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第1章3節 学園生活/楽しい三学期

第143話 突撃離れの友人宅・後編

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 イザークとリーシャの悲痛な叫びは、当然外で待機していた六人の耳にも入ってくる。


「ふん、見たことか」
「調子乗った報いよ」


「……んあ? アタシなんで外で立って寝てたんだ?」
「おれ、ベッド、寝てた。外、いる、わからない」
「あっ、今の悲鳴で完全に起きたみたいだ」
「結果オーライ……じゃないよね、マイナスが大きすぎる気が……」



 そこで玄関の扉が音を立てて開かれ、睨視するエリスと目が合う。



「うわあ、こんなにいたよ……八人揃って朝からなあに?」
「エリス、俺はあの馬鹿二人に頼まれただけなんだ。一緒に来ないと妨害すると脅されて仕方なくやったんだ。だから見逃してはくれないか」
「ワタシも右の生徒会役員に同じなのよ許しなさい」
「率先して逃げに出やがったよこいつら。あっぼくは傍観者なので無罪で」

「……ごめんなさい。あたし、エリスのこと知りたいなって思って、それで……」
「何が何だか事情がさっぱりだぜ? どうしてアタシはこんな所にいるんだ?」
「おれ、クラリア、同じ」



「……」


 エリスは扉の前で思案する。朝を知らせる鳥の囀りが、朝風に乗って届いてきた。


「……何かもう、いいや。とりあえず入っちゃってよ」





「うぎゃぎゃぎゃうびょぉ……」
「んひぃ……」


「……これはすごい。結局何をしたの?」
「動けなくなる程度に強い魔力を流した」
「なるほど。そして今は何をしているの」
「こいつが原因だったようだから罰を与えている」
「ワフーン!! ワッフーン!!」



 イザークとリーシャは完全に伸びており、ソファーの上に放り出されていた。アーサーはリビングの隅に移動して、カヴァスを取り押さえ毛並みを逆立てている所だった。


 そこに外の六人も続々と入ってくる。



「失礼しま~す……」
「ここ、エリス、アーサー、家? 凄い」


「うーあーどうしよう……せっかく来てもらったのに、何も出さないっていうのもちょっと……」
「俺は好きにしてもらって構わない」
「ん~……じゃあ紅茶でも入れようかな……」
「ならばこの馬鹿共のナイトメアに任せるのはどうだろうか」



 ヴィクトールに次いでアーサーが、イザークとリーシャの身体を睨み付ける。するとサイリとスノウが怯えを見せながら出てきた。



「――」
「そ、その……」
「主君の責任は騎士の責任でもある」
「でも……」
「早く行かなければ主君のような惨状になるぞ」
「はっ、はいなのです!!」

「場所わかるよねー? さっきからねー?」
「ももももちろんなのでーす!!」




 サイリとスノウが台所に駆け込むのを見送った後、ようやく本題に突入する。イザークとリーシャも会話ができる程度には回復していた。




「えっとね。わたしとアーサーは色々ありまして。入学する時にここで生活するように言われたんです」
「色々ですかぁ~……」
「そう色々。それは死んだはずの父親が敵勢力に拾われて生きていたとか、村人として生活していた自分が実は神の血を引いた勇者だったとか、それと同じぐらい重要でやばいことです。なので言えません」
「言えないなら仕方ないねぇ……」


 そこにサイリとスノウが紅茶を淹れて戻ってきて、一人一人に手渡す。


「えっと、この二人の分はどうするのです……」
「あー……淹れてあげていいよ」
「マジっすか?」
「本当にいいの?」
「うん。そりゃまあ怒りもしたけれど……いつかは言わないといけないことだったから」



 エリスは紅茶に口を付ける。アーサーもカヴァスを放してやってから頷いた。



「……そうだな。それも……そうだな」
「うん。その……わたしとアーサーはね、少し特別な所があって。だから……それを気軽に言って、他の人との関係がどうなるか、わかんない所があって。でも……みんなになら、言ってもいいかなって」



「……そうだなぁ~! ボクら秘密を共有している仲だもんなぁ~!」
「そうそう秘密ねぇ~……うえっへっへ……」


 イザークとリーシャが気持ち悪い声で笑う。まだ痺れが残っているのかへろへろの声色である。


「まあいいんじゃない~? 友達の知らない一面を知れたってことで今回はさ~!」
「何かいい話風にまとめようとしてるけど、その気になればばいしょーきんをせいきゅーできるんですからね~?」
「この度は貴女様とアーサー様の聖域たる家屋に許可も取らず侵入してしまい、誠に申し訳ございませんでした」


 リーシャが意味もなく美しい土下座を披露している間に、スノウが彼女の身体に撤収していった。


「そういえばさっきカヴァスが原因って言ってたの、あれどういうこと?」
「ここの存在をばらし、不法侵入を唆したらしい」
「大体合ってるからフォローできねえ」
「ヴァオンッ!」
「噛むなあ!! 噛み付くなああ!!」


 足先を噛まれて悶えるイザークを横目に、エリスは時計を確認する。


「……っていうかさ。今日って普通に授業あるじゃん。もう七時だよ。こんな所で油売ってないで戻りなよ」
「でもまあそれはエリスもだろ?」
「わたしは……いいの。まだアーサーが風邪ひいてるから。今日もお休み」
「あれ? エリスが風邪ひいたんじゃないの?」
「あーうんもー……それ話すとまた長いから、続きはまた今度! ほら早く帰って帰って!」


「おれ、紅茶、まだ、ある」
「だって。まだ時間あるから話できるね!!」
「いいよそんなの! 残しちゃっても! ここにある物だもん、わたしが洗います!」
「ええそんなぁ、不法侵入までしたのに紅茶をいただいてしまって……非常に申し訳が立たない!!! せめてティーカップは洗って返すよぉ!!! だからその間に風邪のお話をば!!!」
「もーっ、早く帰りなさーい!!」


「あ~……叫び散らかしやがって、頭痛くなってきたわ。アナタ達が何をしようとも、ワタシはもう帰るわよ」
「アタシは美味いもん食えるってんならここに残るぜー!」
「アナタも授業あるでしょうが何言ってるの」
「あたしも……まあ、帰っていいかな……」
「帰る派が大多数なの面白すぎるだろ。まあぼくは残るもんね~。一緒に残ってヴィクトールの奴を遅刻させてやる!」



 そう言い放ったハンスが横に視線を向けると、アーサーがヴィクトールのことを気にしているようだった。



「……」
「全く……病人の家で騒ぎ立てるなど」
「……」


「……先程から何故俺を見つめている」
「……あんたもその騒ぎに付き合っているんだなと思った」
「これは脅迫されたから仕方なくだ。俺自身が興味を持ってやってきたわけではない……ふん」


 ズボンのポケットから不織布の包みを取り出したヴィクトールは、そこから溜息と共に暗い緑色の丸薬を取り出す。


「俺が普段服用している薬だ。効くぞ」
「……あんたが心配してくれるとはな。その好意、貰っておこう」



「おいヴィクトール!! ぼくは残るぞ!! てめえも残って授業遅れろや!!」
「何の当て付けだハンス。貴様に自由があると思っているのか?」
「ぎゃああああ容赦なく魔法を使うなあああああ……!!!」



 冷たくも輝きを見せる朝に、少年少女の快声が木霊した。
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