218 / 247
第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦
第211話 勇士の凱旋
しおりを挟む
「やった……!」
「イイイイイイイヨッシャアアアアアアアア!!!!」
ブルーノが実況で叫んだのに続いて、観客席も沸き立つ。
隣の生徒と共に喜び合う生徒達。アーサーも例外ではなく、イザークと肩を抱き合うのだが、
「……はっ!? くっ!?」
「何だぁアーサー顔真っ赤にしやがってよぉ~!? 暑かったか!? ん!?」
「い、いや……男同士で抱き合うなんて……!?」
「オメー今んなこと気にしてる場合か~!?!?」
バシバシ肩を叩くイザーク。そんな二人の様子をエリスは微笑ましく見守っている。
「ふふっ……先輩、みんなかっこよかったね。わたしも熱くなっちゃった」
「そ、そうなのか」
「うん……くぅーっ」
エリスが腕を伸ばす横で、マチルダとマイケルが立ち上がる。
「じゃあ僕らは失礼させてもらおうかな」
「友達を労ってこなくっちゃ!」
「いってらっしゃいです。マチルダ先輩にマイケル先輩、本当にありがとうございました」
「いいってことよー。んじゃっ!」
軽快に駆けていく二人。見送った後、エリスは再び振り向く。
「さて……盛り上がっている所悪いけど。次はアーサー達の番だからね?」
「う゛っ……」
「……頑張るよ」
「そうこなくっちゃ。わたし、期待してるからね」
こちらはグレイスウィルの司令本部。試合を終えたばかりの二年生が続々と集結し、試合に出場した生徒も応援に徹していた生徒も互いに労い合っている。
「いよーっ皆お疲れー!!」
「マチルダ! 見ていてくれました!?」
「ばーっちりだよ! 投げキッス来た時は恥ずかしすぎて死ぬかと思ったよ!」
きゃっきゃとはしゃぎ合うアザーリアとマチルダを脇目に、マイケルはラディウスに声をかける。
「お疲れー。ほい、魔力水」
「どうも……あ、できれば二本持ってたりしない? フォルスにも頂戴な」
「あいよ」
すかさず貰った水筒を、フォルスに手渡す。彼は音を立てて一気に飲み干した。
「はぁ……はぁ……うう」
「落ち着いた? 天幕に戻ったらゲルダ先生に診てもらおうな」
「……ああ」
「……魔術大麻中毒の治療、まだ続けてるんだっけ? 発作が収まらんこともあるのに、よく参戦したな」
「……」
「まっ、色々やらなくちゃいけない理由があるってことだ。それよりもさあ――」
両手で顔を覆い、嘆くように俯くラディウス。
「あんのクズ野郎堂々と乱入してきやがって。お陰で肝がキンキンに冷えちまったよ……」
「投影映像が回っていない裏で色々あったんだな……ほい、慰め代わりのマジショ」
「どーも」
ラディウスが額の汗を拭いながら、マジショをもしゃもしゃしていると――
「……ん、何か騒がしくなったな」
「今回のエム・ブイ・ピーの凱旋だ」
三人が視線を向ける先には、
意気揚々と凱旋するダレン――と大層満足気なマッカーソン。
「……イズエルトのエースも来てるんだけど」
「何か勢いで仲良くなっちゃったんじゃないの。どれ、声かけにいこう」
「そうだね、同じ課外活動のよしみってやつだ。フォルスはどうする?」
「……待ってる」
「オッケー。んじゃあ行ってくるわ」
木陰から立ち上がり、二人は小屋の手前まで移動する。
「……ふう! やっと着いた! どれ、一旦休むか!」
「ああそう……」
「うずうずすんなって。ゆっくり行こうぜゆっくりとな?」
「……」
ぎこちない様子で木陰にしゃがみ、きょろきょろと周囲を見回すマッカーソン。最後にはダレンに視線を合わせて、
「ねえ――」
「お疲れー」
「お疲れさーん」
「おおラディウス! 先に来ていたのか! あとマイケルも!」
「あっ……」
二人が近付くや否や、笑顔で立ち上がるダレン。その様子を見て、マッカーソンは不機嫌そうに顔を窄める。
「ねえ、何か後ろのお坊ちゃん機嫌が悪そうだけど」
「む……」
「大方自分の友達を取られて悔しいんだろ。数少ない友達だと見た」
「ぐぅ……!」
「ひゃーこれだから貴族はわかりやすくて困る」
「てめ……!」
