誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

文字の大きさ
上 下
72 / 100

たった二文字

しおりを挟む


「な、に?」

 生まれて初めて言われた言葉に、俺はそれだけ返すのがやっとだった。

「好きなんだ、ずっと」 

 ハロルドの右手が俺の左手を握る。

「パートナー申請の件がバレてるなら、俺の気持ちにも気づいてたろ?だからもう、言っちまおうと思って」 

 心臓がバクバクして苦しい。

 そうか、パートナーとして名前を書くっていうのは、なんだ。
 じーさんにも、ハロルドと恋愛関係なのかって聞かれたし。


 本当なんだ…俺なんかを。


「なぁ、レイ。書類上だけで良いんだ。俺に触られるのが嫌じゃないなら。俺と寝るのが嫌じゃないなら。このままパートナーでいてくれ。だめか?」

 ……は?

「書類上……?」

「そうだ。もしこの先、お前に好きな奴が出来たら、俺はパートナー契約を破棄してもいい。だからレイ、今お前に特別なに奴がいないなら、このままでいさせてくれ。どうだ?」

「……アンタ、それで良いのか?」

「いい」

 俺は、勢いよくハロルドの手を振り払った。

「馬鹿かっ!なんで形だけでいいんだよ!俺に聞きもしないで!
 何で俺に聞いてくれないんだ!お前に、特別な奴はいるかって、誰なんだって!聞いてくれたら、俺だって…」

 ハロルドは、呆気に取られたように俺を見ている。

 俺は、自分が意思表示できないのをハロルドのせいにした。

 たった二文字が言えないのは、自分が臆病だからなのに。
 ハロルドは、本当に俺でいいのか?
 スラム出身のこんな俺を?って、どうしても思うからだ。


 すうっ、と息を吸って、自分を奮い立たせる。

「俺は、おっさんが言うように薄汚く生きて来たんだ。だから、誰かにそんな風に言われるなんて思ってなくて。そんな夢みたいな事、あるわけないと思ってたのに」    

 喉の奥が、詰まって苦しくて中々言葉に出来ない。

 でも、自分の気持ちはもう疑いよがなくて。

「アンタが、俺を変にしたんだ」

 ちがう。

「アンタが、俺に優しくするから。一緒に居るなんて期待させるから」

 ちがう。

「アンタが、俺の名前なんか書くから!」
 
 ちがうちがう!俺が言いたいのはっ!

「じーさんには、パートナー申請は取り下げなくて良いって言った」

 え、とハロルドは驚きを隠さなかった。

「な、んでだ?」

「決まってるだろ!俺は!アンタ以外とのセックスなんか気持ち悪いし、、キスだってアンタ以外とはしたくもない。アンタの事を仕事のできる奴だとも思ってるし。ケガしたらこんなにも狼狽うろたえる。それが、恋愛感情以外のなんだって言うんだよ」

 さっき振り払った手を、今度は自分から握った。

「もうずっと、アンタだ。俺の特別な男は、アンタだけだ。友達じゃなくて、つまり」

 たった二文字。
 たった二文字なのに。
 唇が、震えてる。

「レイ」

 力強く俺の手を握り返して、ハロルドはじっと俺を見つめる。

「なぁ、確認していいか?
 俺以外とは寝ないし、キスもしない。お前の特別な相手は俺だけだな?
 それで間違いないな?」

 俺が『あぁ』と頷くと、ハロルドは、ぽすん、と俺の胸に顔を埋めた。

「なん、なんだよっ!」  

 まだ心臓が緊張でドキドキしてるのに!
 ハロルドに伝わってしまう。

 でもハロルドは、顔をうずめたまま、ふふっと笑った。

「それってもう、愛の告白だろ!最高に幸せだ!」

 あ、あい⁈

 それから、はあー、と大きく息を吐いて、ベッドにぱたんと倒れこむ。

「ハロルド?おい……」

「はあぁ~、気が抜けた。マジで」

 握ったままの手に頬をすり寄せる。

「れーくんの好きな相手が俺!れーくんの好きな相手が俺!!」

「おい、何回も言うなっ!」

「あ~、生きて帰って来て良かった」

 幸せそうに微笑みながら、じっと俺を見上げる。

「れーくん、キスしたい」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

ルームシェアは犬猿の仲で

凪玖海くみ
BL
几帳面なエリート会社員・望月涼介は同僚の結婚を機に家を失う。 新たな同居人として紹介されたのは、自由奔放なフリーター・桜庭陽太。 しかし、性格が正反対な二人の共同生活は予想通りトラブル続き⁉ 掃除、食事、ルール決め——ぶつかり合いながらも、少しずつ変化していく日常。 犬猿の仲なルームメイトが織りなす、ちょっと騒がしくて心地いい物語。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

処理中です...