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生きて帰って来た
しおりを挟む着陸を待っていた医療スタッフが、続々と駆け寄ってくる。
最初に降ろされたのは、アリスのパートナーだ。
後部ハッチから、担架に乗せられて出てくる。
「第一基地に着いたわよ」
医療スタッフに混じって担架を運ぶアリスが呼びかけても、ピクリとも動かない。
「今から医務室に行くから安心して」
それでもアリスは声を掛け続ける。
俺はその光景に、足がすくむ。
ハロルド、ハロルドは⁈
心臓が煩いくらいに鳴ってる。
見上げていた輸送機のドアから黒髪が見えてドキリとする。
中から現れた男はハロルドと同じ黒髪、背も同じくらい、でも。別人だ。
「レイ・ダヘンハイムか?」
男に問われて頷いた。
「ハロルドは?」
ドアに上がる階段に歩み寄りながら尋ねる。男はちょいちょいと手招きした。
「お前が来ないと動かないって駄々こねてる」
「はあ⁈」
俺は、カンカンと音を立て金属の階段を駆け上がる。
ハロルドは、居た!
長い足を輸送機の床に投げ出して、壁にもたれている。
「ハロルド!」
俺はたまらずに呼びかけた。
「レイ!」
俺と目が合って、ハロルドは、ぱあっと笑顔になる。
ハロルドの顔とは対照的に、俺の顔は、多分ひきつっていたと思う。
機内に充満する、この匂い。
血だ。
凄まじい血の匂いがする。
ハロルドに近づくと、生臭い鉄の匂いが強くなる。
「アンタ、あし…」
撃たれてるのは知ってだけど、隊服が……元の色がわからない位に、赤黒く染まってる。
どれだけ出血したんだ。
「れーくん、運んでくれ」
目の前にしゃがんだ俺に、嬉しそうにハロルドは笑ってる。
「顔まで怪我してるなんて聞いてない」
「男前になったろ?」
そう言って、前髪をかきあげる。
額と左頬に刃物で切られた跡がある。乾き切らない血液が、生々しく肌を湿らせている。
『れーくん、おかえりのキスは?』
声を出さずに唇を動かすハロルド。
内容の呑気さに、呆れるより先に怒りが湧いた。
「バカ!アンタ、何言ってるんだ!早く治療!立て!」
「ダヘンハイム~、それはムリ」
サーシャが、横から口を挟む。
その手には、ドローンのコントローラー。そして、拳ほどのサイズのドローンがサーシャの頭上から俺達を撮影している。
はあ⁈
「おい、何撮ってんだよ!」
「レイ!いいんだ。サーシャはコレが仕事だ」
クソ!怪我してるハロルドを撮影して、何のメリットがあるんだ!
「降りるぞ!どこを持てばいいんだ、アンタ怪我し過ぎだっ」
ハロルドは、へらへら笑って右手を伸ばす。
「そのまま後向いてくれたら掴まるから」
俺が向きを変えると、ずっしりとした、ハロルドの重さが背中にかかる。
「後部ハッチから出た方が楽かも。段差がないからさ」
煩いなサーシャ、わかってる!
降りた先には、さっきの男が車イスを準備して立っていた。
「本当に担げるんだな。体格差があるから無理かと思ってた」
はあ?
「出来るに決まってるだろ、何の為に毎日訓練してんだよ!」
車イスを奪い取って、ゆっくり屈む。
俺の背中から、車イスに移るハロルド。
あぁ、やっと帰ってきた。
ちゃんと生きて帰って来た。
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