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第1章3節 学園生活/楽しい三学期
第150話 騎士と学生・女編
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日は更に過ぎ、祭日の前日の日曜日まで進む。エリスとリーシャが約束を取り付けられた日になった。
「……それで、ここで待ち合わせするように言われたわけだけど」
「そろそろ来るかなー?」
「うんしよ、うんしよ……なのですう」
「スノウごめんね? 重たいなら無理しないでいいよ?」
「ナイトメアたるものこれぐらい、なのです!」
チョコレートを作るべく家にいる者と、チョコレートの買い出しに出かけている者。二つが大体同じぐらいの数なのか、祭日の前日だからといって、城下町に変わった様子は特になかった。
そんな街並みを見ながら待っていると、管轄区の中から、ゆったりとしたワンピースに身を包んだレーラがやってくる。
「ああ、二人共。お待たせしたわね」
「あっ、レーラさん……と、コボルト?」
「おうおう、お主らが噂の。ワイはあの爆走メシマズ娘のナイトメアやってるロイっつーもんや」
「誰がメシマズだってぇー!?!?」
「事実やろがいな!!」
二人の後ろからウェンディが合流する。ラズベリー色の髪を短くまとめ、耳朶の下にリング状に整えてある。服装はタータンチェックのミニスカートに、胸元に紐状のリボンが付いたブラウス。小柄な体格も相まって、騎士には到底思えない程可愛らしい。
「去年どないなったかワイは一生忘れはせんぞぉ!!!」
「あれは不慮の事故だってばぁ!!!」
「小麦粉と卵が混ざった所に火の魔力結晶ぶち込むのを不慮とは言わせんぞ!!!」
ロイの発言にエリスとリーシャが唖然とした所に、レーラが補足する。
「……それで、寮で休んでいた騎士が全員出計らうことになって。あちこちに粉がこびりついて大変だったわ……」
「そ、そんなことが……」
「だから今回は手伝ってくれて本当にありがとう……!!! これで大惨事は避けられる!!! さあ、早速騎士寮に行きましょうか!!!」
普段学生が研鑽大会を行っている闘技場の横に、騎士寮は建設されている。道にはすっかり葉を散らした木々が並び、堅牢な外装に僅かばかりの彩りを与えている。
「うちのお部屋によーこそー!」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔しますっ」
「おじやまなのです!」
「……あら、珍しい。片付けしてたのね」
「そりゃー先輩はともかく、外部の方をお部屋に入れるんですからね!」
玄関で靴を脱ぎ、下駄箱に入れてから上がる。そこは六畳半の至って普通のワンルーム。ベッド、クローゼット、タンスといった生活に必要な家具は一通り揃っている。
「よし、じゃあ台所に食材を置いて、早速やっていきましょうか」
「え、でも折角来てもらったことだし、、お茶でもしてから作らない?」
「それはいいかも。私達も学生さんには、訊きたいこととかあるし」
「そいじゃあワイがアップルティーでも入れるとするかい」
「そんなあ、うちがやるよ! この部屋の主はうちだ「おまんは下がっとれい!!」
やる気に溢れたウェンディを押しのけて、ロイが台所に立つ。湯沸かしから茶葉の選別まで、使用人のような丁寧さで一挙一動をこなしていく。
「凄い……あーもうダメだな、コボルトなのにって思っちゃう」
「安心せい、ワイもこんなんガラじゃねえんや。ただ主君がヘッポコなせいで、こうしないとやってらんないだけなんや」
「誰がヘッポコだってぇー!?」
「事実やろがい!!! お前さんカイルの野郎に話しかけようとしてなんべん失敗したぁ!?」
「ぎゃーーーー!! その話はしないでーーーー!!!」
「おっとお? その話知りたいです!」
「まま、お茶でもしながらゆっくりとしていただければ……」
「あ゛ーーーー!!!」
「ブッハ!! コイツ自分から墓穴掘ってやがんの!! さあできたで、持ってきな!!」
