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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦
第208話 因縁・前編
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「さあてやってきました、魔法学園対抗戦は武術戦の第三回目でございます! 実況はこのわたくし! 今大会ではお初となるグレイスウィルの超有名実況者、ブルーノがお送りします!」
「解説もグレイスウィルでお馴染みマッキーだよぉ。いやあ、あんなショッキングな出来事があったにも関わらず、続行できるなんて――」
「おっとマッキー、それは今ここで語ることではないぞ!! では早速今回の対戦カードを見てみようか!!」
「第三回戦で覇を競い合うのはグレイスウィル、エレナージュ、イズエルトの三つだ! マッキーはこのカードをどう見てるかな!?」
「レベルの高い拮抗状態、かなぁ。グレイスウィルのダレン、エレナージュのアストレア、イズエルトのマッカーソン。どの勢力にも強力な戦士がいて、しかも全員得意分野は剣術と来たもんだぁ。彼らが正面衝突するのか、それとも他の生徒に対応しに行くのか。この辺りの動きで戦況は大きく変わると思うよぉ」
「成程、つまり必然的に司令塔の腕が問われることになるな! 彼らはどんな策を考案してどのように動いていくのか、この辺りにもぜひ注目しておこう!」
「では改めてルールの確認だ! 制限時間は正午から午後三時までの三時間! その間全力で戦ってもらい、タイムアップの時に一番領土を占領していた魔法学園の勝利だ!」
「注意してほしいんだけどぉ、例え自分の領土が本拠地だけになっても試合は続行だよぉ。残りの時間で取り戻せるように頑張ってねぇ。あとは特に混み入った追加ルールもなしっ! これ武術戦だからっ! 力と力で殴り合えっ!」
「さあ試合開始まで十秒! 心の底から叫び上がる準備はいいかーい!?」
三、
二、
一、
試合ィィィィィ―― 開始ッ!!!
「うおおおおおおおお!!!!!」
角笛の音を合図に、ダレンを先頭にしたグレイスウィルの生徒達が、武器を担ぎ上げ前方に猛進していく。
「ちょっ、待て待て! さっきの勢いのまま行ってんじゃねーよ!!」
ロシェが慌てて指示を出す。
するとそれは、ダレンが腰に下げた伝声器から魔術を介して伝わってくる。
「ああ済まない! それで俺達はどこに行けばいい!?」
「先ずは周囲から制圧するぞ。北北西にフラッグライトがあるからそこに行け! いいか、ペースはゆったりと行くんだぞ! 最序盤に体力を消耗すんな!」
「了解!」
すぐさまダレンは翻して、
「というわけだ! 俺についてこい!」
「うおおおおおお!!」
小走りで数人規模の部隊を率いていった。
二十キロメートル三方の正三角形、その各辺の中央に点を打ち、直線で結ぶ。すると中に四つの正三角形が新たに生まれる。
中央の三角形はティンタジェル遺跡を取り囲む不可侵地帯。上の三角形がイズエルト、左下がエレナージュ、そしてグレイスウィルは右下。
各魔法学園の司令本部は、三角形の頂点の隅にある。
「……あいつら大丈夫かなあ……」
「意思疎通が行えるのなら大丈夫ですわ!」
「さらっと酷い言いようだなアザーリア」
「彼は普段からこんな調子ですもの!」
試合が始まるや否や中の生徒会役員達はてんやわんや。先程もロシェが引き留めなければ誰も対応できなかっただろう。
<試合経過二十分 残り二時間四十分>
「フラッグライトの数は三十……うち周囲の三個を……あ、今追加で一個制圧したな。いいペースじゃないか?」
「序盤はこんなものだって聞いています。まずは周囲を盤石にして、それから攻め込む」
「ふぅん……要はまだ気を緩めるなってことね」
次にロシェは投影器の方に目を向ける。
「狙撃部隊はまだ森で待機でいいんだよな」
「ああ、ついでに西側を偵察させておく感じで」
「いや……そうともいかないねぇ」
伝声器片手に投影器を凝視していたリリアンが、
