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愛情表現
しおりを挟むピピッと電子音がして、ハロルドの体温が計測される。
「よんじゅう?」
体温計に表示された数字に、驚いて声が出た。
キスしてくれとねだったハロルドは、軽く触れるだけのキスで、満足したみたいに目を閉じた。
そこから呼んでも反応しなくなり、混々と眠り続けて、もうニ時間だ。
シーアからは、指定された時間で検温する様にと言われてた。
撃たれた所から雑菌が入ったり、そもそも不衛生な場所で拘束されていたから、感染症のせいで熱が出るだろうとの予測だった。
人間の体温って、こんなに上がるのが……。
薬は何種類も持たされたけど、眠ってたら飲ませられない。
「ハロルド」
何日も緊張状態にいたんだ。本当は寝かせてやりたいけど。
「起きろ、薬飲むぞ」
熱い身体を揺する。
「ん、さみぃ…」
え、寒いのか?
暑いんじゃなくて?
目を閉じたままで、ハロルドの手が毛布をたくし上げた。
細かく震え始めた身体を見て、俺は自分の毛布をベッドから持ってきてハロルドに掛けた。
「毛布、二枚にした。まだ寒いか?」
「ん……」
わずかにハロルドが頷く。
どうする…。
熱が出たら冷やすもんだと思うけど、ハロルド寒がってる。
ヒトの看病なんかした事ない。
そうだ、医務室に行って聞いてこよう、とベッドから離れようとした時だ。
「れー…」
ハロルドのかすれた声がした。
「どこ行く…」
目を閉じたままで、まるでうわごとみたいに呟いた。
怪我してる左手が毛布から出たと思ったら、力なくベッドサイドに垂れ下がった。
俺は、いまハロルドの側から離れちゃいけない気がして、その場から動けなくなる。
床に膝をついて、ハロルドの顔を覗き込んだ。
「ハロルド?」
声を掛けても反応はない。
ただただ苦しそうに、浅い呼吸を繰り返している。
俺は左手をそおっと毛布の中に戻す。
そうだ!
医務室まで行かなくても、部屋の電話を使って内線にかければいいんだ。
もう少し様子を見て、ハロルドの眠りが深くなった頃に電話しよう。
ハロルドの顔を見下ろしていると、ふと、毛布の隙間から覗く細いチェーンが視界に入った。
あ、これ。ドックダグだ。
俺は慎重にタグを引っ張り出した。
ハロルドの体温が移って、金属のプレートがほんのり暖かい。
ハロルドの持ち物を勝手に見るは、ちょっと気が引けたけど……。
「俺の名前……」
タグの裏面には、しっかりと『レイ・ダヘンハイム』と彫られている。
俺がこの男のパートナーである証。
タグを付け始めたのはいつ頃なんだろう。まさか、パートナーとして名前が刻まれてるなんて思いもしなかったから、気にも留めなかった。
でも、そうだな。
自分の名前を刻んだ物が、いつでもこの男と一緒に在ったのだと思うと、ちょっと嬉しいような、くすぐったいような気持ちだ。
タグを戻し、毛布をかけ直す。
「俺、アンタを守れる人間になるよ」
閉じた目にかかる前髪を指で避けてやる。
「もっと訓練して経験も積んで、どんな現場にも一緒に行けるようになるよ」
こんな怪我しなくて済むように、俺がアンタを守るよ。
「きっとだ。約束するよ」
それが俺の愛情の表し方だ、ハロルド。
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