ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

文字の大きさ
66 / 247
第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期

第63話 秘密基地作り

しおりを挟む
 夏が終わって、季節は九月。青葉は暖色に染め上がり、暑さも和らぎ涼しくなっていく。そして年の暮れに近付いていくこの時期、王国は続け様の祭事に向けてせわしなくなっていくのである。

 とはいえそんな王国の事情なんて露知らず、学生達は休暇で養った英気を元にまた勉学に励むのだった。





 ある日曜日。エリス、アーサー、カタリナ、イザークの四人は薔薇の塔の入り口に集合していた。



「うーす。こうして休日に会うのは久しぶりだなあ」
「イザーク、成績どうだった? この間で全部テスト戻ってきたけど」
「それ訊いちゃう? まあ……まずまずだったよ」
「どういう意味なんだか」
「いやそのまんまだよ!?」
「でも一年生だし……まだわからないけど、こんなものなのかな?」


 会話に花を咲かせる四人の周囲には、大きい袋や箱が置かれている。通りすがる生徒が何事だとちらちら流し見して去っていく。


「まあ成績のことは置いといてさ。今日はあの島にこれを持っていくぞ」
「台車とかあればなあ……」
「流石にそれは無理だった。ごめん」
「いやいや何もそこまで……持っていくのぐらい頑張るよ。うんしょーっ……」


 エリスは袋を二つ抱えたが、


 持ち運ばずにすぐに降ろした。


「……どうしたの?」
「うん……この袋、結構重いけど……こうすれば……」


 目を閉じて数秒待つ。それから改めて袋を抱える。


「……おっ、できた。見なさい、これが『魔法使い』の実力ですぞ」



 エリスは二つの袋を軽々と持ち上げ、両腕で抱え込む。


 軽々と持ち上げることを頭の中で想像したのだ。



「……やっぱ便利だよなあ。触媒なくても魔法使えるって」
「でもまだコツとか掴めていないんだよね……今のも結構偶然だったりする~」


 それぞれ持ってきた荷物を抱え、第一階層に向かう。





 そして到着したいつもの島。魔法陣の先には前見た光景と同じものが広がっている。八つの円状に並んだ石柱、その中央にある巨大な石柱。そこの根元の魔法陣から、以前と同様に四人は現れた。



「時間結構かかったけど着いたな」
「街の人にもじろじろ見られて辛かった……」
「そういうのは気にしちゃあいけない。ところで何か変わった所ある?」
「特にはないかな」

「この前と同じか。なら問題ねえな」
「よし。じゃあ……森の中にまずは行こうか」
「そうだね」




 森を進むと、非常に巨大な木が視界に入る。根と幹は四人の体格よりも遥かに巨大で、枝葉は小さいものから大きなものまで沢山生えていた。


 そして木の根元には、人が入れそうな隙間がある。その中に四人は入っていく。




「これを使おう。照明の魔法具だ」



 イザークは硝子球を、木のうろの中の地面に叩き付ける。


 すると柔らかい光が辺りを包み、中をほんのりと照らす。



「いやあ、実にワクワクするなあ。こんなでっかい木の隙間なんて、秘密基地にしてくださいって言ってるようなもんじゃねえか」
「何だか楽しくなってくるね」
「建造物とは違う、自然の隠れ家……」
「島の外にこういう場所あっても、大体は魔物が住み着いているからなー」