「動きだしたよぉ……アストレア達は私達を倒りに来ている!」
舌を出して、右下の口元を舐める。
<試合経過四十分 残り時間二時間二十分>
「……止まれ」
アストレアが腕を伸ばし、続く生徒達を静止させる。
「森の中にいる……弓部隊が狙ってきているな」
「この鎧には小細工をしておいたはずなのに……」
「上方からの指令があったんだろう。西から攻めてきていると。これに気付けるのは――」
舌を出して左下の口元を舐めた後、アストレアは指令を飛ばす。
「……おい、あいつら急に方向変えたぞ?」
木陰に隠れ、弓を構えながら様子を窺う。リリアンからの指示によると、彼らはこの森を直進してくるとのことだが。
「多分こっちの動きを読んで方針を変えたんだろう。それならしばらくは――」
「気を、張らずに……!!」
剣峰で首を叩き、力を失わせる。
「うわああああ!! こっちっ、来るなっ……!!」
「ふん……」
「近距離に入ればこっちのものだ!!」
エレナージュの生徒達に為す術もなく伏していくグレイスウィルの生徒達――
息つく間もなく決着が着く。これが、本当の戦いだ。
「いいか皆、後で治療をしておくのを忘れるなよ。生死に関わる怪我をさせたら減点だからな?」
「あいよー!」
「ぐぅ……」
「すまないが、これは戦いなのでね。さて……」
草むらを掻き分けアストレアは進む。そして森のちょうど中央に目当てのフラッグライトが。
「ふっ……先ずはこちらの勝ちだな、リリアン!」
「くそっ……! 狙撃部隊がやられた! 第二十六フラッグライトが取られたぞ!」
「……あー!! 幻影魔法!? 武術戦で魔法使っていいのは補給部隊だけだよ!? 反則じゃない!?」
「いや、多分体格の近い者に変装させていたんだと思います。実際かつらを脱ぎ取る姿を見たと――」
その時ジャミルの近くにあった伝声器から、けたたましい鬨声が上がる。
よろめいて尻餅をついたジャミルの横を通り過ぎ、アザーリアがすかさず伝声器を手に取った。
「ダレン! 戦況を教えてくださる!?」
「ああ……! こちら第四前衛部隊! 現在イズエルトの部隊と交戦中――
ッ!!!」
「!! ダレン!! 応答して!? どうなっていますの!?」
「っ……こいつっ……!!」
伝声器を茫然と見つめるアザーリア。その背後でユージオが投影器を接続させる。
<試合経過五十分 残り時間二時間十分>
「はははっ! グレイスウィルのダレン! 噂には聞いていたけど、中々やるじゃないかぁ! この僕と対等に渡り合えるだなんて!!」
「……っ……!」
突如として来訪した襲撃者。水色と白が所々入ったデザインの鎧を着て、中でも彼は青をベースにした、一際目立つ鎧を着ていた。
周囲は魔術師達の魔法によって増設された岩場。その中で絢爛豪華な鎧を着た二人が剣を交わし合う様は、さながら神話の再現のよう。
「……っと! やっと投影器が仕事した……!!」
「あいつはマッカーソン! マッカーソン・フリズ・キャルヴン! イズエルトのいいとこの坊ちゃんか!」
「んぐっ!!」
「!? ダレン、あいつ大丈夫かよ!?」
膝を狙った一撃を、無理矢理上に飛び跳ねて回避。
その勢いで、内部強化をしていたナイトメア・リグレイが分離してしまう。
「しまっ……」
「どこを見ている!?」
明後日の方向を向いた首に、回し蹴りが入れられる。
「があああああああー……!!」
為す術なく地に顔を打ち付ける。ほんの少しだけ赤い液体が飛び散った。
ダレンが倒れ込む時、ある生徒が慌ててトーチライトを地面に叩き付けるのが目に入った。次は地面に覆われ真っ暗になる。
『ああ、満ち足りていく。わが身に纏いしこの毛皮が、きさまの痛刻に打ち震える。誇るがいい、きさまは強者だ。わが戦斧に屈する、数刻程前まではな!!』
高らかに口上を綴るマッカーソン。それに共鳴するように雄叫びを上げるイズエルトの生徒達。
一方のグレイスウィルの生徒達は、勢いに押され腰が引けてしまっていた。
「お、おいダレン……! 大丈夫か!?」
「……少し、きつい……!」
「……!!」
部隊を率いていたダレンが易々と敗れたことにより、他の生徒にも動揺が広がっていたようだった。
