68 / 247
第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期
第65話 第一回戦
しおりを挟む
「グルル……」
闘技場の控室で、目を閉じて集中しているルシュド。ジャバウォックは早く戦いたそうに、彼の上空を飛び回っている。
「お前、竜族の言葉になってるぜ。緊張してるか?」
「……うう」
「まあどうせ負けても死ぬことはねえんだ。実力を知れるいい機会だと思って、気楽に行こうぜ」
「気楽……」
「そうそう、気楽に行った方がいつもの戦い方ができるってもんだ」
「……うん」
そして、ルシュドの耳にも角笛の音が聞こえてくる。
「……行こう」
「ああ!」
「さあ~て、皆様おはようございます!! 今日も今日とでやってきました、将来有望な学生達による武術研鑽大会!! 実況と解説は、王国所属魔術師であるわたくしブルーノと!!」
「そのナイトメア、マッキーことマキノがお送りしますぅ~」
「さてマッキー、君は今日の大会をどう見てるのかな?」
「そうだねぇ~。今回一年生が三人も参加してるんだよねぇ。この大会、参加を申し込んだ順からマッチングに割り振られるんだけどぉ、流石に一年生が三人もいたら勝負にならないだろうって。そんな風に運営の人が心配してたの聞いたんだよねぇ」
「確かに近年稀に見る割合だな!! でも意欲の高い一年生が入ってくるのは素晴らしいことだと思うぞ!!」
「それとワンサイドゲームになるか否かは別問題なんだよぉ。まあでも、結局今回の参加者は三年生までしかいないんだよねぇ。年齢もそこそこ近いし、まぁーいい勝負を見せてくれると思うっ!」
「ケネス、フーガー、そしてルシュド。今回参加する一年生は、全員武術部の所属だという情報を得ているぞ!!」
「まあ武術部ってことは、他の生徒に比べて特訓する時間が段違いにあるってことだからねぇ。一年生でも大会に出れるっていうのも納得いくいくいっちゃいますぅ」
「とはいえ個人的には武術部以外の生徒にも頑張ってほしいなぁ……おっと!! ここで角笛の音だ!! 第一回戦が始まるぞ!!」
「早速話に出てきた一年生が登場するねぇ。一年生のルシュド対二年生のフォルス。一体どんな戦いになるのか、期待が膨らんでくるなぁ!!」
実況と解説、そして歓び湧き立つ声に包まれながら、ルシュドは闘技場の中央に歩いていく。
そして中央に着き、フォルスと対峙する。
「……」
「……」
「てめえ……」
「……何だ?」
「てめえ……人間じゃないだろ」
「……っ」
金髪の屈強な生徒だった。上半身には学生服が破れそうな程筋肉がついていて、腕も足も丸太のようだった。ルシュドよりも遥かに体格が大きい。
そして頭二つ分程背が高く、睨み付けるようにしてルシュドを見下ろしている。
「てめえの臭い……わかるぜ。ガキん時に散々嗅いだ臭いだからな……竜族だろ?」
「……」
「何でそんな人間みたいな見た目してんのか知らねえけどな……竜族相手ってんなら負けねえぜ?」
「……」
「ましてや爪も鱗もない竜族になんか、絶対に負けねえ!」
「……!」
ルシュドはフォルスを睨み付けるが、その拳は震えていた。
「……雑魚」
「あ?」
「オマエは、ドラゴンにすらなれなかった、ただのトカゲ。そんな雑魚に、俺は負けない」
フォルスの隣にいたオーガ、オースティンはケラケラと笑う。主君が主君ならナイトメアも性格が悪い。
「……言ってろよ。この姿を見て、実力もわかんねえのに勝利を確信するような自惚れなんかに、俺は負けるわけがねえ」
「知ってる。こういう時、こう言う。笑止」
「てめえ……!!」
先程よりも笑い声が大きくなる。ジャバウォックもオースティンを睨み付け、身体を震わせる。
「そこまでです。試合を始めますよ」
一触即発の二人と二匹の間に、丸刈りで端正な顔立ちの男性が入ってきた。
「貴方達の間にどんなことがあったとしても、自分の知ったことではないのですが。ここは試合の場なので、一先ず落ち着いてください」
「……」
「……」
「……それでは。主君とナイトメア、それぞれ握手をしてください」
「……はい」
「ふん……」
鉄の鎧を着用し、腰には二本の剣を差している。恐らく試合の審判であろう男性に見守られて、ルシュドとフォルスは目線を合わせずに握手をした。
