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あいしてる

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「どのくらい寝てた?」

 熱を測ってたタイミングで、ハロルドが目を開いた。

 午後二時だと答えると、結構寝てたな、と驚いたように呟く。

 ブラインドを下げて、室内の照明も消してるから、部屋は薄暗い。
 そうした方が、ハロルドが良く眠れるんじゃないかと思ってそうしてる。


「目が覚めた時に、れーくんがいるの良いな」

 ハロルドは目を細めて俺を見た。

「何言ってんだ」

 へらへらするなよ。
 俺だって、部屋にアンタがいると安心するけど。

 体温計の数字を確認してから、ハロルドが起き上がるのを手伝う。

 全身がじんわりと汗ばんでて、熱い身体からはいつもより強くハロルドの匂いを感じる。

「俺、熱出てんのかな、あっちい」

 ハロルドは、動く右手で前髪を掻き上げた。

「最高42°まで上がった。今は38°だ。
 途中、シーアが抗生剤を打ちに来たからソレが効いてるんだろ」

 ハロルドは、露骨に嫌な顔をする。

「俺たちの愛の巣に、他人が入ったのか?」

 あいのす?

「俺が医務室に内線入れたんだ。アンタ、熱があるのに寒いって言うし。どうしたらいいか分からなかった」

 ハロルドに自分の無知をさらすようで嫌だったけど、しょうがないから白状した。

 体温計をデスクに置いて、チェックシートに数字を記入する。
 それから、保冷バッグの中のゼリー飲料を取り出した。

 ベッドサイドに腰掛けて、キャップを開けたソレをハロルドに渡す。

「なんだ?」

「シーアから。栄養と水分摂れって。自力で摂取できない時は点滴するって。飲めそうか?」 

 手渡したマスカット味のゼリーを、うま、と言いながら飲むハロルドをみてホッとする。
 食事をしてる姿は、生きてるって感じがするからかな。

「レイ、お前のメシは?」  

 パウチを口にくわえたまま、ハロルドが聞いてくる。

「俺はまだ良い」

「まだ、って…お前、朝飯も昼飯も抜いたんじゃないだろうな?」

「腹が減らないんだ、いいだろ別に」 

 ハロルドはそれを聞くと、残ってたゼリーを、ちゅー、と一気に飲み干しておれの腕を掴んだ。

「俺だけ寝ちまって悪かった。こっち来い」

「なんだよ?」

「寝よう、レイ」

「はぁ?嫌だ!」

 眠ったら看病出来ない。
 汗を拭いたり保冷マクラを替えたり、俺でも出来ることがあるんだ。

「れーくん、付きっきりで看病してくれたのは嬉しい。でもな、俺はお前の体調が心配だよ」

「だから平気だって言ってるだろ!」

かたくなだなぁ。あー!わかった、熱が出て汗くさいから嫌だとか?」

「はぁ?……そんなわけないだろ」

 あんたの匂いは好きだ。

「じゃあ?」  

「なるべく安静にってシーアが。その方が、早く良くなるって」

「それって俺が動かなけりゃいいのか?じゃあ、れーくん上に乗ってくれ。それなら良いだろ?」 

「俺がうえ?」

 いつかみたいに、ハロルドにまたがれって事か?

「さわりてぇ、レイ。せっかく帰って来たのに一緒に眠れないなんて、気が狂いそうだ」

 それは、俺だって……。
 俺だって、アンタが帰って来るのが待ち遠しかった。
 ….けど。アンタは怪我してるし、熱もあるし。少し休んだからって、今はセックスなんか。