手を借りてダレンが起き上がれた頃には、マッカーソン達は数メートル先のフラッグライトに歩んでいっていた。
「ではダレンを叩きのめした証拠として、このフラッグライトは頂くとしよう。先程の戦いを見ただろう? 貴様らが勝てるはずがないのだから、大人しく投降を――」
「すると思ったかド阿呆さん?」
「……は?」
頭上を人影が通り過ぎたと思ったら、
「ごはっ!!!」
顔面から足裏の蹴りを受け、マッカーソンは頭から倒れ込む。
「その鎧は飾りなのかな~? ん~? カルスヘジンの真似っ子しておいてそれか~い?」
「てめ……!!」
見目麗しい黒コート、ラディウス率いる遊撃部隊が駆け付けてきたのだ。
彼らは細身の剣を構え、立ち塞がるように割って入る。
「おい!! 数人で取り囲め!! ナイトメアを引き剥がすんだ!!」
「そぅれは残念だねえ。僕のナイトメアさあ、クソクズゴミ野郎の監視にやっているから身体に入っていないんだよ」
「なっ……!? そんなことが……!?」
「あるんだよなあ、これが」
ラディウスは三回指を鳴らす。しかし彼の身体に異変は起ころうとはしない。
「わかったでしょ? つまりさっきのは僕の実力。どうするかい? タイマンするかい?」
「……っ」
マッカーソンは剣を振り下ろす手を止め、周囲の生徒に目線を送る。
「……深追いしても無意味だ。一旦引くぞ!」
「おっと予想外。もっと武功を上げるんだーとか言って、こっち向かってくんのかと思ったけど」
「ふん、貴様のような知らない奴に負けても、ダレンに勝った事実は変わらないからな。行くぞ!!」
すげすげと撤退していくイズエルト軍。ダレンは悔しそうにそれを見送りながら、ラディウスに近付く。
「……その、すまなかった」
「いいっていいって。あいつも相当の実力者だったってことだ。負け惜しみは鼻についたけど。しかし……」
目を細めて数メートル先を見回す。すると先程撤退していったイズエルトの生徒達が、点々と止まっていくのが目に入った。
「ある程度はこちらの動きに対応できるようにしてるね~……さて」
懐からトーチライトを出して叩き付け、腰の伝声器に手をかけた後、ラディウスはそれに声を送る。
「西にはエレナージュ、北からはイズエルト。僕らはこの後どう動けばいいのかな、指揮官様?」
<試合経過一時間 残り二時間>
目に見える戦況と、耳から入る戦況。
それらを照らし合わせて、そして頭を抱える。
「どうしますの? 西に行くか北に向かうか……」
「……私的には西を迎え撃ちたい。あいつらのペースにさせちゃ、いずれ手をつけられなくなる……」
「多分北に進んでる連中は、これ以上進めさせても返り討ちに遭うだけだ。あんなの見せられたら怖くなるっつーか。西のフラッグライトを攻め込ませて、様子を見る……か?」
「ん~……!!」
逡巡するように、悩ましい声を上げるリリアン。
その時時計を見遣ったロシェが、ぱんと手を叩いた。
「……ていうか試合開始から一時間経ったな。補給部隊を動かしてもいい頃だ」
「え、もう一時間!? フラッグライトの状況は!?」
「イズエルト八個、エレナージュ九個、グレイスウィル六個……だな。未制圧のはほぼ中央の三角に残ってる」
「うっわ~……! 負けてる!? おかしい、こんなはずじゃなかったのに!!」
「馬鹿言えまだ一時間だ!! 二時間あれば逆転は可能だ!!」
湿め切った空気を入れ替えるように、ユージオが叫ぶ。
「そのためにも補給部隊の準備をするぞ!! 俺が行っていいよな? 武術部だから体力には自信があるぜ!!」
「わたくしも手伝いますわ! 実家で手伝っていましたから手配は得意なんですの!」
「オッケー、じゃあそれで! 北に二つ、西に一つの編成で行こう!」
「「了解!!」」
ユージオとアザーリアを見送った後、リリアンは頬を手で叩く。
「う~そうよそうよ……まだまだ試合はこれから……へこんでなんかいらんない……」
「……」
その時ちょうどヴィクトールと目が合ったが、彼はすぐに視線を逸らした。
リリアンは気にせず笑う。叫びまくって乾いた声を添えながら。
どう見ても疲弊しているのに、この状況を楽しんでいる。