ジャバウォックは小さい手を差し出し、オースティンはそれに一瞬触れただけだった。
「説明は聞いているでしょうが、改めて。制限時間は五分になります。五分経った段階で、どちらがより深く傷を負っているかを審判が判断し、勝敗を付けます」
「それに満たなくても、審判が判断すればその時点で試合は終了となります。負傷が激しく試合続行が不可能である場合、攻撃に明確な殺意が見られた場合が該当します」
「……はい」
「……ああ」
「良い返事です。そして試合が終了したら、互いを讃え合うことを忘れないように。近い年齢の生徒と戦い合うことで、持ちうる技術を切磋琢磨し合う。それがこの大会の本質ですから」
そして男性は三歩後ろに下がると――
「――それでは、試合始めっ!」
大気を引き裂くように声を張り上げ開幕を告げる。
闘技場から熱狂が沸き上がり、空に立ち昇っていく――
「ふんっ!!!」
「ぬっ……!!!」
開始が告げられるや否や、
フォルスは背中に背負っていた斧を引き抜き、力のままに振り下ろす。
ルシュドもまた、後ろに飛び退いてそれを避け、距離を取る。
「……様子、見る。絶対、殴る」
「今は行動を観察して、近づけるタイミングを計って一気に詰め寄るんだな? わかったぜ!」
ルシュドは数メートル離れた位置で、フォルスを視界の中央に置くようにしながら、右回りに走り出す。
「さーてまずは一撃。お互いに牽制し合って様子を見るといった所だな!!」
「相手の実力を知るのは戦いの基本だからねぇ。あ、そうそう。今回の審判は王国騎士のカイルだよっ。凄く堅実でお堅い感じだけどぉ、あれで二十代ってんだから面白いよねぇ」
「豆知識ありがとうマッキー!! おっと、そろそろ戦闘に動きが見られるか!?」
「てめえ……逃げんじゃねえ!!!」
数十歩走った所で、
フォルスが斧を掲げて一気に詰め寄る。
だがルシュドは間一髪後ろに退き――
その一撃を避ける。
それを機にルシュドは走るのを止め、斧を持ってじりじりと近付くフォルスと間合いを保つ。
そのフォルスも、急に動きを止めてきた。
「……何だ」
「いつまで……」
「……?」
「いつまで、逃げ回っているつもりだ……? 誇り高き、竜族様がよぉ……?」
左手の人差し指をルシュドに向け、自分の方向にくいくいと動かす。
「……乗るなよ。あれは分かりやすい挑発だ。接近したら一撃喰らうぞ」
「……ああ」
鋭い眼差しで油断せず、拳を構えたままフォルスの動きを伺う。
「ケケケケケケケケ……!!」
辺りに響く、乾いた笑い声。
「……よぉくやった、オースティン……!!」
その声が大きくなっていくにつれて、フォルスも不気味に笑い出す。
「――下だ!!!」
「えっ――?」
ルシュドが確かに下を見ると、そこには、
沢山の橙色の蛇が這い出てのたうち回っていた。
「……あ、ああああああ……!?」
本来そこにいなかった生物。
突如現れたそれを見て、ルシュドは目を見開き、顔を青白くして、後退る。
そして蛇は僅かに出来た隙を逃さない。
「ぐっ……グオオオオッ!!!」
蛇はルシュドの足に絡み付き、頭頂まで登ろうとする。
手で振り払おうとも、足を振り回して払おうとも、蛇達は一行に這い上がっていくのを止めない。
「ガァッ……ガウッ!!!」
「ほらほら!!! よそ見している場合じゃねえぞ!!!」
動きを止められているルシュドに向かって、フォルスが斧を振り下ろしていく。
隣に攻撃が落ち、少しでも遅れていたら喰らっていた。あと数歩ずれていたら、大怪我は避けられない。
そのようなギリギリの回避を続けていると――
「くらええええええ!!!」
「がはっ……!!!」
ジャバウォックが火を吐き出し、本物の竜の如く蛇を焼き尽くす。
それらは忽ち蒸発して消えていき、更に少しではあったがフォルスにも命中。
すると彼は途端に斧を振るのを止め、腰から杖を取り出した。
「グオオオオオオオ……!!!」
杖に対抗するように唸ると足が赤く光り出す。
絡み付いていた蛇も即座に蒸発していく。
「逃げろ、逃げろ、逃げろ……!!!」
フォルスが自身に水の魔法を行使している隙を見計らって、ルシュドはまた走り出す。
彼が駆けて行ったのを追うようにして、闘技場には赤い軌跡が出来上がる。蛇もそれを追って波のように蠢いていく。