「すまない、ラディウスはこういう奴なんだ。口に衣を着せられないだけでいい奴なんだぞ?」
「……ダレンがそう言うなら、そうなんだろうな」
ぶっと吹き出すラディウス。マッカーソンは殴りかかろうとしたが、ダレンが話題を切り替えたので止めた。
「んで……やろうぜ? 約束のやつを」
「あ……ああうん、そうだね。早くやろう」
「約束? 何のことだ?」
成り行きを見守る二人の前で、
ダレンとマッカーソンは、互いの鞘を交換して腰に収めた。
「……ガウェインとベルシラック。成程、そういうことか」
「互いの武勇を讃えて鞘を交換することに。そしてベルシラックの鞘を持ち帰ったガウェインは宮殿で讃えられた……これにて『鈍緑の騎士ベルシラック』の話はお終い、だな」
「役になりきるなら最後までやらないとな!」
ダレンとマッカーソンが立ち上がるのと同時に、周囲の視線が一点に集められているのに気が付いた。
「おっと、これは……」
「もう一人のエム・ブイ・ピーの凱旋だ。いやどうなんだろう、最も頑張ったというよりは最後に全て持っていった感じがする」
「まっ、とにかく行こうぜ。こっちも客人を連れてきているらしい」
森を割って進むのは、とんがり帽子を被った人間の生徒と、軽鎧に身を包んだ竜族の生徒。
どちらも頬は煤だらけ、さらにあちこちに包帯や絆創膏の跡が。
足取りは重そうだが、それすらも心地良く感じながら歩いているところだった。
「さあ着いたぞ……グレイスウィルの本拠地だ」
「え゛っ」
「君は私に送り届けられたことになるわけだな。ふん、ここでは私の勝ちだな」
「うぐぐぐ……」
リリアンが悔しがっている暇は、仲間達が駆け付けてくるのを見ればすぐになくなる。
ロシェとユージオ、それからジャミル。後は生徒会の仲間達が主となって駆け付けてきた。
「お疲れー! いやー、鮮やかだったな!」
「全く最後の最後で暴れやがりまして……まあ結果的には勝ったから、いいのかもしれないけど! どぉー!」
「リリアン、お疲れ様……あっ、エレナージュの方もいらっしゃったんですね。それなら一緒に治療をしましょう」
ジャミルの腕の中には、青々とした薬草が詰められた籠が。
「ジャミルは薬草に詳しいからなー。特製配合で結構効くぞ!」
「それはつまり染みるという解釈をしてもよろし?」
「良薬であることの証明だよ。さあ、近くに座って」
ジャミルは視線を近くの木陰に向け、リリアンとアストレアを促す。
「……ふ、ふん。薬草如き、なんてことはない……」
「は、はぁ。それはこっちの台詞だしぃ……」
とか何とか言いながら木陰に座った。ご丁寧に正座をして。
「え、えーっと、じゃあ……やっていきますね」
ジャミルは若干気まずいながらも、薬草を水で溶き、液体にしてから傷口に塗る。
「~~~~ッ!!!」
「ッ……!! ッ……!! ンッ……!!」
「……」
二人は苦悶に満ちた表情を浮かべてはいるが、わかりやすい声をあげることはない。
ついでに薬草を塗っている間、常に互いをちらちら観察している。
「……お前とアストレアの関係性が今はっきりとわかったわ」
「こんなわっかりやすいライバル関係、空想小説でしか見たことねえや」
「今目の前で起こっているだろ」
「おおーい!」
手当を行っている五人の元に、やってくる人影。
ダレン、ラディウス、マイケル、アザーリア、マチルダ。演劇部の五人にマッカーソンを加えた六人である。
「へへっ、こんな所にいたのかー。お疲れ!」
「お疲れさん、グレイスウィルのエース様。おや、イズエルトのエース様もいらっしゃるではありませんか」
「……ふふん」
「ちなみにエレナージュのエース様は現在薬草を塗りたくられております」
「……ッ!!」
アストレアはダレンとマッカーソンの存在に気付いたようだが、やはり声は上げない。
「まあ! この薬草、かなり効きそうな色をしておりますわね!」
「僕が調合したんだ。これぐらいでしか役に立てないからね」
「んなこと言うなよ。お前も魔法具弄ったりするのに頑張ってくれたじゃねーか」
「それは……そうかなあ」
「もっと自信持てよ。あとお前らも薬草塗ってけ」
べたー
「ア゛っ!!! じみるっ!!!」
「っ……!! ああああああ!!」
