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第8話 月の魔法
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「……ちょっとクレイン! なんであんなこと言っちゃうの!」
風魔法で自分を押し出し、早くもクレインに追いついたルチルが、真っ先に放った言葉がこれ。
「心配すんなって、おれはつえーから。今は斧もあるしな!」
「話逸らさないでよ! う~……もしも森にいるのが、クレインより強いガンドとかだったら、どうすんの!」
「大丈夫だ引き際は心得てっから。そこまでおれはバカじゃねーし!」
「バカじゃなかったら、ウットガル山賊団に殺されかけていないのでは~……?」
「うぐっ」
痛い所を突かれてしまったクレインだが、問題の森に到着してしまった以上、もう引き返せない。
だが引き返せないのはルチルも同様。腰に下げていた杖を手に持ち、ぎゅっと握りしめる。
「ルチルは別に戻っててもいいんだぜ? おれが勝手にやっていることだ」
「その勝手で死なれちゃ困るの。力になるって誓ったんだからさ。わたしの風魔法で押し出せば、逃げられる確率も上がるでしょ」
「ま、そうかもしれねーが。逃げるのを前提に考えてたら、戦闘で力出せねーぜ? 勝つことが第一だ!」
「……わたしはクレインみたいに戦闘訓練受けていないんだけど」
「はっはっは……」
クレインは笑いながら、首に下げていたペンダントを握る。
すると中から光が漏れ出し、クレインの肉体に吸収されていく。
「ん? それって前にやってた、月の光ってやつ?」
「ご名答。実はおれの魔法って、太陽が出ている間はそんなに威力出ねえのよ。それを補う為の光ってわけ」
ルチルに説明を続けようとしたその時――
木々の合間で蠢く影がいたのを、クレインは見逃さない。
「……っ! こっちだ!!」
「えっ、ちょっと待って~!?」
ルチルには見えなかったので、またしても突拍子なく走り出した彼を追いかける羽目になった。
「――そういやおれの魔法、後で説明するって言っておいて、すっかり忘れていたな」
「だからここでしっかり見ておくといいぜ! これがおれの魔法――」
「――白蒼たる『月』の魔法だ! 喰らえっ、『落月』!!」
木々の合間を縫うように走り、途中で一本の木に登り出す。
足を使って軽やかに、あっという間に、そして敵の姿を視界に収めた後――
斧を大きく振り被り、敵目掛けて落ちていく――
「どわあああああっ!? 何だ何だ!?」
「し、侵入者ーっ!!! いや敵ーっ!!!」
「今更な言い換えだな。侵入者はてめえらの方だろ?」
その場にいた男達は、突然の一撃を走って避けた。ほとんどに避けられてしまったが、一人の背中に刃で傷ができ、出血させることができた。
「ぎゃあああああ!!! いだいーっ!!!」
「……あ゛っ!? よく見たらおめえ、蒼い炎のガキじゃねえか!?」
「えっ、おれだずの仲間23人を葬ったっていう……?」
「ばかやろーっ!! へっぴり腰になるなーっ!! 殺せば『本部』からどえれえ金が貰えるガキだ!!」
クレインの姿を見て、恐れおののく者、鼻を鳴らして意気込む者、二つに大きく分かれる男達。
その様子を見て、クレインの隣に立とうとしていたルチルは、咄嗟に穴の空いた木の中に隠れてしまう。
(ちょっ……赤い服着てるの、ウットガル山賊団!?)
(しかも結構な数いる……! あんなのとわたし、戦えないよ……!)
