誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

文字の大きさ
上 下
79 / 100

愛おしい過去 ④ それは、興味か嫉妬か愛情か

しおりを挟む







「あの子をおまえに頼みたい」

「頼む、とは?」


 男は数秒、少年を見つめた。
 そして名残惜しそうに、ゆっくりと振り向き歩き出す。

「一度戻ろう、あの子に見つかってしまう」


 シロウも踵を返し歩き出した。


 帰りのタクシーで、男はずっと無言だった。

 少年の外見から、男の親戚かもと推測した。だが、それなら逃げる様に去る意味がわからない。






 男が口を開いたのは、病室に戻ってパジャマに着替えた後だった。
 温度管理された室内で、酸素を外し深呼吸する。
 

 呼吸しやすい様に、ベッドの頭部をギャッジアップするシロウに、男は『ありがとう』と告げる。 

 そして。

「あの子は」と、話し出した。

「数年後にはお前の母校に進学する。そして、我々の部隊に入隊することが決まっているんだ。あの子には他の選択肢が無い」

 選択肢がない?

 ベッドに腰掛けて、シロウは男を見る。

 寂しげに伏せられた目。


「この歳だ。どうしたって私はあの子を置いて先に逝く。だから、おまえに託したい。私の代わりに、そばにいて見守って欲しい」

 ふいに、男の手が伸びてシロウの右頬に触れた。
 火傷の後遺症で、その部分の感覚は鈍い。

 だが、ゴツゴツと骨っぽい、その手の温もりを確かに心地良いと感じた。

「私の頼みを聞いてくれるか?」

 真剣な眼差しで見つめられて、シロウもまた、真っ直ぐに黒い瞳を見つめ返した。


「要求してくれと言ったのはわたしの方ですから。嫌だなんて言いませんよ」

「ありがとう、シロウ」

 柔和に微笑んだ男の手が、頬をひとなでして離れて行くのを、名残惜しいと思った。 





 そして、あの少年は貴方にとって、『何』なのか、と出かかった言葉を飲み込んだ。


 たかだか数日密に過ごしただけの男。
 そのプライベートにズカズカと踏み込むほど、自分は無礼な人間ではない。

 けれども。
 この男には、大切にしたい相手がいるのだと知った今。

 シロウの胸中には、ドロドロとした形のない、悪意にも似た淀みが溜まりつつあった。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

ルームシェアは犬猿の仲で

凪玖海くみ
BL
几帳面なエリート会社員・望月涼介は同僚の結婚を機に家を失う。 新たな同居人として紹介されたのは、自由奔放なフリーター・桜庭陽太。 しかし、性格が正反対な二人の共同生活は予想通りトラブル続き⁉ 掃除、食事、ルール決め——ぶつかり合いながらも、少しずつ変化していく日常。 犬猿の仲なルームメイトが織りなす、ちょっと騒がしくて心地いい物語。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

処理中です...