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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦

第172話 触媒販売会・後編

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 リーシャが暴走するのと前後して、エリス達も会場の外庭に到着していた頃だった。



「……はあ。色々あるなあ」
「二年生はここに並んでいる物から選べば間違いないぞ。基本でベーシックでスタンダードなやつが勢揃いだ」
「ぐぎゃぎゃ~。もう歩けるから離して~」


 屋台の一つに到着した後、ローザはソラを引っ張ってその中に入る。ネムリンとブレイヴは裏に回って在庫の整理を始めた。


「というわけで、へいらっしゃい。いいもん取り揃えているよ」



 ローザが両手を広げて商品を見せる。そこにあったのは木や金属でできた杖の山だった。

 更に屋台の向こう側が騒がしいのを見て、顎をしゃくった。



「あっちには属性強化や系統強化の物があるが、間違ってそれを手にしてしまうとああなる」
「……ってあれ、リーシャじゃん。何かこう……杖に振り回されている感じする」
「一属性一系統特化だと、ちょっとの魔力を流し込んでも高威力の魔法が放出されるからな。その点ここにあるのは、全ての魔法に対して均等な補助をしてくれる。扱いやすいってことさ」

「あと触媒って杖以外にもあるんじゃなかった?」
「ああ、向こうにバングルやアンクレットタイプの触媒売ってる屋台あるぞ。でも魔法を上達させたいなら先ずは杖で練習するに限るぜ限るぜ」
「本当に……色んなタイプの触媒が売られているんですね」
「そうだろう? というのもな、この販売会はウィングレー家の研究発表も兼ねてるんだわ」

「えっそうなの!? 僕そんな話初耳だよ!?」
「そう、我々が開発した新性能の触媒を試してもらってデータを得るための販売会でもあるのだよ!」



 そう後ろから声をかけてきたのはルドミリア。彼女の隣には、ルシュドが悩ましい表情を浮かべながらついてきていた。



「ルドミリア先生、こんにちは」
「ふふっ、こんにちは。今日は教師としてではなく、ウィングレーの領主としてここに来ているぞ。まあ君達にしてみればそんなことは些細なことだろうがな!」
「……うう……」


 ルシュドは何度も腕組みをしたり、頭を抱えたりと非常に不安定な様子だった。


「……オマエは何があったんだよ、ルシュド」
「ああ、彼が屋台の前で考え込んでいるのを見かけてな。ちょっとばかし私がアドバイスをしていた所だ」
「そう言って七年生でも理解できないような魔術理論でも話したんでしょう」

「まだ彼は二年生なのにそんなこと言ってもわからないだろう。そうではなくて、触媒の製造過程から生まれる性能差について説明していたんだ。君達もいいか、この杖一本一本に我らウィングレー家の宮廷魔術師と歴戦の杖職人の技術が込められていてな……」
「さー皆見ていってくださいねー!!」


 ソラが声を張り上げてルドミリアの話を遮る。その間にイザークがルシュドを引っ張って商品の前に立たせた。


「ここにあるのは基本のやつで、誰でも使えるってさ。だからルシュドもここから選べば大丈夫だぜ」
「そ、そうか……」



「おや、ここにある杖はウィングレー産ではないな」
「流石ルドミリア様、やっぱりわかるんですねえ。この杖は第二階層に店を構える職人、あとアールイン家の魔術師が作ったのもちょっと入ってます」
「するとトレックの奴が一枚噛んでいるのもあるということか」


 ルドミリアは杖を一本手に取り、穴が空くように観察している。


「トレック様が監修しているやつはあっちの屋台で販売しています。『ウェンディゴ謹製らくらく氷属性強化杖』とかなんとかほざいてました」
「……さっきリーシャが持ってたやつってそれかなあ」


 杖を一本一本手に取って観察しながら、エリスは隣のアーサーに目を向ける。


「ねえアーサー、アーサーも触媒買うんだからね。自分は剣を触媒にするんだーとか、そんなこと思わないでね?」
「……ああ。とはいえ、多すぎて迷うな……」
「ならこれとかどうだどうだ」


 ローザはけやきでできた杖をアーサーに差し出す。


「アダムスっていう職人が作った杖だ。この人が作った触媒は常に品質が安定してるんだよな~」
「あっ覚えてる! 僕とロザリンが触媒買った時、お揃いでこの職人さんのを買ったよね!」
「そうだっけ? あ、そういえばそうだったかもしれない」
「何その返事~!」
「ふむ……」



 アーサーは渡された杖の他に、別の杖を一本持ち上げ見比べる。

 一方でソラがローザを茶化していると、カタリナが一本の杖を差し出してきた。



「あの、これはどうでしょうか」
「ん、どれどれ……ブラックオークか。これ腐りにくくて長持ちするんだよな。それに加えて放つ魔法に僅かだが毒耐性が付与されるぞ。色も深めでシックだし、まあいいんじゃないか?」
「あ、ありがとうございます」


 続いてエリス達も、選んだ杖をローザに差し出す。


「ローザさーん、わたしはこれでー。トネリコでーす」
「おおっ、神秘の木。何かこの木目が神聖さを感じさせるよな。ちなみに木の幹や枝にも魔力が溜まりやすくて、それを抽出したドリンクが身体にいいと専ら評判。まあ高級食材なんだけどな」


「オレも決まったぞ。イチイだ」
「木製の練習用武器にも使われる素材だな。お前は武器使ってそうだし、きっと手に馴染んだんだろうな。だが馴染むって大事なことだぞ、ずっと使っていくんだからな」


「ボクはこれ! 鉄のやつ!」
「金属製かー。ビジュアルがかっこいいからって選ぶ男子が結構多いんだよな。でも市場に出回りだしたの結構最近なんだぜ。金属は魔術的加工が難しいって言われてたのに、技術の進歩って凄いな。はいルドミリア様大変素晴らしいドヤ顔ありがとうございます」


「えっと、お、おれは、これだ。木、燃える、鉄、熱い。だから……えーっと、ミスリル?」
「おっミスリルか~。これは木にも金属にもない質感を出せるんだよな。お前が言っているように燃えないし熱くならないのが長所。まあその分値段が若干高いが、こういう買い物は奮発しても構わないと思うな私は」

「そうそう、これに使われているやつは魔力で錬成した人工品なんだ。天然産は貴重な上加工が難しいからな。おっとルドミリア様二度目のドヤ顔もお美しいですよ」




 すらすらと解説を進めていくローザを、ソラは憧景の眼差しで見つめる。




「……何だよお前」
「いやあ……ロザリンって、本当に宮廷魔術師なんだなあって……あの、女子力皆無のロザリンが……」


「さあお前ら!!! 触媒選んだら買う前に試し撃ちだ!!! ここにいるソラ先生がアドバイスしてくれるから行ってこい!!!」
「えっちょっ待って「はーい」「了解」「ういーっす」「わかりました」「わ、わかった」


「わーーーー!! 無垢なる十の瞳が僕を取り囲むうううーーー!!」



 逃げる隙も無くソラはアーサーに捕まり、そのまま一緒に連れていかれた。



「……何だか楽しそうだな、今日の君は」
「ぐははははーーーーッ! でもトレック様には内緒にしていてくださいよぉーーーーーッ!?」
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