「……こっちの男二人よ」
ダレンとマッカーソンが悶え出した所で、ようやくリリアンとアストレアの手当が終わった。
「ぜぇー、ぜぇー……や、やるじゃない。薬草で悲鳴を上げないだなんて……」
「き、君もな……ぜぇ、ぜぇ……」
「お、お疲れ様です……」
ジャミルが恭しく二人を見ていると、
「いやあ、大変いいものを見せてもらったよ。皆頑張ったな!」
三年生の生徒が散々聞き慣れた声がした。
「……ああ、この声は」
「ハスター先生だな」
「うひょー! 先生お疲れ様ですー!」
「お疲れ様ですわー!」
黄色いスカーフを巻いた姿を視界に捉えるや否や、すぐに駆け付けるダレンとアザーリア。
「ふふっ、特に君達は凄かったねえ。まるで演劇を観ているようだったよ」
「そりゃー演劇部ですからー!」
「ですわー!」
「そうかそうか。さて……」
ハスターは爽やかな笑みを浮かべながら、リリアン達と距離を詰めてくる。
「お疲れ様。大層な活躍だったね?」
「いやあ……ありがとうございます」
「知り合いか?」
「えっとね、私のクラスの担任。ジェラルト・ハスター先生だよ」
「成程、先生でしたか。いつもリリアンがお世話になっています。エレナージュのアストレアです」
「世話になってるって何よー!?」
ぷんぷん怒るリリアンを、ハスターは微笑ましく見守っている。
そんな彼の視線はロシェとユージオに向けられた。
「……ま、ここは素直に感謝しとくよ」
「ははっ、難しいなあ君は」
「……」
「……おい皆! 何かあっちからいい匂いがするぜ!」
ロシェの気を紛らわせるように、ユージオはある一点を指差す。
そこではマチルダを筆頭にして、生徒達が焼き菓子を作っている所だった。
「折角だからご馳走になってこようぜ。それじゃ、失礼します!」
「あー待って私も行くー!」
「お、おい!? 何故私を引っ張っていくんだ!?」
「いいじゃん物はついでだ。来いよ!」
四人の生徒が去っていく後ろ姿を、ハスターは笑みを崩さずに見守っていた。
ロシェはそれに向かって心の中で舌を出す――勝負には勝って嬉しいが、彼の機嫌は悪くなったようだ。
「イイイイイイイヨッシャアアアアアアアア!!!!」
ブルーノが実況で叫んだのに続いて、観客席も沸き立つ。
隣の生徒と共に喜び合う生徒達。アーサーも例外ではなく、イザークと肩を抱き合うのだが、
「……はっ!? くっ!?」
「何だぁアーサー顔真っ赤にしやがってよぉ~!? 暑かったか!? ん!?」
「い、いや……男同士で抱き合うなんて……!?」
「オメー今んなこと気にしてる場合か~!?!?」
バシバシ肩を叩くイザーク。そんな二人の様子をエリスは微笑ましく見守っている。
「ふふっ……先輩、みんなかっこよかったね。わたしも熱くなっちゃった」
「そ、そうなのか」
「うん……くぅーっ」
エリスが腕を伸ばす横で、マチルダとマイケルが立ち上がる。
「じゃあ僕らは失礼させてもらおうかな」
「友達を労ってこなくっちゃ!」
「いってらっしゃいです。マチルダ先輩にマイケル先輩、本当にありがとうございました」
「いいってことよー。んじゃっ!」
軽快に駆けていく二人。見送った後、エリスは再び振り向く。
「さて……盛り上がっている所悪いけど。次はアーサー達の番だからね?」
「う゛っ……」
「……頑張るよ」
「そうこなくっちゃ。わたし、期待してるからね」
こちらはグレイスウィルの司令本部。試合を終えたばかりの二年生が続々と集結し、試合に出場した生徒も応援に徹していた生徒も互いに労い合っている。
「いよーっ皆お疲れー!!」
「マチルダ! 見ていてくれました!?」
「ばーっちりだよ! 投げキッス来た時は恥ずかしすぎて死ぬかと思ったよ!」
きゃっきゃとはしゃぎ合うアザーリアとマチルダを脇目に、マイケルはラディウスに声をかける。
「お疲れー。ほい、魔力水」
「どうも……あ、できれば二本持ってたりしない? フォルスにも頂戴な」
「あいよ」
すかさず貰った水筒を、フォルスに手渡す。彼は音を立てて一気に飲み干した。
「はぁ……はぁ……うう」
「落ち着いた? 天幕に戻ったらゲルダ先生に診てもらおうな」
「……ああ」
