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第1章1節 学園生活/始まりの一学期
第46話 トレック
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数分後、とある店にハンカチを拾った少年が入店した。
「……失礼するよ」
「いらっしゃいませー。あらまあ、お戻りになられていたんですか」
「ほう。僕のことがわかるのか」
「だってここで商売させてもらっている身ですから」
「殊勝な心掛けだ。ところで、さっき五人組の少女達が入店してこなかったか」
「あら、その子達でしたら奥の方にご案内しましたよ」
「そうか。ちょっと落とし物をしたみたいでな、届けに来たんだ。入るぞ」
「わかりましたー」
そこから少年は店内を歩き回り、数分もせずにエリス達を発見する。
「……おい、お前達」
「あ! さっきの!」
「……何の用?」
「あのなあ……人の顔を見て鬼の首を取ったようになるな。このハンカチは誰の物だ?」
「あっ、それ私の!」
「……何となくそんな気はしていたが、やはりか」
少年はリーシャにハンカチを渡す。
「じゃあ僕はこれで……あ?」
ハンカチを受け取るのと同じタイミングで、
リーシャは少年の服の裾を掴んでいた。
「そんな帰るって言わないでさー! 宿題手伝ってよー!」
「おおおっ……やめろぉぉぉ……!?」
少年はそのままずるずると引き摺られ、
リーシャとサラの間にちょこんと着席させられた。
「じゃあ注文頼もう! カタリナ、鈴鳴らして!」
「うん、わかった」
少女達はちりんちりんと鈴を鳴らし、店員を呼び出す。
(こいつら……僕のことを生徒だと思っているな!?)
少年はやってきた店員に目配せをする。先程会計口にいた店員と同一であり、少年の様子にも気付いたようだったが。
(待て、微笑み返すな……!! お前は誠実だと思ったのに……!!)
「――オレンジジュース、レモンティー、ホットココアが一つずつ。コーヒーが二つでよろしいでしょうか?」
「貴方もコーヒーでいいよね?」
「……」
「返事がないならそうするね。コーヒー一杯追加でー」
「かしこまりました。ではごゆっくりどうぞ」
店員は伝票をポケットにしまうと厨房に向かって行く。少年は呆然とその後ろ姿を見送るしかなかった。
「よーし宿題宿題ー! ただの女子会にならないようにさっさと出せー!」
「出すぜー!」
「はぁ……」
サラ以外の四人は次々とプリントを出す。少年は圧迫感からか居心地が悪そうにしていた。
「サリアは……そうね。彼の側にいて緊張を和らげてあげて」
「だったら僕をここから逃がす手伝いをしろ」
「それは無理。ワタシこれに付き合ってるだけでもう手いっぱいだから」
「くそがぁ……」
少年の頭にサリアが乗っかる。花が頭から咲いたようにも見えた。
「あははっ、可愛い! スノウも膝にいてあげなよ!」
「はーいなのです!」
少年の膝に座った瞬間、スノウの目が忽ち丸く見開かれる。
「この人……すごく冷たいのです! すごく氷なのです!」
「わかるのかナイトメア。というかお前達も見ればわかるだろ」
「え、じゃあそのマントみたいなのって氷なの?」」
「そうだ。僕はウェンディゴなんでね。その特徴がこうやってマントみたいに発現した。かっこいいだろう?」
少年は得意そうに前髪を掻き上げる。
「うん、かっこいいと思う」
「あたしも」
「……否定できないのがムカつく~」
「すっげーかっこいいぜ! ロマンだぜ!」
「……フン」
五人の反応を見て少年は益々得意気になる。
(どうやらこいつらセンスはあるみたいだな……まあ女子だもんな)
だがすぐに女子二人に挟まれているという現実を思い出し、不機嫌に戻るのであった。
少年の心情が急降下している所に、頼んだ飲み物が運ばれてくる。
「おっ来た来た。じゃあ始めようか。皆何やるの?」
「帝国語~」
「裁縫だぜ!」
「見事に揃わねぇ~。私は地理学だ!」
「算術……ねえ、教えてもらってもいいかな?」
カタリナはサラと少年の前にプリントを差し出す。
「ふむ。文章題で詰まっているのか。文章題は誰でも引っかかる所だよな」
「何でそんなに懐かしそうなの?」
「悪いか?」
「別に。じゃあこの問題アナタが教えてね」
「はぁ!?」
サラは紅茶を啜って窓に視線を向ける。
「サラ! お前はこっちだ! 裁縫!」
「チッ……」
そして顔を顰めながらクラリアのプリントに視線を落とす。
「ていうかエリス意外だね。もう宿題終わってると思ってた」
「え~あ~それは……」
エリスは目を泳がせたが、それも数秒程で終わった。
「……みんなになら言ってもいいか。実はケビン先生から個別レポート出すように指示されているんだよね」
「ケビン先生というと、魔法学? それはどうして?」
「い、色々ありまして……」
「……あまり訊かないであげてよ」
「おお……わかったわカタリナ。何かごめんねエリス」
リーシャがプリントと対峙し始めた時を見計らって、エリスはカタリナに耳打ちをする。
「……リーシャは知らないんだったね。魔法使いとか合成魔法とか」
「うん……あれは流石に実際に見ていないと信じてもらえないと思う……」
「そうだね……」
しかしその会話は、唯一少年の耳だけに入っていた。
(……魔法使い? そうか彼女が……こんな普通の少女が?)