「レイ。一緒に寝よう?なあ」


 俺は……結局、ハロルドの頼みを断り切れなかった。
 きっと何日も寝てないせいで、脳みそがおかしくなってたんだ。
 怪我人相手に、こんな事、ホントにどうかしてる。


 保冷マクラをして、仰向けに寝てるハロルド。

 病衣のズボンをハロルドの男根が押し上げている。ずり下げてやると、解放された『モノ』が伸び伸びとそそり立った。

 俺は、履いてたスウェットのズボンと下着を脱いで、ハロルドの身体に跨った。

「レイ、全部脱いで。お前の裸が見たい」

 熱っぽい眼でハロルドに強請ねだられて、上着も脱いだ。

「……これでいいか?」

 ハロルドはじっくりと俺の裸体を眺めてから、ゆっくり頷く。

 見つめられながら腰を浮かし、後ろ手で自分の穴を広げる。 

 ハロルドのモノは、いつでも俺の身体を貫く準備は万端だとばかりに立ち上がって、俺の穴を狙ってる。

 ぬらぬらと体液をまとった尖端に、慎重に尻を近づけると……どれだけ欲しかったのだろう。自分でも驚くくらいスムーズに、下の口がハロルドをくわえ込む。

 熱い、きもちい……。
 じわじわと痺れるような快感が身体中をう。

「レイ。痛かったら言えよ」

 なに?と、問い返す間もなく熱を持ったハロルドの右手が俺のペニスを握った。

「レイ、動いて。タイミング合わせるから」

「う、んっ……」

 敏感な先っぽをクニクニいじられて、俺の身体はあっという間に絶頂を迎えた。







 
 ハロルドの腹の上で、何度イカされたかわからない。

 脚も腰も、ガクガクして力が入らないし、完全に緊張の糸が切れた。
 離れてた間に溜まった疲労が、一気に押し寄せた感じだ。

 シャワールームに行くのなんかとても無理だ。


 でも、俺の白濁がハロルドの身体を汚してる。病衣もぐちゃぐちゃだ。脱がせないと……。

 なんとかハロルドを裸にした俺は、苦肉の策で、シーツを剥がしてその身体を拭く事にした。

「レイ、平気だから。もう横になれ」

 ハロルドの言葉に首を振って、身体を拭き続けた。
 せめて怪我した場所が汚れなくって良かったと思う。
 防水フィルムを外し忘れてたのが、こんな風に役に立つなんて。

 ベタベタになったシーツと病衣を、丸めて床に置いた。

 そこまでで、限界だった。


 朦朧もうろうとしながら、ハロルドの横に潜り込む。

「なぁ、アンタ傷は痛まないのか?」

「んぅ?あぁ、大丈夫」

 半分寝てるようなハロルドの声。

「アンタの事、寝ぼけて蹴っ飛ばすかもしれない……」

「ふっ。お前、そんなアクロバティックな寝相じゃねーから」

 面白そうにハロルドが片眉を上げて見せた。

 唯一怪我してない右腕を枕にして、ハロルドのデカイ身体に腕を回す。
 興奮したせいでさっきより熱くなってる。


「れーくん」

「なんだよ」

「愛してる、おやすみ」

「え…」

 ふふ、と口元で小さく笑って、ハロルドが俺の髪に顔をうずめる。

 すぐに、穏やかな寝息が聞こえ始めた。






 愛してる、か。


 ハロルドにとっては、さらりと口に出来るくらい、馴染みのある言葉なのかな。

 愛してる、なんて。俺みたいな人間には、一生縁のない言葉だと思ってたのに。





 ーだからあの時。

 学園を去る時に。

 キヨが俺に囁いた言葉に、心臓が高鳴ったのを覚えてる。

 キヨは、
『ラシュウル君を愛してるんです』と、言った。

『わたくしが学園長を通して、レイ様の部隊にレスキュー要請を出しました』と。

 二人がどんな出会いをしたのかは、俺にはわからない。

 ただ、キヨのその愛が。
 兵士として使役されていたラシュウルを救い出したのは事実で。
 そして、更にキヨは、ラシュウルに暖かな居場所を作る事にも成功してるんだ。



 俺は、その時。
 誰かを愛するって凄いんだな、って思った。








 ハロルドの厚みのある胸に顔をすりつける。

 ハロルド。
 誰かに愛されるっていう奇跡みたいな人生を、アンタが与えてくれるのか。

 スラム上がりのこんな俺を、アンタが愛してくれるのか。

 大好きな匂いを、肺のすみずみまで吸い込んで瞳を閉じる。

 ハロルド。

 ふわふわと甘やかな幸福感を感じながら、俺はゆっくり意識を手放した。



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