「……魔術大麻中毒の治療、まだ続けてるんだっけ? 発作が収まらんこともあるのに、よく参戦したな」
「……」
「まっ、色々やらなくちゃいけない理由があるってことだ。それよりもさあ――」
両手で顔を覆い、嘆くように俯くラディウス。
「あんのクズ野郎堂々と乱入してきやがって。お陰で肝がキンキンに冷えちまったよ……」
「投影映像が回っていない裏で色々あったんだな……ほい、慰め代わりのマジショ」
「どーも」
ラディウスが額の汗を拭いながら、マジショをもしゃもしゃしていると――
「……ん、何か騒がしくなったな」
「今回のエム・ブイ・ピーの凱旋だ」
三人が視線を向ける先には、
意気揚々と凱旋するダレン――と大層満足気なマッカーソン。
「……イズエルトのエースも来てるんだけど」
「何か勢いで仲良くなっちゃったんじゃないの。どれ、声かけにいこう」
「そうだね、同じ課外活動のよしみってやつだ。フォルスはどうする?」
「……待ってる」
「オッケー。んじゃあ行ってくるわ」
木陰から立ち上がり、二人は小屋の手前まで移動する。
「……ふう! やっと着いた! どれ、一旦休むか!」
「ああそう……」
「うずうずすんなって。ゆっくり行こうぜゆっくりとな?」
「……」
ぎこちない様子で木陰にしゃがみ、きょろきょろと周囲を見回すマッカーソン。最後にはダレンに視線を合わせて、
「ねえ――」
「お疲れー」
「お疲れさーん」
「おおラディウス! 先に来ていたのか! あとマイケルも!」
「あっ……」
二人が近付くや否や、笑顔で立ち上がるダレン。その様子を見て、マッカーソンは不機嫌そうに顔を窄める。
「ねえ、何か後ろのお坊ちゃん機嫌が悪そうだけど」
「む……」
「大方自分の友達を取られて悔しいんだろ。数少ない友達だと見た」
「ぐぅ……!」
「ひゃーこれだから貴族はわかりやすくて困る」
「てめ……!」
「すまない、ラディウスはこういう奴なんだ。口に衣を着せられないだけでいい奴なんだぞ?」
「……ダレンがそう言うなら、そうなんだろうな」
ぶっと吹き出すラディウス。マッカーソンは殴りかかろうとしたが、ダレンが話題を切り替えたので止めた。
「んで……やろうぜ? 約束のやつを」
「あ……ああうん、そうだね。早くやろう」
「約束? 何のことだ?」
成り行きを見守る二人の前で、
ダレンとマッカーソンは、互いの鞘を交換して腰に収めた。
「……ガウェインとベルシラック。成程、そういうことか」
「互いの武勇を讃えて鞘を交換することに。そしてベルシラックの鞘を持ち帰ったガウェインは宮殿で讃えられた……これにて『鈍緑の騎士ベルシラック』の話はお終い、だな」
「役になりきるなら最後までやらないとな!」
ダレンとマッカーソンが立ち上がるのと同時に、周囲の視線が一点に集められているのに気が付いた。
「おっと、これは……」
「もう一人のエム・ブイ・ピーの凱旋だ。いやどうなんだろう、最も頑張ったというよりは最後に全て持っていった感じがする」
「まっ、とにかく行こうぜ。こっちも客人を連れてきているらしい」
森を割って進むのは、とんがり帽子を被った人間の生徒と、軽鎧に身を包んだ竜族の生徒。
どちらも頬は煤だらけ、さらにあちこちに包帯や絆創膏の跡が。
足取りは重そうだが、それすらも心地良く感じながら歩いているところだった。
「さあ着いたぞ……グレイスウィルの本拠地だ」
「え゛っ」
「君は私に送り届けられたことになるわけだな。ふん、ここでは私の勝ちだな」
「うぐぐぐ……」
リリアンが悔しがっている暇は、仲間達が駆け付けてくるのを見ればすぐになくなる。
ロシェとユージオ、それからジャミル。後は生徒会の仲間達が主となって駆け付けてきた。
「お疲れー! いやー、鮮やかだったな!」
「全く最後の最後で暴れやがりまして……まあ結果的には勝ったから、いいのかもしれないけど! どぉー!」
「リリアン、お疲れ様……あっ、エレナージュの方もいらっしゃったんですね。それなら一緒に治療をしましょう」
ジャミルの腕の中には、青々とした薬草が詰められた籠が。
「ジャミルは薬草に詳しいからなー。特製配合で結構効くぞ!」
「それはつまり染みるという解釈をしてもよろし?」
