったね。わたしも熱くなっちゃった」
「そ、そうなのか」
「うん……くぅーっ」


 エリスが腕を伸ばす横で、マチルダとマイケルが立ち上がる。


「じゃあ僕らは失礼させてもらおうかな」
「友達を労ってこなくっちゃ!」
「いってらっしゃいです。マチルダ先輩にマイケル先輩、本当にありがとうございました」
「いいってことよー。んじゃっ!」



 軽快に駆けていく二人。見送った後、エリスは再び振り向く。



「さて……盛り上がっている所悪いけど。次はアーサー達の番だからね?」
「う゛っ……」
「……頑張るよ」
「そうこなくっちゃ。わたし、期待してるからね」







 こちらはグレイスウィルの司令本部。試合を終えたばかりの二年生が続々と集結し、試合に出場した生徒も応援に徹していた生徒も互いに労い合っている。



「いよーっ皆お疲れー!!」
「マチルダ! 見ていてくれました!?」
「ばーっちりだよ! 投げキッス来た時は恥ずかしすぎて死ぬかと思ったよ!」


 きゃっきゃとはしゃぎ合うアザーリアとマチルダを脇目に、マイケルはラディウスに声をかける。


「お疲れー。ほい、魔力水」
「どうも……あ、できれば二本持ってたりしない? フォルスにも頂戴な」
「あいよ」


 すかさず貰った水筒を、フォルスに手渡す。彼は音を立てて一気に飲み干した。


「はぁ……はぁ……うう」
「落ち着いた? 天幕に戻ったらゲルダ先生に診てもらおうな」
「……ああ」



「……魔術大麻中毒の治療、まだ続けてるんだっけ? 発作が収まらんこともあるのに、よく参戦したな」
「……」


「まっ、色々やらなくちゃいけない理由があるってことだ。それよりもさあ――」


 両手で顔を覆い、嘆くように俯くラディウス。


「あんのクズ野郎堂々と乱入してきやがって。お陰で肝がキンキンに冷えちまったよ……」
「投影映像が回っていない裏で色々あったんだな……ほい、慰め代わりのマジショ」
「どーも」


 ラディウスが額の汗を拭いながら、マジショをもしゃもしゃしていると――



「……ん、何か騒がしくなったな」
「今回のエム・ブイ・ピーの凱旋だ」



 三人が視線を向ける先には、


 意気揚々と凱旋するダレン――と大層満足気なマッカーソン。



「……イズエルトのエースも来てるんだけど」
「何か勢いで仲良くなっちゃったんじゃないの。どれ、声かけにいこう」
「そうだね、同じ課外活動のよしみってやつだ。フォルスはどうする?」

「……待ってる」
「オッケー。んじゃあ行ってくるわ」


 木陰から立ち上がり、二人は小屋の手前まで移動する。





「……ふう! やっと着いた! どれ、一旦休むか!」
「ああそう……」

「うずうずすんなって。ゆっくり行こうぜゆっくりとな?」
「……」


 ぎこちない様子で木陰にしゃがみ、きょろきょろと周囲を見回すマッカーソン。最後にはダレンに視線を合わせて、


「ねえ――」
「お疲れー」
「お疲れさーん」
「おおラディウス! 先に来ていたのか! あとマイケルも!」



「あっ……」



 二人が近付くや否や、笑顔で立ち上がるダレン。その様子を見て、マッカーソンは不機嫌そうに顔を窄める。



「ねえ、何か後ろのお坊ちゃん機嫌が悪そうだけど」
「む……」

「大方自分の友達を取られて悔しいんだろ。数少ない友達だと見た」
「ぐぅ……!」

「ひゃーこれだから貴族はわかりやすくて困る」
「てめ……!」



「すまない、ラディウスはこういう奴なんだ。口に衣を着せられないだけでいい奴なんだぞ?」
「……ダレンがそう言うなら、そうなんだろうな」


 ぶっと吹き出すラディウス。マッカーソンは殴りかかろうとしたが、ダレンが話題を切り替えたので止めた。


「んで……やろうぜ? 約束のやつを」
「あ……ああうん、そうだね。早くやろう」
「約束? 何のことだ?」



 成り行きを見守る二人の前で、


 ダレンとマッカーソンは、互いの鞘を交換して腰に収めた。



「……ガウェインとベルシラック。成程、そういうことか」
「互いの武勇を讃えて鞘を交換することに。そしてベルシラックの鞘を持ち帰ったガウェインは宮殿で讃えられた……これにて『鈍緑の騎士ベルシラック』の話はお終い、だな」
「役になりきるなら最後までやらないとな!」


 ダレンとマッカーソンが立ち上がるのと同時に、周囲の視線が一点に集められているのに気が付いた。


「おっと、これは……」
「もう一人のエム・ブイ・ピーの凱旋だ。いやどうなんだろう、最も頑張ったというよりは最後に全て持っていった感じがする」
「まっ、とにかく行こうぜ。こっちも客人を連れてきているらしい」




