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愛おしい過去 ⑥ お前に継いで欲しい

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「昇進する為に必要な根回しも、上層部との付き合い方も。
 あとは……お前の能力を底上げする為のトレーニング方法や、部下を持った時の接し方。
 私が築き上げた物をお前に全部伝える。だから」

「ちょっと、待って下さい。貴方、なにを」

「だから、お前に私の跡を継いで欲しいのだよ」



 開いた口が塞がらないとはこの事だ。

 入隊して一年にも満たない人間に、何を言っているのだろう。

 冗談?
 にしては……だいぶ壮大な設定だ。


 シロウは動揺を気づかれない様に、そっとコーヒーカップに口をつけた。

 ゆっくり時間をかけて一口飲み込む。


 それから、先程から気になってしょうがなかった事を指摘した。

 言っておかないと、これから話す内容が頭に入らないような気がしたからだ。

「付いてます」

「ん?」

 男は首をかしげる。

「ですから!」

 あぁ、もう、と苛つきながら紙ナプキンを一枚取って、男の髭に付いたクリームを拭ってやった。

「ああ!ありがとう」

 にこり、と笑った男は恥ずかしげもなくシロウに礼を言った。




「それで」 

 イスに座り直して、シロウは男に問う。

「なぜ私にそんな話を?」


「私はね、同じ部隊にいる人間は家族のようなものだと思っているんだよ。
 他の士官達には理解されないんだがね」

 男は紅茶の入ったカップを、両手で包む様にして、揺れる琥珀色の波紋を見つめた。

「私は、わたしの部下達を大切にしてくれる人間に跡を継いで欲しい。だからお前に継いで欲しいのだよ。優しいお前に」

「はっ!」

 なんの根拠があって、そんな言葉を吐けるのか。

「貴方の見解は間違っています」



 自分は、家族を見殺しにしてあの火事から生き残った。そんな男が他人なんかを大事に出来る訳がないのだ。


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