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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期

第98話 泉とか花に鳥そして魚

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「うっし、やーっと本題に入れるぜ。実はサラ先生に見てもらいたい物がありまして」
「だから早くそれを説明しなさい」
「これだな」


 アーサーとカタリナは脇にはけ、後ろにある物をサラに見せる。



 現在五人が立っていた所は、九月に花の種を植えた木の根元付近。しかしそこには、萎れて茶色に変色した芽と葉が小さく残っているだけだった。



「……割と派手に枯らしたわね」


 サラは立ち所に目の色を変え、芽の近くにしゃがみ込んで観察する。


「ちゃんと水も上げたし、肥料も使ってみたんだよ。でも上手くいかなくて……」
「その頻度はどれぐらい?」

「えっと……二、三日ぐらい。ここって日陰になってるし、そんなに乾かないかなって」
「肥料は植え立ての時に使ったのが最後だ」
「そう。何の種を植えたのかはわかるかしら」
「それなら袋が残っているよ。持ってくるね」


 カタリナは洞の中に向かい、種の袋を持って戻ってくる。


「これなんだけど……」
「ああ、そりゃあ育たないわね」


 サラは袋に書かれた文字を見ると、すぐに吐き捨てた。


「パープルチューリップ、闇属性に特化した品種ね。他の木や花の様子を見るに、ここの土は普通の属性。だからその時点でまず無理。水もどうせその辺で汲んだのを使っていたんでしょ。それで肥料は店で買える全属性対応の安物」
「……見抜かれてる」

「確か、属性に対応する水と土で育てないといけないんだったな」
「そうよ。この場合だと闇属性の力を抽出して、それを溶かした物を与えないと上手く育たないわ。家の倉庫にあった適当な種引っ張り出して、その場の勢いで植えてみたんでしょ」
「マジで何で全部見抜かれてるの?」
「うう……」


 解説を行いながら、サラはさりげなく枯れた芽を抜き出す。


「ちょっ、勝手に抜くなよ」
「枯れてしまったものは抜いておく方が次の植物のためよ。アナタだってカフェに行って、既にいる客が用もないのに延々と居座られていたら嫌でしょ」
「例えが適切だぁ……」


 そうして抜いた芽を一か所にまとめて、足で踏んで無理矢理土に還す。


「種と土とかで属性が一致していなかったから上手く育たなかったんだね。それなら属性のついていない種を植えれば咲くかな?」
「そっちもそっちでね。この辺りは日陰になっているわ。水が乾きにくいのは確かだけど、日光が入りにくいの。だからここに植えてもまともに育たないと思うわ」
「えー……じゃあもう花を育てることは諦める……?」
「諦めるならここに植えることを諦めなさい。魔術で環境改善する程の実力は備わっていないんだから」


 サラは周囲を観察し出し、そして森の片隅で目を止めた。


「……あっちの方。丁度木々が空いてて日光が入っているわね」
「あの方向には小さい泉があるんだよ」
「ならもっと好都合だわ。案内しなさい」


 彼女はふんと鼻を鳴らし、腕を組む。


「……」
「何よ。アナタ達のお望み通り見てやってるのよ。文句あるの」
「いや……その通りだわ。何でもないですすみません」

「あ、わたし種持ってくるね。他に必要な物ってある?」
「プランターと言いたい所だけど、多分そんなのないでしょ。だからジョーロとシャベルだけあればいいわ」
「はーい」
「んじゃ持ってくっか~」





 エリスとイザークが洞から戻ってくるのを待って、五人は泉に向かう。


 巨木から少し離れた泉の周りには、小さく色とりどりな花が幾つも咲いていた。



 すると一本の木から小鳥が出てきて、たおやかに咲く花に近付いてくる。



「おおっ、噂をすれば。ボク達が怖くて隠れてたのかなあ」
「その可能性はあるわね。まあ後から仲良くなれれば問題なしよ多分。さあやるわよ、サリア」


 サラは花が咲いていない場所を見繕い、学生服の腕を捲りながら移動する。


「さっきも言っていたけど、やっぱりプランターとかないとだめ?」
「確実に育てたいならね。でもまあ、工夫次第でプランターの真似事はできるわ」



 手頃な場所を見つけると、サラはシャベルを片手に、サリアと協力しながら土を掘り始めた。エリスとカタリナは興味深そうに近付き、彼女の作業風景を眺める。



「プランターっていうのはね、植える場所を隔離して確実に栄養を行き渡らせるために使うものだから。こうして溝を掘れば同じようなことができるわ」
「わたし知ってます。この盛り上がった地面をうねと呼びます」

