誰かに愛されるなんて、あり得ないと思ってた

まる丸〜

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ハロルドの優先順位

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 ギリッ!とハロルドの指が身体に食い込んで来た。  

 麻酔兼消毒だという液体をかけた傷口に、じーさんがピンセットみたいな器具を差し入れている。

 左太腿の下に差し入れた吸水シートに、赤い滴が垂れる。


 カシャン、と金属音がして部下が持つ膿盆に、血だらけの塊が入れられた。

「コレが銃弾。鉛の塊じゃ」

 言いながら、じーさんは右脚の処置に取り掛かる。

「さっさと取り出して、中も洗うぞ」

 取り出す、のはわかったけど、中を洗う?

 右脚の弾を取り出し、左腕の弾も取り出す。

 次に、じーさんは注射器の針が付いてないやつ…なんだっけ、シリンジか?

 それに水を吸い上げて、文字通りジャアジャア皮膚の中を洗い流していく。

 俺にしがみ付いているハロルドの肌から、じっとりと汗がにじんでいる。

 時々、その手に力が入って痛みに耐えてるみたいに見える。
 コレ、本当に麻酔は効いてるのか?

 俺が出来る事は、ハロルド頭と肩を支えてやるくらいだ。情けなくて嫌になる。

「終わったぞい」

 じーさんの言葉にハロルドが反応して、脂汗の浮く額が俺の身体から離れた。

 いつのまにか、三箇所の処置は終わって、包帯が巻かれていた。なんて手早さだろう。

「レイ、悪い、付いた」

 押し付けていたせいで、ハロルドの額の傷口が開いたみたいだ。俺の服に血が付いている。

 さらに流れ出した血液が眉間を伝う。

「あ?」

 反射的に、傷口に右手を伸ばすハロルド。

「あー、触るな触るな。じっとしとれ。シーア、後は頼むぞい」

 素早くじーさんがガーゼで押さえて、「お主が持っとれ」と俺の手を添えられた。

「先生、額は縫いますか?」

「三針かの」

「はい、わかりました」

 ハロルドが、まだ終わらないのかという風に大きく溜め息をついた。

「ぬ、うって?」

「まんま、そういう意味だよ~皮膚をチクチクするの」

 俺の言葉にサーシャが返事をした。
 のんびりとした口調が、本当に癪に障る。

「おい、サーシャ!」

「ハロルドの撮影は終わりだよ~、俺は士官のとこに行って来る。ハロルド、なにか伝言ある?」

「ねぇし」

 短く返したハロルドに、お大事に!と声を掛けて、サーシャは医務室を出て行った。

 文句のひとつくらい、言いたかった。

「リー隊員、このままで大丈夫ですか?気分が悪いならベッドに移乗しますか?」

「いや、いい。終わったら、すぐ部屋に帰りてぇし」

「自室ですか?えぇ……、とそれは無理では」

「あぁ?」

「弾を摘出したあとも抗生剤を点滴しながら、感染の所見がないかを観察しないと。膿んだり熱が出たりとか」

「なに?俺、部屋に帰れねぇの⁈」

「最終的には先生の判断ですが…」

 ハロルドは、奥のカーテンを見やる。
 そして、今は声を掛けられない、と諦めたようだ。

 ガーゼを押さえる俺の手を握って「悪い」と、呟く。

「え?」 

 何に対しての謝罪だ?

「お前、隈がひどいのに……」

 なんだよ、アンタこんな時にも俺の不眠の心配してるのか⁈
 自分が大怪我してるのに、俺を寝かしつけるつもりだったなんて……。

「別に、アンタは悪くないだろ」

 確かに俺の顔色は悪いのかもしれない。けど、それは寝てないからじゃなくて、アンタの事が心配だからだ。

「あと、おっさんからは訓練を休めって言われてる。だから、俺じゃなくて自分の体、心配しろ」

「レイ……」

 ハロルドは、黒い瞳を細めてまぶしそうに俺を見つめた。







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