少年はエリスを無意識のうちに凝視していた。そんな視線を送っていたら、二人と目がばったり合う。
「どうしたの? 何か言いたいことでもあるの?」
「何でもないぞ。いいからさっさとやろう……」
こうして女子達の宿題は着々と進んでいく。
「……お疲れ様っしたああああああああ!!!」
時間はすっかり夕暮れ。勘定を終わらせ店を出た後、リーシャは思いっきり伸びをする。
「いやー結構サクサク進んだね。やっぱり宿題は皆でやるに限るね!」
「そうだね……何だか楽しかった」
「今日は誘ってくれてありがとう!」
「どういたしまして。次やる時も誘うね」
五人が思い思いに気持ちを吐き出している中、少年が咳払いをした。
「……お前達。僕に何か言うことがあるんじゃないのか」
「あ……今日はどうもありがとう。勝手に巻き込んじゃってごめんね」
「まあいいよ……こういう休日もありっちゃありだ」
「ねえ、貴方も学園に戻るんでしょ? 一緒に行こうよ」
「いや、僕の家はこの階層にあるんでね。気遣いは無用だ」
「そうなの? じゃあここでお別れだねっ」
「また会ったらよろしくね」
「さよならだぜー!」
「……ありがとう、さようなら」
「バイバイ」
「……ああ」
五人が第二階層を立ち去る後ろ姿を、少年は見送っていた。
そして、完全にその姿が見えなくなった後、
真後ろに迫ってきていた、氷塊のゴーレムに向かって――
「……来るのが遅いぞクレーベェェェェェ!!!」
突進し、肉体をごすごす殴る。
「いや、来るのが遅いって……ご主人が勝手にいなくなるのが悪いんでしょうが!!」
「お前が!!! お前が僕に追い付くのが遅れたせいで!!! 今日は散々な目にあった!!! お前の責任だ!!!」
「そんな理不尽な!! アドルフさんも何か言ってやってください!!」
「アドルフだと……?」
ゴーレムの後ろには赤いローブの男性が立っている。
彼は少年と目を合わせると、手を挙げて微笑みかけてきた。
「やあトレック。久々だが元気そうで……」
「どういうことだアドルフーッッッッッ!!!」
トレックはクレーベの肩まで昇り、アドルフと同じ高さまでよじ登った所で、顔を睨み付ける。
「今日は五人の女生徒共に絡まれてな……確か一年生だったな!!! それで日が暮れるまで宿題に付き合わされた!!! 貴様魔法学園でどういう教育をしている!? 何故一目見て僕のことを理解できない!?」
「……無茶言うなよ。お前のその見た目と声を聞いて、一発でグレイスウィル四貴族のアールイン家現当主だって、見抜くのは不可能だぞ。まして一年生なら尚更だ」
「貴様ぁー!!! 貴様まで僕のことをそう言うのか!!! 人が気にしている所を躊躇なく突っ込むのか!!! くそ……グレイスウィル史の教師は誰だ!?」
「一年生ならルドミリアだよ」
「ルド……!? あの女か……!!! 今度会ったら抗議してやる!!! グレイスウィル史の授業の時は、必ず現当主の肖像画を見せるように言いつけて――」
「お前の肖像画って大分身長盛ってなかったか?」
「……ぐわあああああああーっ!!!」
トレックはクレーベから降り地団駄を踏む。
とはいえそこは大人、貴族の領主。数分もすると流石に落ち着いてきたようで、
息を切らしながらも沈着さを取り戻しつつあった。
「ぜぇぜぇ……それで何の用だ。まさか僕に会いに来ただけとでも言うんじゃないだろうな」