「お茶も恋バナもごちになりまーす!!」
それぞれ湯気の立ったティーカップをロイから受け取り、リビングに戻っていく。
時計回りに、ウェンディ、リーシャ、レーラ、エリスの順で座る。位置関係の都合上、ウェンディはカイルとの件について、両側に座ってきたぴっちぴちの学生二人に圧迫されながら問い詰められることになった。
「さあさあ、言っちゃってくださいよぉ~」
「……ううー……」
「言わないとずっとこのままですよぉ?」
「ああー……」
「あんまりにも日が暮れちゃうとー、私達帰っちゃいますよぉー?」
「ぷぎゃあ……」
「カイル君に……美味しいチョコレート、作りたくないんですかぁ~?」
「うわあああ……!!」
頭を抱え、時々掻きながら狼狽えるウェンディ。その隣で腹を抱えて笑っているロイを、スノウが冷めた目で見つめている。
「……はい。もう観念します。関係性を告白しますぅ……」
「よし。ではでは……」
学生二人はアップルティーを口に含み、聴く体勢に入った。
「……うちとぉ、カイル君はぁ、同期なんですぅ……」
「へえー、そうなんですかぁ。それでその後は~?」
「……騎士団に入るとぉ、新入団員の合同訓練があってぇ……うちとぉ、カイル君はぁ、同じ班でぇ……」
「ふんふん、なるほど。その訓練で助けられたとか、そんな感じですか?」
「……うちの成績、へっぽこで……でもカイル君は、百点満点でぇ……」
「おいコイツ今自分をヘッポコって認めたぞ」
「うるさーい!!! おまえは静かにしてろー!!!」
顔を真っ赤にして怒鳴ったり語ったりする後輩の姿を、レーラは両肘をつきながら見守っている。
「……カイル君、嫌味一つ言わずに、うちのこと助けてくれて……うちが今騎士やれてるのも、カイル君のおかげでぇ……だから、うちもカイル君の……役に、立ちたくて……」
「はーなるほどなるほど、健気ですなあ。それが一周回って恋心に発展しちゃったとぉ」
「ううー……そ、そんな感じぃ……ああー!!」
ウェンディはアップルティーを一気に飲み干し、テーブルの上にあったクッキーを口に一気に詰める。むせる。
「うぇっへっへっへっへぇ!!!」
「キモいで」
「うるひゃい!!!」
「……まあ、そういうことね。この子は健気な恋心を抱いてはいるけど、運が悪かったり勇気がなかったりで大体失敗してる。あまりにも見てられないから、私が応援してるってわけ」
「そうなんですか……」
エリスとリーシャもクッキーを口に入れる。しっとりとしたチョコチップクッキーだ。
「レーラ先輩は何でもできる人なんですよぉ。同族のよしみって言って、本当に良くしてもらってぇ……」
「同族?」
「あらいけない、肝心なこと言うの忘れてた。私とこの子は魚人なのよ」
「え、そうなんですか!?」
「うふふ……変化の魔法が上手だから、ねっ」
レーラはそう言って、髪を掻き上げてみせる。それがゆっくりと元に戻っていく様は、静かに流れる滝のようだ。
「私は純血の魚人で、この子は混血。血の混ざり具合の違いはあるけれど、同じ種族には変わりないから。それでいてへっぽこなものだから、何だか世話を焼きたくなっちゃって」
「……」
「……」
「……あら、見惚れちゃった? わかりやすい所は年頃って感じね。って、ウェンディも見惚れてどうするの」
今度は右目を、学生二人に向かって嫋やかに閉じてみせる。
「……そうだ! そういうレーラ先輩はどうなんですか!」
「え、私?」
「確かに。ウェンディさんにだけ話させるのは不公平ですね」
「というかうちも聞いたことないんですよ、先輩の恋愛事情! これもいい機会ですしぃ、話してくださいよぉ!」
「う~ん……」
レーラは目を閉じて考え込む。そうすること約十秒。
「……私のような、行き遅れた人間よりも……」
「……貴女達のような、若い人のお話を聞いた方が、余程有益じゃない?」
そう言って、艶やかな視線をエリスに向ける。
「……えっ? そういうバトンの渡し方します!?」
「むむむ……何だかはぐらかされた気もしますけど、これも報復じゃー! キュンキュンピュアピュアな学生の恋愛事情を話せ話せー!」