 感慨深げに洞の中を見回す三人を横目に、アーサーはそれぞれが持ってきた荷物を物色していた。



「おいおい、物色するなら声かけろよ。びっくりするじゃねーか」
「これは何だ」


 アーサーは袋の一つから赤い布を取り出す。


「あーそれ? 見りゃわかるだろ、布の切れ端だよ。暖簾のれんにしようと思ってさ。ほら、何か外との仕切りがあった方がそれっぽいじゃん?」
「……ああ」


「じゃあ早速付けてみようよ」
「オッケー。釘と金槌を持ってこよう」


 イザークは袋を漁り、釘を数本に金槌を取り出す。


「用意周到だね……」
「褒め言葉どうも。さて飾ってみよう。サイリおんぶしろ~」


 すかさずサイリが現れイザークを肩に乗せる。そして入ってきた場所まで進み、イザークは釘を打ち付けていく。




 作業すること約数分――


「おおっ、一気にそれっぽい感じに。いいぞいいぞ~」



 打ち付けられてだらりと下がった布を見て、イザークは満足そうに呟く。


 そこに存在するだけでそれっぽさは生まれるものだ。



「じゃあ他の所もい~い感じに飾り付けるとしよう」
「それなら、あたしの持ってきたこれを……」
「お手伝いしますぞ」


 カタリナとセバスンは持ってきた袋を漁り、数枚の巻かれた布を取り出す。


「お、大きい……これ、家にあったの?」
「うん。持っていっていいって訊いてみたら、いいよって言われた」


 それは民族的な刺繍が施された絨毯だった。獣や艶やかな花々が描かれている。


「全部広げるの手伝ってくれる?」
「わかった」
「ああ」



 エリスとアーサーも袋から絨毯を取り出し、広げて地面に敷く。




 またまた数分経過して――




「持ってきた分が丁度入った……いい感じだね」
「そうだ、絨毯敷くなら靴脱がないと」
「そうだな」


 エリスとアーサーは靴を脱いで絨毯の上に乗る。イザークも作業を終えた後に三人に続いた。


「おおっ、マジサイコーじゃん。だばぁー」



 絨毯の上に大の字になって転がるイザーク。家で使わない物とはいえ、寝心地は最高だ。



「これで防寒防暑だったらいいのになあ」
「それは魔法を勉強して何とかしないと」
「ですよねー……そういえばさ、オマエら何持ってきたの?」
「スコップとか鍬とか。実家が農家だから、そういう感じ」
「鍬かぁ……畑でも作る?」

「うーん、毎日来るわけでもないし、放置してても育つものがいいよね。一応苺の種は持ってきたんだけど、だめそう……?」
「苺は作物の中でも敏感で、かなり育てにくいって聞いたぜ。それなら花の方がまだマシだろ」
「あっ……あたし、花の種あるよ」
「マジで!? 早速植えようぜ!」


 イザークは飛び上がり、靴下のまま外に駆け出す。


「あっ……もう、靴下汚れちゃうって」


 残された三人は靴を履いてから巨木の外に出た。





「オマエら遅いぞー! ボクはもう花を植えるのに適した地面を探し出したんだぜ!」
「イザークが早すぎるんだって。もう」


 彼は洞を出てから左手沿いに進んだ、巨木の根元の近くにいた。周辺の地面は湿っている。


「ここを掘れば植えられるかな」
「花壇とか作る?」
「それは後でいいっしょ。今は植えちまおうぜ!」
「……ならオレが」
「ワン!」


 アーサーはシャベルを片手に地面を掘り起こす。カヴァスもその隣で前足を動かし、種を植えるのに丁度良い大きさの穴を作った。


「よし、ここに植えればいいな」
「あとは上から土を被せて水をかけよう……って、水はどこから調達しよう。じょうろは持ってきたんだけどな……」
「あっ、それなら……さっき向こうに泉があったの見たよ」
「本当? じゃあお願いしてもいいかな?」
「それならボクが汲んでくるわ。カタリナ道案内よろしく~」


 イザークは幹の中に入ってじょうろを持ってきた後、カタリナと一緒に森の中を進む。サイリとセバスンもその後に続いていった。





「……えへへ。楽しいな、こういうの……」


 エリスは種を植えた地面を見ながら笑顔になる。


「アーサーも楽しんでるでしょ。顔には出さないだけで」
「楽しい?」
「そう、楽しい。何か行動を起こした結果、明るい気持ちになることとか、満たされたような気持ちになることだよ」
「満たされる……」

「この間のも、楽しいから笑顔になったんだと思うんだよね。だから、この島のこと、気に入ってるんでしょ?」
「……」



 暫くの沈黙が流れた後。


 アーサーは右手を自分の胸に当てた。



「これが楽しい、か」


 そうして、また口角を上げて笑ってみせたのだった。




「……うん、いい笑顔。早く皆の前で笑えるといいなあ」
「それは……まだ、難しい」
「そっか。でも大丈夫、ゆっくりやっていければいいんだから」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターである白うさぎに!?最強目指して生き延びる〜

☆ほしい
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...