「実はそうなんですよ……と言いたい所だが、重要な話がある。聖教会についてなんだが」
「何?」
聖教会という単語を聞いた途端、トレックは瞬時に顔を険しくさせる。
「……こんな人気の多い所でする話じゃない。僕の家で話せ」
「言われなくともそのつもりさ。それでお前を探していて、ばったりクレーベに会ったというわけだ」
「成程な……」
第二階層で最も大きい建物に向かって三人は足を進めていく。
その途中、細々と人がいなくなりつつある所を見計らって、トレックからアドルフに話題を切り出す。
「……先程の生徒についてなんだが」
「まだ文句が言い足りないか?」
「それはもう十分だ――そのうち一人が『魔法使い』、貴様の言っていた騎士王の主君だった」
「……」
「至って普通の少女だったぞ。魔法使いがどうこうって話を聞かなかったら、ずっと誤解する所だった」
「……そうか」
「ただ、確認しておきたいことがあってな――」
「――セーヴァとシルヴァには、彼女のことを伝えてはいないんだよな?」
ぴたりとアドルフの足が止まる。壁に開けられた窓から差し込む夕日ですら、角度が悪く彼の表情を照らせなかった。
「……ああそうだ。その二人は彼女のことを知らない。前者はルドミリアと話し合って、それが一番安全だと判断した。後者はその話し合いをする時に、偶々アルブリアの外にいたから伝えられなかった。これまでに一度も戻ってきていないので、まだ伝えられていない」
「そうか――なら安全だな。シルヴァはともかく、セーヴァに……」
トレックも立ち止まり、丁寧に掘削された岩の天井を仰ぐ。
「『帝国主義』に彼女と騎士王が渡ってしまったら、どうなるかわからんからな……」
「……失礼するよ」
「いらっしゃいませー。あらまあ、お戻りになられていたんですか」
「ほう。僕のことがわかるのか」
「だってここで商売させてもらっている身ですから」
「殊勝な心掛けだ。ところで、さっき五人組の少女達が入店してこなかったか」
「あら、その子達でしたら奥の方にご案内しましたよ」
「そうか。ちょっと落とし物をしたみたいでな、届けに来たんだ。入るぞ」
「わかりましたー」
そこから少年は店内を歩き回り、数分もせずにエリス達を発見する。
「……おい、お前達」
「あ! さっきの!」
「……何の用?」
「あのなあ……人の顔を見て鬼の首を取ったようになるな。このハンカチは誰の物だ?」
「あっ、それ私の!」
「……何となくそんな気はしていたが、やはりか」
少年はリーシャにハンカチを渡す。
「じゃあ僕はこれで……あ?」
ハンカチを受け取るのと同じタイミングで、
リーシャは少年の服の裾を掴んでいた。
「そんな帰るって言わないでさー! 宿題手伝ってよー!」
「おおおっ……やめろぉぉぉ……!?」
少年はそのままずるずると引き摺られ、
リーシャとサラの間にちょこんと着席させられた。
「じゃあ注文頼もう! カタリナ、鈴鳴らして!」
「うん、わかった」
少女達はちりんちりんと鈴を鳴らし、店員を呼び出す。
(こいつら……僕のことを生徒だと思っているな!?)
少年はやってきた店員に目配せをする。先程会計口にいた店員と同一であり、少年の様子にも気付いたようだったが。
(待て、微笑み返すな……!! お前は誠実だと思ったのに……!!)