「……どう? これが生の戦い。ブレイズなんかに頼んない正々堂々真剣勝負。……凄いでしょ?」
「……」
彼はまだ何も言えず、俯いたままだった。
「解説もグレイスウィルでお馴染みマッキーだよぉ。いやあ、あんなショッキングな出来事があったにも関わらず、続行できるなんて――」
「おっとマッキー、それは今ここで語ることではないぞ!! では早速今回の対戦カードを見てみようか!!」
「第三回戦で覇を競い合うのはグレイスウィル、エレナージュ、イズエルトの三つだ! マッキーはこのカードをどう見てるかな!?」
「レベルの高い拮抗状態、かなぁ。グレイスウィルのダレン、エレナージュのアストレア、イズエルトのマッカーソン。どの勢力にも強力な戦士がいて、しかも全員得意分野は剣術と来たもんだぁ。彼らが正面衝突するのか、それとも他の生徒に対応しに行くのか。この辺りの動きで戦況は大きく変わると思うよぉ」
「成程、つまり必然的に司令塔の腕が問われることになるな! 彼らはどんな策を考案してどのように動いていくのか、この辺りにもぜひ注目しておこう!」
「では改めてルールの確認だ! 制限時間は正午から午後三時までの三時間! その間全力で戦ってもらい、タイムアップの時に一番領土を占領していた魔法学園の勝利だ!」
「注意してほしいんだけどぉ、例え自分の領土が本拠地だけになっても試合は続行だよぉ。残りの時間で取り戻せるように頑張ってねぇ。あとは特に混み入った追加ルールもなしっ! これ武術戦だからっ! 力と力で殴り合えっ!」
「さあ試合開始まで十秒! 心の底から叫び上がる準備はいいかーい!?」
三、
二、
一、
試合ィィィィィ―― 開始ッ!!!
「うおおおおおおおお!!!!!」
角笛の音を合図に、ダレンを先頭にしたグレイスウィルの生徒達が、武器を担ぎ上げ前方に猛進していく。
「ちょっ、待て待て! さっきの勢いのまま行ってんじゃねーよ!!」
ロシェが慌てて指示を出す。
するとそれは、ダレンが腰に下げた伝声器から魔術を介して伝わってくる。
「ああ済まない! それで俺達はどこに行けばいい!?」
「先ずは周囲から制圧するぞ。北北西にフラッグライトがあるからそこに行け! いいか、ペースはゆったりと行くんだぞ! 最序盤に体力を消耗すんな!」
「了解!」
すぐさまダレンは翻して、
「というわけだ! 俺についてこい!」
「うおおおおおお!!」
小走りで数人規模の部隊を率いていった。
二十キロメートル三方の正三角形、その各辺の中央に点を打ち、直線で結ぶ。すると中に四つの正三角形が新たに生まれる。
中央の三角形はティンタジェル遺跡を取り囲む不可侵地帯。上の三角形がイズエルト、左下がエレナージュ、そしてグレイスウィルは右下。
各魔法学園の司令本部は、三角形の頂点の隅にある。
「……あいつら大丈夫かなあ……」
「意思疎通が行えるのなら大丈夫ですわ!」
「さらっと酷い言いようだなアザーリア」
「彼は普段からこんな調子ですもの!」
試合が始まるや否や中の生徒会役員達はてんやわんや。先程もロシェが引き留めなければ誰も対応できなかっただろう。
<試合経過二十分 残り二時間四十分>
「フラッグライトの数は三十……うち周囲の三個を……あ、今追加で一個制圧したな。いいペースじゃないか?」
「序盤はこんなものだって聞いています。まずは周囲を盤石にして、それから攻め込む」
「ふぅん……要はまだ気を緩めるなってことね」
次にロシェは投影器の方に目を向ける。
「狙撃部隊はまだ森で待機でいいんだよな」
「ああ、ついでに西側を偵察させておく感じで」
「いや……そうともいかないねぇ」
伝声器片手に投影器を凝視していたリリアンが、
「動きだしたよぉ……アストレア達は私達を倒りに来ている!」
舌を出して、右下の口元を舐める。
<試合経過四十分 残り時間二時間二十分>
「……止まれ」
アストレアが腕を伸ばし、続く生徒達を静止させる。
「森の中にいる……弓部隊が狙ってきているな」
「この鎧には小細工をしておいたはずなのに……」
「上方からの指令があったんだろう。西から攻めてきていると。これに気付けるのは――」
舌を出して左下の口元を舐めた後、アストレアは指令を飛ばす。