地面は隆起し、胎動するような振動が観客にも伝わり、それが熱狂を導いていく。
「これは、てめえの魔法かぁ……!!!」
ジャバウォックは勢いを強めて飛んでいき、
中央よりもやや左の、何も無い空間に向かって炎を吐き出す。
「キャッキャッキャッ……!!」
すると、炎と砂煙の中からオースティンが姿を現した。
「ケケケケケケ!! 気付くの、遅い!! やっぱり、オマエ、雑魚!!」
「覚悟!!」
「ケッ……?」
ジャバウォックを見つめているオースティンの頭上から、
ルシュドが殴りかかる。
「ギャァ……!!」
オースティンの頭にルシュドの拳がめり込む。
彼は殴られてから数秒程立ち尽くしていたが、そのまま何も言わずに倒れていった。
「やった……!!」
ルシュドが顔を綻ばせた、その瞬間だった。
「――もらったぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!」
背後から斧撃落ちる。
「……え……」
左右から押さえ付けられて、一気に引き裂かれるかのような痛み。
「ははははは……!!!」
ルシュドがそれを認める頃には、フォルスの笑い声が響いていた。
「……あああああああぁぁぁーーーーーっ!!!」
立つ力、殴る力、戦い続ける力が、背中の傷跡から血と共に吹き出していく――
「決まったぁー!! フォルスの渾身の一撃が決まったぞぉー!!」
「いやあ、ナイトメアの拘束魔法が決め手だったねぇ。逆に言うと一年生はこの点で圧倒的に不利なんだよねぇ。マイ触媒持ってる生徒なんてほんの一握り、持ってたとしても詠唱の訓練がまだまだでねぇ」
「だが魔術がなくても、武術を極めてその点をカバーして優勝した例があることも忘れるな!! さて……現在ルシュドは背中に傷を負って血を流しているぞ! 致死量ではないだろうが、それでも試合への影響は免れない!! 果たして続行するのか、それとも敗北を認めるのか――!?」
闘技場の控室で、目を閉じて集中しているルシュド。ジャバウォックは早く戦いたそうに、彼の上空を飛び回っている。
「お前、竜族の言葉になってるぜ。緊張してるか?」
「……うう」
「まあどうせ負けても死ぬことはねえんだ。実力を知れるいい機会だと思って、気楽に行こうぜ」
「気楽……」
「そうそう、気楽に行った方がいつもの戦い方ができるってもんだ」
「……うん」
そして、ルシュドの耳にも角笛の音が聞こえてくる。
「……行こう」
「ああ!」
「さあ~て、皆様おはようございます!! 今日も今日とでやってきました、将来有望な学生達による武術研鑽大会!! 実況と解説は、王国所属魔術師であるわたくしブルーノと!!」
「そのナイトメア、マッキーことマキノがお送りしますぅ~」
「さてマッキー、君は今日の大会をどう見てるのかな?」
「そうだねぇ~。今回一年生が三人も参加してるんだよねぇ。この大会、参加を申し込んだ順からマッチングに割り振られるんだけどぉ、流石に一年生が三人もいたら勝負にならないだろうって。そんな風に運営の人が心配してたの聞いたんだよねぇ」
「確かに近年稀に見る割合だな!! でも意欲の高い一年生が入ってくるのは素晴らしいことだと思うぞ!!」
「それとワンサイドゲームになるか否かは別問題なんだよぉ。まあでも、結局今回の参加者は三年生までしかいないんだよねぇ。年齢もそこそこ近いし、まぁーいい勝負を見せてくれると思うっ!」
「ケネス、フーガー、そしてルシュド。今回参加する一年生は、全員武術部の所属だという情報を得ているぞ!!」
「まあ武術部ってことは、他の生徒に比べて特訓する時間が段違いにあるってことだからねぇ。一年生でも大会に出れるっていうのも納得いくいくいっちゃいますぅ」
「とはいえ個人的には武術部以外の生徒にも頑張ってほしいなぁ……おっと!! ここで角笛の音だ!! 第一回戦が始まるぞ!!」
「早速話に出てきた一年生が登場するねぇ。一年生のルシュド対二年生のフォルス。一体どんな戦いになるのか、期待が膨らんでくるなぁ!!」
実況と解説、そして歓び湧き立つ声に包まれながら、ルシュドは闘技場の中央に歩いていく。
そして中央に着き、フォルスと対峙する。
「……」
「……」
「てめえ……」
「……何だ?」