「――オレンジジュース、レモンティー、ホットココアが一つずつ。コーヒーが二つでよろしいでしょうか?」
「貴方もコーヒーでいいよね?」
「……」
「返事がないならそうするね。コーヒー一杯追加でー」
「かしこまりました。ではごゆっくりどうぞ」
店員は伝票をポケットにしまうと厨房に向かって行く。少年は呆然とその後ろ姿を見送るしかなかった。
「よーし宿題宿題ー! ただの女子会にならないようにさっさと出せー!」
「出すぜー!」
「はぁ……」
サラ以外の四人は次々とプリントを出す。少年は圧迫感からか居心地が悪そうにしていた。
「サリアは……そうね。彼の側にいて緊張を和らげてあげて」
「だったら僕をここから逃がす手伝いをしろ」
「それは無理。ワタシこれに付き合ってるだけでもう手いっぱいだから」
「くそがぁ……」
少年の頭にサリアが乗っかる。花が頭から咲いたようにも見えた。
「あははっ、可愛い! スノウも膝にいてあげなよ!」
「はーいなのです!」
少年の膝に座った瞬間、スノウの目が忽ち丸く見開かれる。
「この人……すごく冷たいのです! すごく氷なのです!」
「わかるのかナイトメア。というかお前達も見ればわかるだろ」
「え、じゃあそのマントみたいなのって氷なの?」」
「そうだ。僕はウェンディゴなんでね。その特徴がこうやってマントみたいに発現した。かっこいいだろう?」
少年は得意そうに前髪を掻き上げる。
「うん、かっこいいと思う」
「あたしも」
「……否定できないのがムカつく~」
「すっげーかっこいいぜ! ロマンだぜ!」
「……フン」
五人の反応を見て少年は益々得意気になる。
(どうやらこいつらセンスはあるみたいだな……まあ女子だもんな)
だがすぐに女子二人に挟まれているという現実を思い出し、不機嫌に戻るのであった。
少年の心情が急降下している所に、頼んだ飲み物が運ばれてくる。
「おっ来た来た。じゃあ始めようか。皆何やるの?」
「帝国語~」
「裁縫だぜ!」
「見事に揃わねぇ~。私は地理学だ!」
「算術……ねえ、教えてもらってもいいかな?」
カタリナはサラと少年の前にプリントを差し出す。
「ふむ。文章題で詰まっているのか。文章題は誰でも引っかかる所だよな」
「何でそんなに懐かしそうなの?」
「悪いか?」
「別に。じゃあこの問題アナタが教えてね」
「はぁ!?」
サラは紅茶を啜って窓に視線を向ける。
「サラ! お前はこっちだ! 裁縫!」
「チッ……」
そして顔を顰めながらクラリアのプリントに視線を落とす。
「ていうかエリス意外だね。もう宿題終わってると思ってた」
「え~あ~それは……」
エリスは目を泳がせたが、それも数秒程で終わった。
「……みんなになら言ってもいいか。実はケビン先生から個別レポート出すように指示されているんだよね」
「ケビン先生というと、魔法学? それはどうして?」
「い、色々ありまして……」
「……あまり訊かないであげてよ」
「おお……わかったわカタリナ。何かごめんねエリス」
リーシャがプリントと対峙し始めた時を見計らって、エリスはカタリナに耳打ちをする。
「……リーシャは知らないんだったね。魔法使いとか合成魔法とか」
「うん……あれは流石に実際に見ていないと信じてもらえないと思う……」
「そうだね……」
しかしその会話は、唯一少年の耳だけに入っていた。
(……魔法使い? そうか彼女が……こんな普通の少女が?)
少年はエリスを無意識のうちに凝視していた。そんな視線を送っていたら、二人と目がばったり合う。
「どうしたの? 何か言いたいことでもあるの?」
「何でもないぞ。いいからさっさとやろう……」
こうして女子達の宿題は着々と進んでいく。
「……お疲れ様っしたああああああああ!!!」
時間はすっかり夕暮れ。勘定を終わらせ店を出た後、リーシャは思いっきり伸びをする。
「いやー結構サクサク進んだね。やっぱり宿題は皆でやるに限るね!」
「そうだね……何だか楽しかった」
「今日は誘ってくれてありがとう!」
「どういたしまして。次やる時も誘うね」
五人が思い思いに気持ちを吐き出している中、少年が咳払いをした。
「……お前達。僕に何か言うことがあるんじゃないのか」
「あ……今日はどうもありがとう。勝手に巻き込んじゃってごめんね」
「まあいいよ……こういう休日もありっちゃありだ」
「ねえ、貴方も学園に戻るんでしょ? 一緒に行こうよ」
「いや、僕の家はこの階層にあるんでね。気遣いは無用だ」
「そうなの? じゃあここでお別れだねっ」
「また会ったらよろしくね」
「さよならだぜー!」
「……ありがとう、さようなら」
「バイバイ」
「……ああ」
五人が第二階層を立ち去る後ろ姿を、少年は見送っていた。
そして、完全にその姿が見えなくなった後、
真後ろに迫ってきていた、氷塊のゴーレムに向かって――
「……来るのが遅いぞクレーベェェェェェ!!!」
突進し、肉体をごすごす殴る。
「いや、来るのが遅いって……ご主人が勝手にいなくなるのが悪いんでしょうが!!」
「お前が!!! お前が僕に追い付くのが遅れたせいで!!! 今日は散々な目にあった!!! お前の責任だ!!!」
「そんな理不尽な!! アドルフさんも何か言ってやってください!!」
「アドルフだと……?」
ゴーレムの後ろには赤いローブの男性が立っている。
彼は少年と目を合わせると、手を挙げて微笑みかけてきた。
「やあトレック。久々だが元気そうで……」
「どういうことだアドルフーッッッッッ!!!」
トレックはクレーベの肩まで昇り、アドルフと同じ高さまでよじ登った所で、顔を睨み付ける。
「今日は五人の女生徒共に絡まれてな……確か一年生だったな!!! それで日が暮れるまで宿題に付き合わされた!!! 貴様魔法学園でどういう教育をしている!? 何故一目見て僕のことを理解できない!?」
「……無茶言うなよ。お前のその見た目と声を聞いて、一発でグレイスウィル四貴族のアールイン家現当主だって、見抜くのは不可能だぞ。まして一年生なら尚更だ」
「貴様ぁー!!! 貴様まで僕のことをそう言うのか!!! 人が気にしている所を躊躇なく突っ込むのか!!! くそ……グレイスウィル史の教師は誰だ!?」
「一年生ならルドミリアだよ」
「ルド……!? あの女か……!!! 今度会ったら抗議してやる!!! グレイスウィル史の授業の時は、必ず現当主の肖像画を見せるように言いつけて――」
「お前の肖像画って大分身長盛ってなかったか?」
「……ぐわあああああああーっ!!!」
トレックはクレーベから降り地団駄を踏む。
とはいえそこは大人、貴族の領主。数分もすると流石に落ち着いてきたようで、
息を切らしながらも沈着さを取り戻しつつあった。
「ぜぇぜぇ……それで何の用だ。まさか僕に会いに来ただけとでも言うんじゃないだろうな」
「実はそうなんですよ……と言いたい所だが、重要な話がある。聖教会についてなんだが」
「何?」
聖教会という単語を聞いた途端、トレックは瞬時に顔を険しくさせる。
「……こんな人気の多い所でする話じゃない。僕の家で話せ」
「言われなくともそのつもりさ。それでお前を探していて、ばったりクレーベに会ったというわけだ」
「成程な……」
第二階層で最も大きい建物に向かって三人は足を進めていく。
その途中、細々と人がいなくなりつつある所を見計らって、トレックからアドルフに話題を切り出す。
「……先程の生徒についてなんだが」
「まだ文句が言い足りないか?」
「それはもう十分だ――そのうち一人が『魔法使い』、貴様の言っていた騎士王の主君だった」
「……」
「至って普通の少女だったぞ。魔法使いがどうこうって話を聞かなかったら、ずっと誤解する所だった」
「……そうか」
「ただ、確認しておきたいことがあってな――」
「――セーヴァとシルヴァには、彼女のことを伝えてはいないんだよな?」
ぴたりとアドルフの足が止まる。壁に開けられた窓から差し込む夕日ですら、角度が悪く彼の表情を照らせなかった。
「……ああそうだ。その二人は彼女のことを知らない。前者はルドミリアと話し合って、それが一番安全だと判断した。後者はその話し合いをする時に、偶々アルブリアの外にいたから伝えられなかった。これまでに一度も戻ってきていないので、まだ伝えられていない」
「そうか――なら安全だな。シルヴァはともかく、セーヴァに……」
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