ウェンディは机をばんばん叩き、加えてすっかり寝返ったリーシャの視線も追い打ちをかけてくる。
「うっへっへえ。さあさあ話してくださいよぉ、アーサー君とのことぉ……」
「ちょっとー!! 名前言わないでよリーシャー!!」
「アーサー君って言うんだね! 騎士王伝説みたいでかっこいい名前だねっ!!」
今度はウェンディが身体を乗り出し、目を輝かせている。
「うー……あー……」
エリスは唸りながら少しずつひねり出す。
「……その、アーサーは……いつも近くにいる子で……」
「ふんふん?」
「……いつも落ち着いていて……」
「ほうほう?」
「……表情もあまり変えることなくて……」
「ははーん、クールってやつですなぁ?」
「そう、そうなん、です……けど……」
「けどぉ~?」
「……」
頭の中に次々と浮かぶ、普段から見慣れた姿。
しかし何がそうさせるのか、その姿を言葉にさせることを阻んでいく。
そうして何度も頭の中で逡巡していくうちに――
「……ああっ!」
考えるのをやめ、俯いていた顔を上げる。苺に負けないぐらい真っ赤だ。
「えっと、とにかく! いつもそばにいてくれてありがとうって、そういう気持ちでチョコレートを渡すんです! 終わり!!!」
そう言ってアップルティーを流し込み、クッキーを急いで口に詰める。むせる。
「けほっ! けほっ!!」
「さっきも見たで」
「うるさいですー!!」
「あっはっは! エリスちゃんもピチピチな出会いしてるんだね~!」
「はいはい、どうもどうも! さあ次はリーシャの番だよ!」
「えっ!?」
「お~ま~え~な~あ~……わたしだけ犠牲にして逃げられると思うなよー!?」
エリスはリーシャに詰め寄り、顔を両手でぺちぺち叩く。
「え~っ、そんなこと言われてもぉ……私もよく知らない人なんだってぇ……」
「騎士様なら何か知ってるかもしれないよぉ~?」
「そうそう! 遠慮しないで言ってみてよ~!」
「そ、そんな、言えないってばぁ~!」
今度はエリスとウェンディがリーシャを追い込む番。レーラはその光景を、一歩引いて微笑ましく見守っているだけである。
そんなこんなで乙女達の恋愛話は、太陽が頂点に昇り切るまで続いたのだった。
「……それで、ここで待ち合わせするように言われたわけだけど」
「そろそろ来るかなー?」
「うんしよ、うんしよ……なのですう」
「スノウごめんね? 重たいなら無理しないでいいよ?」
「ナイトメアたるものこれぐらい、なのです!」
チョコレートを作るべく家にいる者と、チョコレートの買い出しに出かけている者。二つが大体同じぐらいの数なのか、祭日の前日だからといって、城下町に変わった様子は特になかった。
そんな街並みを見ながら待っていると、管轄区の中から、ゆったりとしたワンピースに身を包んだレーラがやってくる。
「ああ、二人共。お待たせしたわね」
「あっ、レーラさん……と、コボルト?」
「おうおう、お主らが噂の。ワイはあの爆走メシマズ娘のナイトメアやってるロイっつーもんや」
「誰がメシマズだってぇー!?!?」
「事実やろがいな!!」
二人の後ろからウェンディが合流する。ラズベリー色の髪を短くまとめ、耳朶の下にリング状に整えてある。服装はタータンチェックのミニスカートに、胸元に紐状のリボンが付いたブラウス。小柄な体格も相まって、騎士には到底思えない程可愛らしい。
「去年どないなったかワイは一生忘れはせんぞぉ!!!」
「あれは不慮の事故だってばぁ!!!」
「小麦粉と卵が混ざった所に火の魔力結晶ぶち込むのを不慮とは言わせんぞ!!!」
ロイの発言にエリスとリーシャが唖然とした所に、レーラが補足する。
「……それで、寮で休んでいた騎士が全員出計らうことになって。あちこちに粉がこびりついて大変だったわ……」
「そ、そんなことが……」
「だから今回は手伝ってくれて本当にありがとう……!!! これで大惨事は避けられる!!! さあ、早速騎士寮に行きましょうか!!!」
普段学生が研鑽大会を行っている闘技場の横に、騎士寮は建設されている。道にはすっかり葉を散らした木々が並び、堅牢な外装に僅かばかりの彩りを与えている。