「てめえ……人間じゃないだろ」
「……っ」
金髪の屈強な生徒だった。上半身には学生服が破れそうな程筋肉がついていて、腕も足も丸太のようだった。ルシュドよりも遥かに体格が大きい。
そして頭二つ分程背が高く、睨み付けるようにしてルシュドを見下ろしている。
「てめえの臭い……わかるぜ。ガキん時に散々嗅いだ臭いだからな……竜族だろ?」
「……」
「何でそんな人間みたいな見た目してんのか知らねえけどな……竜族相手ってんなら負けねえぜ?」
「……」
「ましてや爪も鱗もない竜族になんか、絶対に負けねえ!」
「……!」
ルシュドはフォルスを睨み付けるが、その拳は震えていた。
「……雑魚」
「あ?」
「オマエは、ドラゴンにすらなれなかった、ただのトカゲ。そんな雑魚に、俺は負けない」
フォルスの隣にいたオーガ、オースティンはケラケラと笑う。主君が主君ならナイトメアも性格が悪い。
「……言ってろよ。この姿を見て、実力もわかんねえのに勝利を確信するような自惚れなんかに、俺は負けるわけがねえ」
「知ってる。こういう時、こう言う。笑止」
「てめえ……!!」
先程よりも笑い声が大きくなる。ジャバウォックもオースティンを睨み付け、身体を震わせる。
「そこまでです。試合を始めますよ」
一触即発の二人と二匹の間に、丸刈りで端正な顔立ちの男性が入ってきた。
「貴方達の間にどんなことがあったとしても、自分の知ったことではないのですが。ここは試合の場なので、一先ず落ち着いてください」
「……」
「……」
「……それでは。主君とナイトメア、それぞれ握手をしてください」
「……はい」
「ふん……」
鉄の鎧を着用し、腰には二本の剣を差している。恐らく試合の審判であろう男性に見守られて、ルシュドとフォルスは目線を合わせずに握手をした。
ジャバウォックは小さい手を差し出し、オースティンはそれに一瞬触れただけだった。
「説明は聞いているでしょうが、改めて。制限時間は五分になります。五分経った段階で、どちらがより深く傷を負っているかを審判が判断し、勝敗を付けます」
「それに満たなくても、審判が判断すればその時点で試合は終了となります。負傷が激しく試合続行が不可能である場合、攻撃に明確な殺意が見られた場合が該当します」
「……はい」
「……ああ」
「良い返事です。そして試合が終了したら、互いを讃え合うことを忘れないように。近い年齢の生徒と戦い合うことで、持ちうる技術を切磋琢磨し合う。それがこの大会の本質ですから」
そして男性は三歩後ろに下がると――
「――それでは、試合始めっ!」
大気を引き裂くように声を張り上げ開幕を告げる。
闘技場から熱狂が沸き上がり、空に立ち昇っていく――
「ふんっ!!!」
「ぬっ……!!!」
開始が告げられるや否や、
フォルスは背中に背負っていた斧を引き抜き、力のままに振り下ろす。
ルシュドもまた、後ろに飛び退いてそれを避け、距離を取る。
「……様子、見る。絶対、殴る」
「今は行動を観察して、近づけるタイミングを計って一気に詰め寄るんだな? わかったぜ!」
ルシュドは数メートル離れた位置で、フォルスを視界の中央に置くようにしながら、右回りに走り出す。
「さーてまずは一撃。お互いに牽制し合って様子を見るといった所だな!!」
「相手の実力を知るのは戦いの基本だからねぇ。あ、そうそう。今回の審判は王国騎士のカイルだよっ。凄く堅実でお堅い感じだけどぉ、あれで二十代ってんだから面白いよねぇ」
「豆知識ありがとうマッキー!! おっと、そろそろ戦闘に動きが見られるか!?」
「てめえ……逃げんじゃねえ!!!」
数十歩走った所で、
フォルスが斧を掲げて一気に詰め寄る。
だがルシュドは間一髪後ろに退き――
その一撃を避ける。
それを機にルシュドは走るのを止め、斧を持ってじりじりと近付くフォルスと間合いを保つ。
そのフォルスも、急に動きを止めてきた。
「……何だ」
「いつまで……」
「……?」
「いつまで、逃げ回っているつもりだ……? 誇り高き、竜族様がよぉ……?」
左手の人差し指をルシュドに向け、自分の方向にくいくいと動かす。
「……乗るなよ。あれは分かりやすい挑発だ。接近したら一撃喰らうぞ」
「……ああ」
鋭い眼差しで油断せず、拳を構えたままフォルスの動きを伺う。
