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たった二文字
しおりを挟む「な、に?」
生まれて初めて言われた言葉に、俺はそれだけ返すのがやっとだった。
「好きなんだ、ずっと」
ハロルドの右手が俺の左手を握る。
「パートナー申請の件がバレてるなら、俺の気持ちにも気づいてたろ?だからもう、言っちまおうと思って」
心臓がバクバクして苦しい。
そうか、パートナーとして名前を書くっていうのは、そういうコトなんだ。
じーさんにも、ハロルドと恋愛関係なのかって聞かれたし。
本当なんだ…俺なんかを。
「なぁ、レイ。書類上だけで良いんだ。俺に触られるのが嫌じゃないなら。俺と寝るのが嫌じゃないなら。このままパートナーでいてくれ。だめか?」
……は?
「書類上……?」
「そうだ。もしこの先、お前に好きな奴が出来たら、俺はパートナー契約を破棄してもいい。だからレイ、今お前に特別なに奴がいないなら、このままでいさせてくれ。どうだ?」
「……アンタ、それで良いのか?」
「いい」
俺は、勢いよくハロルドの手を振り払った。
「馬鹿かっ!なんで形だけでいいんだよ!俺に聞きもしないで!
何で俺に聞いてくれないんだ!お前に、特別な奴はいるかって、誰なんだって!聞いてくれたら、俺だって…」
ハロルドは、呆気に取られたように俺を見ている。
俺は、自分が意思表示できないのをハロルドのせいにした。
たった二文字が言えないのは、自分が臆病だからなのに。
ハロルドは、本当に俺でいいのか?
スラム出身のこんな俺を?って、どうしても思うからだ。
すうっ、と息を吸って、自分を奮い立たせる。
「俺は、おっさんが言うように薄汚く生きて来たんだ。だから、誰かにそんな風に言われるなんて思ってなくて。そんな夢みたいな事、あるわけないと思ってたのに」
喉の奥が、詰まって苦しくて中々言葉に出来ない。
でも、自分の気持ちはもう疑いよがなくて。
「アンタが、俺を変にしたんだ」
ちがう。
「アンタが、俺に優しくするから。一緒に居るなんて期待させるから」
ちがう。
「アンタが、俺の名前なんか書くから!」
ちがうちがう!俺が言いたいのはっ!
「じーさんには、パートナー申請は取り下げなくて良いって言った」
え、とハロルドは驚きを隠さなかった。
「な、んでだ?」
「決まってるだろ!俺は!アンタ以外とのセックスなんか気持ち悪いし、、キスだってアンタ以外とはしたくもない。アンタの事を仕事のできる奴だとも思ってるし。ケガしたらこんなにも狼狽える。それが、恋愛感情以外のなんだって言うんだよ」
さっき振り払った手を、今度は自分から握った。
「もうずっと、アンタだ。俺の特別な男は、アンタだけだ。友達じゃなくて、つまり」
たった二文字。
たった二文字なのに。
唇が、震えてる。
「レイ」
力強く俺の手を握り返して、ハロルドはじっと俺を見つめる。
「なぁ、確認していいか?
俺以外とは寝ないし、キスもしない。お前の特別な相手は俺だけだな?
それで間違いないな?」
俺が『あぁ』と頷くと、ハロルドは、ぽすん、と俺の胸に顔を埋めた。
「なん、なんだよっ!」
まだ心臓が緊張でドキドキしてるのに!
ハロルドに伝わってしまう。
でもハロルドは、顔を埋めたまま、ふふっと笑った。
「それってもう、愛の告白だろ!最高に幸せだ!」
あ、あい⁈
それから、はあー、と大きく息を吐いて、ベッドにぱたんと倒れこむ。
「ハロルド?おい……」
「はあぁ~、気が抜けた。マジで」
握ったままの手に頬をすり寄せる。
「れーくんの好きな相手が俺!れーくんの好きな相手が俺!!」
「おい、何回も言うなっ!」
「あ~、生きて帰って来て良かった」
幸せそうに微笑みながら、じっと俺を見上げる。
「れーくん、キスしたい」
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