「うちのお部屋によーこそー!」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔しますっ」
「おじやまなのです!」
「……あら、珍しい。片付けしてたのね」
「そりゃー先輩はともかく、外部の方をお部屋に入れるんですからね!」
玄関で靴を脱ぎ、下駄箱に入れてから上がる。そこは六畳半の至って普通のワンルーム。ベッド、クローゼット、タンスといった生活に必要な家具は一通り揃っている。
「よし、じゃあ台所に食材を置いて、早速やっていきましょうか」
「え、でも折角来てもらったことだし、、お茶でもしてから作らない?」
「それはいいかも。私達も学生さんには、訊きたいこととかあるし」
「そいじゃあワイがアップルティーでも入れるとするかい」
「そんなあ、うちがやるよ! この部屋の主はうちだ「おまんは下がっとれい!!」
やる気に溢れたウェンディを押しのけて、ロイが台所に立つ。湯沸かしから茶葉の選別まで、使用人のような丁寧さで一挙一動をこなしていく。
「凄い……あーもうダメだな、コボルトなのにって思っちゃう」
「安心せい、ワイもこんなんガラじゃねえんや。ただ主君がヘッポコなせいで、こうしないとやってらんないだけなんや」
「誰がヘッポコだってぇー!?」
「事実やろがい!!! お前さんカイルの野郎に話しかけようとしてなんべん失敗したぁ!?」
「ぎゃーーーー!! その話はしないでーーーー!!!」
「おっとお? その話知りたいです!」
「まま、お茶でもしながらゆっくりとしていただければ……」
「あ゛ーーーー!!!」
「ブッハ!! コイツ自分から墓穴掘ってやがんの!! さあできたで、持ってきな!!」
「お茶も恋バナもごちになりまーす!!」
それぞれ湯気の立ったティーカップをロイから受け取り、リビングに戻っていく。
時計回りに、ウェンディ、リーシャ、レーラ、エリスの順で座る。位置関係の都合上、ウェンディはカイルとの件について、両側に座ってきたぴっちぴちの学生二人に圧迫されながら問い詰められることになった。
「さあさあ、言っちゃってくださいよぉ~」
「……ううー……」
「言わないとずっとこのままですよぉ?」
「ああー……」
「あんまりにも日が暮れちゃうとー、私達帰っちゃいますよぉー?」
「ぷぎゃあ……」
「カイル君に……美味しいチョコレート、作りたくないんですかぁ~?」
「うわあああ……!!」
頭を抱え、時々掻きながら狼狽えるウェンディ。その隣で腹を抱えて笑っているロイを、スノウが冷めた目で見つめている。
「……はい。もう観念します。関係性を告白しますぅ……」
「よし。ではでは……」
学生二人はアップルティーを口に含み、聴く体勢に入った。
「……うちとぉ、カイル君はぁ、同期なんですぅ……」
「へえー、そうなんですかぁ。それでその後は~?」
「……騎士団に入るとぉ、新入団員の合同訓練があってぇ……うちとぉ、カイル君はぁ、同じ班でぇ……」
「ふんふん、なるほど。その訓練で助けられたとか、そんな感じですか?」
「……うちの成績、へっぽこで……でもカイル君は、百点満点でぇ……」
「おいコイツ今自分をヘッポコって認めたぞ」
「うるさーい!!! おまえは静かにしてろー!!!」
顔を真っ赤にして怒鳴ったり語ったりする後輩の姿を、レーラは両肘をつきながら見守っている。
「……カイル君、嫌味一つ言わずに、うちのこと助けてくれて……うちが今騎士やれてるのも、カイル君のおかげでぇ……だから、うちもカイル君の……役に、立ちたくて……」
「はーなるほどなるほど、健気ですなあ。それが一周回って恋心に発展しちゃったとぉ」
「ううー……そ、そんな感じぃ……ああー!!」
ウェンディはアップルティーを一気に飲み干し、テーブルの上にあったクッキーを口に一気に詰める。むせる。
「うぇっへっへっへっへぇ!!!」
「キモいで」
「うるひゃい!!!」
「……まあ、そういうことね。この子は健気な恋心を抱いてはいるけど、運が悪かったり勇気がなかったりで大体失敗してる。あまりにも見てられないから、私が応援してるってわけ」
