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最終話 生まれ変わった少女
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「……うん!」
「えへへ……!」
疲れるまで泣いた後、ルチルは顔を上げた。そして自分でも驚くことに、とても晴れ晴れとした気分になっていたのである。
『安全に進むにはお前の協力が必要なんだ……ルチル。礼については後で考えるが、必ずすると約束しよう。どうかおれに力を貸してくれないか?』
『うるせー! おれはケンカはつえーけど語彙力は爆散してんだよ!』
『ま、そうかもしれねーが。逃げるのを前提に考えてたら、戦闘で力出せねーぜ? 勝つことが第一だ!』
脳裏にはたった2週間の日々が過った。同年代の異性との出会いは、とても刺激的だった。
『ルチルはやりたいこととかねえのかよ? 仕事して金貯めて、それでしてみたいことはねえのか? どんなに馬鹿げたことでもいい、何か目標はねえのかよ!!!』
『いいぜ! せっかくだからすげーの作って、土産にしてやるぜ!』
『心配そうな顔すんなって。ルチルはあんなに強い風を起こせるんだ。ルーンをいっぱい集めることができるんだから、必ずできるさ』
それは今まで味わったことのない感覚。思いもよらない方向から優しく触れてきて、そして自分に欠けているものを真剣になって教えてくれた。
『だが……それで誰かが、ルチルが不幸になるぐらいなら……おれは、馬鹿で構わねえ……』
『おれ一人じゃくたばりそうだが、お前と一緒なら――やれる! やれるはずだ! 信じているぞ、ルチル!!!』
『ルチルーっ!! じゃあなーっ!! いつか絶対に、絶対に、ぜーったいに会おうなーっ!!!』
3年もの間墓参りをしてこなかったのは、母の死を実感してしまうから。まだどこかで生きているかもしれないと、縋る気持ちがあったのである。
しかし今はそんな気持ちを取り払った。それは彼に、クレインに出会ったから。彼の生き様を見て、自分も変わろうと思ったから。
彼は信念の下に戦っていた。だからとても強くて、そして輝いていた。
自分もそんな輝きに当てられて、少しでも変わってみようと。母の死を遠ざける目的で、なんとなく生きていたのをやめようと。
そう思えたからこそ、ルチルは散々泣いた後に、晴れやかな笑顔になれたのだ。
「それじゃあね……お母さん。アップルパイ食べてね。またお休み作って来るからね。その時はもっと美味しいもの持ってくるからね――」
ルチルはレジャーシートを畳み、供えたアップルパイ以外の荷物を持って立ち上がる。別れに名残惜しさがあるのも、死を受け入れようとする揺れ動きの一つだ。
墓を背にして飛び立つ。空を飛んでいる間、様々なことをルチルは考えた。
「美味しいもの……何があるかな。お肉にお魚お野菜、甘いものばっかじゃお母さん飽きるよね」
「そうだ、なら全部買っちゃえばいいんだよ! わたしの気に入ったもの、お母さんに全部教えちゃおう! それにはお金がたっくさん必要!」
明るい未来のことを考える時、人は限りない笑顔を見せる。今のルチルはそうであった。
「お金をたくさん手に入れるには、たくさんお仕事をしないといけない。一日でたくさん運べるようになれば、その分だけお金がもらえる」
「そのためには……魔法が上手にならないと! 今すぐにでも、魔法の訓練を始めなくっちゃ!」
辛い努力や苦労であっても、それが必要であると理解できれば、すんなりと受け入れられる。
今から始める魔法の訓練は、きっと厳しいものになるだろうと、ルチルは予感していた。それすらも笑顔で受け入れることができているのだ。
「それから、クレインを呼ぶんだからね。遊ぶお金も準備しておかなくっちゃ。うう~、ここまで来るとお金を稼ぐだけじゃ足りないかなあ」
「今でもずいぶん節約してきたつもりだけど、今後はもっと気をつけなくっちゃ。どんな方法で節約できるか、ニーナさんやオーガスタさんに聞いてみよう」
「魔法のことはソフィアさんとか、ノワールさんにお任せ! あとは……どんな人がいるかな?」
「……思えばわたし、こんなにもたくさんの人に支えられてるのに、名前はそんなに覚えていないや。ばち当たりだな……」
「色んな人達に感謝の気持ちを忘れないようにしよう。わたしと出会った人全てに……もちろんお母さんにも!」
「それから、当然、クレインにだって……」
南の方角を向く。太陽がさんさんと照りつける彼方に、ホッドミーミル大陸とは違う風景が広がる、ライヴァン大陸がある。
そこにはスヴァーダという帝国があって、クレインがいるのだ。別れはしたが完全にいなくなったわけではない。会いたいと願うのなら、また会える。
そしてその願いは、自分で日々を積み上げて、掴み取るものなのだ。
「……待っててね、クレインーっ! 生まれ変わったわたし、あなたに見せてあげるからーっ!」
太陽に――その反対側で休んでいるであろう月に向かって、ルチルは叫んだ。そして本当にローゼンの町へと戻っていく。やりたいと思ったことを、今から実践しにいくのだ。
誰よりも優しく、誰よりも信念を秘めて。こうして『春風の魔法少女』は誕生した。
「えへへ……!」
疲れるまで泣いた後、ルチルは顔を上げた。そして自分でも驚くことに、とても晴れ晴れとした気分になっていたのである。
『安全に進むにはお前の協力が必要なんだ……ルチル。礼については後で考えるが、必ずすると約束しよう。どうかおれに力を貸してくれないか?』
『うるせー! おれはケンカはつえーけど語彙力は爆散してんだよ!』
『ま、そうかもしれねーが。逃げるのを前提に考えてたら、戦闘で力出せねーぜ? 勝つことが第一だ!』
脳裏にはたった2週間の日々が過った。同年代の異性との出会いは、とても刺激的だった。
『ルチルはやりたいこととかねえのかよ? 仕事して金貯めて、それでしてみたいことはねえのか? どんなに馬鹿げたことでもいい、何か目標はねえのかよ!!!』
『いいぜ! せっかくだからすげーの作って、土産にしてやるぜ!』
『心配そうな顔すんなって。ルチルはあんなに強い風を起こせるんだ。ルーンをいっぱい集めることができるんだから、必ずできるさ』
それは今まで味わったことのない感覚。思いもよらない方向から優しく触れてきて、そして自分に欠けているものを真剣になって教えてくれた。
『だが……それで誰かが、ルチルが不幸になるぐらいなら……おれは、馬鹿で構わねえ……』
『おれ一人じゃくたばりそうだが、お前と一緒なら――やれる! やれるはずだ! 信じているぞ、ルチル!!!』
『ルチルーっ!! じゃあなーっ!! いつか絶対に、絶対に、ぜーったいに会おうなーっ!!!』
3年もの間墓参りをしてこなかったのは、母の死を実感してしまうから。まだどこかで生きているかもしれないと、縋る気持ちがあったのである。
しかし今はそんな気持ちを取り払った。それは彼に、クレインに出会ったから。彼の生き様を見て、自分も変わろうと思ったから。
彼は信念の下に戦っていた。だからとても強くて、そして輝いていた。
自分もそんな輝きに当てられて、少しでも変わってみようと。母の死を遠ざける目的で、なんとなく生きていたのをやめようと。
そう思えたからこそ、ルチルは散々泣いた後に、晴れやかな笑顔になれたのだ。
「それじゃあね……お母さん。アップルパイ食べてね。またお休み作って来るからね。その時はもっと美味しいもの持ってくるからね――」
ルチルはレジャーシートを畳み、供えたアップルパイ以外の荷物を持って立ち上がる。別れに名残惜しさがあるのも、死を受け入れようとする揺れ動きの一つだ。
墓を背にして飛び立つ。空を飛んでいる間、様々なことをルチルは考えた。
「美味しいもの……何があるかな。お肉にお魚お野菜、甘いものばっかじゃお母さん飽きるよね」
「そうだ、なら全部買っちゃえばいいんだよ! わたしの気に入ったもの、お母さんに全部教えちゃおう! それにはお金がたっくさん必要!」
明るい未来のことを考える時、人は限りない笑顔を見せる。今のルチルはそうであった。
「お金をたくさん手に入れるには、たくさんお仕事をしないといけない。一日でたくさん運べるようになれば、その分だけお金がもらえる」
「そのためには……魔法が上手にならないと! 今すぐにでも、魔法の訓練を始めなくっちゃ!」
辛い努力や苦労であっても、それが必要であると理解できれば、すんなりと受け入れられる。
今から始める魔法の訓練は、きっと厳しいものになるだろうと、ルチルは予感していた。それすらも笑顔で受け入れることができているのだ。
「それから、クレインを呼ぶんだからね。遊ぶお金も準備しておかなくっちゃ。うう~、ここまで来るとお金を稼ぐだけじゃ足りないかなあ」
「今でもずいぶん節約してきたつもりだけど、今後はもっと気をつけなくっちゃ。どんな方法で節約できるか、ニーナさんやオーガスタさんに聞いてみよう」
「魔法のことはソフィアさんとか、ノワールさんにお任せ! あとは……どんな人がいるかな?」
「……思えばわたし、こんなにもたくさんの人に支えられてるのに、名前はそんなに覚えていないや。ばち当たりだな……」
「色んな人達に感謝の気持ちを忘れないようにしよう。わたしと出会った人全てに……もちろんお母さんにも!」
「それから、当然、クレインにだって……」
南の方角を向く。太陽がさんさんと照りつける彼方に、ホッドミーミル大陸とは違う風景が広がる、ライヴァン大陸がある。
そこにはスヴァーダという帝国があって、クレインがいるのだ。別れはしたが完全にいなくなったわけではない。会いたいと願うのなら、また会える。
そしてその願いは、自分で日々を積み上げて、掴み取るものなのだ。
「……待っててね、クレインーっ! 生まれ変わったわたし、あなたに見せてあげるからーっ!」
太陽に――その反対側で休んでいるであろう月に向かって、ルチルは叫んだ。そして本当にローゼンの町へと戻っていく。やりたいと思ったことを、今から実践しにいくのだ。
誰よりも優しく、誰よりも信念を秘めて。こうして『春風の魔法少女』は誕生した。
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