顔を出して様子をうかがいたかったが、気づかれてしまったらと思うと、一向に外に出れないルチル。膝と一緒に杖も抱えて、静かにすることしかできなかった。
(で、でも……わたしが行かないと、クレイン、困っちゃうかも……)
(でもさっき強いからって言ってたし……ああ……)
ルチルが良心と恐怖を巡らせている間。クレインは10を超える山賊に取り囲まれていたが、臆する様子は一切ない。
「おい……そこの野郎。てめえらディーディーに何してた?」
「あ? もしかして俺が手に持ってる、この美味そ~な『トリニク』のこと言ってんのかい?」
馬鹿にするような言い方をした男とは対照的に、クレインは静かに怒っている。
「……ディーディーは敵対しなければ安全なガンドだ。それをてめえらは……好き放題蹂躙していたな?」
「蹂躙とはひでえ言い方だなあ。俺達は腹が減っていたから、ただ食料を狩ってただけだぞ。肝も舌も頭も、ありがた~く食べてやったのよ! んなことしたら急に数を減らしていたけどな……」
「そりゃあなあ――次に自分もこうなるかもしれないと思うと、逃げ出すよなあ――」
クレインの炎が勢いを増す。そして周囲の男達は、そこから『熱さ』を感じた。
彼が纏う炎ですらも、敵を燃やさんと憤っている。蒼い瞳に慈悲は宿らない――
「てめえらが好き勝手やってくれたせいで、迷惑してる人間がいる……だが一番迷惑被ったのは、ただ暮らしていただけのディーディ達だがな!!」
「へっ……へへへっ! 俺達がここで活動してんのは、全ておめえをひっ捕らえる為よ。ここで身柄を渡してくれんならホッドミーミルからは引き下がってやる。どうだ、目的が達成されるんだから、正論だと思わねえか~?」
「悪党が正論をほざく権利は存在しねえ!! 『半月』!!」
クレインは斧を水平に構え、高さを保ったまま、勢いをつけて振り回す。
先程の牽制とは違い、避ける隙すら与えない。刃によって男達の身体が両断されていく。
(うっ……ううっ! 臭いっ……!)
ルチルは男達の悲鳴と、液体が飛び散る音と、かつて嗅いだことのない臭いを嗅いだ。猛烈な鉄の臭いと、店で売られている生肉の臭いが混ざっている。
(……相手は悪いことしてる山賊なんだ。やらなきゃこっちがやられる!)
目の前で人が死んだという事実に対して、急いで正論を掲げ精神を安定させるルチル。
(ていうか、斬られる音も、すごかった……! 斧ってこんな斬れるものだったっけ!?)
きっとそれはクレインの魔法がそうさせているのだろうと、結論付けた。
(クレインは、こんな戦闘をずっと繰り広げて……っ!)
「ぐっ、くそつええ……!! ただの炎人じゃ、ねえのか!?」
「単なるガキだと思っていたなら、馬鹿を見たな。おれは日頃の訓練に加えて、信念を持っている!」
気づけば付近にいた別の山賊も集まってきており、20を超える数をクレインは相手にしていた。時々かすり傷や打撲を負うこともあったが、戦況は彼の方が有利だ。
男達が闇雲に襲いかかってくることもあり、動線が見切りやすかったのだろう。敵の攻撃も結構な頻度で避けている。斧が大振りなこともあり、動くのが間に合わず命中することが多々あった。
そこから出血するようなことがあっても、クレインの行動が鈍ることはない。その痛みに耐えるように、長いこと訓練を受けているのだ。
(……す、すごい。これわたし、本当に道案内意外に出る幕ないかも……)
ルチルは木の洞から出て、茂みで視界を覆いながら、クレインの戦闘を見ていたのだが――
(……! あ、あれって……!)
「ちっ、生意気なガキだ! ちょっと大人より強いからって、調子こきやがって!!」
「てめえらの方こそ虫みてえに湧いて出てくんな……! おれを捕らえる為だけに、どんぐらいの人数がホッドミーミルにいやがる!?」
敵との押し問答に苛立ちが見えてきたクレイン。
その背中に向かって、木の上から飛び降り――
心臓を狙おうと剣を突き立てる、山賊の姿が――
「だっ……だめーっ!!!」
少女の叫びと共に、森には強風が吹き荒れた。
「ぐおっ!? な、何だこの嵐は……!!!」
「ひいーっ!! 吹き飛ばされるーっ!!」
まだ残っている山賊が、風に押し負けないように、必死に木にしがみつく。
ルチルは目をつぶっていたので、その光景が見えていない。ただ男達の食いしばる声だけを、耳で聞いている。
「全部、全部吹き飛んで……! 悪いやつなんて、全部、向こうに飛んで行っちゃえー!!」
杖を戦闘の方角に向けて、ひたすらにルーンを増幅させ続ける――
「ぐっ……おおっ!!」
強風に巻き込まれているのは、クレインも同様だった。彼ですら戦闘を中断し、その場に踏み止まることを優先せざるを得ない。
「こういう、時は……【潮汐】!!」
クレインが魔法を使うと、ルーンが集まり彼にまとわりつく。
それは彼に、この場に踏み止まらせるだけの『重さ』を与えてくれた。
だが引き続き力を入れていないと、態勢が崩され地面に倒れ込んでしまいそうだ――
「ふんっ……!!!」
クレインは足で踏ん張りつつ、目を開けて周囲を見回した。
赤い布が特徴的な山賊達の姿は、もう一人もいない――
「――ルチルーッ!! もういい!! 終わったぞ――!!」
クレインが叫ぶのと共に、風は勢いを弱めていく。そしてかよわい少女が息を切らす声が、徐々にはっきりと聞こえてくる。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
「ルチル……お前……」
「クレイン……」
お互いに言いたいことはあった。だからどちらが先にそれを切り出してくるか、様子をうかがい黙り込んでしまう。
しかし休憩は与えてもらえず。また別の緊急事態が二人を襲うことになり――
「……ん? なんか辺りがざわついてねえか?」
「えっ……? あっ、なんだか草とかお花とかの匂いが……」
ルチルは匂いを嗅いでいき、状況を探ろうとした。だが原因の方から迫ってきてくれた。
「「「ふるるるるる……」」」
「「「フルルルル!」」」
「「「ふるぅ」」」
木の幹のような肌を持ち、草花で着飾った衣装を身にまとう、少女のようなガンド。
それらが大勢詰めかけて、二人を取り囲む。その総数40体程。
全員が何も発さず、無言で二人の侵入者を見つめている――
「……なあー、ルチル。これはひょっとしてなんだけどな……」
「うん……」
「さっき、お前が山賊共を追い払うのに、強い風吹かせたことによってさー……」
「うーん……」
「この森で眠っていた、『ドリアード』達が、起こされちまったんじゃねー……?」
「うーん……!!!」
「「「ふるるるるるるる!!!」」」
その通りだ――と主張したかどうかはわからないが。
ドリアード達は視線で仲間に合図を送ると、ルチルとクレインに向かって、蔓の鞭や種の弾丸を叩き込んでいく。
「ぬぎゃあああああーーー!!! 逃げるぞルチルゥーーー!!!」
「えっ、ちょっ、わあああああーーーっ!?」
自分が風の魔法で押し出す、という提案をするより早く――
クレインは自分の首と膝を両腕で抱え上げた。俗に言う所の『お姫様抱っこ』である。
「持つか!? 持つよな!? 持たせるわ!! 月の光よおれに力をーッ!!!」
「えっ、それ何どういう仕組みぃ~~~!?」
ペンダントを口で噛みながら、クレインはルチルを抱えてダッシュで追っ手を振り切る――
風魔法で自分を押し出し、早くもクレインに追いついたルチルが、真っ先に放った言葉がこれ。
「心配すんなって、おれはつえーから。今は斧もあるしな!」
「話逸らさないでよ! う~……もしも森にいるのが、クレインより強いガンドとかだったら、どうすんの!」
「大丈夫だ引き際は心得てっから。そこまでおれはバカじゃねーし!」
「バカじゃなかったら、ウットガル山賊団に殺されかけていないのでは~……?」
「うぐっ」
痛い所を突かれてしまったクレインだが、問題の森に到着してしまった以上、もう引き返せない。
だが引き返せないのはルチルも同様。腰に下げていた杖を手に持ち、ぎゅっと握りしめる。
「ルチルは別に戻っててもいいんだぜ? おれが勝手にやっていることだ」
「その勝手で死なれちゃ困るの。力になるって誓ったんだからさ。わたしの風魔法で押し出せば、逃げられる確率も上がるでしょ」
「ま、そうかもしれねーが。逃げるのを前提に考えてたら、戦闘で力出せねーぜ? 勝つことが第一だ!」
「……わたしはクレインみたいに戦闘訓練受けていないんだけど」
「はっはっは……」
クレインは笑いながら、首に下げていたペンダントを握る。
すると中から光が漏れ出し、クレインの肉体に吸収されていく。
「ん? それって前にやってた、月の光ってやつ?」
「ご名答。実はおれの魔法って、太陽が出ている間はそんなに威力出ねえのよ。それを補う為の光ってわけ」
ルチルに説明を続けようとしたその時――
木々の合間で蠢く影がいたのを、クレインは見逃さない。
「……っ! こっちだ!!」
「えっ、ちょっと待って~!?」
ルチルには見えなかったので、またしても突拍子なく走り出した彼を追いかける羽目になった。
「――そういやおれの魔法、後で説明するって言っておいて、すっかり忘れていたな」
「だからここでしっかり見ておくといいぜ! これがおれの魔法――」
「――白蒼たる『月』の魔法だ! 喰らえっ、『落月』!!」
木々の合間を縫うように走り、途中で一本の木に登り出す。
足を使って軽やかに、あっという間に、そして敵の姿を視界に収めた後――
斧を大きく振り被り、敵目掛けて落ちていく――
「どわあああああっ!? 何だ何だ!?」
「し、侵入者ーっ!!! いや敵ーっ!!!」
「今更な言い換えだな。侵入者はてめえらの方だろ?」
その場にいた男達は、突然の一撃を走って避けた。ほとんどに避けられてしまったが、一人の背中に刃で傷ができ、出血させることができた。
「ぎゃあああああ!!! いだいーっ!!!」
「……あ゛っ!? よく見たらおめえ、蒼い炎のガキじゃねえか!?」
「えっ、おれだずの仲間23人を葬ったっていう……?」
「ばかやろーっ!! へっぴり腰になるなーっ!! 殺せば『本部』からどえれえ金が貰えるガキだ!!」
クレインの姿を見て、恐れおののく者、鼻を鳴らして意気込む者、二つに大きく分かれる男達。
その様子を見て、クレインの隣に立とうとしていたルチルは、咄嗟に穴の空いた木の中に隠れてしまう。
(ちょっ……赤い服着てるの、ウットガル山賊団!?)
(しかも結構な数いる……! あんなのとわたし、戦えないよ……!)
顔を出して様子をうかがいたかったが、気づかれてしまったらと思うと、一向に外に出れないルチル。膝と一緒に杖も抱えて、静かにすることしかできなかった。
(で、でも……わたしが行かないと、クレイン、困っちゃうかも……)
(でもさっき強いからって言ってたし……ああ……)
ルチルが良心と恐怖を巡らせている間。クレインは10を超える山賊に取り囲まれていたが、臆する様子は一切ない。
「おい……そこの野郎。てめえらディーディーに何してた?」
「あ? もしかして俺が手に持ってる、この美味そ~な『トリニク』のこと言ってんのかい?」
馬鹿にするような言い方をした男とは対照的に、クレインは静かに怒っている。
「……ディーディーは敵対しなければ安全なガンドだ。それをてめえらは……好き放題蹂躙していたな?」
「蹂躙とはひでえ言い方だなあ。俺達は腹が減っていたから、ただ食料を狩ってただけだぞ。肝も舌も頭も、ありがた~く食べてやったのよ! んなことしたら急に数を減らしていたけどな……」
「そりゃあなあ――次に自分もこうなるかもしれないと思うと、逃げ出すよなあ――」
クレインの炎が勢いを増す。そして周囲の男達は、そこから『熱さ』を感じた。
彼が纏う炎ですらも、敵を燃やさんと憤っている。蒼い瞳に慈悲は宿らない――
「てめえらが好き勝手やってくれたせいで、迷惑してる人間がいる……だが一番迷惑被ったのは、ただ暮らしていただけのディーディ達だがな!!」
「へっ……へへへっ! 俺達がここで活動してんのは、全ておめえをひっ捕らえる為よ。ここで身柄を渡してくれんならホッドミーミルからは引き下がってやる。どうだ、目的が達成されるんだから、正論だと思わねえか~?」
「悪党が正論をほざく権利は存在しねえ!! 『半月』!!」
クレインは斧を水平に構え、高さを保ったまま、勢いをつけて振り回す。
先程の牽制とは違い、避ける隙すら与えない。刃によって男達の身体が両断されていく。
(うっ……ううっ! 臭いっ……!)
ルチルは男達の悲鳴と、液体が飛び散る音と、かつて嗅いだことのない臭いを嗅いだ。猛烈な鉄の臭いと、店で売られている生肉の臭いが混ざっている。
(……相手は悪いことしてる山賊なんだ。やらなきゃこっちがやられる!)
目の前で人が死んだという事実に対して、急いで正論を掲げ精神を安定させるルチル。
(ていうか、斬られる音も、すごかった……! 斧ってこんな斬れるものだったっけ!?)
きっとそれはクレインの魔法がそうさせているのだろうと、結論付けた。
(クレインは、こんな戦闘をずっと繰り広げて……っ!)
「ぐっ、くそつええ……!! ただの炎人じゃ、ねえのか!?」
「単なるガキだと思っていたなら、馬鹿を見たな。おれは日頃の訓練に加えて、信念を持っている!」
気づけば付近にいた別の山賊も集まってきており、20を超える数をクレインは相手にしていた。時々かすり傷や打撲を負うこともあったが、戦況は彼の方が有利だ。
男達が闇雲に襲いかかってくることもあり、動線が見切りやすかったのだろう。敵の攻撃も結構な頻度で避けている。斧が大振りなこともあり、動くのが間に合わず命中することが多々あった。
そこから出血するようなことがあっても、クレインの行動が鈍ることはない。その痛みに耐えるように、長いこと訓練を受けているのだ。
(……す、すごい。これわたし、本当に道案内意外に出る幕ないかも……)
ルチルは木の洞から出て、茂みで視界を覆いながら、クレインの戦闘を見ていたのだが――
(……! あ、あれって……!)
「ちっ、生意気なガキだ! ちょっと大人より強いからって、調子こきやがって!!」
「てめえらの方こそ虫みてえに湧いて出てくんな……! おれを捕らえる為だけに、どんぐらいの人数がホッドミーミルにいやがる!?」
敵との押し問答に苛立ちが見えてきたクレイン。
その背中に向かって、木の上から飛び降り――
心臓を狙おうと剣を突き立てる、山賊の姿が――
「だっ……だめーっ!!!」
少女の叫びと共に、森には強風が吹き荒れた。
「ぐおっ!? な、何だこの嵐は……!!!」
「ひいーっ!! 吹き飛ばされるーっ!!」
まだ残っている山賊が、風に押し負けないように、必死に木にしがみつく。
ルチルは目をつぶっていたので、その光景が見えていない。ただ男達の食いしばる声だけを、耳で聞いている。
「全部、全部吹き飛んで……! 悪いやつなんて、全部、向こうに飛んで行っちゃえー!!」
杖を戦闘の方角に向けて、ひたすらにルーンを増幅させ続ける――
「ぐっ……おおっ!!」
強風に巻き込まれているのは、クレインも同様だった。彼ですら戦闘を中断し、その場に踏み止まることを優先せざるを得ない。
「こういう、時は……【潮汐】!!」
クレインが魔法を使うと、ルーンが集まり彼にまとわりつく。
それは彼に、この場に踏み止まらせるだけの『重さ』を与えてくれた。
だが引き続き力を入れていないと、態勢が崩され地面に倒れ込んでしまいそうだ――
「ふんっ……!!!」
クレインは足で踏ん張りつつ、目を開けて周囲を見回した。
赤い布が特徴的な山賊達の姿は、もう一人もいない――
「――ルチルーッ!! もういい!! 終わったぞ――!!」
クレインが叫ぶのと共に、風は勢いを弱めていく。そしてかよわい少女が息を切らす声が、徐々にはっきりと聞こえてくる。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
「ルチル……お前……」
「クレイン……」
お互いに言いたいことはあった。だからどちらが先にそれを切り出してくるか、様子をうかがい黙り込んでしまう。
しかし休憩は与えてもらえず。また別の緊急事態が二人を襲うことになり――
「……ん? なんか辺りがざわついてねえか?」
「えっ……? あっ、なんだか草とかお花とかの匂いが……」
ルチルは匂いを嗅いでいき、状況を探ろうとした。だが原因の方から迫ってきてくれた。
「「「ふるるるるる……」」」
「「「フルルルル!」」」
「「「ふるぅ」」」
木の幹のような肌を持ち、草花で着飾った衣装を身にまとう、少女のようなガンド。
それらが大勢詰めかけて、二人を取り囲む。その総数40体程。
全員が何も発さず、無言で二人の侵入者を見つめている――
「……なあー、ルチル。これはひょっとしてなんだけどな……」
「うん……」
「さっき、お前が山賊共を追い払うのに、強い風吹かせたことによってさー……」
「うーん……」
「この森で眠っていた、『ドリアード』達が、起こされちまったんじゃねー……?」
「うーん……!!!」
「「「ふるるるるるるる!!!」」」
その通りだ――と主張したかどうかはわからないが。
ドリアード達は視線で仲間に合図を送ると、ルチルとクレインに向かって、蔓の鞭や種の弾丸を叩き込んでいく。
「ぬぎゃあああああーーー!!! 逃げるぞルチルゥーーー!!!」
「えっ、ちょっ、わあああああーーーっ!?」
自分が風の魔法で押し出す、という提案をするより早く――
クレインは自分の首と膝を両腕で抱え上げた。俗に言う所の『お姫様抱っこ』である。
「持つか!? 持つよな!? 持たせるわ!! 月の光よおれに力をーッ!!!」
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