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治療開始
しおりを挟む医務室には、静かな緊張感が漂っていた。
三つあるベッドの一番奥に、アリスとアリスのパートナーがいるようだ。
何人ものスタッフが、仕切りになっているカーテンを出たり入ったりしている。
一人のスタッフが俺達に気づいて『こちらに』と、片手を挙げた。
俺は車イスを押して中に入る。
血液の渇き具合を確認したスタッフは、
「隊服は切ります」と、ハロルドに告げた。
「あぁ、やり易いようにしてくれ」
「パートナーの方、これを着けて。ベルトを外してください」
差し出された使い捨ての手袋を着けて、ハロルドの正面に屈んだ。
片手しか使えないハロルドのベルトに手を掛ける。
ハロルドに、じっと見つめられながらベルトを引き抜く。なんだか妙な絵面だな……。
外し終わると、後ろで待ち構えていたスタッフが立ち位置を変わる。
血液のこびりついた服が、大きなハサミで手早く切られていく。肌を傷つけないのかと覗きこんだら、ハサミの先は丸くなっていて、直接皮膚には当たらないようになっていた。
上も下も脱がされたハロルドには、大きなタオルが掛けられた。
「そっちの準備はできたか?」
カーテンの中からじーさんの声がした。
「はい、先生」
返事を聞いたじーさんが、カーテンを開ける。
一瞬、中のベッドに横たわるほとんど裸の男が見えた。肌は熱を感じさせない程に青白くて、知識の無い俺にも危険な状態だって事がわかる。
ハロルドの正面に回ったじーさんは、
「シンシアとは何か話せたか?」と、ハロルドに尋ねた。
「機内で一度意識が戻って、その時に少し。なぁ、助けてくれるよな?」
「当然じゃ、ワシを誰だと思うとる。サーシャ、撮影は?」
「バッチリ~」
背後から聞こえた声に驚いた。
サーシャ、いつの間に入って来たんだ。
イラつく。なんだよこの状態で撮影って!
「いいんだ、レイ。これが証拠になるんだ」
振り向いたハロルドが、なだめるように俺に語りかける。眉間にシワでも出来てたのかな。苛々してるのがバレたみたいだ。
「ボウズ、お主はハロルドの横に来い。右側じゃ」
デカイ吸水シートを広げながらじーさんに指示される。
なんだろうと思っていると、ハロルドの右手が腰に回った。
「っ!アンタ、なに…」
「ボウズ!動くでない!」
こんな時にふざけるな、と言う間もなくじーさんに叱責された。
「お主はそのままハロルドを押さえておれ。ハロルド、泣きたかったら泣いても良いぞ。ま、泣いても止めんがな」
早口で告げたじーさんの言葉の意味を、俺はすぐに知る事になる。
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