「……おい、あいつら急に方向変えたぞ?」
木陰に隠れ、弓を構えながら様子を窺う。リリアンからの指示によると、彼らはこの森を直進してくるとのことだが。
「多分こっちの動きを読んで方針を変えたんだろう。それならしばらくは――」
「気を、張らずに……!!」
剣峰で首を叩き、力を失わせる。
「うわああああ!! こっちっ、来るなっ……!!」
「ふん……」
「近距離に入ればこっちのものだ!!」
エレナージュの生徒達に為す術もなく伏していくグレイスウィルの生徒達――
息つく間もなく決着が着く。これが、本当の戦いだ。
「いいか皆、後で治療をしておくのを忘れるなよ。生死に関わる怪我をさせたら減点だからな?」
「あいよー!」
「ぐぅ……」
「すまないが、これは戦いなのでね。さて……」
草むらを掻き分けアストレアは進む。そして森のちょうど中央に目当てのフラッグライトが。
「ふっ……先ずはこちらの勝ちだな、リリアン!」
「くそっ……! 狙撃部隊がやられた! 第二十六フラッグライトが取られたぞ!」
「……あー!! 幻影魔法!? 武術戦で魔法使っていいのは補給部隊だけだよ!? 反則じゃない!?」
「いや、多分体格の近い者に変装させていたんだと思います。実際かつらを脱ぎ取る姿を見たと――」
その時ジャミルの近くにあった伝声器から、けたたましい鬨声が上がる。
よろめいて尻餅をついたジャミルの横を通り過ぎ、アザーリアがすかさず伝声器を手に取った。
「ダレン! 戦況を教えてくださる!?」
「ああ……! こちら第四前衛部隊! 現在イズエルトの部隊と交戦中――
ッ!!!」
「!! ダレン!! 応答して!? どうなっていますの!?」
「っ……こいつっ……!!」
伝声器を茫然と見つめるアザーリア。その背後でユージオが投影器を接続させる。
<試合経過五十分 残り時間二時間十分>
「はははっ! グレイスウィルのダレン! 噂には聞いていたけど、中々やるじゃないかぁ! この僕と対等に渡り合えるだなんて!!」
「……っ……!」
突如として来訪した襲撃者。水色と白が所々入ったデザインの鎧を着て、中でも彼は青をベースにした、一際目立つ鎧を着ていた。
周囲は魔術師達の魔法によって増設された岩場。その中で絢爛豪華な鎧を着た二人が剣を交わし合う様は、さながら神話の再現のよう。
「……っと! やっと投影器が仕事した……!!」
「あいつはマッカーソン! マッカーソン・フリズ・キャルヴン! イズエルトのいいとこの坊ちゃんか!」
「んぐっ!!」
「!? ダレン、あいつ大丈夫かよ!?」
膝を狙った一撃を、無理矢理上に飛び跳ねて回避。
その勢いで、内部強化をしていたナイトメア・リグレイが分離してしまう。
「しまっ……」
「どこを見ている!?」
明後日の方向を向いた首に、回し蹴りが入れられる。
「があああああああー……!!」
為す術なく地に顔を打ち付ける。ほんの少しだけ赤い液体が飛び散った。
ダレンが倒れ込む時、ある生徒が慌ててトーチライトを地面に叩き付けるのが目に入った。次は地面に覆われ真っ暗になる。
『ああ、満ち足りていく。わが身に纏いしこの毛皮が、きさまの痛刻に打ち震える。誇るがいい、きさまは強者だ。わが戦斧に屈する、数刻程前まではな!!』
高らかに口上を綴るマッカーソン。それに共鳴するように雄叫びを上げるイズエルトの生徒達。
一方のグレイスウィルの生徒達は、勢いに押され腰が引けてしまっていた。
「お、おいダレン……! 大丈夫か!?」
「……少し、きつい……!」
「……!!」
部隊を率いていたダレンが易々と敗れたことにより、他の生徒にも動揺が広がっていたようだった。
手を借りてダレンが起き上がれた頃には、マッカーソン達は数メートル先のフラッグライトに歩んでいっていた。
「ではダレンを叩きのめした証拠として、このフラッグライトは頂くとしよう。先程の戦いを見ただろう? 貴様らが勝てるはずがないのだから、大人しく投降を――」
「すると思ったかド阿呆さん?」
「……は?」
頭上を人影が通り過ぎたと思ったら、
「ごはっ!!!」
顔面から足裏の蹴りを受け、マッカーソンは頭から倒れ込む。