「そうね、農作物の場合は畝になるわ。プランターだとどうしても栽培面積が狭くなってしまうから、その代替えね」
「あれ、その言い方だと作物もプランターで育てた方が質が良くなるように聞こえる……」

「作物は花と違って広範囲に根を張るわ。だから育ち切る前にプランターが壊れて無理。でも小さめの品種だったら逆に推奨されているけどね」
「はへぇ……奥が深いなあ」





 女子達のガーデニングトークを尻目に、アーサーとイザーク、カヴァスとサイリは泉を覗き込んでいる。


「どうよ。魚はいそう?」
「まあいるだろうな。魚影がいくつか見えた。深さも広さもわからないが、数十体程度はいるんじゃないか」
「マジかあ……そのうち釣りでもしてえなあ」

「……したことはあるのか」
「ねえけど、こういうのってロマンじゃん」
「ガルル……」
「……」


 涎を垂らして少しずつ泉に近付いていくカヴァスを、サイリがその両脇を抱えて制する。


「ほら、カヴァスもスゲー食いたそうにしてる。釣って魚パーティーしようぜ」
「……あんたにこいつの名前を教えた記憶がないんだが」
「エリスに訊いたんだ。半年経つのに名前がわかんねーのは釈然としないからな。いいだろ別にそれぐらいー?」
「……ああ」




 それから二時間後。




「よし、こんなもんだな」
「ワン!」



 サラに呼ばれ、アーサーとカヴァスが再び種を植える。


 完成した花壇は綺麗な長方形になっていて、こんもりと種を植えた場所が盛り上がっている。いかにも健康そうに育ちそうな風貌をしていた。



「植えた種はパンジーね。ここは日当たりが良いから、毎日か最低二日に一度は水を与えること。肥料は週に一回、これはそんなに肥料なくても手軽に育てられるやつだから」
「でも水は頻度多いんだね……」
「それもそうよ、植物の基本だし……ああ、道理であの時サボれる品種って訊いたのね」

「サラもなんとなくわかったでしょ。地上から一番下、さらに最奥まで行くんだよ。だから大変なの~」
「気持ちはわかったわ。だけどここにワタシを呼んだからには、一切の妥協を許さないから」
「ひぃ……」
「別にサラが水やってくれてもいいんだぜ?」


 イザークの言葉にサラは呆気に取られる。


「いやだってさ、ここに出入りしたいって言ったのサラじゃん。出入りするついでに水やってくれよ」
「……そういうのってね。大体真面目にやっているヤツに全部押し付けられてね。仕事を負担するヤツが決まってくるのよねえ……」


 サラの隣で、サリアはイザークに向かって淡い光弾を生成し始めた。


「あ、わかったわかりましたちゃんとお水を与えますだから許してえええええええ!!!」
「……フン。まあいいわ」
「た、助かった……」


「……別に一人に負担をかける必要はないわよ、こういうのは。交代で誰が来るか決めればいいと思うのだけど」
「んー、じゃあ分担表を作るかあ……」



 すると、ごろろろろーと割と大きめの音が鳴り響く。



「あ、これボクだわ。すんませーん腹減ったー」
「ちょうど時間もいい感じかな。第二階層で食べていこうよ」
「……ワタシは」
「連れて行くからね? だって今日一番の功労者だもん!」
「……ここを知れただけで十分な報酬なのだけれど」


 羽交い絞めにしようとするサイリをあしらって、サラは歩き出す。数歩歩いた後に振り返った。


「まあいいわ。乗りかかった舟ってヤツよ。今日は最後までアナタ達に付き合ってあげる」
「やったあ。それじゃ、美味しいお店開拓の時間だー」
「がっつり系にするか、軽めにするか……んー、悩みどころですな!」
「あたしはどっちでもいいよ」
「オレも同じだ」



 彼らにとってはサラの表情は真顔に見えた。どうやらほんのりと彼女の口角が上がっていたことには、気付かなかったようである。
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