 森を割って進むのは、とんがり帽子を被った人間の生徒と、軽鎧に身を包んだ竜族の生徒。


 どちらも頬は煤だらけ、さらにあちこちに包帯や絆創膏の跡が。


 足取りは重そうだが、それすらも心地良く感じながら歩いているところだった。




「さあ着いたぞ……グレイスウィルの本拠地だ」
「え゛っ」

「君は私に送り届けられたことになるわけだな。ふん、ここでは私の勝ちだな」
「うぐぐぐ……」



 リリアンが悔しがっている暇は、仲間達が駆け付けてくるのを見ればすぐになくなる。

 ロシェとユージオ、それからジャミル。後は生徒会の仲間達が主となって駆け付けてきた。



「お疲れー! いやー、鮮やかだったな!」
「全く最後の最後で暴れやがりまして……まあ結果的には勝ったから、いいのかもしれないけど! どぉー!」
「リリアン、お疲れ様……あっ、エレナージュの方もいらっしゃったんですね。それなら一緒に治療をしましょう」


 ジャミルの腕の中には、青々とした薬草が詰められた籠が。


「ジャミルは薬草に詳しいからなー。特製配合で結構効くぞ!」
「それはつまり染みるという解釈をしてもよろし?」
「良薬であることの証明だよ。さあ、近くに座って」



 ジャミルは視線を近くの木陰に向け、リリアンとアストレアを促す。



「……ふ、ふん。薬草如き、なんてことはない……」
「は、はぁ。それはこっちの台詞だしぃ……」


 とか何とか言いながら木陰に座った。ご丁寧に正座をして。


「え、えーっと、じゃあ……やっていきますね」


 ジャミルは若干気まずいながらも、薬草を水で溶き、液体にしてから傷口に塗る。




「~~~~ッ!!!」
「ッ……!! ッ……!! ンッ……!!」
「……」



 二人は苦悶に満ちた表情を浮かべてはいるが、わかりやすい声をあげることはない。

 ついでに薬草を塗っている間、常に互いをちらちら観察している。



「……お前とアストレアの関係性が今はっきりとわかったわ」
「こんなわっかりやすいライバル関係、空想小説でしか見たことねえや」
「今目の前で起こっているだろ」



「おおーい!」



 手当を行っている五人の元に、やってくる人影。


 ダレン、ラディウス、マイケル、アザーリア、マチルダ。演劇部の五人にマッカーソンを加えた六人である。



「へへっ、こんな所にいたのかー。お疲れ!」
「お疲れさん、グレイスウィルのエース様。おや、イズエルトのエース様もいらっしゃるではありませんか」
「……ふふん」

「ちなみにエレナージュのエース様は現在薬草を塗りたくられております」
「……ッ!!」


 アストレアはダレンとマッカーソンの存在に気付いたようだが、やはり声は上げない。


「まあ! この薬草、かなり効きそうな色をしておりますわね!」
「僕が調合したんだ。これぐらいでしか役に立てないからね」
「んなこと言うなよ。お前も魔法具弄ったりするのに頑張ってくれたじゃねーか」
「それは……そうかなあ」
「もっと自信持てよ。あとお前らも薬草塗ってけ」
べたー



「ア゛っ!!! じみるっ!!!」
「っ……!! ああああああ!!」
「……こっちの男二人よ」


 ダレンとマッカーソンが悶え出した所で、ようやくリリアンとアストレアの手当が終わった。


「ぜぇー、ぜぇー……や、やるじゃない。薬草で悲鳴を上げないだなんて……」
「き、君もな……ぜぇ、ぜぇ……」
「お、お疲れ様です……」



 ジャミルが恭しく二人を見ていると、



「いやあ、大変いいものを見せてもらったよ。皆頑張ったな!」



 三年生の生徒が散々聞き慣れた声がした。





「……ああ、この声は」
「ハスター先生だな」
「うひょー! 先生お疲れ様ですー!」
「お疲れ様ですわー!」


 黄色いスカーフを巻いた姿を視界に捉えるや否や、すぐに駆け付けるダレンとアザーリア。


「ふふっ、特に君達は凄かったねえ。まるで演劇を観ているようだったよ」
「そりゃー演劇部ですからー!」
「ですわー!」
「そうかそうか。さて……」



 ハスターは爽やかな笑みを浮かべながら、リリアン達と距離を詰めてくる。



「お疲れ様。大層な活躍だったね?」
「いやあ……ありがとうございます」
「知り合いか?」

「えっとね、私のクラスの担任。ジェラルト・ハスター先生だよ」
「成程、先生でしたか。いつもリリアンがお世話になっています。エレナージュのアストレアです」
「世話になってるって何よー!?」



 ぷんぷん怒るリリアンを、ハスターは微笑ましく見守っている。

 そんな彼の視線はロシェとユージオに向けられた。



「……ま、ここは素直に感謝しとくよ」
「ははっ、難しいなあ君は」
「……」

「……おい皆! 何かあっちからいい匂いがするぜ!」



 ロシェの気を紛らわせるように、ユージオはある一点を指差す。



 そこではマチルダを筆頭にして、生徒達が焼き菓子を作っている所だった。



「折角だからご馳走になってこようぜ。それじゃ、失礼します!」
「あー待って私も行くー!」
「お、おい!? 何故私を引っ張っていくんだ!?」
「いいじゃん物はついでだ。来いよ!」



 四人の生徒が去っていく後ろ姿を、ハスターは笑みを崩さずに見守っていた。


 ロシェはそれに向かって心の中で舌を出す――勝負には勝って嬉しいが、彼の機嫌は悪くなったようだ。
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