「その鎧は飾りなのかな~? ん~? カルスヘジンの真似っ子しておいてそれか~い?」
「てめ……!!」
見目麗しい黒コート、ラディウス率いる遊撃部隊が駆け付けてきたのだ。
彼らは細身の剣を構え、立ち塞がるように割って入る。
「おい!! 数人で取り囲め!! ナイトメアを引き剥がすんだ!!」
「そぅれは残念だねえ。僕のナイトメアさあ、クソクズゴミ野郎の監視にやっているから身体に入っていないんだよ」
「なっ……!? そんなことが……!?」
「あるんだよなあ、これが」
ラディウスは三回指を鳴らす。しかし彼の身体に異変は起ころうとはしない。
「わかったでしょ? つまりさっきのは僕の実力。どうするかい? タイマンするかい?」
「……っ」
マッカーソンは剣を振り下ろす手を止め、周囲の生徒に目線を送る。
「……深追いしても無意味だ。一旦引くぞ!」
「おっと予想外。もっと武功を上げるんだーとか言って、こっち向かってくんのかと思ったけど」
「ふん、貴様のような知らない奴に負けても、ダレンに勝った事実は変わらないからな。行くぞ!!」
すげすげと撤退していくイズエルト軍。ダレンは悔しそうにそれを見送りながら、ラディウスに近付く。
「……その、すまなかった」
「いいっていいって。あいつも相当の実力者だったってことだ。負け惜しみは鼻についたけど。しかし……」
目を細めて数メートル先を見回す。すると先程撤退していったイズエルトの生徒達が、点々と止まっていくのが目に入った。
「ある程度はこちらの動きに対応できるようにしてるね~……さて」
懐からトーチライトを出して叩き付け、腰の伝声器に手をかけた後、ラディウスはそれに声を送る。
「西にはエレナージュ、北からはイズエルト。僕らはこの後どう動けばいいのかな、指揮官様?」
<試合経過一時間 残り二時間>
目に見える戦況と、耳から入る戦況。
それらを照らし合わせて、そして頭を抱える。
「どうしますの? 西に行くか北に向かうか……」
「……私的には西を迎え撃ちたい。あいつらのペースにさせちゃ、いずれ手をつけられなくなる……」
「多分北に進んでる連中は、これ以上進めさせても返り討ちに遭うだけだ。あんなの見せられたら怖くなるっつーか。西のフラッグライトを攻め込ませて、様子を見る……か?」
「ん~……!!」
逡巡するように、悩ましい声を上げるリリアン。
その時時計を見遣ったロシェが、ぱんと手を叩いた。
「……ていうか試合開始から一時間経ったな。補給部隊を動かしてもいい頃だ」
「え、もう一時間!? フラッグライトの状況は!?」
「イズエルト八個、エレナージュ九個、グレイスウィル六個……だな。未制圧のはほぼ中央の三角に残ってる」
「うっわ~……! 負けてる!? おかしい、こんなはずじゃなかったのに!!」
「馬鹿言えまだ一時間だ!! 二時間あれば逆転は可能だ!!」
湿め切った空気を入れ替えるように、ユージオが叫ぶ。
「そのためにも補給部隊の準備をするぞ!! 俺が行っていいよな? 武術部だから体力には自信があるぜ!!」
「わたくしも手伝いますわ! 実家で手伝っていましたから手配は得意なんですの!」
「オッケー、じゃあそれで! 北に二つ、西に一つの編成で行こう!」
「「了解!!」」
ユージオとアザーリアを見送った後、リリアンは頬を手で叩く。
「う~そうよそうよ……まだまだ試合はこれから……へこんでなんかいらんない……」
「……」
その時ちょうどヴィクトールと目が合ったが、彼はすぐに視線を逸らした。
リリアンは気にせず笑う。叫びまくって乾いた声を添えながら。
どう見ても疲弊しているのに、この状況を楽しんでいる。
「……どう? これが生の戦い。ブレイズなんかに頼んない正々堂々真剣勝負。……凄いでしょ?」
「……」
彼はまだ何も言えず、俯いたままだった。
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彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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