誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

文字の大きさ
上 下
73 / 100

愛情表現

しおりを挟む





ピピッと電子音がして、ハロルドの体温が計測される。

「よんじゅう?」

体温計に表示された数字に、驚いて声が出た。



キスしてくれとねだったハロルドは、軽く触れるだけのキスで、満足したみたいに目を閉じた。

そこから呼んでも反応しなくなり、混々と眠り続けて、もうニ時間だ。



シーアからは、指定された時間で検温する様にと言われてた。
撃たれた所から雑菌が入ったり、そもそも不衛生な場所で拘束されていたから、感染症のせいで熱が出るだろうとの予測だった。



人間の体温って、こんなに上がるのが……。



薬は何種類も持たされたけど、眠ってたら飲ませられない。

「ハロルド」

何日も緊張状態にいたんだ。本当は寝かせてやりたいけど。

「起きろ、薬飲むぞ」

熱い身体を揺する。

「ん、さみぃ…」

え、寒いのか? 
暑いんじゃなくて?

目を閉じたままで、ハロルドの手が毛布をたくし上げた。


細かく震え始めた身体を見て、俺は自分の毛布をベッドから持ってきてハロルドに掛けた。

「毛布、二枚にした。まだ寒いか?」

「ん……」

わずかにハロルドが頷く。
どうする…。

熱が出たら冷やすもんだと思うけど、ハロルド寒がってる。
ヒトの看病なんかした事ない。


そうだ、医務室に行って聞いてこよう、とベッドから離れようとした時だ。

「れー…」

ハロルドのかすれた声がした。

「どこ行く…」  

目を閉じたままで、まるでうわごとみたいに呟いた。

怪我してる左手が毛布から出たと思ったら、力なくベッドサイドに垂れ下がった。

俺は、いまハロルドの側から離れちゃいけない気がして、その場から動けなくなる。
床に膝をついて、ハロルドの顔を覗き込んだ。

「ハロルド?」

声を掛けても反応はない。
ただただ苦しそうに、浅い呼吸を繰り返している。

俺は左手をそおっと毛布の中に戻す。

そうだ!
医務室まで行かなくても、部屋の電話を使って内線にかければいいんだ。
もう少し様子を見て、ハロルドの眠りが深くなった頃に電話しよう。


ハロルドの顔を見下ろしていると、ふと、毛布の隙間から覗く細いチェーンが視界に入った。

あ、これ。ドックダグだ。
俺は慎重にタグを引っ張り出した。
ハロルドの体温が移って、金属のプレートがほんのり暖かい。

ハロルドの持ち物を勝手に見るは、ちょっと気が引けたけど……。

「俺の名前……」

タグの裏面には、しっかりと『レイ・ダヘンハイム』と彫られている。
俺がこの男のパートナーである証。

タグを付け始めたのはいつ頃なんだろう。まさか、パートナーとして名前が刻まれてるなんて思いもしなかったから、気にも留めなかった。

でも、そうだな。
自分の名前を刻んだ物が、いつでもこの男と一緒に在ったのだと思うと、ちょっと嬉しいような、くすぐったいような気持ちだ。

タグを戻し、毛布をかけ直す。

「俺、アンタを守れる人間になるよ」

閉じた目にかかる前髪を指で避けてやる。

「もっと訓練して経験も積んで、どんな現場にも一緒に行けるようになるよ」



こんな怪我しなくて済むように、俺がアンタを守るよ。



「きっとだ。約束するよ」

それが俺の愛情の表し方だ、ハロルド。













しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

ルームシェアは犬猿の仲で

凪玖海くみ
BL
几帳面なエリート会社員・望月涼介は同僚の結婚を機に家を失う。 新たな同居人として紹介されたのは、自由奔放なフリーター・桜庭陽太。 しかし、性格が正反対な二人の共同生活は予想通りトラブル続き⁉ 掃除、食事、ルール決め——ぶつかり合いながらも、少しずつ変化していく日常。 犬猿の仲なルームメイトが織りなす、ちょっと騒がしくて心地いい物語。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

処理中です...