「そうなんですか……」
エリスとリーシャもクッキーを口に入れる。しっとりとしたチョコチップクッキーだ。
「レーラ先輩は何でもできる人なんですよぉ。同族のよしみって言って、本当に良くしてもらってぇ……」
「同族?」
「あらいけない、肝心なこと言うの忘れてた。私とこの子は魚人なのよ」
「え、そうなんですか!?」
「うふふ……変化の魔法が上手だから、ねっ」
レーラはそう言って、髪を掻き上げてみせる。それがゆっくりと元に戻っていく様は、静かに流れる滝のようだ。
「私は純血の魚人で、この子は混血。血の混ざり具合の違いはあるけれど、同じ種族には変わりないから。それでいてへっぽこなものだから、何だか世話を焼きたくなっちゃって」
「……」
「……」
「……あら、見惚れちゃった? わかりやすい所は年頃って感じね。って、ウェンディも見惚れてどうするの」
今度は右目を、学生二人に向かって嫋やかに閉じてみせる。
「……そうだ! そういうレーラ先輩はどうなんですか!」
「え、私?」
「確かに。ウェンディさんにだけ話させるのは不公平ですね」
「というかうちも聞いたことないんですよ、先輩の恋愛事情! これもいい機会ですしぃ、話してくださいよぉ!」
「う~ん……」
レーラは目を閉じて考え込む。そうすること約十秒。
「……私のような、行き遅れた人間よりも……」
「……貴女達のような、若い人のお話を聞いた方が、余程有益じゃない?」
そう言って、艶やかな視線をエリスに向ける。
「……えっ? そういうバトンの渡し方します!?」
「むむむ……何だかはぐらかされた気もしますけど、これも報復じゃー! キュンキュンピュアピュアな学生の恋愛事情を話せ話せー!」
ウェンディは机をばんばん叩き、加えてすっかり寝返ったリーシャの視線も追い打ちをかけてくる。
「うっへっへえ。さあさあ話してくださいよぉ、アーサー君とのことぉ……」
「ちょっとー!! 名前言わないでよリーシャー!!」
「アーサー君って言うんだね! 騎士王伝説みたいでかっこいい名前だねっ!!」
今度はウェンディが身体を乗り出し、目を輝かせている。
「うー……あー……」
エリスは唸りながら少しずつひねり出す。
「……その、アーサーは……いつも近くにいる子で……」
「ふんふん?」
「……いつも落ち着いていて……」
「ほうほう?」
「……表情もあまり変えることなくて……」
「ははーん、クールってやつですなぁ?」
「そう、そうなん、です……けど……」
「けどぉ~?」
「……」
頭の中に次々と浮かぶ、普段から見慣れた姿。
しかし何がそうさせるのか、その姿を言葉にさせることを阻んでいく。
そうして何度も頭の中で逡巡していくうちに――
「……ああっ!」
考えるのをやめ、俯いていた顔を上げる。苺に負けないぐらい真っ赤だ。
「えっと、とにかく! いつもそばにいてくれてありがとうって、そういう気持ちでチョコレートを渡すんです! 終わり!!!」
そう言ってアップルティーを流し込み、クッキーを急いで口に詰める。むせる。
「けほっ! けほっ!!」
「さっきも見たで」
「うるさいですー!!」
「あっはっは! エリスちゃんもピチピチな出会いしてるんだね~!」
「はいはい、どうもどうも! さあ次はリーシャの番だよ!」
「えっ!?」
「お~ま~え~な~あ~……わたしだけ犠牲にして逃げられると思うなよー!?」
エリスはリーシャに詰め寄り、顔を両手でぺちぺち叩く。
「え~っ、そんなこと言われてもぉ……私もよく知らない人なんだってぇ……」
「騎士様なら何か知ってるかもしれないよぉ~?」
「そうそう! 遠慮しないで言ってみてよ~!」
「そ、そんな、言えないってばぁ~!」
今度はエリスとウェンディがリーシャを追い込む番。レーラはその光景を、一歩引いて微笑ましく見守っているだけである。
そんなこんなで乙女達の恋愛話は、太陽が頂点に昇り切るまで続いたのだった。
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