誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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〇〇するか?

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「あー、やっぱりココが落ち着く」

 自分のベッドに仰向けになったハロルドが、動かせる右手を大きく伸ばした。




 あの後。

 ハロルドはゴネにゴネて、自室で休むという権利を勝ち取った。

 俺は、シーアから渡された、体調管理に関する大量のチェックリストと、体温計、処置道具、あと、血がついた物は他のと混ぜないように、とドクロマークのついたランドリーバッグを持たされ、大荷物で部屋に帰ってきた。

 車イスに乗せられ、両足と左腕に包帯を巻かれ、顔にも傷を作ったハロルドが、廊下ですれ違う同僚達に、驚かれたり心配されたりしたのは言うまでもない。




「あ!」

 ゴロゴロしていたハロルドが、突然叫んだ。
 部屋の隅に車イスを片付けようとしていた俺は、驚いて振り返る。

「シャワー浴びる。レイ、車イスこっち」

「シャワーって、アンタ大丈夫なのか?傷口が濡れたらマズいんじゃないのか?」

「平気平気。背もたれのポケットに、フィルムロールが入ってるだろ?」

 フィルムロール?
 あ、コレか?

 いつのまに入れたのか、幅十センチ位のラップみたいな物が出て来た。
 まさか、医務室から盗んだのか?

「デスクの引き出しにハサミがあるだろ?それと、あと」

「あと?」

「起こして、れーくん」

 右手を上げてひらひらさせて、俺を呼ぶハロルド。

 俺がベッドに片膝ついて、ハロルドの背に右手を回すと、ハロルドも俺の首に右腕を引っ掛けた。

 よっ、と。

 起こしてベッドのふちに座らせる。

 ハロルドの言う通りに、台紙を剥がしながら、薄い透明なシートを太腿にぐるぐる巻いていく。

「コレでオッケー!水は通さない」

 同じ要領で、他のニ箇所も保護する。

 顔のキズは、ガーゼより大きめに切ったフィルムを貼り付けて完成。

「あと口の中が血の味なんだ。歯磨きしてぇ」

「わかった」



 どうやら洗面台に寄りかかって、立ってる事は出来るみたいだ。俺は歯ブラシに歯磨き粉を付けて渡した。

「れーくん優しい!」 

 受け取りながら、ハロルドが目を丸くする。

 む。なんだよ。

「怪我してるんだから、手伝うだろ」

 シャカシャカブクブクしてる間に、シャワーを出して湯温を確認する。

「洗ってくれんの?」

「だから、手伝うって言っただろ。別にアンタが必要ないならしないけど」

「イヤイヤ、必要必要!手伝って、れーくん」

 ハロルドがうがいしてる間に、服を脱いで裸になる。どうせ濡れるだろうし、ついでに俺も浴びてしまおう。


 素肌の上に病衣を着てるだけだから、ハロルドを脱がすのは簡単だった。

 もうカサブタになってるけど、身体中に傷が出来てる。今回の任務中にったんだろう。

「アンタ、なにしたらこんなに傷だらけになるんだ?」

「あー、まあ色々」

 そう言うと思った。俺みたいな新人には、どうせ詳しく話せない。

 ハロルドの手を引きながら、ゆっくりシャワーブースに移動する。

 俺は、壁に手をついてバランスを取るハロルドの後ろに回った。

 手のひらにボディーソープを泡立てて、広い背中から洗う。

「うわっ!」

「なんだ?痛いのか?」

「あ、いや、ちが…、れーくんもしかして素手で洗ってる?」 

「そうだ。スポンジだとカサブタが引っかかるかと思って。なにかマズいのか?」

「いや、まずいっていうかやばいっていうか」

 はあ?

「なんだよ!いいのか⁈嫌なのか⁈」

「い、良いです」

 なら、黙って洗われてろよ!

 壁みたいな背中の泡をシャワーで流して前に回る。
 首から胸と腹を洗って……。

「ストップ、レイ!」

「今度はなんだ?」

「流石にソコは自分でやるから」

「手を離したら危ないだろうが!アンタ、俺のチンコは平気で触るくせに、逆は嫌なのか?」

「うわっ!れい!ちょっまてまてまて!」

「おい!動くな、危ない!」

「レイ!髪、髪を先に洗ってくれ」

 何なんだ?そこまで嫌がる事か?

「全く。少し下向けよ。洗いづらい」

「はーい」

 ハロルドは素直に頭を下げて、目を閉じた。

 ふわふわと湯気が漂う、シャワールームにハロルドと二人。

 他愛もない話をしながら、ハロルドの身体に触れられる。

 こんな時間が、ひどく愛しく思えた。

 ハロルドが、生きて帰って来たからこそ、この時間があるんだ。


 すぐそばにハロルドの顔がある。少し背伸びしたら唇が触れそうだ。


 そうだ、帰ってきたらキス、してくれって言ってたな。

「ハロルド」

「んー?」

「キスするか?」







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