「ケケケケケケケケ……!!」
辺りに響く、乾いた笑い声。
「……よぉくやった、オースティン……!!」
その声が大きくなっていくにつれて、フォルスも不気味に笑い出す。
「――下だ!!!」
「えっ――?」
ルシュドが確かに下を見ると、そこには、
沢山の橙色の蛇が這い出てのたうち回っていた。
「……あ、ああああああ……!?」
本来そこにいなかった生物。
突如現れたそれを見て、ルシュドは目を見開き、顔を青白くして、後退る。
そして蛇は僅かに出来た隙を逃さない。
「ぐっ……グオオオオッ!!!」
蛇はルシュドの足に絡み付き、頭頂まで登ろうとする。
手で振り払おうとも、足を振り回して払おうとも、蛇達は一行に這い上がっていくのを止めない。
「ガァッ……ガウッ!!!」
「ほらほら!!! よそ見している場合じゃねえぞ!!!」
動きを止められているルシュドに向かって、フォルスが斧を振り下ろしていく。
隣に攻撃が落ち、少しでも遅れていたら喰らっていた。あと数歩ずれていたら、大怪我は避けられない。
そのようなギリギリの回避を続けていると――
「くらええええええ!!!」
「がはっ……!!!」
ジャバウォックが火を吐き出し、本物の竜の如く蛇を焼き尽くす。
それらは忽ち蒸発して消えていき、更に少しではあったがフォルスにも命中。
すると彼は途端に斧を振るのを止め、腰から杖を取り出した。
「グオオオオオオオ……!!!」
杖に対抗するように唸ると足が赤く光り出す。
絡み付いていた蛇も即座に蒸発していく。
「逃げろ、逃げろ、逃げろ……!!!」
フォルスが自身に水の魔法を行使している隙を見計らって、ルシュドはまた走り出す。
彼が駆けて行ったのを追うようにして、闘技場には赤い軌跡が出来上がる。蛇もそれを追って波のように蠢いていく。
地面は隆起し、胎動するような振動が観客にも伝わり、それが熱狂を導いていく。
「これは、てめえの魔法かぁ……!!!」
ジャバウォックは勢いを強めて飛んでいき、
中央よりもやや左の、何も無い空間に向かって炎を吐き出す。
「キャッキャッキャッ……!!」
すると、炎と砂煙の中からオースティンが姿を現した。
「ケケケケケケ!! 気付くの、遅い!! やっぱり、オマエ、雑魚!!」
「覚悟!!」
「ケッ……?」
ジャバウォックを見つめているオースティンの頭上から、
ルシュドが殴りかかる。
「ギャァ……!!」
オースティンの頭にルシュドの拳がめり込む。
彼は殴られてから数秒程立ち尽くしていたが、そのまま何も言わずに倒れていった。
「やった……!!」
ルシュドが顔を綻ばせた、その瞬間だった。
「――もらったぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!」
背後から斧撃落ちる。
「……え……」
左右から押さえ付けられて、一気に引き裂かれるかのような痛み。
「ははははは……!!!」
ルシュドがそれを認める頃には、フォルスの笑い声が響いていた。
「……あああああああぁぁぁーーーーーっ!!!」
立つ力、殴る力、戦い続ける力が、背中の傷跡から血と共に吹き出していく――
「決まったぁー!! フォルスの渾身の一撃が決まったぞぉー!!」
「いやあ、ナイトメアの拘束魔法が決め手だったねぇ。逆に言うと一年生はこの点で圧倒的に不利なんだよねぇ。マイ触媒持ってる生徒なんてほんの一握り、持ってたとしても詠唱の訓練がまだまだでねぇ」
「だが魔術がなくても、武術を極めてその点をカバーして優勝した例があることも忘れるな!! さて……現在ルシュドは背中に傷を負って血を流しているぞ! 致死量ではないだろうが、それでも試合への影響は免れない!! 果たして続行するのか、それとも敗北を認めるのか――!?」
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
婚約破棄されたので、令嬢辞めてもふもふに生きますわ!
るてぃー
ファンタジー
魔法や魔物、精霊などが存在する世界。
そんな世界のまぁまぁの国力を持つ、ラクリア国、侯爵家,令嬢エリーゼ・アクリエッタは端から見れば身分・容姿・礼儀作法や勉学、どれを取っても申し分なく、幼い頃に決められた婚約者もいた。