「良薬であることの証明だよ。さあ、近くに座って」
ジャミルは視線を近くの木陰に向け、リリアンとアストレアを促す。
「……ふ、ふん。薬草如き、なんてことはない……」
「は、はぁ。それはこっちの台詞だしぃ……」
とか何とか言いながら木陰に座った。ご丁寧に正座をして。
「え、えーっと、じゃあ……やっていきますね」
ジャミルは若干気まずいながらも、薬草を水で溶き、液体にしてから傷口に塗る。
「~~~~ッ!!!」
「ッ……!! ッ……!! ンッ……!!」
「……」
二人は苦悶に満ちた表情を浮かべてはいるが、わかりやすい声をあげることはない。
ついでに薬草を塗っている間、常に互いをちらちら観察している。
「……お前とアストレアの関係性が今はっきりとわかったわ」
「こんなわっかりやすいライバル関係、空想小説でしか見たことねえや」
「今目の前で起こっているだろ」
「おおーい!」
手当を行っている五人の元に、やってくる人影。
ダレン、ラディウス、マイケル、アザーリア、マチルダ。演劇部の五人にマッカーソンを加えた六人である。
「へへっ、こんな所にいたのかー。お疲れ!」
「お疲れさん、グレイスウィルのエース様。おや、イズエルトのエース様もいらっしゃるではありませんか」
「……ふふん」
「ちなみにエレナージュのエース様は現在薬草を塗りたくられております」
「……ッ!!」
アストレアはダレンとマッカーソンの存在に気付いたようだが、やはり声は上げない。
「まあ! この薬草、かなり効きそうな色をしておりますわね!」
「僕が調合したんだ。これぐらいでしか役に立てないからね」
「んなこと言うなよ。お前も魔法具弄ったりするのに頑張ってくれたじゃねーか」
「それは……そうかなあ」
「もっと自信持てよ。あとお前らも薬草塗ってけ」
べたー
「ア゛っ!!! じみるっ!!!」
「っ……!! ああああああ!!」
「……こっちの男二人よ」
ダレンとマッカーソンが悶え出した所で、ようやくリリアンとアストレアの手当が終わった。
「ぜぇー、ぜぇー……や、やるじゃない。薬草で悲鳴を上げないだなんて……」
「き、君もな……ぜぇ、ぜぇ……」
「お、お疲れ様です……」
ジャミルが恭しく二人を見ていると、
「いやあ、大変いいものを見せてもらったよ。皆頑張ったな!」
三年生の生徒が散々聞き慣れた声がした。
「……ああ、この声は」
「ハスター先生だな」
「うひょー! 先生お疲れ様ですー!」
「お疲れ様ですわー!」
黄色いスカーフを巻いた姿を視界に捉えるや否や、すぐに駆け付けるダレンとアザーリア。
「ふふっ、特に君達は凄かったねえ。まるで演劇を観ているようだったよ」
「そりゃー演劇部ですからー!」
「ですわー!」
「そうかそうか。さて……」
ハスターは爽やかな笑みを浮かべながら、リリアン達と距離を詰めてくる。
「お疲れ様。大層な活躍だったね?」
「いやあ……ありがとうございます」
「知り合いか?」
「えっとね、私のクラスの担任。ジェラルト・ハスター先生だよ」
「成程、先生でしたか。いつもリリアンがお世話になっています。エレナージュのアストレアです」
「世話になってるって何よー!?」
ぷんぷん怒るリリアンを、ハスターは微笑ましく見守っている。
そんな彼の視線はロシェとユージオに向けられた。
「……ま、ここは素直に感謝しとくよ」
「ははっ、難しいなあ君は」
「……」
「……おい皆! 何かあっちからいい匂いがするぜ!」
ロシェの気を紛らわせるように、ユージオはある一点を指差す。
そこではマチルダを筆頭にして、生徒達が焼き菓子を作っている所だった。
「折角だからご馳走になってこようぜ。それじゃ、失礼します!」
「あー待って私も行くー!」
「お、おい!? 何故私を引っ張っていくんだ!?」
「いいじゃん物はついでだ。来いよ!」
四人の生徒が去っていく後ろ姿を、ハスターは笑みを崩さずに見守っていた。
ロシェはそれに向かって心の中で舌を出す――勝負には勝って嬉しいが、彼の機嫌は悪くなったようだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる