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第1章1節 学園生活/始まりの一学期
第24話 魔法使いなエリス
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「う~い。おっはよ~」
「おはよう、エリス」
「おはよう」
「……」
土日も終わり、また一週間が始まったエリスとアーサー。今日も教室にある自分の席に座り、カタリナとイザークに挨拶をした。一週間も経てば慣れた動作と光景である。
このうちイザークは寝癖が残っている頭で机に突っ伏していたが、こればかりはまだ慣れない姿であった。
「マジで眠いよ~。寝てたいんだけど~」
「……昨日は何をしていたんだ」
「寝てた」
「宿題は」
「やったよ? やった上で寝たよ?」
「冗談はその頭だけにしろ」
「キレッキレだね~……ところで一時間目何の授業だよ」
「帝国語……じゃなくって、魔法学総論がずれて一時間目と二時間目になっていたよ」
「うっえマジかよ。寝れねーじゃん」
「どうして寝る前提なんだ」
「そりゃあ眠いからさ~……」
すると突如教室の扉が開け放たれ、中に教師が入ってくる。頭髪が一本たりとも生えていない教師である。
「……来やがったな」
「うおっほん! そこの君、何か申し上げましたかね?」
「こっち来んじゃねえよクソハゲ」
イザークは大きな笑顔を作って答えた。エリスはほんの少し体勢を低くして教師に話しかける。
「バックス先生……どうしたんですか?」
「ケビン先生はちょっと急用が入ってしまってな。というわけで一時間目は吾輩が入るぞ」
そう言って教卓に向かい、どすんと尻を落ち着ける。
「先生からは呪文の書き取りを行うように言いつけられておる。吾輩がしっかり見ている故、自習に励むように」
「ハゲだけにってかぁ~……」
イザークは白目を剥いて机に突っ伏す。
「呪文か」
「確か今日は魔法の演習だったよね。呪文を唱えるやつ」
「ああ、書き取りはしてもらったけど実際に使ってみた方がもっと覚えるだろとか何とか言ってた気がする……」
「……」
カタリナはセバスンを抱いたまま不安そうに目を見開く。
「カ、カタリナ……そんな怯えなくても大丈夫だよ」
「う、うん……あたし駄目だな。色んなことが怖くて……」
「初めてなら誰でもそんなものだよ。そうだ、イザークも一緒に呪文の復習しようよ」
「オッケー。じゃあボクは合っているかどうか確認係ね」
「……その体勢は変えないつもりか」
「クソハゲ来たからエネルギーが尽きた。もう横になってる。どうせあのハゲ見てねーし」
エリスがバックスの方を見遣ると、確かにイザークの言う通り、教卓の後ろで本を読み始めていた。
「そもそも勉強するのに姿勢なんて関係ないと思うんだよね~」
「……オレは何も知らんぞ」
「ういーす」
「じゃ、じゃあ……やろうか」
エリスは紙を一枚鞄から取り出し、読み上げる。
「確かカタリナは闇属性だったよね。闇属性は……夜想曲の幕を上げよ、混沌たる闇の神よだね」
「う、うん……」
「捻りもねえしシンプルにかっこいいから一番覚えやすいと思ってる」
「……ごめんちょっとわからない。まあそれは置いといて、イザークは……」
「何だかかんだかウィッシャーでしょ。ボクもう完璧に覚えてるから」
「突っ込まないぞ……」
「イライズだよ。狂詩曲を響かせよ、暴虐たる雷の神よ」
「あーそうそんな感じ。狂詩曲、狂詩曲っと……」
不意にイザークは顔を起こしてアーサーを見つめる。
「何で昔の人って音楽を神様に捧げたんだろうなあ」
「気でも狂ったか」
「おいおいアーサー、真面目なこと言うとそれかよ。でも実際問題としてそうじゃん、呪文の帝国語訳って全部音楽の種類入ってるじゃん」
「でもサンブリカ神……火属性の呪文って、宴じゃなかったっけ」
「宴って往々にして歌って騒ぐもんだから同じ同じ」
「確かに」
「んー、音楽を捧げた理由……言葉が通じなかったから、とか? 代わりに神様好みの音楽を奏でて敬意を表していたとか」
「なるほど、音楽は共通言語と。いいねーそういうの大好きだぜカタリナサァン」
満足するように手を叩き、親指と人差し指を垂直に立ててカタリナに指す。指された方は恥ずかしそうだ。
「イザークって……音楽好きなの?」
「まあね」
一言だけ答えると、窓の方に顔を向けてまた机に突っ伏した。が、すぐに顔をエリス達に向けてきた。
「そういやエリスとアーサーの属性訊いてねえや。あと系統も。結局どうだったの?」
「え、あ、うん」
エリスはしばらく迷ったが、とぼけても仕方ないと感じたので、
「……あの後属性も系統もよくわからなかったんだよね。先生によると基礎魔法とかの練習はできるけど、それを応用した魔法の演習には参加できないかもって。アーサーもそんな感じだよ」
「そ、そうなんだ……」
「うん……だから今日の演習には参加できる、かな。アーサーは参加しないで見学だけど」
「……こんがらがってきたなあ」
「ま、まあ……そういうものだって思ってほしいな」
「そういうものか。そういうものなら仕方ねえな。じゃあもう何も訊かねえよ」
その後も自習を続けていると、終業の鐘が聞こえてきた。
「おお、授業が終わったな。では吾輩は帰るぞ。引き続き勉学に励んでいくように」
「二度と来んなクソハゲ」
イザークはバックスの後ろ姿に向かって片目をを引っ張り舌を出す。
そしてバックスが教室を出ていくのと入れ違いに、ケビンが顔を覗かせた。
「皆ちゃんと自習はやっていたか。次は演習場でやるから、準備を整えて各自集合してくれ。持ち物はなくてもいいがノートを取りたいなら持ってきてもいいぞ」
それだけ言うと、ケビンは足早に一階に向かっていく。
「……武術と家政学が二コマあるのはわかるぜ? でも何で魔法学も二コマなんだよ。すげー疲れるっつーの」
「えっと……魔法は密接に生活に関わっているから、とか?」
「おお~カタリナいいこと言うじゃん。何か納得したからそういうことにしておくか~」
「……はぁ……」
イザークはのっそりと身体を起こし席を立つ。それに続くように他の三人も席を立ち、演習場に向かう。
演習場は三年生までの生徒が武術と魔術の訓練に用いる施設であり、その他課外活動の拠点ともなっているので、非常に広い。収容人数や訓練に必要な空間の確保を考慮した結果、校舎と中庭を合わせた以上の広さとなっている。
そんなだから移動するだけでも一労働。腰を適当に落ち着け休憩する間もなく二時限目が始まってしまう。
「さて……演習の前におさらいだ」
演習場に並び地面に座っている生徒達を前に、ケビンが話し出す。移動で疲れているだろうと感じてか、ゆっくりと言葉を進める。
「まだ魔法が体系化されていなかった時代、魔法は限られた才能のある者しか扱えない代物だった。しかし研究が進み、誰でも簡単に魔法が扱えるような道具が開発された」
「その道具を触媒と呼ぶ。原則として触媒は、魔力回路を通せば全ての物体が触媒として成立する。アクセサリーや武器、私は見たことはないが食器なんかでもできるぞ。その中でも杖は触媒としての機能に特化させた道具だ」
ケビンはローブの中から銀でできた杖を取り出し、生徒達に見せる。
「この杖は私の触媒で、遠くの物体に干渉する力を強めてくれている。だがこれを扱うにはかなり基礎魔法の練習を積まねばならない」
「まず皆は練習用の触媒――誰でも扱え、負担もそうかからない物だ。これで演習を行う。この一年間はそれで授業に参加してもらい、魔法を行使すること自体に慣れてもらう。自分で好きな触媒を買うのは二年になってからだ。だから今の所はお金の心配はしなくていいぞ」
そう言いながらケビンは指を鳴らす。
すると大きめの箱が風を切って飛んできて、その勢いを殺しつつケビンの横に止まった。中には木でできた杖がぎっしりと詰め込まれている。
「とりあえずここから杖を一本持っていってくれ。もしこれで叩き合いとか始めたらこの授業から追放するからな。あとどれも性能は変わりないから適当に選んでくれ」
生徒達は立ち上がり、指示通り箱から杖を取って戻っていった。
「よし、全員持ったな。この触媒を握りしめ神誓呪文――さっきまで皆に覚えてもらった言葉を唱えると、それに応じた魔法が発動する」
「基礎魔法ならどの呪文を唱えても発動するが、自分と同じ属性の呪文を唱えると負担が少ない。皆はこの間の魔法陣検査で自分の属性を把握しているな? それと同じ呪文をまずは唱えるように」
説明を終えたケビンは、演習場の中央に移動する。
「さあ、一列に並んで来てくれ。一人ずつ呪文を唱える練習を行うぞ」
生徒達は一列に並び、演習場の中央付近に集まった。ケビンの隣にはアーサーが突っ立っている。
「……前に言った通りだ。皆の様子を見て、それをレポートにまとめてくれ」
アーサーはそれに何も反応を示さず、生徒達とケビンの間にある開けた空間を見つめている。少し後ろには生徒達が列になって並んでいた。
「……ボクこの前一番槍だったからさ。カタリナが先やりなよ」
「えええええ!? あ、あたし……?」
「初めてなんだから誰からやっても一緒! ほらほら遠慮するな~」
「わわっ……」
イザークに背中を押されて、カタリナはケビンの前に立った。
「……イザークの言う通りだな。皆初めてなんだし、緊張することはないぞ。杖先を下に向けてから呪文を唱えてくれ」
「うっ、ううっ……」
カタリナは地面に向けて杖を向ける。
そして震えながら、しかしはっきりと詠唱を行う。
「夜想曲の幕を上げよ、混沌たる闇の神よ――」
それから数秒後、
杖から紫弾が放たれ、地面に落ちた。
紫弾は弾け、落ちた場所を中心に残波が広がる。
「ひゃあっ!?」
「お嬢様!」
カタリナは魔弾が放たれたのに驚き、腰を抜かし杖を落としてしまう。
忽ちセバスンが現れ、カタリナの身体を支える。
「いいぞ、これで成功だ。今身体の中を何かが通り過ぎる感覚を覚えただろう? 詳しい理論はまた後でやるが、大気中の魔力が自分に入ってきて、それが触媒に通じて弾となって放出されたんだ。最初は魔力が身体を通ることに慣れないだろうが、こんなもんだと思ってくれ」
「あ、ありがとうございます……」
カタリナはゆっくりと腰を起こし、杖を持ってアーサーの隣に座る。
「えっと……隣、いい?」
「……」
「……座るね」
「次、イザーク」
「うえーい。やるぞやるぞ~」
イザークは杖を持って地面に向ける。適当にやっているのが目に見えてわかる態度だ。
「狂詩曲を響かせよ、暴虐たる雷の神よ――」
彼は呪文を唱えたが、杖から弾が出ることはなかった。
「……あれ? どうなってんだ?」
「今のは呪文の詠唱がちょっと弱かったな。最後のシャーの部分をもっとはっきりと言うといい。取り敢えず、後ろの生徒に代わってくれ」
「ほーん……」
イザークは相槌を打ちながらアーサーの隣に来た。
「……どうしてこっちに来るんだ」
「いーじゃん別に。さあ次エリスの番だぜ」
「……」
途端にアーサーは黙り、エリスを見つめる。
「……前の検査では結局属性がわからなかったから、今回はどれでもいい。好きな呪文を唱えてくれて構わないぞ」
「はい……」
ケビンから話を受け、エリスは三歩前に出る。そして杖を下に向け目を閉じた。
(どれでもいいから好きなのって、一番困る要望だなあ。何にしようかな……炎か水か、それとも土か……)
ぼふっ
(――えっ?)
杖の先から火の弾が出てきた。
(――ええっ?)
それは続いて出てきた水の弾に消され、次いで橙色の弾が飛び出して土を乾かした。
(――えええっ!?)
緑色、黄色、水色、クリーム色、紫色の弾が次々と出てきて、着弾するとそれぞれに応じた現象を起こす。
「……何だこれ」
「……『魔法使い』か。なるほどなるほど……」
「は……?」
突然の超常現象に呆然としているアーサーとイザークを横に、ケビンは興味深そうに頷く。
そんなケビンの所に、エリスが大層慌てて駆け寄ってくる。
「せ、せせ、先生、これって……?」
「驚くことはないぞ。エリス、どうやらお前は『魔法使い』みたいだな」
「魔法使い……?」
「先程の説明にあった、魔法の才能がある人間だ。こういった人間は呪文や触媒の有無に関わらず魔法が使える」
「で、でも杖から弾が出てきました……」
「恐らく魔力の流れを効率化させる道具を握っていたから、それに流れていったのだろう。それに魔法使いであるならば、この間の検査魔法陣が反応しなかったことについても、ある程度の説明はつくな……」
「……はへえ」
「取り敢えず今は他の生徒のを観察しておいてくれ。しかし凄いぞ、魔法使いだけでも十分珍しいのに、今度は八属性全てに適性がある可能性が……」
ケビンは興奮冷め止まぬ様子で独り言を呟いている。
それを流し見しながら、エリスはアーサーの隣に行き、そしてへたれ込むように地面に座った。
「エリス……大丈夫? 何だか凄いことになっちゃったね」
「うん……」
「まあまあ気に病むことはないんじゃね? 才能あるってスゲーことじゃん」
「そう、だね……」
エリスはアーサーを見上げる。彼は依然として変わらず生徒達の魔法の訓練を観察している最中だ。
(アーサーもすごくて……わたしもすごい? 何だかよくわかんないや……)
「おはよう、エリス」
「おはよう」
「……」
土日も終わり、また一週間が始まったエリスとアーサー。今日も教室にある自分の席に座り、カタリナとイザークに挨拶をした。一週間も経てば慣れた動作と光景である。
このうちイザークは寝癖が残っている頭で机に突っ伏していたが、こればかりはまだ慣れない姿であった。
「マジで眠いよ~。寝てたいんだけど~」
「……昨日は何をしていたんだ」
「寝てた」
「宿題は」
「やったよ? やった上で寝たよ?」
「冗談はその頭だけにしろ」
「キレッキレだね~……ところで一時間目何の授業だよ」
「帝国語……じゃなくって、魔法学総論がずれて一時間目と二時間目になっていたよ」
「うっえマジかよ。寝れねーじゃん」
「どうして寝る前提なんだ」
「そりゃあ眠いからさ~……」
すると突如教室の扉が開け放たれ、中に教師が入ってくる。頭髪が一本たりとも生えていない教師である。
「……来やがったな」
「うおっほん! そこの君、何か申し上げましたかね?」
「こっち来んじゃねえよクソハゲ」
イザークは大きな笑顔を作って答えた。エリスはほんの少し体勢を低くして教師に話しかける。
「バックス先生……どうしたんですか?」
「ケビン先生はちょっと急用が入ってしまってな。というわけで一時間目は吾輩が入るぞ」
そう言って教卓に向かい、どすんと尻を落ち着ける。
「先生からは呪文の書き取りを行うように言いつけられておる。吾輩がしっかり見ている故、自習に励むように」
「ハゲだけにってかぁ~……」
イザークは白目を剥いて机に突っ伏す。
「呪文か」
「確か今日は魔法の演習だったよね。呪文を唱えるやつ」
「ああ、書き取りはしてもらったけど実際に使ってみた方がもっと覚えるだろとか何とか言ってた気がする……」
「……」
カタリナはセバスンを抱いたまま不安そうに目を見開く。
「カ、カタリナ……そんな怯えなくても大丈夫だよ」
「う、うん……あたし駄目だな。色んなことが怖くて……」
「初めてなら誰でもそんなものだよ。そうだ、イザークも一緒に呪文の復習しようよ」
「オッケー。じゃあボクは合っているかどうか確認係ね」
「……その体勢は変えないつもりか」
「クソハゲ来たからエネルギーが尽きた。もう横になってる。どうせあのハゲ見てねーし」
エリスがバックスの方を見遣ると、確かにイザークの言う通り、教卓の後ろで本を読み始めていた。
「そもそも勉強するのに姿勢なんて関係ないと思うんだよね~」
「……オレは何も知らんぞ」
「ういーす」
「じゃ、じゃあ……やろうか」
エリスは紙を一枚鞄から取り出し、読み上げる。
「確かカタリナは闇属性だったよね。闇属性は……夜想曲の幕を上げよ、混沌たる闇の神よだね」
「う、うん……」
「捻りもねえしシンプルにかっこいいから一番覚えやすいと思ってる」
「……ごめんちょっとわからない。まあそれは置いといて、イザークは……」
「何だかかんだかウィッシャーでしょ。ボクもう完璧に覚えてるから」
「突っ込まないぞ……」
「イライズだよ。狂詩曲を響かせよ、暴虐たる雷の神よ」
「あーそうそんな感じ。狂詩曲、狂詩曲っと……」
不意にイザークは顔を起こしてアーサーを見つめる。
「何で昔の人って音楽を神様に捧げたんだろうなあ」
「気でも狂ったか」
「おいおいアーサー、真面目なこと言うとそれかよ。でも実際問題としてそうじゃん、呪文の帝国語訳って全部音楽の種類入ってるじゃん」
「でもサンブリカ神……火属性の呪文って、宴じゃなかったっけ」
「宴って往々にして歌って騒ぐもんだから同じ同じ」
「確かに」
「んー、音楽を捧げた理由……言葉が通じなかったから、とか? 代わりに神様好みの音楽を奏でて敬意を表していたとか」
「なるほど、音楽は共通言語と。いいねーそういうの大好きだぜカタリナサァン」
満足するように手を叩き、親指と人差し指を垂直に立ててカタリナに指す。指された方は恥ずかしそうだ。
「イザークって……音楽好きなの?」
「まあね」
一言だけ答えると、窓の方に顔を向けてまた机に突っ伏した。が、すぐに顔をエリス達に向けてきた。
「そういやエリスとアーサーの属性訊いてねえや。あと系統も。結局どうだったの?」
「え、あ、うん」
エリスはしばらく迷ったが、とぼけても仕方ないと感じたので、
「……あの後属性も系統もよくわからなかったんだよね。先生によると基礎魔法とかの練習はできるけど、それを応用した魔法の演習には参加できないかもって。アーサーもそんな感じだよ」
「そ、そうなんだ……」
「うん……だから今日の演習には参加できる、かな。アーサーは参加しないで見学だけど」
「……こんがらがってきたなあ」
「ま、まあ……そういうものだって思ってほしいな」
「そういうものか。そういうものなら仕方ねえな。じゃあもう何も訊かねえよ」
その後も自習を続けていると、終業の鐘が聞こえてきた。
「おお、授業が終わったな。では吾輩は帰るぞ。引き続き勉学に励んでいくように」
「二度と来んなクソハゲ」
イザークはバックスの後ろ姿に向かって片目をを引っ張り舌を出す。
そしてバックスが教室を出ていくのと入れ違いに、ケビンが顔を覗かせた。
「皆ちゃんと自習はやっていたか。次は演習場でやるから、準備を整えて各自集合してくれ。持ち物はなくてもいいがノートを取りたいなら持ってきてもいいぞ」
それだけ言うと、ケビンは足早に一階に向かっていく。
「……武術と家政学が二コマあるのはわかるぜ? でも何で魔法学も二コマなんだよ。すげー疲れるっつーの」
「えっと……魔法は密接に生活に関わっているから、とか?」
「おお~カタリナいいこと言うじゃん。何か納得したからそういうことにしておくか~」
「……はぁ……」
イザークはのっそりと身体を起こし席を立つ。それに続くように他の三人も席を立ち、演習場に向かう。
演習場は三年生までの生徒が武術と魔術の訓練に用いる施設であり、その他課外活動の拠点ともなっているので、非常に広い。収容人数や訓練に必要な空間の確保を考慮した結果、校舎と中庭を合わせた以上の広さとなっている。
そんなだから移動するだけでも一労働。腰を適当に落ち着け休憩する間もなく二時限目が始まってしまう。
「さて……演習の前におさらいだ」
演習場に並び地面に座っている生徒達を前に、ケビンが話し出す。移動で疲れているだろうと感じてか、ゆっくりと言葉を進める。
「まだ魔法が体系化されていなかった時代、魔法は限られた才能のある者しか扱えない代物だった。しかし研究が進み、誰でも簡単に魔法が扱えるような道具が開発された」
「その道具を触媒と呼ぶ。原則として触媒は、魔力回路を通せば全ての物体が触媒として成立する。アクセサリーや武器、私は見たことはないが食器なんかでもできるぞ。その中でも杖は触媒としての機能に特化させた道具だ」
ケビンはローブの中から銀でできた杖を取り出し、生徒達に見せる。
「この杖は私の触媒で、遠くの物体に干渉する力を強めてくれている。だがこれを扱うにはかなり基礎魔法の練習を積まねばならない」
「まず皆は練習用の触媒――誰でも扱え、負担もそうかからない物だ。これで演習を行う。この一年間はそれで授業に参加してもらい、魔法を行使すること自体に慣れてもらう。自分で好きな触媒を買うのは二年になってからだ。だから今の所はお金の心配はしなくていいぞ」
そう言いながらケビンは指を鳴らす。
すると大きめの箱が風を切って飛んできて、その勢いを殺しつつケビンの横に止まった。中には木でできた杖がぎっしりと詰め込まれている。
「とりあえずここから杖を一本持っていってくれ。もしこれで叩き合いとか始めたらこの授業から追放するからな。あとどれも性能は変わりないから適当に選んでくれ」
生徒達は立ち上がり、指示通り箱から杖を取って戻っていった。
「よし、全員持ったな。この触媒を握りしめ神誓呪文――さっきまで皆に覚えてもらった言葉を唱えると、それに応じた魔法が発動する」
「基礎魔法ならどの呪文を唱えても発動するが、自分と同じ属性の呪文を唱えると負担が少ない。皆はこの間の魔法陣検査で自分の属性を把握しているな? それと同じ呪文をまずは唱えるように」
説明を終えたケビンは、演習場の中央に移動する。
「さあ、一列に並んで来てくれ。一人ずつ呪文を唱える練習を行うぞ」
生徒達は一列に並び、演習場の中央付近に集まった。ケビンの隣にはアーサーが突っ立っている。
「……前に言った通りだ。皆の様子を見て、それをレポートにまとめてくれ」
アーサーはそれに何も反応を示さず、生徒達とケビンの間にある開けた空間を見つめている。少し後ろには生徒達が列になって並んでいた。
「……ボクこの前一番槍だったからさ。カタリナが先やりなよ」
「えええええ!? あ、あたし……?」
「初めてなんだから誰からやっても一緒! ほらほら遠慮するな~」
「わわっ……」
イザークに背中を押されて、カタリナはケビンの前に立った。
「……イザークの言う通りだな。皆初めてなんだし、緊張することはないぞ。杖先を下に向けてから呪文を唱えてくれ」
「うっ、ううっ……」
カタリナは地面に向けて杖を向ける。
そして震えながら、しかしはっきりと詠唱を行う。
「夜想曲の幕を上げよ、混沌たる闇の神よ――」
それから数秒後、
杖から紫弾が放たれ、地面に落ちた。
紫弾は弾け、落ちた場所を中心に残波が広がる。
「ひゃあっ!?」
「お嬢様!」
カタリナは魔弾が放たれたのに驚き、腰を抜かし杖を落としてしまう。
忽ちセバスンが現れ、カタリナの身体を支える。
「いいぞ、これで成功だ。今身体の中を何かが通り過ぎる感覚を覚えただろう? 詳しい理論はまた後でやるが、大気中の魔力が自分に入ってきて、それが触媒に通じて弾となって放出されたんだ。最初は魔力が身体を通ることに慣れないだろうが、こんなもんだと思ってくれ」
「あ、ありがとうございます……」
カタリナはゆっくりと腰を起こし、杖を持ってアーサーの隣に座る。
「えっと……隣、いい?」
「……」
「……座るね」
「次、イザーク」
「うえーい。やるぞやるぞ~」
イザークは杖を持って地面に向ける。適当にやっているのが目に見えてわかる態度だ。
「狂詩曲を響かせよ、暴虐たる雷の神よ――」
彼は呪文を唱えたが、杖から弾が出ることはなかった。
「……あれ? どうなってんだ?」
「今のは呪文の詠唱がちょっと弱かったな。最後のシャーの部分をもっとはっきりと言うといい。取り敢えず、後ろの生徒に代わってくれ」
「ほーん……」
イザークは相槌を打ちながらアーサーの隣に来た。
「……どうしてこっちに来るんだ」
「いーじゃん別に。さあ次エリスの番だぜ」
「……」
途端にアーサーは黙り、エリスを見つめる。
「……前の検査では結局属性がわからなかったから、今回はどれでもいい。好きな呪文を唱えてくれて構わないぞ」
「はい……」
ケビンから話を受け、エリスは三歩前に出る。そして杖を下に向け目を閉じた。
(どれでもいいから好きなのって、一番困る要望だなあ。何にしようかな……炎か水か、それとも土か……)
ぼふっ
(――えっ?)
杖の先から火の弾が出てきた。
(――ええっ?)
それは続いて出てきた水の弾に消され、次いで橙色の弾が飛び出して土を乾かした。
(――えええっ!?)
緑色、黄色、水色、クリーム色、紫色の弾が次々と出てきて、着弾するとそれぞれに応じた現象を起こす。
「……何だこれ」
「……『魔法使い』か。なるほどなるほど……」
「は……?」
突然の超常現象に呆然としているアーサーとイザークを横に、ケビンは興味深そうに頷く。
そんなケビンの所に、エリスが大層慌てて駆け寄ってくる。
「せ、せせ、先生、これって……?」
「驚くことはないぞ。エリス、どうやらお前は『魔法使い』みたいだな」
「魔法使い……?」
「先程の説明にあった、魔法の才能がある人間だ。こういった人間は呪文や触媒の有無に関わらず魔法が使える」
「で、でも杖から弾が出てきました……」
「恐らく魔力の流れを効率化させる道具を握っていたから、それに流れていったのだろう。それに魔法使いであるならば、この間の検査魔法陣が反応しなかったことについても、ある程度の説明はつくな……」
「……はへえ」
「取り敢えず今は他の生徒のを観察しておいてくれ。しかし凄いぞ、魔法使いだけでも十分珍しいのに、今度は八属性全てに適性がある可能性が……」
ケビンは興奮冷め止まぬ様子で独り言を呟いている。
それを流し見しながら、エリスはアーサーの隣に行き、そしてへたれ込むように地面に座った。
「エリス……大丈夫? 何だか凄いことになっちゃったね」
「うん……」
「まあまあ気に病むことはないんじゃね? 才能あるってスゲーことじゃん」
「そう、だね……」
エリスはアーサーを見上げる。彼は依然として変わらず生徒達の魔法の訓練を観察している最中だ。
(アーサーもすごくて……わたしもすごい? 何だかよくわかんないや……)
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
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腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
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