けれど、エリーゼの記念すべきデビュタントを控えた16歳の誕生日の半年前、突然婚約者候補だった相手に「愛する人が出来た。だから君とは結婚出来ない。婚約は解消させてくれ」とちゃんとした謝罪もなしに一方的に言われ、婚約は解消されてしまう。
その時、プツリと何かが切れた音がした。
……は?謝罪もなしに婚約解消??!ちょっと責任感なさすぎじゃないかしら?!わたくしだって別に貴方を愛していたわけではなかったけれども!さすがに腹立たしいですわっ!自由人か!!
…それなら、わたくしだって!自由に生きますわ!
ずっと我慢してきたもふもふに囲まれて好きに生きてやろうじゃありませんか!!
こうしてエリーゼは侯爵家第三令嬢という肩書きを捨てて、もふもふに囲まれて生きていく事を決意したのである。
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~
一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】
悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……?
小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位!
※本作品は他サイトでも連載中です。
【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~
青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた
そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた
しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう
婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ
婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか
この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話
*更新は不定期です
【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました
鹿乃目めの
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。
ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。
失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。
主人公が本当の愛を手に入れる話。
独自設定のファンタジーです。実際の歴史や常識とは異なります。
さくっと読める短編です。
※完結しました。ありがとうございました。
閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。
(次作執筆に集中するため、現在感想の受付は停止しております。感想を下さった方々、ありがとうございました)
【完結】精霊言語の通訳者
入魚ひえん
ファンタジー
国の辺境に位置する領主の令嬢フェアルは、入ることを禁じられた森で一晩を過ごし、帰ってきた時には、人ではない姿となっていた。
呪われていると家族から疎まれ、婚約は破談となり、それ以来幽閉されている。
ある日、とある王子と小窓ごしに話していると、10年ぶりに外へ連れ出された。
「ごめんなさい! 私を助けるために、ほぼ一文無しにさせてしまって!」
「フェアルを助けるなんて、俺、言ってないけど」
「え」
「なんか勘違いしてるみたいだけど。おまえ、呪われていないからな」
******
閲覧ありがとうございます、完結しました!
シリアスとコメディ混在のファンタジーです。恋愛要素あり。甘めなおまけ付き。
お試しいただけると嬉しいです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる