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愛おしい過去 ⑦ 寂しい
しおりを挟む「なんというか、お前は」
静かにシロウを見つめて、男は言った。
「ワザと他人を寄せ付けない様にしているだろう?」
ビクン、と自分の心臓が萎縮したのがわかった。
「そんな事は」
「そんな事はない?本当かね?わたしの見ている限り、訓練の最中も、座学の時も、食堂で食事をしてる時だって、お前はいつも一人だった」
シロウを見つめる黒い瞳は、憐れむでもなく、嘲笑う様でもない。
ただ静かに悲しみの色を滲ませていた。
「お前の身辺調査書を読んだ。
あぁ、新しく入隊する者の事は一通り調べるんだ。
それで……コレは、私の建てた仮説だがね。お前は、誰かと親しくなるのを恐れているんじゃないのかね?」
シロウは無表情に冷静さを装ってはいたが、カップを持つ手に動揺が伝わって、かちゃり、と音がした。
「シロウ。ご両親が火災で亡くなったのは、お前のせいではない。自分が一人が生き残った事に罪悪感を感じることはないんだよ。
それにね、だれとも触れ合わずに生きて行くなんて寂しいものだ」
バン!とテーブルを叩いて立ち上がったシロウを店内にいた数名の客が見た。
「失礼します」
シロウ、と慌てた男の声が耳に入ったが、無視してカフェを出た。
そんな事は、そんな事は!
自分が一番わかっている!
まだまだ甘えたい時期に母親を失って、養父の財産目当てに寄ってくるウジ虫達と、子供ながらにやり合うにはどれ程神経をすり減らしたかわからない。
騙されない様に、つけ込まれない様に。
にこやかな笑顔の裏に、人間はどれ程の企みを隠しているのかわからないから。
そうやって、一人で生きて生きて……。
生きて、来たのだ。
衝動のままに、病院のロビーを突っ切り、寒空の下、中庭に出る。
ポツポツと頬に落ちる雫のつめたさに、すぐに冷静さを取り戻した。
そして、後悔した。
財布さえ持たずに、何処へ行けるというのだ。日々の飲食も、着替えを買うのさえも男のカードを使っているのに。
大樹の下に雨を凌げるベンチを見つけてシロウは腰掛けた。
らしくない事をした。
人前で、声を荒げるなど。
あの男は、自分の心の暗い部分を的確に突いてきた。
誰にも気づかれたくなかった、寂しいという感情をいとも簡単に見透かされてしまった。
「なにをしているんだ、私は」
サアサアと降り出した雨音に、シロウの長い溜息はかき消された。
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